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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第八章 吸血鬼とお兄様

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城の名前と隠密捜査


 新生魔王城。

 魔皇城エグメニオンのような大層な名前などはついておらず、何百年と無名の城として君臨していた。

 理由は単純、純粋に歴代の魔王たちが名を付ける気がなかったからだ。


 先代のシルヴァトス然り、先々代のジークフリード然り、それよりも更に前の魔王たちも然り。


 しかし現在は歴史の節目。

 3000年の時を経て決着がつくかもしれない堕神達との大戦争の気配が近付いている中。


 当代魔王ユーメリアは、宣言する。


「この城を《ダグラカナン》と命名します!」


 決まった。


「初代様の名と、その奥様の名を合わせ、捩らせて頂きました。反対意見は聞きません」


 横暴であった。


 そもそも、建てられてから命名するという考えを誰も持っていなかったが為に、反対意見は出ない。何せ誰も名案を持ってきていなかったから。

 新建された実家は、魔王城ダグラカナンという名を冠する事となったのだが……




 そんな事柄とは全くもって関係ないことをしている男が居た。

 何を隠そう、アレクこと俺である。


 時間帯は深夜。子供は静かに寝る時間。


 此度の俺の服装は、赤いラインの入った漆黒の軍服に、銀髑髏の飾られた軍帽、たなびかせる赤と黒のマント。

 腰には軍刀として獄紋刀を帯刀する……使わないけど。


 つまり、魔界執行官としての出で立ちである。


「よしっ」


 軍人となった俺は魔王城ダグラカナンの大回廊を歩いて、目的の箇所へと足を運ぶ。

 そこは王座の間がある城の中央部ではなく、兵舎塔や軍施設が並ぶ区域。

 その一室に、俺が求める部屋がある。


 軍属関係者専用魔導武器庫。

 魔界執行官として軍に所属していなければ使用することすら出来ない場所。

 ここは王族でも侵入却下。魔界執行官になっていなければ、正規で此処に入ることは叶わないのだ。

 あ、魔王は入れる。当たり前だね。


「失礼しま〜す……」


 小声で重厚な鉄扉に鍵を差し、それを開いて室内に入る。

 鍵がかかっていたので誰もいない。

 代わりとばかりにあるのは、戦争で使われる魔導具が所狭しに並べられ、整理されている。


 求めるのは隠密の魔導具。

 魔法だけに頼らずに、先人が作った代物を使う。勿論、クロエラに作らせたヤバめの隠密道具もあるが重ねがけも兼ねて持っていく。

 ここの魔導具の持ち出しは許可がいるが、ユメには既に話を通してある。

 目的は言ってないけどね!


「あったあった」


 手にしたのは緑色の魔石がついたブローチ。

 身につけるだけで気配を希薄させる効力を内包している。


 えー、ここでおさらいだが、魔界執行官は対神であり、隠密にも馳せんじる職だ。

 故にこの軍服に施された術式は、あらゆる環境に対する耐久性、防護性を兼ね揃え、暗躍をする為に数えるのも億劫な程の隠密に適した術式を付与した。


 これの上に普段着の上から魔術師っぽく見せるために着ている《常闇の黒衣》により総力が上昇しているので下手な事をしても普通ならバレない。

 というかバレる事がある度に軍服の術式を改造付与しているので………


 完全暗躍体制に入った俺は、武器庫から出て鍵を閉め、元あった場所に戻してから城を出る。

 転移で。


 場所は世界都市ユグドラシルの港地区。

 悪そうな奴らを総拿捕する為に、遮蔽物の陰と闇を利用して夜の港を駆ける。


 明かりのついている窓を見つければ跳躍して無音で壁に足をかけ室内の音を傍聴したり、怪しい風貌の誰かを見つけたら捕まえて催眠して洗いざらい吐いてもらったり……

 ちょっとダメな部分にまで踏み込む調査を平然とこなしていく。


 こんな事をするには理由があるのだ。


 屋根上を走り、時には路地を通って精細な情報と結果を得るために侵攻する。


 【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】。

 裏社会を牛耳る謎深き犯罪組織である。


 吸血鬼の里の件にも関与していた?可能性がある組織ではあるが、今俺は本腰を入れて調査していた。


 何故かって?

 ……………それはね、クロエラっていうドジっ子魔工学師の一言で始まったんだ。


 時は少し遡る。


 クロエラと普通の日常的会話をしていたら、コイツ平然とした顔でこんな事を言いやがった。


「アレクくん、すっごい言いづらいんだけどさ」

「なに?」

「ユースティア盗まれてた」

「…………は?」


 銀嶺ユースティア。

 下半身のない巨大人型兵器である例の機体が、盗まれたと言う。しかも俺が新婚旅行に行っている最中に犯行は行われたらしく……


 何故もっと早く言わないのかと詰め寄った上にゲンコツを食らわせて反省文を書かせた。

 そして、それよりも前に貰っていた情報を精査してこの組織の者の反抗だと判断した。


 情報の出処は太陽神ソレイユ。


「怖い組織が空間魔法による防犯対策を無視して盗難できる人を迎え入れて早速活動させてるらしいですよ?」


 呼び出されて神殿に来た時に言われたのだ。


「何処情報?」

「ウルキナですね」

「あれ……彼女はアンテラの神徒だよね?あいつ今どうしてんの?」

「四苦八苦して過労で倒れちゃいました」

「うわぁ」


 神も過労死するのかぁ。

 てか監視の神徒凄いな……その名の通り地上の事全て把握してんじゃねぇの?

 ウルキナの前で隠し事とか不可能そう。まぁ限度はあると思うけど。


 ソレイユの話が事実から、クロエラの異空間に隠されていた銀嶺が盗まれるのも納得だが……

 そんな都合の良いスキルがあるわけ?

 言っとくけどクロエラの侵入者対策やべぇよ?

 蚊一匹居ただけで反応して消失させるビームが定点されてるからね……


 でもそーゆーのも軽々突破したという事か……


 っていう流れで、銀嶺がこれからの戦争前に露見する危険さと悪用される前に何とかしようと。

 最近話題に上がっている【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】を目星にして捜索しているのだ。

 一人で。


 影の濃い港の路地を走り抜け、それこそ全域を一夜にして調べる為に無音で探索する。


 港は市場と併せて情報が集まり、悪人が蔓延りやすい区域だ。故に此処にいると適当に目星をつけて今ここにいるのだ。

 時たま探知魔法で生体反応を見つけたらそこに向かって確認するという荒業も多用して……


「!」


 また探知魔法にひっかかった。

 そこに向かえば……誰かの使い魔だと推測される蜘蛛が窓枠に巣を張ってそこにいる。

 ……眼を凝らせば術者との繋がりの線が見える。

 ので、それを追跡してみる。


 蜘蛛は動かない。

 あちらの視線が此方に向いていない隙を狙って魔法線を辿る。

 催眠などで蜘蛛の視界を操ってもいいが、外的要因による緊急察知や自爆とかされても困る。

 経験済みだからやらん。


 走る走る走る。飛ぶ飛ぶ飛ぶ。潜む潜む潜む。

 その方向には、至る所に同じような使い魔の蜘蛛が港に蔓延っていて、警戒網を作っている事がよくわかる。

 ……アタリかな?


 やがて辿り着いたのは、海に面する赤レンガの倉庫。

 人の気配を感じられないが……人払いの結界が張られているな。そうくるとだ。


 極力その倉庫には触れず、その隣にある別の倉庫の屋根の上から隠密魔法を再び重ねがけして強化。

 闇に溶け込み、望遠と盗聴の魔法で倉庫内部を探っていく。


 室内は薄暗く、所狭しに木箱や樽が置かれていて異常は感じずらいが…………見つけた。


 男女二人組だ。


 バンダナを頭に巻いた黒髪の軽薄そうな男と、濃い紫髪に体の線がわかるドレスの妖艶な女。

 蜘蛛共の魔法線は女に続いている。

 そして盗賊のような出で立ちの男は、腰に付けた魔法袋を叩いてアピールする。


「いやー、今回も収穫良かったぜ?」

「えぇ知ってるわ。私は貴方の腕だけ(・・)は信頼してるわよ?」

「こりゃ一本取られたわ!ははは!」

「意味がわからないわ」


 ふむ……二人を透視の魔法で確認してみたら、服の内側の見えずらい箇所にバッジがついてる。

 『砕けた身体を持つ単眼の蜘蛛』……組織のシンボルマークだな。


 ハイ確定。


 女の方は顔に強力な隠蔽術式でも使ってるのか、人相は全然わからなかった。

 あのレベルだと四六時中、それこそ何十年と術式を付与してるから看破するのもキツイな。

 同じ術式でもずっと使っていれば下手な高度術式よりも効果が上がるというものだ。


 この二人が【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】の一員なのは確定だろうから……

 まぁ聞き耳立ててるか。


「なぁ姐さん?どう?できそう?」

「滞りないわ。今回はレベルの高いオークションになるわよ」

「おー……俺のおかげだなぁ!!」

「そうね」


 ふむ。姐さんとやらは組織の重要人物かな?


 あ、二人ともどっかに行っちゃう。歩き出した。

 同時に張り巡らさていた蜘蛛の使い魔が、飼い主である女の元に集まって行く。

 そうして倉庫の外から出て〜……あらま、海に飛び降りたわ(ここで世にも奇妙な物語のBGM)……

 入水かなって思ったけど違うよね。


 ……潜水艇、か。


 ふーん。ハイテクじゃん。

 取り敢えず防水加工ボタン式追跡装置を付着させて、と……

 これで追跡はバッチリ☆


 でも一つ文句を述べるなら、潜水艇にクロエラ印が堂々と表面に刻まれてるのがな……

 なんか四角い世界で建築するゲームのポーション瓶みたいなマークね。


 ちょっと問い質してくる。


 後日。

 クロエラは銀嶺だけでなくその潜水艇も盗まれていたことが発覚し……

 マールが氷結の刑に処した。


 しかし、【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】との因縁(相手は此方を意識していないが)の終着点は近付いてきているのであった。


 ……クロエラはあと何回マールから氷結の刑を下されるんだろうね?

 まぁヤラカシのレベルを考えると必然なのだけどもね?



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