見つけちゃったお兄様
新婚旅行編と書きながら後半はそれ以外っていう…
あと2話ぐらい閑話的なのを書いたら新章に移ります
ユメが魔王になってから二日後。
国家元首が変わっただけで、政治内容は大きく変わっていない。
ユメは相も変わらず執務に追われているが、優秀なのか半日で一日分以上の仕事を終わらせるので自由な時間を増やす事に成功したらしい。
まぁ、前からその才能の片鱗は見せてたし、仕事の効率化と自由の取得の手回しは凄かったからな。
あと膂力も俺より凄いよ昔から。
さて、妹が立場が変わっただけで、ほぼいつも通りの政務を続けたり部下に投げ渡していたりする中、この俺は何をしているかと言うと……
吸血鬼の里が壊滅したという件について、まだ終わりが見えていない事を危惧していた。
だってまだ解決してないし?
調査して分かったのは犯罪組織【這い寄る闇】の子飼い奴隷商人が近くに居たということだけ。
死体も馬車も国に渡して、色々と調査を進めさせているが……まぁ、進展は乏しい。
例の組織は世界同盟も敵視しているものなので、彼等も協力に馳せ参じてはいるが。
ならば、今度は一人で行ってみようと。
独断で許可なく。
「というわけで、も一回来てみたんだが……」
本日は晴天。吸血鬼の里に転移して降り立った俺は、見逃したかもしれない何かが無いかを探す。
相変わらず破壊の跡は残っており、ここに住んでいたであろう吸血鬼たちの死骸とも言える灰が風に吹かれて舞っている。
歩いたり見たり耳を済ましたりして頑張る。
そんな感じで里をくまなく探索したけど何も出てこなかったし、やっぱり収穫は無しかと、無駄足を踏んだことを悔やみそうになったところで。
察知する。複数の気配を。
「…………ん?んー、ん?」
それは里から少し離れた位置……外周部。
前回の調査では確認できなかったのだが……
一度見てから目を擦り、再び目を開けて二度見してみたら………
三人の男が女の子に迫ってるんだけど。
しかも馬車が近くに止まって───あー、嫌な予感がする!!
「ゲヒヒ!!仲間が吸血鬼に殺されたって聞いたから来てみたら……!!」
「まーさか、吸血鬼の里がこーなってるとは!商品がねぇじゃねか!……と思ったら」
「可愛い子はっけーん!いいねいいね〜……」
金髪ショートカットの少女に向かって、男の一人が手を伸ばそうとしたところを……
「はい、現行犯逮捕〜!」
「「「あ?」」」
ひぇ。………なんてな。
「《眠れ》」
「っ、誰だおめ……ぇ…」
「何だこれ……ぐぅ……」
「スヤァ………」
俺は奴隷商人らしき男らを全員、魔法で素早く眠らさてから鎖で雁字搦めにして拘束する。
流れで馬車を確認し、犯罪組織の紋章を発見、更に荷台に奴隷はおらず武器が沢山あるのを確認。
………んー、此処を襲うつもりだった………?いや分からなんなぁ。
まぁともかく。
ゴミをゴミ箱にしまう容量で男たちを異空間内にある牢屋にポイポイして馬車もポイポイする。
魔法による睡眠なので俺が術式を解かない限り彼等は永遠に眠ったままだったりするがきっと忘れないはずなので大丈夫だ。
予測だけど、俺らが調査に来た後、しかも数分前とかに来たんだろうなぁ……
まぁ彼等の余生は豚箱行き確定なんですけど。
さて、それじゃあ本題に入ろう。有象無象はどうでもよか。
「あのー?ご存命でございますでしょうかー?」
倒れてる金髪少女に声をかける。あとは背中も揺すって起きるよう促す。
ぽんぽんと背中を叩いてみたりもしたのだが、一向に起きる気配はなく………
代わりに。
ぐうぅ……
「……………………」
空腹。えー、なにこの子。前は里なんかに生命反応なんてなかったのに、いつの間にか此処で空腹で倒れてる。
なにこの子。怪しいね……!
取り敢えずうつ伏せから仰向けに体勢を変えさせて………………見た感じ、やっぱり吸血鬼、だよな……?
尖った牙あるし……いやでも太陽の下に晒されてるのによく灰になってないな……結構上の子か?
推定吸血鬼ということで、主食を与えてみよう。
吸血鬼の主食、それは一般人でも知っているし、読んで字の如くである。
「えっと……輸血パックは何処に…?」
あれれれれ。
ない、ない、ない。ない!
異空間の中にある倉庫に血がない。全血液型対応タイプの輸血パックが見当たらない。
何処にもないぞ…………あ、そうだ思い出した。
前に錬金術で貯蓄分全部使ったまま買ってないんだった……
……致し方なし。この手を使おう。
「っ……ん、こんな感じか?」
ミスリルの短剣で手首に切れ目を入れて、ドパッと吹き出る血をしたらせる。
そして、空腹で気絶してる吸血鬼少女の口の中に垂れ流して入れる。
躊躇いなく腕を切ったけど、リストカットじゃないからね?れっきとした救命活動だから。
無意識なのか、器用に可愛らしい喉を鳴らして血を飲む少女………その姿は何処か背徳的だが、俺は無心だった。
「っ、はぁ……今夜は肉を食べよう、そうしよう」
だって痛いし。
血が抜けていく感覚に身を酔わせながら、今晩のメニューにステーキでも何でもいいから肉料理をメリアに増やしてもらおうと画策していると……
「ん、んぅ……」
あ、起きそう。
もう充分だろうと判断した俺は素早く手首を止血して消毒して治療した上に何事も無かったように少女の血で汚れた口元を拭う。
そして、少女が起きてすぐ視界に入らないように横にズレて座りやすそうな倒木を取り出して座る。
やっぱり、ファーストコンタクトは大事にしなきゃ。
「ん……あれ………んぅ?」
そんな感じで寝起きの少女を眺める。
赤と青のオッドアイが陽に煌めく。
気持ちよさげに腕を伸ばして目を擦り……何故か満腹になってるお腹を疑問視しながらさすってる。
「満腹……?なぜに?」
「だって空腹で倒れてたら施しはするよね普通」
「ひゃぁっ!?」
めっちゃ驚かれた。
何故だ事実を伝えただけだぞ!?
そんなに驚きで跳ねるか普通……?
こうポンって座ったまま跳ねたぞ。器用だな。




