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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第八章 吸血鬼とお兄様

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アレクとニーファの絶望二日間・利



 波乱の幕開けとなった一日目は終わり、日が変わって二日目。

 居場所は魔王城のアレクの私室にて。


 メリアが徹夜で二人の様子を確認したが……一向に幼児化が解ける事はなく。

 気持ち良さげに甘え続けている。


「のじゃ〜」

「にふぁー」


 ニーファの耳をかぷかぷするアレク。


 取り敢えずこの二人は暇な時間にどちらか互いの耳か指か何かを咥えている。

 相も変わらず仲良しだ。


「にっふぁ」

「あれく」


 互いの名を呼びあい、指を絡ませて遊ぶ姿も微笑ましい。

 なんというか、可愛いオーラしか出ていない。


「うーん、日数経過で元に戻る代物ではないのでしょうか……?」


 悩むメリア。やはり、犯人ではないらしいクロエラに解析を頼んで解除方法を聞くべきだろうか?

 しかし、変な事をしでかす予感しかなくて……


「……断腸の思いでアンテラ様が降臨するのを待ちますか」

「呼んだ?」

「!?」


 呼ばれて飛び出てジャんジャんジャジャーン。


 女神、待ってましたとばかりに気楽に降臨。


「あ、アンテラ様……?そんな気軽に来ていいんですか?」

「断腸の思いとか言われたら流石にね?元信者の気を疑っちゃってね?」

「あ、つい本音が」

「この背信者め!」


 プンスカ怒りながら、魔王城に降臨したアンテラは幼児化した二人……謎の物体を見るかのような好奇心で満ちたキラキラ目で見つめている二人を見る。


「うん、すっごい可愛い」

「質問ですが……アンテラ様が犯人だったりしませんよね?」

「違うよ〜?確かに僕も自分を疑ったけど違うよ?」


 本人曰く違うるしい。彼女が犯人だったら凄い話が楽になるのに。


「御自身を疑ったのですか……自分自身を信じられない……?」

「変な疑問を持つのやめよう〜? 違うからね〜」


 やらかしが多いが故に、自分の失態の自己管理もままなってないようである。

 よく考えて生きて欲しい。


「だれー?」

「アンテラだよ〜……記憶まで後退してるのか」

「おっしゃる通りでして」

「のじゃ〜」

「あろう事か神竜ちゃんまで……マジで何があったの……」


 二人の幼い身体を隅々まで触りまくって、呪いとか魔法とか薬とかその類の線を探る。

 その神眼に写ったのは───────……


「……時間経過で治るよ、これ」

「そうなのですか?」

「見た感じ、今日で終わりかな。今日の夜には解けてると思うよ」

「ほっ……それは良かったです」


 一日で治る代物では無かったらしいが二日で治るものだったらしい。

 安心するメリアを余所に、アンテラは目の前で指を咥えながら見つめてくる幼児を意味深げに見る。


「あうあー」

「のじゃっ」


「いやー、このまま二人の可愛い姿を拝み続けても良いんだけど、まだ仕事残ってるから帰るね〜」

「ありがとうございましたアンテラ様」


 去り際に二人の頭を気が済むまで撫でて、元凶かと思われていた女神は天界に帰る。


「めりあ!めりあ!」

「めらあ!めらあ!」

「メリアです奥様」


 だんだんと人の名前も入れるようになってきたらしい。


 二人を買ってきたベビーカーに入れて移動する。

 すっぽり座る場所に埋まる二人は、互いの頬をくっつけながら、進む振動で少しウトウトし始める。


「あう……」

「むにゅ……」


 やがて眠りについてしまう二人に微笑みながら、メリアは彼らを運ぶのだった。





「あ"あ"あ"ぁ……お兄様、貴方の愛しのユメですよ〜……あ"あ"あ"あ"ぁ(尊死)」


 寝惚け眼のアレクを抱き締めて、尊みの海に溺れ死ぬユメは置いといて。


「ふーん、幼児化二人組は今日で終わりか〜」


 ニーファの角を指で押すルーシィ。幼き神竜は大人しく受け入れて、おきあがりこぼしのように倒れそうになっても必死に起き上がるを繰り返す。


 アレクとニーファで遊ぶ魔王と吸血鬼。


「ユメちゃん!ベイビー王子ちょうだい!」

「暴走するんじゃないのよ」


 昨日は休暇で居なかったヒルデとミカエラも、その異様に驚きながらも各々楽しんでいる始末。


「あうっ」

「ぷにぷにぃ……」


 頬をつつかれるアレクは、嫌々ながらも無抵抗……いや、これ以上触るなと意思表示するかのように首を遠ざけている。


「あぁ、逃げないでお兄様ぁ」


 とうとうユメの束縛から抜け出してハイハイして逃げ回る。


「んぎゃぁぁぁぁあああああ!?」


 泣き出した。


「え、え!?なんで!?どうしたのお兄様!?」

「ぐるるるる……!!」

「ニーファちゃんが唸ってる!?」


 ルーシィの手元から抜け出し、ユメの前で四つん這いになって、お尻と龍尾を高く上げて警戒心をモロだしにして牽制するニーファ。

 その後ろではアレクが号泣している。


「んぎゃあぁぁぁぁ……!」

「ぐるるるるる……!」


 ……逃げる時に、足を挫いたらしいアレクは泣き止まず。原因がユメにあると思考に至ったニーファは唯ひたすらに唸って睨みつける。


 転けたのは自分の体幹バランスが問題なのだが。


「はい、大丈夫ですよ。奥様」

「ぐるるる……るぅ?……んむー」


 そこにすかさずメリアがフォローを入れて、ニーファの頭を撫でて怒りを抑える。

 あっさり警戒態勢を解いて、身体を預ける。


「主様、大丈夫ですか?薬を塗りますから、ちょっとこっちに来てください」

「んぅ……ひっく、ひっく……あうあ〜」


 ハイハイで、なるべく痛い所が床に触れないように器用に近付くアレク。

 右足が少し赤く晴れており、そこにメリアは特製の薬品を塗り込んでいく。


 少しばかり苦痛もやわらいだのか、泣き止むアレク。


 それを見て安心したのか、ニーファがアレクに近付いて頭を撫でてよしよしと慰め始める。


「あうあうあ〜」

「のじゃっ」


 一波乱あったものの、反省したユメは渋々彼らを刺激しないように離れる。

 主君が近付けないのに配下たる自分らも近付くのはどうかと思ったのか、空気を読んだミカエラとヒルデも倣って離れる。

 良い配下に恵まれたものである。


「うぅ……お兄様のばかぁ」

「しつこいのが悪いのよ」

「可愛い……後で写真焼かなきゃ」


 本当に反省しているのだろうか?


「マシタ〜、だいじょーぶー?」

「あうー」

「あるじぃ〜!」

「ぎゃふ」

「ご主人様……」

「にゅう」

「〜〜〜♪(大丈夫ー?)」

「うんー」

「よしよし」

「あう」

「のじゃっ!」


 子供達にも心配されて、一人一人に返事をするアレク。タマノちゃんがニーファと一緒に撫でてやろうとしたが、妻である彼女が全力阻止。

 互いにむぅと頬を膨らませる。

 喧嘩にならないだけマシである。


「んぅ?」

「のっじゃ!!」


 ニーファが、アレクを我の物と言わんばかりに抱き締めて子供達から引き剥がす。

 不満の声を漏らす五人を無視して、ギュッと抱き締めて視界に入らないようにするニーファ。


 何も分からないアレクはただ戸惑ってあたふたするしかなかった。


「にっふぁ、にっふぁ」

「んじゃ?あれく?」

「おもい、くるちい……!」

「あうっ」


 解放。

 だんだんと言語機能が回復している事から、元の姿に戻るのも近いかもしれない。

 そう判断したメリアは、二人を皆から引き剥がす。


「二人を異空間の寝室に戻してきます……この二日間の事は黙っていた方が得策かと」

「うん、私も可愛いお兄様を見れて幸せになれた。怒られたくないから黙ってます」

「二人の性格的に、知ってる人を片っ端から記憶喪失に追い込みそうで怖い」


 今回の騒動は二人には教えないことになった。

 知ったら知ったで羞恥心で悶え死ぬ事は目に見えてわかっているので。


「ルーシィさん、子供達も異空間に戻りましょう」

「はーい」

「「「はーい」」」

「〜〜〜!(はーい!)」

「ん、行く」


 魔王城から異空間へと帰る。

 人っ子一人いない静寂の保たれていた空間に、彩りと騒がしさがも帰ってくる。


 ルーシィに子供らの面倒を任せ、メリアは二人をベビーカーに乗せたまま運ぶ。


「めりあ〜?」

「めらあ?」

「メリアです奥様。ねんねの時間ですよ」

「ねむねむ〜」

「のじゃっ」


 最初は楽しそうに触れ合っていた幼児二人だったが、やはりベビーカーの揺れに弱いのか直ぐにウトウトし始めて眠ってしまう。


「……おやすみなさい、お二人共」


 寝室に運び込み、綺麗に整えられた大きなベッドに寝かされる。

 万が一のことを考えてメリアは寝室前の扉前、廊下で待機する。


 いつ起きるかも、いつ解除されるかも分からないが……


 そしてふと疑問を思い浮かべる。


「そういえば何故、お二人は幼児用の服を……?」


 その疑問が晴れることは、終ぞ無かったのであった。






「んぷ、んっぷ」


 アレクが手に持つのは、哺乳瓶。

 中身は白濁したミルク……ではなく、白濁した少し輝いている謎の神秘的な液体。

 それを躊躇いなく飲んでいる。


「んっく、んっく……」


 ニーファも同じように哺乳瓶を咥えていて。

 ボーッと、何も思考せずにただ黙々と飲んでいる姿は愛らしさよりも恐怖や狂気を感じるが。


「ぷはっ」

「んむっ」


 飲み終えた二人は哺乳瓶を放り捨てて迫り来る眠気に耐えきれずにコテンと倒れて深く眠ってしまう。

 やがて、二人の身体を純白の光が包み、そして──────









 日は暮れて、月が昇った頃。


「なにか夢を見た気がする」

「同じく。お主ら何か知っておらぬか?」

「「「…(フルフルフル)…」」」

「そっかぁ」


 アレクとニーファが復活した。

 幼児化は解けて、服装も普段の物に変わっている。


 言っておくが、メリアは少しミスを犯して、彼らの着替え、つまり幼児化する前に着ていたパジャマや普段着を用意するのを忘れていた。

 しかし何故か普段着を着ている。


 幼児化していた時の記憶はないのか、約二日分の記憶がないことを疑問に思うアレクとニーファ。


 それをメリアとルーシィが中心になって魔法の失敗で寝込んでたと嘘を吹き込み、事なきを得る。

 子供達は下手な事を言う前に寝かせた。


 カグヤは妾我関せずと黙ってチーズを啄んでいた。


「とにかく、二人共寝込んでて大変だったんだよ〜?(汗)」

「ふーん、そっかぁ────」


 そう締めくくるルーシィの手は、アレクとニーファに近付いていて。

 それを目で追っていた二人は────


 二人は意図せず、反射的にやったのだろう。


「「あむ」」

「あっ……(キュン死)」


 指を咥えられ、吸血鬼が浄化された。


「……?」

「……すまん、なんか……なんじゃ?」

「いつもの仕返し、か?よく分からん」

「……仕返しとはなんじゃ?」

「へ?いや特に深い意味はないよ?」


 ルーシィとアレクの吸血事情は内容が内容なのでニーファもメリアも知らない内容だったりする。

 二人がコソコソ何かしているのは知られているが。


 まぁこれ見よがしに吸血されて快感を抱いている姿を見られたいとは思わないアレクなので。


「んー、俺なんの魔法作ってたっけ?」

「知らぬ。……あれではないか?叩けばお菓子が増える魔法とかでは?」

「なにその子供向けポケット魔法」


 こうして、無事に幼児化事件は幕を下ろしたと思われたのだが……


 後日、しっかりと二人は自分が置かれていた事態を知ってしまい。

 母親や公爵令嬢から写真を奪って焼こうとして失敗したり、その様子を見せられて生殺しにされたりと……


 文字通り羞恥心で悶え苦しんだのであった。

 命に別状はなかった。


 アレクとニーファの絶望二日間、閉幕。






◆???



「あっぶなかったぁ」


 二人が元の姿に戻ったのを確認して、月の女神は椅子に深く座る。


 そう、それは此度の黒幕に近い者。

 二人を幼児化させた張本神であり……幼児服などを用意たり、変化後の服装を戻した存在。


 アンテラである。


 二人の容態を確認しに行って状況が戻るのはもうすぐなどと抜かしたのは演技だったらしい。

 というかメリアに話していた事全て嘘だった。

 嘘つき女神。だから元巫女の信者に背かれるのである。


「彼らが幼児化するのは想定外だったけど……くっ、厄介すぎるでしょマジで」


 彼女が睨みつけるのは、キューブ状の神器。


「実験台にした身でなんだけど、変なの見つけないでよね……隠さず渡してきたのは偉いけど」


 《神器アトランダム・ダイス》。

 見た目は射線が引かれた純白の掌サイズの四角い物体。

 何が起こるかは未来予知でも不明瞭で、苦痛や即死などの効果はないが厄介な出来事が起きる。


 例の幼児化もその一つらしい。


 現象の解除方法として二人の目の前に転移させた哺乳瓶は、このキューブから生じた解呪液を入れた物。

 あれを飲むことで後遺症なく元に戻れるらしい。


「ラースめ……面倒事を運ぶのだけは得意だよね」


 天界『神の国(カテドラル)』の地下、更にその下にあるかのように存在する異空間。

 《廃棄孔》と呼ばれる帰還確率2%のブラックホール内部で手に入った滅びた神の神器。


 それを見つけたのは、アンテラよりも歳上の《天雷神ラース》という名の男神らしい。

 自分の権能が及びづらい迷宮探索を好んで行ってひょっこり消えては数年後に帰ってくる輩。


 今回のも、その神がもたらした物で……興味本位と好奇心で二人を実験台にしたのがアンテラだ。


 八割はアンテラが悪い。


「使い道は今の所ないから、封印かな……?」


 そう言って、机の引き出しにキューブをしまってそれを封印と言い張るアンテラ。

 一息ついた所で。


「後でお詫びを持っていったら、罪悪感とかも消えるかな〜?」


 悪いとは思っているようであった、が……


「……いっその事、これをアレク君に押し付けるとか?」


 悪巧みは止まらないようだ。


 結局キューブを渡すことにはならなかったが、月による運命操作等によって低確率だが発動する予定の効果を選べるようになったのは、また別の話。



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