在りし日の夢
アレクの身長関連の話を前書きでします。
150cm前後に統一します。それ以外の数値を見かけましたら誤字報告として通知お願いします。
比例して身長おかしくない?と思った箇所がありましたら、ご報告お願いします。
あ、本編↓は身長関係ない話ですのでご安心を。
夢と幻の境界線、その狭間を彷徨う魂は。
今何処に居るのだろうか──────
西暦20ⅹⅹ年・8月。
「やいこら慎司、ぼかぁ帰ってきたぞ」
「脱獄か?」
「パピコ盗んだだけで牢屋になんか入りませーん!」
真夏の昼下がり。
蝉と車が煩く騒がしい中、木陰のベンチに座る二人の青年。
「まったく、初めての盗みがバレるとは……」
「小心者の癖に変な事すんなよ。てか最初の犯行がパピコって犯罪者としてどうなの?」
ワックスで固めた黒髪にスーツで糸目な青年と、エセ関西弁を話すパーカーを着た茶髪の青年。
真面目と不真面目という対極にありそうな男子二人がそこに居た。
「犯罪者ちゃうから。ゲームに負けた結果だから」
「それ二次元の話だよね?リアルじゃないよ?お前を肯定してくれるモノは何もないよ?」
「うわーん!!」
辛辣な黒髪の方が景山慎司、泣く茶髪の方が広瀬弥勒と言う。
慎司は滴る汗を誤魔化す為に拭いてから手で扇ぐ。弥勒は刑務所から帰ってきたばっからしいが、舌を出して身体から暑さを逃がしている。
「第一、おまえは阿呆なんだよ。もっと頭を働かせろ」
「勉強なんて頭を沸騰させる事をするならおんにゃの子と戯れてたい」
「だからって有言実行するな」
「神聖な行為やから仕方ない……慎司もするか?」
「将来の夢は童帝」
「それこそ阿呆やろ」
舌打ちをしながら、慎司はクーリッシュを口に含んで暑さを紛らわせる。
それを目敏く見つける弥勒が言う。
「お、美味そうやな。くれよ」
「キモイ」
「冗談冗談。ぼかぁもおんにゃの子以外と関節キスはしとうないです」
「じゃあ口に出すな……金は?」
「ない!」
「はぁ……」
仕方なく慎司が渡した三百円を片手に、飛び跳ねながら弥勒は近場にあるコンビニに走って行った。
「……あ。そこのコンビニって確か」
慎司が何かに気付いてから、数分後。
弥勒がパピコを片手に顔を俯かせながら帰ってきた。
「よく考えたら万引きした店だった。めっちゃ白い目で監視された。しっかりお金払った……」
「そりゃそうなるわな」
暗い表情でパピコの袋を破って二つのアイスを独り占めする、ある意味背筋が冷えた弥勒。
それをネタに笑う慎司。
「人の不幸を笑うとは業が深い」
「ただでさえ幸福値が低いんだ。こういうので上げてかないと」
「うーん、文句言えん事やから何とも言えんなぁ」
何とも言えない顔でパピコを一個消費する。
「そういや凜音ちゃんはどしたん?」
「ご学友と百合デート」
「おぉ、微笑ましいなぁ」
「そして俺はお前とか……チェンジで」
「ダメです」
くだらない話をしながら、二人はアイスを食べ終わってゴミ箱にダストシュートして立ち上がる。
「さぁ!目指すはアニメイド!待っててショコラたぁ〜ん!!」
「なんか良いのあると言いが……」
大声で目的地と推しを叫ぶ弥勒が走り、それを追うようにポケットに手を入れた慎司が早歩きする。
駅前のそこまで僅か五分足らず、苦笑いをしながら追いかける。
そして、慎司は気付く。
「………ん?おまえ実は金持ってたんじゃね?」
「よーし、楽しもう!」
「てめぇ財布置いてけ中身全部貰う」
「ショコラたんとぼかぁを引き離す気か!?」
老若男女が行き交う駅前、そこに佇むオタクの聖域に二人は入店する。
冷房が効いていて、可憐な声で歌われるアニソンが絶え間なく流れ続ける店内。
CDや同人誌、グッズが所狭しに置かれているこの場所を、二人は別れて探索する。
「ショコラたんショコラたんショコラたん!」
「なんか無いかな〜?」
弥勒はチョコ色の髪の毛のロリ巨乳少女が描かれた同人誌やCDやらをカゴに入れる。
慎司は色々と物色するが……大して欲しい物が見つからなかったのか、ねんどろいど型のキャラがランダムで手に入る箱を買う。
「おっほぉ〜!いい買い物だった!」
「俺はそうでもなかった……あ、ショコラ出た」
「くれぇ!!」
「五百円」
「あいよぉ!!」
箱を開ければショコラちゃんねんどろいど。
それが出てきたのを口に出せば、反応した弥勒が凄い剣幕と勢いで振り返って来たので渋々買取金額を言って渡す。
「あ、お金足りないや……貸一つで!」
「はぁ?……罰金自腹した上に三百円奪ったのに?」
「忘れたい記憶ぅ!」
「永遠に付き纏うがな」
既に貸し百個ぐらいあるけど、返される未来が見えないので既に諦めかけたりしているらしい。
大した収穫がなく、返済の目処の無い金を奪われた慎司は欠伸をしながらタオルで汗を拭く。
新たに八百円の負債が増えた。
「はぁ……バイト増やすか」
「はぁ……未来予知ができればいいのに」
「なんで?」
突然異能を求める弥勒。
彼は救世主のような聖なる清らかな顔で、手を天に掲げて語り出す。
後光は見えない。
「さすれば、欲しいショコラたんグッズの入荷日も並ぶに最適な時間も全て分かると言うのに……!」
「くだらん」
慎司は家に帰った。
「は!夢か!?」
起床。俺は何処?ここは誰?いや逆だ。
「……はぁ、懐かしいやつ来たな」
あれだな。ミラノとかにあの阿呆の話を交えたからか……いやそんな都合良い話あるか?
広瀬弥勒。前世の俺がよく戯れた友人。
ショコラという少女キャラ以外に関する事柄は全て失敗するという悲しい宿命を背負った……というか間抜けで色々と抜けている男。
罰金を払う金があるのにパピコを盗む様な奴だ。
ショコラを買うお金があるのにパピコを買う金を俺に求めてくる様な奴だ。
そして女関係は糞。なゆなゆフレンドが写真で紹介されただけでも六人は居た。多分もっと居る。
……感傷に浸りすぎたな。
「……身体が痛てぇ」
寝落ちしたからか身体が痛い。
全身の骨をポキポキ鳴らしながら、荒れた工房の机を見ながら、一日を振り返る。
正樹捕まえてミラノも入れてお茶会して、クロエラをマールが氷漬けにして、ルーシィと買い物して、ニーファとカグヤが暴れだして……
そんでもってルーシィに吸血されて。
ある意味、濃厚な一日だったな。
回想を振り返ってから、寝息が聞こえる左斜め下を見る。
「……すぅ、……すぅ……むにゃ」
机の脚にしがみついて、床でスヤスヤ眠る嫁さんが居た。
………………一週間は一緒に寝ないって話じゃ?
いや、そう言えば……
『一緒に寝る=添い寝はダメでも、同じ部屋なら適用外じゃろ!』
『罰の隙間を見つけるな』
そんな感じのやり取りあったな。
……流石にやり過ぎたか。
冷静に考えなくとも、敵になった神獣にマウント取れる体制に入ったのは高得点だな。
ただし《契約魂陣》を勝手に掌握してカグヤを一旦自由にしたのは許さん。数の平等という観点から見れば仕方ないかもしれないが……
その耳に付けた通信機で俺に相談してからにして欲しかったなぁ。
なんでそこまで頭回らないのかな〜?
でもまぁしかし。
可愛い嫁さんには厳しくしたいっていう無意識な思いが、ね……そういうことにしとこう。
「……少しぐらい緩和するか」
ニーファの腕を机から話して、そこにあったソファに寝かせ、毛布をかけてやり……
その上に容赦なく伸し掛って覆い被さる。
「ぐふぅ」
「仕返しだ。いつもの」
これは添い寝じゃない。お前は敷布団だからなんの問題もない。苦しみを抱いて寝ろ!
「おやすみ」
「んむぅ……」
二度寝。
その後、朝に起きたニーファと目が合って色々と起こるのはまた別の話。




