アンテラ式人生ゲーム
広大な草原に敷かれた色とりどりのパネルの道を、サイコロの目に従って進み、命令に従うただそれだけの簡単なゲーム。
命を賭ける必要性なし、安心安全、ダメージを受けるのは精神のみである……らしい(アンテラ談)。
「一番手は誰にする?」
「責任を持ってお兄様がやるべきかと」
「私もアレクくんでいいと思う」
「主様、ファイトです!」
「マシタがんばえー!」
「父様の回……!」
「安心せい、死体は拾うぞ〜」
「火葬は任せなさい」
「おいこら神獣共。食卓に並べるぞ」
獣って食用にもなるから、神獣も美味しいのかな?
そーゆー目で二人を見ると、悲鳴を上げて身を守る様にお互い抱き合って震える。
ねぇ、仲悪いのか良いのかどっちかにしろよ。
「まぁ言い出しっぺの法則だしな。俺が一番手を引き受けよう」
俺はすり鉢状の土台に置かれたサイコロに向かって、勢いよく蹴りを入れる。
それだけでサイコロは挙動不審な動きをして側面を高速回転して平たい場所に辿り着き、止まる。
「3か」
当てた数字の分の数のパネルを進む。
パネルの色は規則性がなく、同じ色のパネルもあるが説明書には統一性はないと書いてあった。
そして踏んだパネルは青色。
そしたらパネルから文字が浮かび上がり……音声と共に読みあげられる。
『3。自分とは違う性別の服を着用』
「アンテラぁぁぁぁぁぁぁー!!!!!!」
奴の声だった。
これアレだよな……だいぶアイツの趣味と嗜好が含まれてるぞ絶対!
名前からして自作感半端なかったけどさ!
てか良く考えたら人生ゲームって職業とかあるはずだよなぁ?全然ちげぇんじゃねぇのか!?
名前詐欺か!?打神鞭といいアンテラのやつ知識の逆輸入に誤作動生じてるじゃねぇか!!
「おーい、アレク。早う着替えろ」
「お兄様〜!早く可愛くなってくださーい」
「え、そんなに似合うの?まぁ素材は良さそうだけども……」
「妾も見たことないわね……」
アホどもの会話を聴いていると、目の前に女子用の衣装が召喚されて……いきなり俺に激突してきた。
「んん!?」
早着替えというか……超強制的に着替えさせられた。なんて言うの?魔法少女の変身シーン的な……服が身体に当たったらそれに変わるやつ。
まんまそれを実行された。
季節外れの白の半袖セーラー服、ネイビーのセーラー襟、同色の短めのスカート、黒のニーハイ。
……なんでJK風コスなんだよ穀すぞ駄女神。
まぁ秋後半なのにこの異空間は寒くも暑くもないから良いけどさ……
「わぁお……」
「……(パシャ、パシャ、パシャ!)」
「うむ、流石じゃの」
「世界は広いのね……」
「おいユメ写真を撮るな」
羞恥心で満ちるが、これは確実に皆も同じ目にあうってぇことだ!
大丈夫。皆犠牲になるのだ……!!
その後、俺の想定どうりに事は進み。
『2。夏を感じる為にスク水の着用』
「スク水ってなんです?」
ユメが青いスク水に着替えさせられ、頬を赤く染めてしまったり……
『5。亀甲縛りって見てて高揚しない?』
「知らぬっ……っておい」
ニーファは文字通り普段着の上に縄で六角形の縄模様を作る縛られ方をされたり……
『6。バニーガール、ぴょんぴょん!』
「謀りましたね?」
メリアは兎の獣人だからなのか紅いバニーガールに着せ替えられたり……
『1。おめでとう!首輪でもつけててね!』
「は?」
カグヤは全裸にされた上に首輪だけになった。ある程度の羞恥心はあるようだが、炎を出現させて謎の光のように隠しやがった。ちっ。
『3。魔法少女ミラクル・スライミーに変身!』
「まほーしょーじょ?」
「てってれー?!」
「わぁ」
「〜〜〜♪(へんし〜ん?)」
「似合う?」
子供たちは魔法少女になっていた。
みな色違いで、衣装も似合う可愛らしい物に作り変わっていて。
『4。生卵をひたすら割り続けろ』
「この流れでそれ!?」
ルーシィは何故か卵をボウルに割り続ける作業に駆り出されたり……
そこからも、ゴールに辿り着くまでも延々とサイコロを回していき……
すり鉢状の土台は使う人の場所に勝手に転移してくるので色々と楽な仕様、なのだが。
『6。そこで暫し待たれよ』
「む?何故じゃ?」
縛られたままのニーファは少し待たされ……
『6。同じ位置にいる人と手を繋げ』
「…………」
「…………」
「「は?」」
まるで謀られたかのように、炎で秘部を隠したカグヤが辿り着いて……強制的に手を繋がせられ、次のターンまで離せなくなったり。
『1。おめでとう!断頭台へどうぞ』
「殺意高くない!?」
もちろん実際に斬られる事はなかったが、ルーシィはボロ衣に着替えさせられ暫く固定されていた。
『4。スライム好きでしょ?』
「いやベタベタは別に好きじゃないです」
セーラー服の上にスライムのネチョネチョした液体をぶつけられたり……
『6。高級と市販を見分けなさい』
「あ、はい」
ユメに高級肉を使った唐揚げと市販の肉を使った唐揚げの食べ比べをさせてユメが勝利して、進むマスが一マス増えてまた別の命令を受けたり……
『2。一マス下がってから僕を崇める歌を歌え』
「ないです」
『………………』
命令通り一マス下がったメリアに歌唱を拒否され、沈黙されたり……これやっぱり録音じゃなくて生声じゃね?
『5。悪いヤツを倒せ〜!』
《ぐががががががが!!!!!》
「いくよー!」
「おー♪」
「おー!」
「〜〜〜!(おーー!)」
「お、おー!」
出現したタコ型の怪物に向かって、魔法少女ミラクル・スイミーがバンザイ特攻して圧勝していく。
タマノちゃんによる空間の固定で身動きを封じられ、ウェパルの七つの武器、デミエルの兎と猫の人形の乱舞、エノムルの溶解液とプニエルの高密度の光線が肉体を消滅させる。
「えっ、強っ」
「わぁ、ようじょつよい」
「これが魔法少女…!魔法少女つえー!」
「予想以上に成長してません?」
「ちょっと、早く離れなさいよ!」
「それはこっちのセリフじゃあ!」
各々が衝撃の声を上げ……一部は喧嘩してるが。
てかタマノちゃんの空間固定能力強くね?あれ多分防御とか妨害に役立つな……
てかやっぱりアンテラこれいない?いるよね?
『1。おめでとう!死ね!』
「今度は俺に殺意が向いてきたぞ」
ルーシィの定番じゃなかったの?俺に向かって即死を付与する神槍がこれでもかと降ってくる。
どう見ても対人の神器じゃない!体面積デカい化け物とか神獣を串刺しにする為の神器だろ!!
どういう原理か知らんが俺以外には被害がでないように仕組まれてた。変に技巧を凝ってやがる。
「《千種散爆》ぅ!!」
上空に向かって千の弾幕が飛んでいき、神槍をブチブチに爆破していく。
『…………はい、次〜』
俺に防がれたのを見て攻撃を諦めた司会進行。マジで顔を見せた瞬間、地面に刺さってる神槍を身体に刺してあげようかな?
てか精神的なダメージだけじゃなかったっけ?
『2。穴あきドレスをどうぞ』
「はえ?」
ルーシィはスリットが深かったり、背に大きな穴が空いてたりするドレスに着飾られている。
やっと見た目が違和感なしになったな!……あれ?この状況に慣れちゃってる?
「う〜……自分が着せられると笑えなくなる」
「はっはっはっはっはっ!いい気味だな!はっはっはっはっはっ!」
「正体あらわしたね?」
こうして、アンテラ式人生ゲームを楽しむ時間は刻一刻と過ぎていき……
なんと、ルーシィが3以上の目を出せばゴールのゲートをくぐれる展開へと進んだのだ。
「がんばえー」
「ルーシィちゃんファイトです〜!」
「うん!」
そして、最後の一投!
サイコロを強く押して……回し、転がし、攻略する!
「来たァァァァ!!!」
出た目は『3』ぴったり。
ルーシィは数に従ってマスを進み……ゴールの門をくぐり抜ける。
瞬間鳴るファンファーレと降ってくる虹の紙吹雪。
『おめでと〜!勝者はルーシィちゃんでーす!!』
ステージに立ったルーシィ似合わせて、自動的に俺たち参加者が転移で客席に集められる。
そして同時に、彼女の頭に美しく輝く金の王冠を被らせられる。勝者の証らしい。
「オメデトウコーラス サン!ハイ!」
「オメデトー♪」
「オメデトー♪」
「オメデトー♪」
「オメデトー♪」
「ねぇ何で機械音声?何で誰も祝ってくれないの?」
「おめでとー!」
「おめでとー!」
ふざけるのをやめて皆で褒め称えると、本人はノリと勢いで決めポーズを笑顔で決めた。
あの満面の笑顔、本心で楽しんでくれてたようで何より……なんか彼女にだけ肉体的に死にそうなギミック多かったけども。
『では、優勝者のルーシィちゃん。企画主のアレクくんに欲しい物を一つオネダリしていいよ』
「えっ……うーん」
考えてなどいなかったらしく、数秒間腕を組んで頭を傾けて考えるも……
「あのー、これって今じゃなくてもいいの?」
『別に構わないよ〜』
「じゃあ、決まった時に言います!」
「うん。命に関わる事柄はやめてね」
「やらないよ!?」
ホントかな〜?
僕、君のこと信用してないからね〜?
……よくよく考えたら、リスク高くね?変に願いを叶えるとか言わん方が良かったな……
仕方ない。自ら踏んだ地雷だし。
『では、優勝賞品はまた後日内密に行われるということで此度のレクリエーションは終了となります』
そして、締め括られる。
『皆様、お疲れ様でした〜!』
その一声を最後に、視界が切り替わり……人生ゲーム(のようなゲーム)から俺の異空間に帰ってくる。
「あー、楽しかった」
「そだね〜……って、服装はそのままかよ」
「わ、お兄様かわい〜」
「全裸じゃww」
「焼き殺すわよ」
服装はそのままだった。
しっかり元の服に着替えて、強制的に着せ替えられた衣装はゴミ箱に捨てる。
プニエル達は魔法少女の服を頑なに離そうとしなかったので、捨てずにもう上げた。
喜ばれた。
「んー、メリアも疲れたと思うから、久々に外食にでも行くか?」
「お金あるの?」
「国が買えるぐらいには」
「わぁお……」
だって使ってないしね。
「お兄様、今晩はこうなる事を見越して皆に伝えてあるので、私、お泊まりできます!」
「用意周到なことで」
ユメよ、それでいいのか。
「主様、お心遣いありがとうございます」
「いつもお世話になってるからね……あ、俺から少し出かけるから、お店選んどいてね」
「かしこまりました」
はしごでもするかい?酒は飲まないけど。
「何処に行くのじゃ?」
「このゲームの作者」
「なるほど、殺しに行くのか」
「まぁね」
否定はしない。
そして、俺の視界は再び切り替わり、場所はこの世界の更なる高さにある神々の楽園。
その最奥にある神殿にあるヤツの執務室の扉の前に転移する。
奥からは楽しそうな声が……どうやら録音していたらしい。俺たちの声が聞こえた。
「入るぞ」
「わぎゃぁ!?あ、あれ?アレクくん、どしたの?」
「裁きを下しにきた」
「それ僕がすべきことでは……?」
駄女神アンテラである。月を司るとか何とか知らんが、こんなゲームを作ってる程の暇人である。
先程俺に振ってきた神槍を手に持って、入室。
彼女の前には、モニターとマイクがあり、つい先程までそれを使って生放送していたのがよくわかる。
これが意味するのは、先程のゲームは全てアンテラの手のひらで動かされていたということだ。
「いや、ゲームは楽しかったよ?でもさ、人生ゲームと聞いたのにお前の趣味嗜好全開ワールドだったじゃねぇか」
「あの服とか全部自前だよ?」
「誇るな」
「えへへ」
「ウルキ「よーし。話し合おうじゃないか!」…」
毎度恒例お目付け役の神徒ウルキナを呼ぼうと思ったら、素早い動きで口を封じられた。
俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「俺に女装を課すな」
「ごめんごめん……ねぇ、そろそろ槍を手放そ?それホントに神を殺せる槍だからさ?二年前にそれで別世界に居た神が一柱死んでるからさ?」
反省してないな。多分またやらされる可能性大。
命乞いをするのもアウトだな……別に神が一匹二匹いなくなった程度で驚くことは無い。
取り敢えず脅しの神槍は収納して話をする。
「あとカグヤを全裸にしたのと、ルーシィを虐めるのもどうかと思う。プニエル達に関しては許す」
「神鳥は君の敵だっただろう?あとプニエルちゃん達には嫌われたくないし……」
「ルーシィは敵の神だからってことだろ?」
「……知ってるならなんで対処しないの?」
そりゃもちろん。
「なんか戦意とか敵意とか全て折れてるんだよね見た感じ」
「それは僕も思った。彼女は……」
「あー、言うな。真相は自分で掴む。彼女を捕まえた者として化けの皮を剥ぐ」
「ひゅー。じゃあ僕も手出しはしない。君に任せる」
コイツの謎レクリエーションにも割と楽しげに挑んでくれたからな。
不躾に化けの皮を剥ぐのでは無く、しっかり段階を踏んで……望むなら自首してほしいなぁ。
あ、今はどうやらユメと出かける為の服選びをしているようだ……でも結局、貫頭衣を手に取る辺りめんどくさがり屋なのか………
魔法による監視は楽でいいよホント。
「じゃあ、外食行ってくる」
「行ってら〜」
「じゃあ、後は任せました」
「お任せを」
「あえ?………う、ウルキナ……?」
監視の神徒ウルキナ、降臨。
毎度恒例って言っただろう?俺が神殿に転移した瞬間に俺の気配に気付いてここに近付いて来ているのに俺も気付いた。
更に俺に話題を振られるまで扉の前で待機してくれてたし……ここは期待に応えてね。
「アンテラ様、始末書を終えずに遊びに踏み入るとは……何度言ってもしばかれたいのですか?」
「え、いや、その……」
「何の始末書?」
「ちょっと他所には言えないです」
「察した」
何をしでかしたんだ夜天神。
「じゃあ、そゆことで」
「ま、待って〜!?」
視界が切り替わる。
場所はさっきのリビングで……来た瞬間に抱きつかれる。
ギュッとそれなりに強く縛られている。
「な、なんだ?」
「はふ〜……アレクニウム充填中です。動かないでください」
「あ、はい」
ユメでした。
それから二時間後。
夜の街に俺たちは繰り出した。
「で、何処だっけ?」
「定食屋の『明けの双星』ですよ」
「高級店か」
個室かつ格式も高くて料理も美味しい、とても素晴らしいお店らしい。
俺は来たことないが、ユメは世界同盟の会議で一度だけ会食に訪れたらしい。
入店して、お高い店故の手続きを終えて案内された個室に入る。
プライバシーを守る為に、防音や防臭の術式が壁や床、天井に付与されているようだ。
「なっに食べるー?」
置かれている品物表に書かれた数多くの料理。食べたいものを選択させる。
古今東西の食材を用いて作られた料理を食べる為に。
「我はステーキが食べたい」
「オムライス〜!」
「スイーツ食べたーい」
「ハンバーグ」
本当に好きな物だけを選ぶようだ。栄養とか考えずにね。
みな食べたい品物を好きなだけ選んで店員を呼んで注文した。
「ん〜、都会の食べ物は美味しい!」
ルーシィがカツを口に放り込みながら味を堪能して喜んでいる。
「んま〜♪」
「〜〜〜(もぐもぐ)」
「もきゅもきゅ」
「んむんむ」
「美味しい!」
子供らはお子さま定食を美味そうにほうばって。
「ふむ……前よりも美味しいですね」
ユメは行儀よく白布で口元を拭い上品に。
「…………」
黙々と料理の幅を広げる為に素材を解析するメリアがいたり……
「うまうま」
「あら、意外といけるじゃない」
ニーファはステーキを少し大きめにカットして食い、カグヤはコンポタージュを啜って楽しむ。
みな楽しそうで良かった。
俺は……初っ端からパフェを食べています。フルーツ全盛り生クリーム増し増しだ。
外食だから出来る行動だな。
そして……
「いやー、お腹いっぱいになった」
「ゴチですお兄様」
「ありがとうアレクくん」
「どったまして」
一時間程で店から出て帰路に着く。
その間。
「あ、カグヤ」
「ん?なにかしら?」
「戻すね」
「え」
強制。
魔法発動に伴いカグヤの肉体を縛り付け、小鳥の姿に変えてやる。
全て元通りだ。
「ピィ…(もう少し楽しめば良かった……)」
「うむ、やはりその姿の方が似合うぞ」
「ピィ!(るっさいわね!)」
小鳥になったカグヤは、ニーファに捕獲されてそのまま連れてかれる。
……人の姿を楽しむとは言うけど、全裸に首輪っていう羞恥状態にされてたと思うんだけど。
大丈夫?ゲームのせいで精神的におかしくなって恥ずかしいって概念が存在しなくなってたりしないよね?
まぁ、カグヤだからいっか。
……御後が宜しいようで。多分。




