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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第七章 新婚旅行とお兄様

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幕間:何処かの城にて■■は──


 ◆???



「へー、で、何をしたのかな?」


 満ち足るのは怒り。城内を覆い逃げ場のない怒気を巻き散らせるは一人の少女。

 王座にて足を組み、頬杖を着いている事は分かるがそれ以外の姿は暗いが故にわからず。

 ただその闇の中に少女が居て、何かに対して怒気を宿しているということだけがわかる。


「ひ、姫様!オレは貴女の為にやったんだ!信じてくれ!!」


 弁明をするのは、大柄な体躯に鎧を着込んだ男。

 尖った牙を持ち顔の右半分が炎で焼けた痕が残っている。


 そして、その男の背後には七人の配下が姫に片膝をついて平伏していた。

 令嬢、道化、怪人、白衣、中華、緋色、騎士。

 多種多様な面々が無言で男の裁定を待つ。


「ふーん。じゃあ聞かせて?ヴァイス。私の為に何をなしてこうなっているのか」

「そ、それは……」


 言い淀んだ男……神徒ヴァイスは覚悟を決めて失態と言い切られた所業を話す。

 全身に伸し掛る重圧を押し退ける様に、意気を込めて話し出す。


「この時代の吸血鬼はあまりにも惰弱!至高であり血の夜を統べる貴女様のお目に写してはいけない!故にオレは!使えもしない、殺る気もない虫ケラ共を一人残らず始末した!!それの何が問題だと言うのです!!姫様!!」


 イビラディル大陸に残存していた吸血鬼の里。

 その壊滅を単独で行い殲滅した男、ヴァイスは熱弁を語り、少女に己の正しさと忠誠を示す。

 膝立ちで手を大振りに動かして存在証明する。


「そう…………………でもさ」


 それでも。


 少女の形をした血の神は優しさの一片も見せず。


「私の命令に背くことをするのは許さない、と散々言ってきたはずだけど?」

「っ───……」


 言い淀む。

 それは事実であり、不変であり……逆らってはいけない、一つの真理であるから。


「私は【状況を静観し手を出すな】と命令(オーダー)したよね?」

「は…い……」

「それを馬鹿な頭で破った……これで何度目?」

「っ………」

「言えない?数えられない?じゃあ教えてあげる」


 そう言って、少女は絶対命令を破った無能に向かって両手を向け、指を全て全開にして見せる。


10回(・・・)。いくら慈悲を持つ賢王でも、例え暴君たる私でも、これは許さない。許されない」

「……………で、では……」


 無慈悲にも、少女は審判を告げる。

 王座に座った少女はおもむろに手を高く掲げて。


「ジャッジメントです、悪逆の神徒ヴァイス」


 刑は無罪か死刑の二択。


「死刑です───────────さようなら」


 天に掲げられた手が振り下ろされ。


「い、嫌だ、嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 恐れをなしてその場から立ち上がり、忠誠を誓っていた姫から逃げの一手を計るが………


 時すでに遅し。

 眷属にして臣下たる男を一人、躊躇いなく。


 少女の腰に刺してあった漆黒の剣が、走っていたヴァイスの肉体を縦に切り裂いた。

 それだけで終わらずに。

 断末魔の一切を姫に聞かせんが為に縦に避けた身体をもっともっと切り裂いていく。


「あ────ぁ───……」


 三千年の時を経て、再び会えた姫に良い所を見せようと奮闘し……その方向性を間違った男が、無惨に破壊されつくされる。

 人間から吸血鬼へ、吸血鬼から神徒へ至った男が一方的に…………滅ぼされる。


 真祖(・・)の眷属に対して行われる残虐かつ確実な殺戮芸当。

 誰の手にも握られずに独りでに切り刻んでいた漆黒の剣は──────過激な蹂躙をやめ、鞘に戻る為に少女の手元へと戻っていく。


「ご苦労様」


 右手に握った漆黒の剣を腰にの鞘に戻し、少女は立ち上がり七人の配下に告げる。

 皆一様に、ヴァイスの斬死体を見て、悲しいという感情など欠片も見せずに平伏している。


「お前らもこうなりたくなかったら、命令違反をおこなさいでね………わかった?」

「「「御意」」」


 配下の返事に気分を良くした少女は、更なる命令を彼らにかける。

 言外に、それを破れば死滅させると。


命令(オーダー)よ。【城内で戦力増強に務め待機しろ】いいね?」

「「「御意」」」


 少女は下界に余計な手出しをさせないように眷属たる彼等を命令で縛る。

 そのまま配下たちを一瞥してから、少女は王座の間から去る。

 背後に開かれた悍ましくも美しい扉へと向かって、軽い足取りで暗闇へと消えていった────








 そして、残された吸血鬼にして眷属であり、神徒である彼等は何事も無かったかのように立ち上がって、笑う。

 笑う、嗤う、哂う──────


「アハハハハハハハハハハハハ!!!!ざまぁないわねヴァイスぅ!!主のお言葉に背いて自己判断だなんて……矮小な貴方には似合わなくてよ!!」


 灰色のドレスで身を着飾り、扇子で口元を隠し大笑いする貴族風の娘が。


「可哀想なこと言ってヤんなよお嬢様!単細胞らしく無様に踊って散っただけ!俺っちにも及ばぬアホらしさだ!道化以下!それ以下!キヒヒヒヒ!!」


 白い肌に七色の髪を持ち、爆弾でジャグリングをするふざけた道化師が。


「そもそも!姫は優しすぎるのだなり!10度も許すなど……温情にも限度があるというものなり!ソレガシなら一度目で処刑するものをなり!!」


 人獣一体の身体で構成され不可思議な語尾の怪人が。


「うーん、ヴァイスくんは俺たち眷属の恥晒しだけど、同じくらい弱い劣化共を死ぬ前に消してくれたのは賞賛するかな〜……ま、サヨナラサヨナラ〜!!」


 巨大フラスコを背負い、血で汚れた白衣と曇ったモノクルをつけた学者が。


「あれアルヨ。姫様の期待を裏切れば即殺という絶対不変の真理を彼は忘れただけアルヨ。頭のネジが緩いのが死因になったネ。ばーかばーか」


 青白い肌にチャイナ服、札が貼られた帽子を被るグラマーなキョンシー女。


「…………テンションたかっ」


 緋色の液体が全身にかけられたような見た目の女性が、高笑いする面々を心の底から軽蔑する。


「ヌイ、行くぞ」


 そして────優しげな印象を持つ、青い短髪の騎士が女性を呼んで王座の間から立ち去る。

 それは、姫の向かった扉の方へと。


「え……まってユステル」


 トタタ、と緋色の液体を撒き散らしながら駆け寄る女性………この二人の動向を、テンションが高くなって誰が一番強いのかという言い争いに発展していた五人はついぞ気付かないのであった。








(しくったなぁ………)


 ついカッとなって死刑にしてしまった。


 そう思考しながら、暗く冷たい廊下を歩く少女。


(んー、危険因子その一は排除したし……他の面々もヘマやらかして死んでくれないかなぁ)


 主とは思えない感想を述べながら、少女は更に思考し、思考の海へと沈んでいく。


(ジャッジメントも血の力が足りないから剣に頼っちゃったし……これは被害が出ない範囲で何とかしなければ……!!)

(そもそも一昔の前の戦争で私の心はポッキリ折れてんの!)


 腰に刺した黒い剣を擦ってから……自分の胸に手を当ててそこ(・・)にある物を確認する。


(……取り敢えず、これはまだ起きない……いや、起きない方が面倒いにならずにすむ……!!)


 眉を曲げて苦しげに顔を歪める少女の背後に、二つの気配が近寄り………話しかけられた事でその存在に気付く。


「お嬢様」

「まってー……はぁ、はぁ、はぁ……」

「!………何用かな?」


 先程、王座の間から他の面々を置いて移動していた神徒2人であった。

 騎士ユステルは少女に疑問を投げかけ、緋色の女性ヌイは息を整えながら何とか追いつく。


「お嬢様、ヴァイスは性格はアレでしたが、戦力という面を考えて減らすのは些か問題だったのでは?」

「………まぁ、ねぇ?命令違反ですし?」

「カッとなっちゃったんですね」

「ヌイ!?人の心を解き明かすのはやめよう?」

「何年一緒にいると思ってるんですか……」


 三人は仲良く談笑を交えながら、廊下をどんどん進んでいく。その先はまだ暗く、終わりは見えない。

 そして、ユステルは少女についてきた理由を切り出す。


「してお嬢様、何処へ?」

「地上」

「お供します」

「私もお供させてください……アイツらと一緒にいたくないです腐っちゃいます」

「いや私は待機しろと命令(オーダー)したはずだけど?」

「「どうぞ新たな命令を」」


 真顔で要求してくる眷属二人に冷や汗をかく。


(口実作ろうとしてる……!どうしよう、ど、どうしようか……えっと……)


 内心、悩み始める少女を視界に入れた二人は。


「許可なく攻撃しませんから」

「お嬢様の真意を無駄にするつもりはありません」

「………そう」


 引き下がらない二人に溜め息をついて命令を下す。


命令(オーダー)よ。【ヌイとユステルは私を遠目から見守り、待機せよ】……これでいい?」

「おまかせあれ」

「かしこまりました」


 嫌など言わずに命令を受け入れる。


「じゃあ、準備してくるから……待ってて」

「「御意」」


 そのまま少女は廊下から転移し…………


 ヌイとユステルにバレぬように置き去りにして、城から存在を消した。




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