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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第七章 新婚旅行とお兄様

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幕間:布石、或いは死の予兆

二話続けて投稿しております。

前話もお読みください(直接的な繋がりはありません)


【──混濁、精神汚染、介入、尊厳崩壊、統合、堕落、……忘却─────】



「……。…………っ、痛い…!?」


 ■■■の頭に流れる何か。それは突然の変な話。

 自分を自分たらしめるその根源が汚染され何かを見失う、そんな想像が現実になるような思考回路。

 歯を食いしばって頭を支配する痛みを払い除けようとするが、■■■を襲う闇は引かず劣らず。

 ただその存在を支配せんと侵蝕する。



【■■■■■、■■■■■■■■!■■、■■■……■■──────────……!!!】



 聞き取り不可能、理解不能。概要……不明。


「〜〜〜、〜〜〜〜!!!」


 声にならない悲鳴が、己以外、誰もいない暗室に静かに狂気をのせて無意味に響く。

 頭に流れ込む、黒い液体と形容できうる悪意の奔流が■■■の脳内を、魂を破壊する。

 痛みのあまり身体を目の前に机に打ち付けて、そこにあった全てが連鎖して崩壊する。

 作り替えの魔法陣は欠落して自壊。

 有毒な液体や自然発火する物質の入ったフラスコやガラス瓶が割れて、その全てが余計に身を襲う。



【You die again!We have only one end!】



 そして意味ある言葉が、その意味を把握する術すらも奪う勢いで脳を壊さんと叩きつけられる。

 自我が壊れんばかりの威力。

 己の存在意義を見失う言霊の呪詛。


「っ─────!!!」

アレク(・・・)


 身を悶えさせる■■■………アレクを静かに、それでいて力強く抱き寄せる銀色の少女。

 そこに秘められた紅い双眸が苦しむ少年を優しく痛みが四散する様に優しく魔力で覆い守ってやる。


「…ニー、ファ………ぅ、ぐぅ…!?」

「うむ、我なら此処にいるぞ……大丈夫じゃ」


 契約魂陣。

 アレクとニーファを繋げる唯一にして絶対の力。


 互いの状態を把握出来るこの力。ニーファは、そこから伝播してきた夫の危険信号を受け取って事態を把握。

 彼が通う魔術工房にて走って足を運び、今に至る。


 胸の中で苦しむ夫を横目に、散らばった工房の作業机周辺を睨みつける。


 見ればわかる。

 魔術の造詣は浅い自分でさえ、この作りかけの魔法陣に夫を攻撃、刺激する物はないという客観的かつ真理たる一つの事実を握り締める。


 では術式構築による失敗ではないのであれば。

 原因は?



【나는 당신을 용서하지 않는다!!】



 原因不明、不明、不明、不明─────……


 医師に見せた方が良いと思ったし、取り敢えず万能手腕のクロエラにも打診しようとしたが、痛みに悶える本人が拒絶を示した。

 ニーファは律儀にそれに応え、ただ隣で介抱をして支えて………ただそれしか出来ぬ事に対して、苦虫を噛み潰すように歯を鳴らす。



【Mертвый мертвый мертвый мертвый мерт────…………、────────】



 やがてアレクを襲う何かは止んだのか、彼は安定した呼吸を静かに繰り返し始める。

 ただ何も言わずに、ニーファはアレクの髪を掻き上げ、額に集まった脂汗を拭う。


「ふぅ………ありがと、ニーファ」

「気にせんでいい。まずは休め。片付けはメリアにやらせれば良い」

「うん……」


 メリアを呼び付け、荒れた部屋の掃除と整理を頼んでからニーファはアレクを抱きかかえて運ぶ。

 お姫様抱っこである。

 普段のテンションだと「いや逆だろ」といったツッコミが入る筈だが、その力も枯渇している様だ。


「ん……」


 医務室。

 そこに置かれた清潔なベッドに寝かせられる。


 白のYシャツをはだけさせ、薄い谷間や脇の下、そこに滴り落ちる汗を『天女の命水』に浸したタオルで拭い同時に身体の回復を促す。

 幾分か呼吸も落ち着いたのか、少し潤んだ瞳がニーファに向けられる。


 何かを訴えようとするアレクを制し、頭を撫でて落ち着かせる。

 目を蕩めかせニーファの服の裾を強く握る。


 そんな一時の安らぎは─────



【隘搾スキ邵コ髦ェ窶サ!】



 再び身を襲う、闇の混濁とした意志の激流。


 それは脳だけでなく、全身に負荷を与え肉体を致死レベルにまで痛みつける。

 必死に名を呼びかける妻の声も聞こえずに、ついに意識は激痛から逃れるように消えていく。


 それは底なし沼を永遠と落ちていく事を意味し。

 再び浮き上がる意識など持ち合わせずに、肉体の滅びを確定させる最期──────



【Good afterlife!】



 少年の意識は汚濁の海へと。不帰の闇へと。


 沈んでいく─────────……………。……………。………………………。



【─────また、どこかで】



















「……。……はっ!?」


 混濁しかけた()から這い上がる。

 全身に玉のように浮かび、流れ落ちる汗が気色悪く……今見た悪夢がそれだけ自身の危機感を煽っていた事を理解する。

 布団を掴んで、頭を抑えて現実を見る。


「はぁー、はぁー、はぁー……」


 荒れた呼吸を整えようと肺の中の淀んだ空気を吐き出すが、過呼吸気味の現状は変わらない。

 額から流れ落ちる汗を服の裾で拭き取り………しかしまだ垂れ落ちてくる。


「んぅ……。アレク……?」


 隣で眠っていたニーファが起き上がり、不穏な気配の俺に気づいて腕を抱き締める。

 それで幾分か溜飲も下がり、冷めきった心が癒され溶かされる。


「ふぅ……」

「…なんじゃ全く。怖い夢でも見たのか?」

「まぁな……」


 頭を振り、嫌なものを霧散させてニーファとの触れ合いに徹する。

 何かを感じ取ったのか頭を撫でてくるが、甘んじてそれを受け入れる。


「俺も悪夢とか見るんだなぁ……」


 人間、やっぱり特別とか関係なく、誰でも気分を害す夢を見るものだと痛感する。

 自分が特別では無いなんて言わない。

 他の誰よりも優遇されてるし、力も与えられた分だけ努力して底を上げた。

 特別であるから、やるべき事が成すべき事ができるのだから……


「正夢か……?」

「ふむ……どんな夢じゃ?」


 半裸のニーファが頭を撫でながら………なんで服着てないんだよ、昨日はなゆなゆしてないぞッ!?


 寝起きニーファに振り回されながらも、正直に夢での景色を答える。


「なんというか……魔術の研究してたら頭の中に凄い勢いで情報が流れてきて死んだ。お前に看取られた。以上」

「そうか……現実にならんといいな」

「縁起でもないこと言うな!」


 脳の情報処理を大幅に超えたオーバーヒート……死因はこんな感じか?

 たまに言葉が聞こえたけど、その全てが流れ込んでくるドス黒い液体で呑まれてたからな……最早、なんて言われていたのかも覚えてない。


「てか今何時……?」

「ん……5時じゃの」

「はやっ」


 早く起きすぎたし、ニーファを巻き込んでしまったな……二度寝するのも何か嫌だし、起きるか…

  布団を剥いで、立ち上がり身体の強ばった筋肉を弛緩させる……深く息を吐いて覚醒する。


 それに続いてニーファも立ち上がって着替える。

 パジャマを脱ぎ捨てて服に着替え、寝室から出て洗面台を求めて廊下を並んで歩く。


 静かで、誰もいない廊下の奥の方には静かに見える人工的な魔法の光が見える。

 ……メリアが朝ご飯を作ってくれてるのだろう。

 手伝いでもするか?


 目元を洗い、顔も洗って、歯を磨き、うがいで口の中を清める。


「さて、メリアの手伝いでもするか……」 

「あるのか?逆に邪魔者扱いされぬか?」

「へーきへーき」


 洗面所から出て厨房に足を運ぶ。

 想像のとおり、メリアは朝食作りに精を出していた。


「おはよーメリア。なんか手伝おか?」

「朝飯はなんじゃ?」

「おはようございますお二人共。今日は……」


 そんな感じで、一日は始まる。

 先程まで自身を襲っていた何かなど頭の片隅にもなくて……三人で並んで料理を作る。


 いやはや、世の中、不思議な事がいっぱいだなぁ……。

 歳でもないのにしみじみ感じる。













【──────天淵乖離。素濁混迷。浸潤天理】


 次元の狭間。

 3000年の封印が施されていた世界の裏側であり不干渉の無限展開世界。


 天も地もなく、ただ宇宙空間に類似の景色。

 いくら近づいても、その光には、星には届かずに景色の一つとして空間を彩っていた。


「うーん、これが原因か〜……やめてよねホント」


 そこに現れたのは、一人の女性。

 薄黒と紫の天の羽衣、漆黒の3対6翼の美しい羽、月と星を象る天の光輪を持つ女神。


 夜天神アンテラ。

 たった一人でこの危険地帯に降り立った女神は、無限の星空が広がる世界に巣食う存在を睨む。


【……………】

「初めまして、じゃーないよね?」


 そこに居たのは漆黒の少年。

 紅の瞳だけが明確にわかるが、それ以外はとことん黒い姿で構築されている。

 そのグロついた悪意の塊は、その双眸で自身よりも格上の神性である女神を睨む。


「忠告するよ。これ以上アレク君を痛めつけたら本格的にセコム呼ぶからね。具体的には………いや、やめておこう!お口チャックは大事だからね」

【…………】

「いや君はチャックしないで会話に応じて欲しいな!」


 無言を貫く暗黒少年に血反吐を吐く勢いで文句を言う駄女神。

 世界を管理する最高神とは思えない口ぶりである。


【帰れ】


 やっと口を開いたかと思えば、拒絶の意を示す。


「……消え失せろってことかな?」

【………】



 流石のアンテラも肩を竦めて、無言で睨む少年を横目に、それに従って転移を始める。

 マトモに会話に応じない存在を前に尻込みもせずに世界の管理者は早急に撤退する。


「一応、私は伝えたからね……じゃあね【黒の神徒】くん?」


 瞬間、アンテラは次元の狭間から消える。

 そこには元よりいた漆黒の少年のみが残り。


 その僅かな瞬間には、そこには何も残っておらず……

 虚しく偽りの星のみが輝く。



 敷かれたレールは未だ不安定であり激しく脱線を繰り返す。


 これは悪夢のほんの一幕。

 未だ物語の歯車は────────……





次回、登場人物紹介

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