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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第八章 吸血鬼とお兄様

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吸血鬼の少女

◆アレク=ルノワール


「は、初めまして、ルーシィって言います……!」

「アレクです。宜しくお願い致します」


 吸血鬼の里、その跡地で見つけた吸血鬼の少女。

 多分生き残りかな?


 目の前でちょこんと座って、俺と目を合わさているのは、ルーシィと名乗る吸血鬼。

 ショートカットの金髪少女、赤と青のオッドアイを持っていて……服装はふわふわな貫頭衣。


 日光に当たりながらも平然としている。


 不安そうな目で、俺の事を見ている姿は、何処か儚く美しい印象を受けると共に冷たさを感じる。

 目の前の少女が生き残りの吸血鬼、嘘偽りない存在であると仮定して話を進める。


「いちおー聞くけど……ここの生き残りって事で良いかな?」

「あっ……はい、そうです、ね。里は……」

「見ての通り」


 視界に映る荒廃した吸血鬼の生存権。

 崩壊して廃材と化した家屋、燃え尽きた木々、端に積もった住人達の灰。その全てが無造作にその姿のまま残っていて……

 結界を張って状態を維持しているのだ、俺が。

 それを見て沈黙するルーシィの肩を叩いて、取り敢えず道を促す。


「取り敢えずご同行宜しくしても?」

「は、はい」


 そのままルーシィの手を取って、転移。

 身が浮く感覚と、そこから消える感覚を同時に味わいながら、瞬間的に移動する。

 復興した手の我らが魔都エーテルハイト、その中枢を担う魔王城にご招待。


「ついてきて」

「はい」


 廊下を歩く。

 メイドさんや近衛兵達から、すれ違う度にお辞儀をされる中、何も言わずに魔王のいる場所へと足を運ぶ。

 不安げにキョロキョロと辺りを見回しながら、俺についてくる吸血鬼の少女を先導する。心配させないようにしっかり気を引き締めて。


「ただいまー!」


 ユメ達が居る部屋に、チェックイン!


「あ、お兄様お帰りなさい」

「何処に行ってらしたのですか……?」

「おかーですアレク様ー!」


 仲良し三人組がしっかり政務に励んでいた。

 そして全員の視線が、勢いよく振り向かれて凝視し……俺の背後に向く。


 ルーシィちゃんをガン見しているのである。


「お兄様……?その子は?」

「吸血鬼の生き残り」

「!?」

「ど、どうも……」


 即、慌ただしくなる魔王執務室。

 うんうん。まぁそうなるよね……。ユメ達は慌てた様子で通信魔導具を開いて関係者を呼んだり、ルーシィのことを思ってか色々と部屋を片付けたりする。


「楽にしていいよ?」

「……失礼します」


 ソファに座らせて、紅茶を注いで取り敢えずリラックスさせる。

 後ろで忙しなく動く魔王達など視界に触れず、尋問……ゲフンゲフン。事情聴取というか知っている事を話してもらう。


「あ、美味しい……」

「それは良かった。じゃあ短時間で良いから質問しても宜しいかな?」

「……はい、わかりました」


 そして聞いた内容は三つ。

 村を襲ったのは誰か。奴隷商人は見たか。そして、襲われた理由がわかるかどうか。


 その質問に丁寧に、彼女は答えてくれた。

 空腹から回復して直ぐなのもあるかもしれないが、この子精神力高いな。

 故郷が滅んで直ぐなのに立ち直ってるのか不明だがしっかり受け答えしてくれる。


「襲ったのは……顔に火傷ある吸血鬼の男でした。奴隷商人は……私は見てないです。理由は……遠目に聞いただけなんですけど、『お前らは不必要だ』と叫んでいたと思います……」

「なるほど」


 んー、同族殺しか〜……

 顔に火傷のある吸血鬼……吸血鬼にも火傷っていう傷の概念があるのね。

 てか、不必要だって……どこの初代様だよ。


 そこに、今更ながら接待の準備を終えたユメが俺の隣に座ってきた。ミカエラとヒルデは臣下としてソファの後ろに立つ。


「ルーシィさん、初めまして。今代の魔王、ユーメリア=ルノワールです」

「魔王……私はルーシィ=ノーレッジと言います」


 互いに挨拶する二人。にしても……ノーレッジ姓か。

 ヴラドレッド=ノーレッジからもわかる通り、吸血鬼の長の一族が名乗る姓らしい。

 とゆことは、彼女は族長の娘とかそこら辺か。


 そして吸血鬼の生き残り……ルーシィ=ノーレッジを保護し、此度の事件の内容が僅かながら見えた。

 彼女の処遇は約束され、ある程度の自由が与えられる事になった。


 そのある程度の自由を監視する人物も指名された。


「じゃあ宜しくルーシィさん」

「ヨロシクねアレクさん……様?」

「呼び捨てを許可する」

「じゃあ「くん」で」


 何を隠そう俺である。

 …………なぜに?どうしてこうなった?






◆???


 EMERGENCY!EMERGENCY!


 どうしようどうしようどうしよう!!

 ついてくるとか言ってた臣下の二人をノリで置いてけぼりにして処刑した馬鹿が滅ぼした里に降りて、御冥福とか祈ろうとしてみた途端、空腹で倒れたとか笑えないんだけど!?


 んで起きてみたら銀髪紅眼の魔族がいて……てかいつの間にか空腹感が無くなって満腹だし。しかも血の濃度というか何これ凄い。

 そして彼はアレク=ルノワールと名乗った……


 あへぇ……詰んだわ。


 ヌイとユステルを待ってから来れば良かった。自由を極めすぎるのも良くないね……いやもう弁明不可避レベルで詰んでる。バレたら即殺じゃない?


 ……こうなったら、正体がバレるまで潜伏に専念するか。それを名目に降りましたって言えば家臣共も納得せざるを得ない。


 彼からの質問も、ほぼ私の部下がやらかした事なので八割方把握してはいたので答えられた。

 奴隷商人ってのはよくわからなかったけど……どうせ碌でもないから知らない。南無。


「あ、ルーシィさん一つ聞いていい?」

「?はい、なんですか?」

「何歳?年齢によってはタメ口でいいよ?」

「……」


 デリカシーの欠片もねぇ。あと上から目線。

 貴方よりも3000年くらい年上だよ!……なーんて馬鹿正直に言えないから……

 あらヤダ私ってばもうおばあちゃん?

 ………まぁ3000年って言っても封印されてたから実質加算されないんだけどね?

 でも200歳舐めるなよ?この黒い剣で斬るよ?

 あ、その愛剣は影の中にしまってあります。


「16です……」

「おk。タメでいいよ」

「お兄様デリカシーって言葉知ってます?」

「そーゆーのは破る為にある」

「「いやいやいやいやいや」」


 あ、魔王とハモってしまった。恥ずかし。でもなんか仲良くできそうだね……

 アレクくんの女心のギリキリを削る発言に対して、目の前で兄妹の弁明問答をただ見せられる。


「だって吸血鬼って長生きだろ?失礼があったらダメだと思うんだ」

「お兄様は魔族の王子だから大丈夫です」

「何その絶対的権威を持っている事を臭わす発言」

「え?」

「え?」

「「……………」」


 そしてなんやかんやありまして。


「……何故か君の世話をすることになった」

「いや言い方……」

「だって事実だし……まぁ取り敢えず、宜しくルーシィさん」

「はい、宜しくです。アレクさん」


 これが、私と《大天敵(アークエネミー)》との出会い。


「んー……下手に動かれても困るし…あっ!」

「な、何をする気……?」

「お前学校に通う気ある?」


 年上にタメ口使ってるよコイツ!話が違う!!

 てか学校!?何故にスクールライフを!?忌まわしき記憶が脳裏を駆け巡っ………いや学校にそこまで忌避感ないわ。普通に楽しかったし。懐かし。


 だというのに。


「いやなんかやる事ないと暇すぎて死んじゃうんじゃないかなって思ったから……」

「アナタって意外と失礼じゃない?」

「よく言われる〜……善意2割ぐらい入ってんのに」

「少なっ」


 彼のノリと勢いに支配されつつあった……


 あ、遅ばせながら自己紹介。

 私の名はルーシィ=ノーレッジ。何処にでもいる金髪オッドアイ吸血鬼だよ!!ヨロシクね!?

 悪い吸血鬼じゃないよ!信じて!?


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