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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第八章 吸血鬼とお兄様

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特別生と交差する思惑


 ルーシィ=ノーレッジがアレクと接触して数日。

 何故か学園の特別生クラスに編入させられた彼女を襲うのは、幸か不幸か大災厄か……

 取り敢えず平穏無事に済まないのは確実なのかもしれない。


 と、その前に。




 ◆アレク=ルノワール


 まず簡潔に言うと、学園での授業が再開された。

 そして今は秋後半。

 三年生達の卒業の時期が少しずつ迫っているのも事実なのである。

 故に……


「フェメロナちゃん、残りの人生楽しもうね!」

「あぁ!……え?」

「何か文面がおかしいよフリエラちゃん!?」


 獣王国の王女、フェメロナ=ライオンハートの学園生活も終わりに近付いていて、学園長の孫のフリエラと、エルフの族長の娘のティターニアと残りの学園生活を楽しもうと仲睦まじく話しており。


「フェメロナともお別れか……うーん、なんだろうこの胸底から湧き上がる高揚感」

「よしっ、戦場で会おう!」

「てめぇ王族だろうが冬馬さんに締められてろ」


 俺の小さな独り言を耳聡く聴いて戦場の再会を約束される謎。大人しく王宮で花嫁修業でも何でも良いから自粛して生活してほしい。


「そも、卒業する前に四天王に就職はおかしいと思いますの」

「まぁまぁ……ユメ様にそれだけ信じられているという証拠ですよ!」

「……相変わらずお優しいですわね、ステラは」


 我らが四天王が一人、ミカエラ=リル=ヘイドゥンが学園を離れ祖国で本格的に政務に追われる日々が待っていて。


「私は基本的に世界都市に居るから、何かあったら来てもらっても構わないぞ?」

「あはは。そうだね、同じ宗教同士仲良くしよう」

「あぁ……私は背信者と言われるかもしれないが」


 太陽教の信者でありながら鏡面神の加護を持つフィリップと、太陽神から加護を与えられているミラノが自虐を混じえて会話を弾ませ。


「いやー、まだ秋後半だけど!祝いのバズーカ砲でも用意した方がいいかな!?」

「「「「「「絶対にやめろ」」」」」」

「そんな皆で言うぅ……!?」

「…当たり前」


 クロエラがいつも通り総叩きにされ、マールが唾を吐くが如く毒舌をかます日常風景。


 ついでに言うとニーファは就寝時間が遅かったが為に夢の世界に旅立っている。


 そしてそこに。


「はぁ~い、皆さん注目〜!!」


 特別生クラスの担任、リダ先生が現れた。

 彼女に促されるまま一応皆が談笑をやめて席に着き話に耳を傾ける。


 ……内容を知っている者からしてみれば、つまらないものではあるが。


「えぇ〜、少しばかりの期間ですが、編入生?なんて言うんだっけ?……まぁいいわ。この特別生クラスに新しい子がやってきます〜!」


 あやふやで教師としてどうなのか真意を問われる言い方をしながら、リダ先生は紹介する。


「ということで、どうぞお入りくださ〜い!」


 言葉と共に教室に入ってくるのは、金髪ショートカットに赤と青のオッドアイの吸血鬼娘。


「ルーシィ=ノーレッジです。宜しくです」


 軽く手を挙げて挨拶する。


「えー、彼女は今、魔王国の庇護下にありますが、吸血鬼はあまり外界に接しないので、それに慣れるためにも此処に来た……らしいので、皆さん仲良くしてあげてくださいね〜」

「はーい」

「まぁ、わかった」

「ルーシィ、いぇーい」

「アレクくん、いぇーい」


 ダブルピースを互いにしながら、ルーシィは指定された席に座る。

 ……さん付けから呼び捨てに変わったのは、本人がさん付けを凄い嫌がったから。


「……んむ?」


 あ、ニーファが起きた。


「おはよう駄竜」

「首を締めるぞ尻尾で」

「それ昨晩寝惚けたお前にやられた」

「………?」


 何を言ってるんじゃこやつはって顔をするな。


 ルーシィが指定された席は、俺の真隣。

 そこに座って笑顔で「よろしく」と言われたので同じく「よろしく」で返す。


 やっぱタメ口は楽だ。お互い気を使わずに済む。


 全員がルーシィと自己紹介を終えた後、リダ先生が今日の日程を口に出す。


「えー、それじゃ久しぶりの全員集合という事で楽しくパーっとやりましょ〜う! 何か案ある人」

「そんなので良いのですか先生……」

「ミカエラさん、アナタ達は特別生。つまり学力的にも他のクラスとは違うの。だから大丈夫」

「本音は?」

「担任たる私がルールよ!!」

「ダメだこりゃ」


 担任節を見せつけられながらも、特別生全員で何をするか顔を合わせて話し合う。

 勿論そこに、ルーシィを加えて。


「何します?」

「卒業間近の先輩達がやりたいことをすればいんじゃね?」

「それだ」

「じゃあやり合うか?」

「「「黙れ猫」」」

「私は獅子だぞ!?」


 戦闘脳の筋肉獣人娘を会話の土俵から叩き落として抜きで話し合う。


「ルーシィちゃんも何したいー?」

「えぇっと……うーん、わかんない!」

「気楽でいいねぇ」


 間抜けな顔で手を広げてアピールするルーシィを横目に見ながら、何をするか決める。


「アレクくん、何か案だしてよ」

「えぇ……」


 ミラノ、困った時に俺に降るのはどうかと思うんだ……


「《リアル鬼ごっこ》ってのがあるんだけど」

「「「………」」」」


 全員が沈黙した。異世界人だからルールとか概要とかわかってないだろうけども。


「………」


 案の定、ルーシィも笑顔で固まったまま。そんなに嫌か。全く。


「別に猟奇的な展開にならないから。魔法を応用して楽しむデスゲームだから」

「最後ので信憑性が消滅した」

「だってホラー系しか思い浮かばんし……」

「アレクくんの思考回路覗きたいよねホントに」

「そこばかりはお前に同意する」


 失礼なクロエラとフィリップは置いといて、俺がマトモな案を出さないと判断した(させた)彼らは皆一様に頭を捻って今日の予定を導き出す。


「青春ね〜」

「何が?」

「おばさん少し懐かしくなっちゃいました〜(笑)」


 哀愁に浸る担任も置いといて。……なんか色々と置いといてる気がするがスルー。


「もう考えるの面倒いからルーシィに学園紹介で良くね?」

「……それでいっか」

「「「「さんせー」」」」

「それで良いのっ!?ちょ、先生も何か言って…」

「見聞を広めるのはいい事だと思うわ〜!」

「頼りがいない…!?」


 これでいいのか?特別生……


 その後、リダ先生引率の元に学園中を一通り歩き回る。

 俺が無音の魔法を使って歩く音と会話の声を外界に漏れないようにして授業に励む他生徒達の迷惑にならぬように細工を施した状態で。


 今回は、普段は行かない様な場所にも行った。

 学園制服の素材である芋虫型魔物パクスを飼育している小屋や、薬になる危険または無害な草花を栽培する屋内菜園所を巡っていく。

 するとなぜか。


「わぁ、なにこれ……」

「いや僕も知らないよこれ……」

「私も知らん」

「そも散策した事ないぞ!」


 ルーシィ含め、先輩達も把握していない空間を見つけてしまう。


「あら〜、まぁここは不人気スポットだから、認知度低いのは仕方ないのよね〜」


 そこにあるのは、青い建物。何処か暗い印象を受けるのだが……


「かつてこの学園を建てた偉人の魔術工房、その跡地よ〜……もう室内はもぬけの殻だから、人が来ないのは道理なのだけどもね〜」


 ふーん。もう何も無いなら、来る意味はないな。

 でも取り壊さずに遺しているのは歴史を知る観点で見ればいい事だとは思うな。


「まぁここは良いわ。次行きましょー」

「「「はーい」」」


 再び引率の元、学園内を歩く。

 その最中、俺は隣を歩くニーファ……の更に隣を歩くルーシィに声をかける。

 ポケーっとした顔で周りを、それこそ幼子のように見回していた。


「学園どう?まだ授業はしてないけど」

「……凄い平和で、良い所だよ」

「それは良かった」


 本心で楽しんでくれているのならなにより。


 その後、前言撤回で結局授業を受けることになって復習的なのを一通り軽くやった。

 ルーシィは頭にはてなマークを増やしていた。


「おい、アレク。指数関数ってなんじゃ……?」

「え。先生がめっちゃ懇切丁寧に説明してたやん」

「寝てた」

「……復習だけど?」

「察せ」

「トドメを刺すぞ」


 知能低下中の嫁に勉強を教える事になったのも、また別の話……


 あ、ルーシィの事は一昨日、ニーファにもメリアにも子供たちにも話した上で対面させた。

 二人とも受け入れてくれたが……問題が一つ。


 カグヤだ。


 焼き鳥と吸血鬼が対面したら、ルーシィは凄い勢いで汗を流していた。

 弱っていても神獣の威光は凄いのかな?


 ……あれ、ニーファには普通の反応だったけど?








 ◆ルーシィ=ノーレッジ


 世界は狭いものである。


 今、私の目の前にいるのは紅く美しい小鳥。何を隠そう彼女は神獣、神鳥カグヤだ。

 彼女とはかつて3000年前に戦場で出会った。こいつは何処の陣営にも属さずに、ただ好きなように暴れ回ってスッキリしてから巣に帰った自然災害だ。


 それが何故か弱体化して私の目に前にいる。


「ピィ!(なんで此処に居るのよ)」

「成り行きだよ私だって困ってるの!」

「ピィ…(はぁ……内緒にしてあげるわ。貸一つよ)」

「ありがとうございます……」


 アレクくんとかに聞かれないように、彼に与えられた異空間の一室で話す。

 部外者を自分の領域に連れ込んで良いのか聞いたのだが、「何が?」と逆に言われてしまった。

 警戒心薄くない?


「ピィ(下手な気は起こさない事よ。貴女の実力は知ってるけども)」

「大丈夫。もう私、心折れてるから」

「ピィ(真顔で真実を説くな)」


 今は《焔院凰》の名を冠している神獣との密談を終えて、今日から何故か行くことになった学園に向かう準備をする。


 特に持ってくものないけど。

 ………あ、私この異空間からの出方しらない。術式の乗っ取りも考えたけど辞めといた。


「おーい、いるかー?」


 不躾にドアを叩いて、こちらの反応を伺うアレクくんの声が聞こえる。


「はーい」


 ドアを開いて、来客を招く。

 黒の学生服に身を包んだ少年が、紅い双眸で私を見つめる。

 この異空間の主、アレクくんだ。


「準備できた?」

「うん。できたよ」

「おけ。うちの特別生クラスは頭の沸いてるのが多いから気をつけてね」

「そんな魔境に私を連れてく気だったの!?」


 やだ何この子怖い。


「いやまぁ平気平気。取り敢えず学園長と面会済ませて担任と一緒に居れば何の問題もない」

「はーい」


 その後、彼が開いた穴から異空間を出て、学園に一時的な入学する為の手続きを済ませて学園長と面会する。


「ようこそ、吸血鬼の娘よ。学園長のジェイド=グリモワールじゃ」

「ルーシィです。宜しくお願いします」

「うむ」


 老齢の魔術師との会合。グリモワール……あぁ、名門魔術家の。まだ残ってるんだ。凄い。


「はーい、アナタの担任です、リダ=フロイルで〜す。よろしくね〜?」

「はい、宜しくお願いします」


 めっちゃほわほわな担任来た。


 その後、リダ先生に連れられて特別生のクラス……今後の私の生活領域に入ってみたら。


 めっちゃ個性強くない?


 太陽神に愛される王子とその妻、鏡の神の加護持ちに、ヤバい熱量を持つ令嬢、逆に冷たい女の子、エルフの族長の娘、腐女子の委員長……。

 更には暴れ英雄の魂を内包する娘もいるし……

 てか何あの灰色のマッドサイエンティストみたいな彼は。ヤダヤダ怖い。マッド系は何しでかすか分からないから関わりたくない。実体験込。


 でも一番ヤバいのはこの夫婦だよね……


「すぴぃー……すぴぃー……」

「ふんふっふふーん」


 なーんで、どうして最強の神竜と神々の天敵がくっついてるのぉ……?

 いやまぁ悪い事じゃないけどさ……


 その後、皆で学園散策をしたのだが、改めて現代の平和を感じた。

 意外と楽しかった。


 その後、お昼休み、私は一人になって中庭に居たのだが……理由は簡単。


 その影に、見覚えのある二人が居たから。

 コソコソと移動して、気配を消して接触する。


 アレクくんには心配させないようにトイレに行くと言っておいた。

 流石にトイレまではこないでしょ。


 そして、私は二人の配下と顔を合わせ……怒られる。


「お・じょ・う・さ・ま?」

「ユステル、怒らない!ステイステイ!」

「………いやホントにごめんなさい」


 そこに居たのは、清涼な騎士と緋液の少女。


 すっごく申し訳ない。だって置いてきたし。

 そう言えば私が命令(オーダー)を二人にしたからそれに従わなきゃ二人は行けないわけで……


 あー、本当に悪いことをしましたすいません……


「……お嬢様、お戯れも程々に」

「ごめん、ホントに悪戯心が(まさ)っちゃって……」

「で、現状はどう受け止めれば?」


 奴らの中では唯一と言っても良いほどに信頼出来るユステルとヌイに、今を話す。


「では、我ら二人は」

「バレない様に遠くから」

「「見守らせて頂きます」」

「うん、それで」


 もうそれでいいから……当初の目的とは大きく違うけれども。

 あ、でも異空間の中だと見守るの無理だよ……? 

 ま、いっか。それはそれで。


「にしてもあの暴虐なお嬢様が学園生活に勤しむなんて……しかも普通なら敵の少年と一緒」

「このユステル、いざとなれば彼を斬り「洒落にならないからやめて…」……御意」


 その後、配下二名は闇に溶け込むように消えて……私の側近として警護の見守りをする。


 はぁ……


 どうしてこうなった?








 ◆???


「ふーん」

「んむ?……どうした?」

「いやなんでも。ハンバーガー美味しい?」

「うむ。美味じゃ」


 神気を持つ男女……神徒だな?


 さてさてさーて。彼女らが敵か味方か、判別はつくが駄鳥の密告だと平気そうなんだよな。


 吸血鬼の娘の正体、知ってしまえば泥沼に嵌る気配もする。まだ核心に迫る時ではないか。


 当たり前だが用心するのはするとして。


「……まぁ、敵愾心が無いなら放置だな。素直に仲良くしよう」


 それで心情を揺さぶれるかも。

 あと邪な気持ち抜きで仲良くなりたい、何故か。


 右眼に映る、密かに実行していた遠望の魔法による監視風景は途切れる事無く映し続けられている。

 あと同時並行で盗聴の魔法が前述の魔法に組み込まれており音を拾う事も出来る。


 ホントに排尿とか排便だったら一旦接続を切ってたけど……まぁ、トイレに入るまで切らなくて良かった。おかげで彼女に頼れる味方が居ることも判明。


 この感じだと、吸血鬼の里の崩壊理由も真実が不確かだな……いや逆に考えて彼女の陣営の者が起こした事件だったりするのか?

 なんか神徒二人も元は吸血鬼っぽいし、その可能性は高いな。視野に入れておこう。


 吸血鬼の里壊滅、からの俺との接触がセオリー通りなのかもしれないからな。


 あの神徒二人は彼女に忠実なようだし、あっちも放置でいいや。

 多分定期的に密会はするだろうし……


 一応、魔法の隠密性を上げとくか。



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