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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第七章 新婚旅行とお兄様

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魔王戴冠式


 カーン、カーン、カーン……



 荘厳な鐘の音が、塔の上から国中に響き渡る。

 魔都エーテルハイトの復興は、魔法という地球には無い技術を使うことにより早期の解決に恵まれ、元の生活に戻りつつあった。


 そんな最中。魔王城にて、国を揺るがす式典が執り行われる。

 その為に今、この魔都は普段以上復興時以上の賑わいを見せていた。


 魔王城の王座の間、鍛え抜かれた騎士達が槍と盾を持って粛々と整列する。

 奥に輝き存在感を纏う玉座が、座るべき者を今か今かと待ち続け。

 玉座を挟むように、四天王の四人が並び立つ。

 《力》《棺》《楔》《炎》の名を冠する彼等は両脇に二人ずつ並び、無言で静かに時を待つ。


「とうとうユメも魔王か〜……仕事に忙殺(物理)されるんだろうなぁ」

「意味がわからん」

「可愛そうね〜……」

「字が違う気がするんだけど?」

「き、気の所為じゃないかの!」


 そんな中、俺とニーファ、母さんと婆ちゃん爺ちゃんは親族席に座って式典に参加する。


 魔王の戴冠式。

 今此処に、各地の領主や大臣などのお偉いさんが総出で始まりを待っていた。

 世界同盟の同盟最高評議会長の老人、エウク=レイデスや各幹部も来賓として来ていた。


 メリアやカグヤ、子供たちはお留守番だ。

 幼児特有の騒ぎ立てされても困るし、暇だろうから遊んで待っててもらってる。

 メリアには感謝しきれないな。

 カグヤは義務だ。やれ。


「お」


 壇上に魔王シルヴァトスが先に上がる。

 その姿からは王の気品と現代は必要ないとされるであろう魔王としての恐ろしさを醸し出す。

 黒い礼装を身に纏い、真紅のマントを翻す。金と宝石の装飾が輝き、王の威光を放つ。


「………」


 更に、父さんの後ろに追従するグロリアス。

 白を基調とした美しくその細身を昇華させる礼装と汚れ一つない金髪が流れる。

 手には豪奢なクッションの上に輝きを放つ王冠が持たれており、彼は運ぶ。


 そして。


 反対側から、ユメが登る。

 黒薔薇の魔王姫の名は健在で、美しくも儚そうな手の届かぬ領域に立つ可憐な女王。

 漆黒のドレス、黒い薔薇が彩られ真紅の紋様が際立つユメの身体を最大限に活かす王の装い。

 それが今、正式に此処に誕生する。


 四天王がまず片膝をついて平伏する。

 アンデュラー、ミカエラ、ノーストール、ヘイディーズ・エンドが忠義を尽くす。


 騎士が槍を天に掲げて胸に戻し、片膝をついて同じく平伏する。


 荘厳なる鐘の音は最高潮、天にまで轟かせ。


 二人の王が向かい合ってから、ユメが跪き頭を差し出す。

 厳粛に行われ、誰もが声を発さずにその瞬間を目に焼きつける。


 グロリアスが父さんの前に出て、王冠を献上し。それを受け取った当代魔王は先代へとなる為に後世へと証を受け継がせる。


 ユメの頭に、静かに乗せられた王冠。


 それが──────新たな時代の幕開けとなる!


「魔王ユーメリア=ルノワール、汝の歩む覇道に、一寸の狂いなき未来あれ」


 その言葉で締め括り………魔王代行は真なる魔王へと至る王位を手にし君臨する。


 鳴り響く拍手の嵐。誰もが魔王の存在を喜び手を叩いて歓喜を示す。


 新たなる王の継承によって、魔王国は更なる未来へと足を進める───────……













「あー……緊張したっ!」


 突っ伏して倒れるのは式典を終え魔王になったユメ。

 服装も王の装いではなく、ラフな貴族服に着替えていた。


「おっつー、頑張れ!」


 他人事のようにサムズアップする俺の頭に、父さんの拳が軽く落とされる。


「痛い!?」

「何が頑張れだ……お前も頑張るんだよこれから」

「子への虐待!法廷で会おう!!」

「愛ある拳に罪はない!」

「言い切った!?」


 親子コントをしながら、平和な時間を噛み締める。


「あらあら、いけませんわよ〜?ア・ナ・タ♡」

「ぐご、首!首しま!絞まってる!!」


 これが合意の上でのDV……?


「なんで解決方法が暴力っていう許容範囲の広い夫婦が多いんですかね……?」

「酷い世の中だな」

「お兄様も入ってるんですけど?」

「へ?」


 そんな人聞きの悪い。


「俺とニーファは仲良しだよ?ねー?」

「そうじゃの」

「じゃあ互いの頬を引っ張り合うのやめてもらえます?」


 空気読んで付き合ってくれるニーファ、マジ良い子ですわ。

 でもね、もっと優しく引っ張ってくれても良いと思うの。


「まぁ、孫が即位した記念じゃ!酒もってこぉい!」

「おいこら飲みたいだけだろ」

「はい爺ちゃん。龍泉酒」

「おぉ!?」


 飲みたがる爺ちゃんに龍泉酒の入った酒瓶を渡して黙らせる。

 コップに自ら酒を注いで飲み始める爺ちゃんを見て色々と呆れた婆ちゃんは………


「おい私にも寄越せ」

「ん?ほれ」


 酒を注ぐ。

 二人とも酒に強いのか、ぐびぐびと余裕の顔で呑んでいて……ある種の格の違いを感じる。

 足りなそうだな、追加するか。


「ん」

「ありがとう」


 酒瓶を五個追加して、爺ちゃん達の隣に並べて置く。これで満足………するかなぁ?

 しなさそぉ……


 まぁ取り敢えず。

 祝おう。


「ユメの戴冠を祝って」

「「「「「乾杯!!」」」」」


 父の音頭に従って祝杯をあげる。

 俺とニーファはアポー(りんご)ジュースだ文句あんか。ユメはワイン……なんか凄い平然と飲んでる。

 あれ、この家系で酒に弱いの俺だけ?


「ユメって酒強いんだっけ?」

「?はい普通に……まぁこれ、弱めのヤツですが」

「そっかぁ」


 あれかね。純粋な魔族じゃなくて半神半魔、更に転生者ってのが…………はっ!


 俺、前世も酒弱かったわ!


「なんじゃその見るだけで悲しくなる笑みは」

「どゆこと!?」


 失礼な。感傷に浸ってただけだ。

 部屋に置きっぱだった酒缶の匂いだけでクラっときてたんだぞ!飲んでないのに!

 どうかしてるよな!!


 あ、前世は品行方正な生き方(?)をしてたから飲酒はおろか喫煙もしてないから安心してほしい。

 妹は吸ってた。殴って止めた。辞めさせた。


「……あ、ユメ」

「どうしましたお兄様?」

「これあげる」


 俺は渡そうと思ってたプレゼントを取り出す。

 それは黄色い箱。


「就任祝い」

「おぉ…………これなんですか?」

「勾玉」

「へぇ〜」


 渡したのは黄色の勾玉、三つ目の通信魔導具《誓約の宝珠》だ。

 内容も効果もニーファとメリアが持つのと同じ。

「これで何時でも……いや、必要時には連絡できる」

「わぁ!……なんで言い直したんですか?」

「キノセイダヨ」


 やべ、渡すの間違ってたかも。

 四六時中通話する羽目になるかもしれん。こいつ重度のブラコン予備軍だから……!

 まぁそこは信じよう。うんうん。


「じゃあ、こっちに付ければいいんですね」


 ユメは流れるような動作で右耳に勾玉のイヤリングを飾る。


「オソロだね〜」

「ふふ、これで仲間入りです!!」

「そこまではしゃぐものか……?」


 此処にメリアも居れば四人揃ったのにな……いや俺は三人分付けてるから異物っぽくなるか。


 そして、俺達のやり取りを楽しげに見つめる大人たちは……


「あなた〜?政務が終わったって事はこれから自由ってことよね〜?」

「いや、そんな事は………やる事ならあるし…」

「あらそうなの〜?じゃあ、この書類はなぁに〜?」

「……何故それを!?」


 父さんに何かの書類(旅行計画表)を見せて脅す母さん。


「うーむ、復興作業もだいたい終わったし、またこもるかの?」

「馬鹿言うんじゃないよ。このご時世、老骨折ってでも此処に居るべきだろう」


 老夫婦は迷宮に戻らず滞在を選択。


「あ!ニーファそれちょーだい!」

「む?……嫌じゃ!」

「なんでよ!!」


 めでたい日だけど関係なく、俺とニーファが肉の取り合いをして騒いだり。


「取り敢えず法改正して【兄妹婚】を認めさせ────」

「「却下だ馬鹿野郎」」

「お兄様!?それにお父様まで!?」


 ユメが早速職権乱用しようとしたから男手で鎮圧させたりして。


 誰かの立場が変わっても、愉快で退屈なんて無い日常は終わりを見せない。


 魔王の王位は譲られて。

 激動の時代の1ページに刻まれる。


 神と人の戦争。

 仕切り直しとも言える生存競争が、激化するだろう。多くの犠牲が、英雄が生まれるだろう。


 それでもきっと。


 彼等は揺るぎない日常を紡ぐだろうと。


「と確信していた時がありました」

「不穏です辞めてくださいお兄様!」


 魔王ユメのどつきを喰らいながら、笑って流す。

 更に無言でニーファに足蹴りされるがそれも笑って流す。

 ハッハッハッハッハッ。

 あ、ごめん、もうやめて!痛い!痛いから!



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