表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第八章 吸血鬼とお兄様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

263/307

ちょっと借りますね


 幼児化騒動か一段落し、俺とニーファが一頻り悶絶してから数日。


 世界同盟本部の円卓会議場にて。

 本来なら上層部が対談や議題を解決していく場なのだが、今此処に名だたる人物達が連なっていた。


「件の組織を次のオークションにて壊滅させる。此度はその為に諸君に集まってもらった」


 世界同盟最高評議会長を務める同盟上層部の人族代表エウク=レイデス氏。

 彼は犯罪組織【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】を排除する意向を示す。


「では、ここからは私が説明を。

 各地に忍ばせていた工作員の手で、オークションの開催日と参加人員の全容は判明しました」


 魔族代表にして、俺の叔父であるアルダンテ=ルノワールが詳細を述べ始める。

 後ろで縛られた尻尾のような長い黒髪が、彼が身動きする度に静かに揺れる。


「判明しました顧客達、これがそのリストとなっております。どうぞお目通しを」


 配られたリストには、多くの著名な国の名前と、オークションに参加する貴族や商人たち。

 ヘルアーク王国、ハランケル共和国、グラシア皇国、デカドミア帝国など……

 その殆どというか全てがヒューマンド大陸の国、人間たちの参加者ばかりだ。


 ちょこちょこ魔族や獣人も居るのだが、人間に比べれば米粒程度しかいない。


「うぅむ……俺の国にはいないと思ってたが、案外いるもんだな。知ってる名前もあるぞ?」


 獣王国グランヒッツの王、獣王レオナードが頭を掻きながら文句を述べる。

 前述の参加者の中に獣人がいるのが気に食わないのだろう。


「裏社会の代物は目を惹く物が多いらしいが……ふむ、王でなければ参加していたかもしれぬ」

「それでいいのですか獅子王様」

「獣王殿と紛らわしくなるから故、その名で呼ぶでない」


 ヘルアーク王国の獅子王ハイリッヒが、アルダンテの問をはぐらかす様に呼称の変更を求める。


「んまぁ俺は気にしちゃいねぇが……俺は獅子じゃなくて蛮王だからな。蛮王だ!いいな!?」

「う、うむ……若い頃の余がすまない」


 めちゃくちゃ対抗意識あった。

 てか蛮王という呼び名で対抗しないで頂きたい。


 会議が凄い勢いで脱線した。


 あ、今回の犯罪組織開催オークションを壊滅というか破滅させる人員は沢山いる。

 名前あげるのは面倒いが、何時ものメンバーがめちゃくちゃ乗り込む。いつも通りだ。


 違いとしてSランク冒険者とかが追加されるが。


 あと、転生者である《魔弾の射手》星宮蓮夜と《戦乙女》舞並茜、《水守》長谷川夏鈴も来る。

 あのギャル系女子の戦闘力が未知数だけど……


 まぁ、なんとかなるかな。


 オークションは四日後。

 それまでの間に各々が準備を進めるのだが……俺はとある事を思いついて、顧客のリストを睨む。

 その中に書かれた、魔族の名を────







「やぁ、はっじめま〜して!」

「っ、なっ!?なぜ秘匿されているこの場所に……いや、貴様は誰だ!?」


 いやぁ、かの有名な商人のバルレルさん(初登場)がオークションに参加するなんて思ってませんでしたよ〜。

 顔を青くする魔族の老人。

 イビラディル大陸随一の大商会ハンバレッドの会頭さんなんだが……まぁ後ろめたい噂が凄かった。


「なーんで、僕が此処にいるか分かりますか〜?」

「そも貴様は何者だ!侵入者め!」

「うん?ふふふ……」


 なぜ僕ことアレク=ルノワールの事を魔族であり王侯貴族にも顔が利くバルレル殿がわからないのか?


 今の俺は魔界執行官の出で立ち(所属が分かるような紋章とかは取っ払ってある)であり……


 頭のおかしい変態なプロの職人三人衆が作り上げた俺専用の─────女装軍服だ。


 特徴はスカートと胸パットと顔化粧。

 ショートカットぐらいの長さの銀髪なのは変わらないが、アレクとは思わぬレベルで女の子に仕上がっている。


 男のままだとバレるかもしれないしね!

 女装も致し方ないね!些事些事!


 コスプレって業界で言われても否定できない。


「僕が何者かってゆー事実はどうでもいいでしょ?」


 俺が一歩踏み出せば、奴もまた一歩下がる。

 追い詰めている場所はハンバレッド商会ポートイール支部の地下施設だ。

 何に使うかは……まぁ此処にいる女の子の奴隷たちを見ればわかるだろう。

 皆一様に目が死んでいて、意識があるかどうかも怪しいし……俺がバルレルを追い詰めてるのに、何の反応も示さない。


 救出しても社会復帰は無理かな……

 リスクが増えるからやめとこ。何でも救おうと考えるから足を掬われるのだ。


 にしても、港街。

 海の玄関へと来ていた辺り、オークションに行く準備でもしてたのかな?


「いやぁ、大変だったんだよ?アナタの居場所を探すのは……一日もかかった。誇っていいよ?」


 リストを見てから、魔都エーテルハイトに置かれた商会本部を洗いざらい見てみたが、こいついねぇし。

 十軒ぐらい他の街の支部を見てもいねぇし。

 なーんでかね。

 一番最後にポートイールを選んだのか分からないけど、時間の無駄だったが、やっと見つけた。


 海の上のオークションに行くんだもん。そりゃ海の近くに居るよね。


「大事だからもう一回言うけど。

 僕が誰かなんてどーでもいいの♪問題はアナタが此処で生きれるか死ぬかどうかだよ?もう決まってるけど」

「ぐっ……貴様、調子に乗りおってぇ……!」

「乗ってないよ〜。まぁいいや。話すの面倒いし」

「は?……なっ!?」


 瞬間移動。

 と言っても普通に踏み出してバルレルの目の前に来ただけだ。

 まぁ戦闘職でも何でもない老齢の男、例え身体能力的に人間より勝っている魔族だとしても……


 攻撃を防ぐ事は出来なかった。


 まだ死なれても困るので、普通に打撃。

 腹を殴る。


「や、やめっ、ぐぎゃぁああああぁぁぁ!?」


 面白い……子供用のボールのように跳ねて壁に激突して沈黙するバルレル。


 さて、じゃあ本筋に入ろう。


「《我は視る・汝を覗く・過去を巡りて追憶せよ──》」


 詠唱。本来なら脳内詠唱でもいいが、ここは敢えて口に出して唱える。


 通常の魔法や魔術は、口に出して詠んだ方が効力が普通に上がる。無詠唱は早撃ちとかの方が利点があったりする。

 しかし、この魔法はちと違う。


「た、助け……こんな所で死ぬわけに、は……」

「《──我が眼に映るは星霜の世界なり》」


 同じく例外として、俺のオリジナル《言霊魔法》は日本語バリバリ使って五文字以内で詠唱としているので無詠唱では無い。

 六文字も使える。てか《止まれ》とかでも普通にいけるから魔法に関しては何でも出来る。


 本題に戻ろう。

 普通は今みたいに文節に分けて詠み、締めとして最後に魔法名を唱えて発動する。

 こうやって。


「《記憶は語る泡沫の星(メモリー・スフィア)》」


 記憶閲覧の禁術……まぁ、記憶を盗み見みる為に造られたものだ。

 こんな小物の記憶を細かく見るつもりはないので、わざわざ詠唱した。


「ぐぅぅ……!はな、離せっ……!!」


 俺は気絶しかけているバルレルのおでこを無言で、青く薄く煌めく手で掴んで記憶を覗く。


「ぐあっ……があぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ふむ、記憶閲覧の際に痛みを感じるのか。


 まぁこれから死ぬ魔族の身体なんてどうでもいい事だし……あら、俺ってばすっごいドライ?

 慣れって怖いわね。


 そして、これがバルレルの最後の声となる。


 閲覧する記憶は、どういう原理か脳に直接流れ込んで来る。漫画のコマみたいだな。

 ふむふむ……あ、性癖とかはどうでも……いや変装(・・)の参考に使う、……か。クソが。


 バルレルの一日の生活習慣、机に向かってどんな作業をしているのか。会話の口調、対人関係。

 そして、オークションまでのこいつの日程。


 おぉ、やってる悪事がバレるバレる。

 違法な奴隷売買、麻薬密輸、貴族への賄賂……


 いやぁ、怖いなこの禁術……痛覚を無くす魔法を予め付与したり、術式を記憶閲覧に支障が出ない程度に魔改造を施りたりしたら使いやすくなるかも。

 完璧を俺は求める……!


「……よっし、もういいや」


 額から手を離し、魔法を解除する。


「………」

「あらま」


 バルレルは気絶していた……意識がないうちに首を刈っとくか?

 下手に生かしても、拷問とかされるだろうから、死にたくなるような苦痛を味わう前にやってあげるか?

 この世界、拷問は良しってされてるし。


 獄紋刀を取り出し、鞘から抜き、燃える刀身を気絶したまま死にゆく男の首に近づける。


「まぁ、なんだ……来世に期待してくれ」


 鮮やかな紅が壁に飛散した。







「《幻影変装》」


 女装軍服の姿が書き変わり、背丈の高い魔族の老人の見た目になる。


「ふむ、いいね……いや、素晴らしい出来だ」


 口調も真似る。

 接触されても偽物とは識別できないだろう。加えて声帯も変えてるから……変装万歳!


 オークション、俺はこのバルレルに化けて参加、もとい潜入する。

 味方には教えない。騙すならなんとやらだ。


 首の切断面を糸で荒くくっつけられた魔族の遺体のポケットとかを探る。

 顔には白い布で打ち覆いをかけてある。


 これの存在理由は、物理的には万一蘇生した時に呼吸などでそれがわかるようにする為であり、精神的には死者の尊厳を守る為というものだ。


 ポケットからオークションの参加券である蜘蛛のバッジを取り出す。

 見た目が奇抜なものだが、特に魔術的な技巧はない。複製して偽装してもバレないな。


 後で増やして正樹達に渡そう。


 オークションまでの今日含めて残り三日間、バルレルの予定は全部頭に入ってる。

 面会の予定はなく、事務などが殆どなのが幸いだ。


「さて、駒は揃ったし……オークションが楽しみだな」


 俺は偽りの姿でほくそ笑み、遺体を死体安置所に転送。そして地下室から出て支部の中にいる従業員に高圧的な態度のまま接する。

 これが普段の姿らしい……随分とまぁ偉そうだな!


 無論、寝る時とかは異空間に帰る。

 この男、自室には女も部下も誰も入れないらしいから……その時は居なくてもバレないな。

 計画は滞りなく進んでいる。


 何かしらのアクシデントはあると見て……予測を立てまくっておこう。

 ふははは。


「ふはははははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……!!!」


 こいつの笑い声、長いしデカい……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ