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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第八章 吸血鬼とお兄様

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レクリエーション開幕


 吸血鬼少女ルーシィの学園生活が始まってから一日。


 当の本人は。


「つか、疲れた……」


 疲労によって机に突っ伏してダラけている。脳がトロけきって全体的にトロけている。

 そこにメリアが寄ってきて、暖かい紅茶とクッキーを机に置いてあげる。


「疲労回復に優れた紅茶です。少しは楽になるかと」

「ありがとうございます……ふぅ〜…」


 猫舌なのか、息を吹いて少し冷ましてから飲む。


「あ〜楽になる〜」

「なんかババアみたい」

「失礼な!」


 ごめんごめん笑。

 でもさ、事実なんだ……状況証拠とか込みで。


 そんな異空間という完全に逃げ場のない密室。その中で呑気に呆ける彼女を横目に……

 ソファに突っ伏す駄竜嫁を睨みつける。


 コイツは授業中、腕を組んだ状態を維持しながら突っ伏さずに寝るという行為を実行し、結果的にバカになったので取り敢えず三時間分の授業内容を頭に叩き込んだらこうなった。

 神竜なら必要ないとか思うだろうが、人間社会で生きる為には必要な事だから……いざとなったら捨てても良い知識だし。取り敢えず一時のテストに対抗できるようにすればいいし。


「おーい、生きてますか〜?」

「……」

「死んでますね〜?」

「……」

「……こほん。ハイ、ニーファシンジャッタ♪」

「裏声使って遊ぶでないわ!」


 痛い!てか反応しないのが悪い!それ以外にも全面的にお前が悪いだろうが!!


 ギャーギャーと言い合って取っ組みあって殴り合い蹴り合い魔法乱撃勝負に喧嘩が発展していくのを必死に止めにかかる勇敢なのが一名現る。


「ちょま!死ぬ!死んじゃう!私が死ぬから!!」


 何故か俺を羽交い締めにしてニーファから引き剥がす。よく見れば、ニーファもメリアに羽交い締めにされて鎮圧されていた。

 ざまーみろ。


「はーい、仲良くしましょーね〜!!」

「お二人共、リビングで暴れるのはおやめ下さい」


 全力で戦闘を阻止され、渋々それを受け入れる。

 というかルーシィの腕力意外と強い。思い至らず新発見を得てしまった。


「むぐぅ……悪いのはアイツだ」

「百歩譲ってそうじゃとしてもやり過ぎじゃ!」

「我が辞書に『やり過ぎ』って言葉はない!!」

「この自己中が!!」

「「うるさい」」

「ぎゃふっ」

「ごはっ!」


 再び言い合いになる学習しない夫婦が、今度はゲンコツで沈められて沈黙する。

 頭に星を作り、気持ち悪そうに回転させ揺らす俺とニーファ。

 客観的に言うが羽交い締めした状態でゲンコツってどーゆー原理だよおい。


「わかったわかった!やめるから!仲良くするから!そろそろ止めないと異空間爆発させるぞおらぁ!」

「謝るのか脅すのかどっちかに……えっ、ちょ、この魔力の高まり何?」

「だから言ったじゃん」

「……マジ?」

「自爆機能がない家なんてないわけないだろ」

「わー!?」


 俺の異空間が爆発しない訳が無い。

 異空間の規模によって威力と範囲が変わるから……俺の異空間の場合、それなりにデカいから世界都市が焦土と化して海域が枯れるレベルの爆発をお見舞いできるだろう。


 やらないけど。


 解放してもらって、渋々ニーファとごめんなさいのやり取りしながら睨み合って……


「どっと疲れた……」

「はぁ……」

「「可哀想に……」」

「アナタらのせいだよ!?」

「悔い改めてください」


 ふむ、二人には迷惑かけすぎたか。

 敵の可能性が高いルーシィは兎も角、メリアに負担をかけすぎてるな……


 俺はニーファを引き寄せて耳打ちする。


「おいニーファ。メリアにかかってる負担が大きすぎる。暫くギスギスした空気はなしだ。良か?」

「……うむ。確かに流石にやりすぎたの………よし、イチャつくか?」

「何故いきなりその路線に走るんだよお前は」


 性欲お化けかこのドラゴンは。

 この俺を枯らす気か?枯れないけど。


「はぁ……疲れが取れた気がしない。てか増えた」

「よーし、気を取り直して仲良くなる為のレクリエーションでもするか」


 ルーシィの独り言は一度無視する。

 実は既に検討していた事項で、参加者は募ってある。


「この状況で……?アレクくんって逞しいのね?」

「はいこれ疲労回復のポーション♪」

「…………副作用は?」

「メリアが発情した」

「!?」

「……え、ほんと?」

「わ、私そんなの知りませんよ!?」


 だって記憶消したし。


「まぁ改良を重ねて実験も繰り返してそんな副作用は消し飛ばしたから大丈夫大丈夫。俺を信じろ」


 な?な?と威圧を少し込めて。

 それを受けて渋々受け取ったルーシィ……の手を掴んで口の中に無理矢理ポーションを流し込む。


「ぐむっ!?むぎゅ、んぐぐ!?」

「はーい、ごっくんしましょーね〜」


 暖かい仄かな橙色に透き通った疲労回復ポーションがルーシィの全身を癒していく。

 ………………。


「ぷはっ……あのさぁ」

「いやだって言う事聞かなさそうだったし……でもどうよ?」

「んー……うわぁ、凄いとしか言い様が……ない。ホントに疲労回復?レベル高くない?」

「アハハハハハハ。まぁ効果あったなら良かった」


 ちっ。

 本当のことをいうと、そのポーションは疲労回復なんてものじゃあない。

 メリアに過去飲ませた物とは別品だ

 吸血鬼が苦手とする太陽。それを司る女神、太陽神ソレイユに頼み込んで神気を込めてもらった聖水そのものである。

 聖属性のもの、例えば聖水とかはだいたい効くのが吸血鬼という種族らしいのだが……


 聖水でダメージ受けてないし、太陽神の神気で身を焼かれてるわけでもなし。

 なんなら普通に快調になってる……


 さり気なく試してたりはするんだが、わかったのがルーシィは普通の吸血鬼じゃないってことだけ。

 まぁ囲い(神徒)が二人もいるんだから彼女本人は神確定なんだろうけど、神になったら弱点克服しちゃうの?神化ってメリット多いな。それともまた別口の理由か?


 はっきり言おう。

 俺はルーシィの化けの皮を剥ごうとしている。本心では仲良くしたいってモノもあるが……それはそれ、これはこれだ。容赦はしない。

 カグヤも密告はしてくれたんだが、正体までは教えてくれなかったんだよなぁ……酷い鳥だ。駄鳥め。揃いも揃って神獣には「駄」をつけてやる。


 ………あ、でも亀の爺さんはその要素ないな。また会いたいんだけど今どこにいるのか分からんし。


 閑話休題。


 仕方ない。ルーシィの事と亀の事は置いといて、普通にレクリエーションを始めよう。

 既に敵の方が先手を打ってる可能性が高い。だがこのご時世に呑気な顔で普通に平和を謳歌しようとする吸血鬼の娘を、甚振るなんて事はできないし気分的にやりたくない。

 なら正体判明までは普通に仲良くなればいい。


 だからレクリエーション。普通に楽しくやる。


「プニエル!ウェパル!デミエル!エノムル!タマノちゃん!全員集合!!!あとカグヤも!」


 俺の召集に応えて子供ら五人が楽しげにやってきて、渋々と小鳥もやってきた。


「マシタ、よんだ〜?」

「ご主人様?」

「あるじぃ〜!」

「〜〜〜♪(来たー!)」

父様(ととさま)?」

「ピィ…(さっきの魔力って何?)」


 カグヤのツッコミは敢えて無視しながら、俺は顔だけ異空間から出して呼ぶ。


「ユメ来る?」

「行きます!」


 ヒルデとミカエラは用事があるので無理らしいが、ユメは俺が呼んでみた瞬間仕事を即終わらせるという……そこまで俺と遊びたいの?

 こーゆうのを突き放すの楽しそうだよね。


 グロリアスは来るな。帰れ。……渋々帰った。


「ルーシィちゃん楽しもうね!」

「うん!ユメちゃん!」


 この二人はいつの間にか仲良くなってる……


「それではメンバーも揃ったことだし……やりますレクリエーション。『アンテラ式人生ゲーム』」

「いぇー……い?」

「素直に喜んどけ。貰いもんだ」


 なんかソレイユに会いに行ったらお土産でアンテラから貰った人生ゲームセットを取り出して、このリビングに展開(・・)する。


 瞬間、視界が暗転して切り替わる。


「「「!?」」」


 目の前に広がるのは一面の草原。

 そこに敷かれた色とりどりのパネルの道と、巨大なサイコロとすり鉢状の土台が目の前に。

 真上にスタートと書かれたゲートがあり、視界の最奥にはゴールと書かれたゲートとステージが。


「ルールは簡単!あのサイコロを転がして、出た目の数だけパネルを進む。止まったパネルに書かれた事象は全て実行しなければならない!以上!」

「あのすり鉢状のやつは?」

「あれにサイコロを転がす」

「優勝者の景品はあるの?」

「ん。欲しい物をあげよう」


 最後の一言で全員のやる気が上がった。

 プニエルたち子供陣営は五人で1チーム、サイコロは順番で回すってやり方をしてもらう。


「あ、カグヤ、やりずらいだろ」

「ピィ(えぇそうね、てかやるなんて言ってないわよ)」

「身体だけ元に戻してやる」

「ピィ(ふーん、そう……………は?)」

「えいっ」


 困惑している隙にカグヤの首根っこを掴んで……手の中で握り潰し、粉☆砕。

 血ではなく火の粉が辺りに散らばる。

 さながらスプラッターである。


 そして、飛び散った火の粉はひとつに集まって、先程よりも大きな炎へと膨れ上がる。

 やがて人の形を形成し……かつて見た花魁のような風貌の人型カグヤが完成する。


「……やり方どうにかならないのかしら!?」

「むり!!」

「嘘つきなさい!!」

「ぺっ」

「おいこら駄竜……!」

「なんじゃ駄鳥」


 小鳥はともかく、人型カグヤは嫌いなニーファが唾を吐き捨て威圧している。仲良くして?

 勿論、完全復活ではない。

 不死性というか転生に似た彼女の特権は残したまま、炎の力とかは根こそぎ奪ったままだ。

 敵対しようなんて意思は折ってある。


 さてまぁ、準備出来たということで。


「んまぁ取り敢えず、人生ゲームスタート〜!」


 こうして、仲を良くする為の初めてのレクリエーションが開幕したのであった。


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