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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第七章 新婚旅行とお兄様

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血の一族


 イビラディル大陸の西部、とある盆地に遥か昔から隠れるように暮らす血の一族、『吸血鬼』。

 王国が彼等の存在を確認したのは、数百年前。

 緋月王ヴラドレッド=ノーレッジの魔都侵攻がきっかけらしい。


 結果的に言うと、魔王国に多大な被害を残しながらも敗北した吸血鬼は、栄華を極める事無く再び盆地に追いやられ、徹底した監視の元生活していた。


 だがそれも昔の話。

 時代の流れに連れて、監視の目も緩んだが、吸血鬼は人前に姿を表さず静かに暮らしていた。


 そんな吸血鬼の里が壊滅(・・)したらしい。


 そんで、なんか知らんけど俺が調査する羽目になった……正確にはそこのリーダーだけど。


「宜しくお願い致します!」

「うん、気楽に行こうか」


 吸血鬼調査隊。

 魔界執行官の任務として俺はこの部隊の隊長を任命されてしまい……魔王直属だからって多用するのは良くないと思うんだ。

 まだ俺しかいないし。


 事の成り行きはユメ曰く。


「迷宮で緋月王に会ったじゃないですか?それで最近話題に上がらない吸血鬼の事が気になって……調べてみたら里が壊滅、滅んでました…どうしよう」

「頑張れ!」

「ということで、魔界執行官っていう暗躍し放題な位を持つお兄様に頑張って欲しいなーって」

「え」

「正確には調査隊のリーダーを……」

「…………」


 無言で拒絶の意を示してたんだけど、全力で無視されてしまった……理不尽な魔王な事。

 確か、戴冠式は……3日後じゃん。早く仕事終わらせて立ち会わなければ。


「えー、吸血鬼調査隊のリーダーに抜擢されたアレクです……宜しくお願いします」

「「「「宜しくお願い致します!」」」」


 各メンバーに纏めて自己紹介。

 人員は八名。小規模な部隊だ。


「今回は転移魔法の達人であり名誉挽回の機会を虎視眈々と狙っているヒルデガルド嬢に色々と世話になる。変に当たり散らして無駄死にしないように」

「宜しくお願いします!」

「「「「宜しくお願い致します!」」」」


 説明通り、ヒルデガルドも調査隊に入った。

 彼女の転移魔法は一度も行ったことなくても、写真や絵が正確であればそこに転移できる。

 破格のチートであり、転移に限って言えば俺より上だ。


 魔力の節約という観点からも呼んだ。


「日帰り任務だから、夜更かし出来ない程度には働かせるつもりだから宜しく。苦情は魔王へ」


 その言葉を皮切りに、俺はヒルデに合図を。


「宜しく」

「はい!アレク様!」


 満面の笑みで、吸血鬼の里があった盆地……から少し離れた地点にある石碑(・・)の写真をジーッと眺め始めるヒルデ。


 ………ファンクラブとかいう邪悪な組織、早く解体しなきゃ(使命感)


「準備出来ました!いつでも行けます!」

「よし、各員いいな!?よしいくぞ!」

「「「「はっ!」」」」


 ヒルデは手を翳し、人一人が通れる程度の空間の穴を作り出す。

 穴の向こう側には、写真で見た通りの石碑の姿が。


「我々が先行させて頂きます!」

「うん、任せた」


 うんうん。頑張って職務を全うしてくれ。


 というわけでやって来ました石碑の前へ。


「凄い転移魔法だな」

「お褒めに預かり恐悦至極………やった!褒められた!わーい!」

「最後で全てが台無しになった(ボソッ)」

「?」


 てか、こいつの父親は訛ってたのに何でこの子は普通の喋り方なのか…

 遺伝情報が薄いぞブロッケン。


「王子、この石碑は……?」

「ん?………確かこの山の危険さを訴えてる奴じゃなかった?今はもう掠れてて殆ど読めないけど」


 吸血鬼が危険な魔物を狩りまくっから、現在は超が着くほどに安全で何も無いんだけどな!


「こっから歩いて山を登る。こっから行った方が分かることも多いだろ」


 ってノーストールさんが出立前に助言してくれた。


 そのまま、盆地へと向かって足を進める。

 ほぼ無言の進行だが、周囲に視線を配り何かしらの情報が無いかを調べる。


 おおよそ二時間。

 盆地の入り口まで特に何の問題はなく、苦難など感じずに山の間を抜けようとしたら………


 我々は異常を発見する。


「やっぱ見た感じ異常はな………あったわ」

「む!?あれは……」


 一同が見つけたのは、打ち捨てられた馬車。


 吸血鬼の里がある盆地、その入り口の手前に。血塗れの馬車は横倒しにあった。


「ふむ……」


 中は凄惨な現場だった。

 屍肉が群がり、血が黒く乾き、手錠や首輪が粉砕されていた。


「奴隷商人の馬車か……?」


 碌でもないな。

 馬も御者も搭乗者も全員死んでいる。


 商人も奴隷も皆殺しか。


 手を合わせてそれぞれ黙祷を捧げ、死んでいる奴隷たちを弔う。

 この奴隷商人は十中八九「悪」だから皆しなかった。


 商人は人間だが、売り物となる運命を辿りかけていた奴隷たちはみな女子供で、魔族やエルフなどの人族以外で構成されていた。

 無論、識別が難しい子もいたが……

 それほどまでに残虐に滅ぼされているのだ。


「………!?王子、この紋章を……」

「ん?なにそれ……あー」


 一人の兵士が、馬車の見えずらい縁の裏に刻まれている『砕けた身体をもつ単眼の蜘蛛』の紋章を指さす。


「地方を荒らす奴隷商人でしょうか」

「んー……」

「いや、この紋章から察するに……」

「……数日前にある組織の子飼いのものと見られる奴隷商人の目撃情報が軍に挙げられていました」


 そんな在り来りで物騒なのがあったのか…………って存在自体は知ってたけど。

 だってこう見えても魔界執行官ですし?魔王直属の諜報部隊であり、これから俺の私兵が集う予定の機関だからな。

 だから裏社会の情報も適当に仕入れてある。


「んー、多分【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】だったかな?」

「確か……はい、自分の記憶が正しければ」


這い寄る闇(ニャルラトーテ)

 非合法な事を好んで、進んで行う外道。全世界を股に掛ける悪質な方の奴隷商人はほぼこれの傘下。

 誘拐された人外達は好事家に買われ、非業な死を迎えるものが多いし……実例も多発中。


 子飼いの奴隷商人をいくら潰しても、大した情報は愚か、潰した後釜が直ぐに出てくる始末。

 そして、尻尾の先を少しも見せぬ厄介さ。


 数ヶ月に一度、場所は不明だがオークションを開いて誘拐や強奪した商品を取り扱うんだとか。


 全てにおいて最悪にして最高なる組織だ。


「じゃあ、今回のも?」

「あの吸血鬼が負けるとは思えませんが……可能性は一番高いですな……」


 兵士の中でも一番の年長者とことの成り行きを模索し続けながら、俺は馬車を異空間に回収する。

 重要参考物だな。


 そして、再び歩みを進め……俺たちはその景色を、その荒廃した世界を目に入れる。


「「「「…………」」」」


 焼けた大地、焦げた家屋、飛び散る血痕。

 遠目からでもわかる死の気配。


「あれが……?」

「これが吸血鬼の里か……」


 ヒルデも驚愕し、戦場を駆け抜けた兵士たちも口を閉ざす。

 そんな中、俺は呑気に足を進め、異様な景色などに興味も振らずに先を行く。


「あ!置いてかないでアレク様!!」

「っ!?お待ちを!」


 こんな距離を走って疲れられても困るので、彼等のペースに合わせて歩く。

 魔都や交易都市よりも栄えてないが、村や里としては栄えてるレベルの小さな廃墟群。


「よし、こっから二人に別れて探索。異常があった場合は叫ぶか信号弾を撃て」

「「「「は!」」」」

「ヒルデは俺と一緒な?」

「はい!」


 宣言通りに二人ずつに別れて、散開して吸血鬼の里の調査を開始する。

 俺とヒルデは真っ直ぐ歩き、広場にやってきた。

 綺麗な花壇や何かの像があったのだろうが、その全てが悉く破壊され死滅していた。


「………」


 流石のヒルデも、いつものハイテンションではなく静かに滅びの景色を見つめていた。


 吸血鬼の死骸はなかった。死ねば灰になるから。


「里の上空に日光を阻害する結界もあったみたいだけど、かなり激しく壊されてたからな……」

「……それで大部分は……?」

「恐らく」


 吸血鬼は日光に弱い。明確に言えば死ぬ。

 そんな事にならぬように、彼等はすぐに日陰に離脱すれば軽傷程度で済ませようと頑張るのだとか。


 大人も子供も皆全て。

 風で飛ばされたのか、死んだ吸血鬼の遺灰が隅へと追いやられていた。


「吸血鬼は死ぬと灰になる。あの灰もこの灰も、魔力が込められている事から察するに………だな」

「…………」


 家屋の燃え滓とはまた違う、魔力が込もってる吸血鬼が生きていた証となる灰。

 遥か昔は魔術師や錬金術師の求める素材としても流用された代物であり……現代は失伝している。


「素材目的でも、奴隷目的でもなく……単純なる大虐殺が起こったみたいだな」

「虐殺……」


 淡々と述べる俺と、かつて自分が見た死の景色を思い出すヒルデ。

 ………交易都市メタンネド。そこで生まれた悲劇を彼女は知っているから、謎の感傷に襲われる。


「……悲劇の共有は構わないけど、立ち止まってると置いてくよ」

「はっ、はい!すいません!」


 小動物のように、我に返って俺に駆け寄る。

 緑色の髪が揺れ、風に吹かれる。


 彼女の処遇は、生き残った大臣や将校から甘いと言われた。例え本人は関係なくても、実子という事で当たりは強かった。

 許さない。魔王を蹴落とした一族を。国の存続に釘を刺した裏切りの公爵を。

 それでも、みな魔王の意思に従った。


 彼女は彼等の期待を損なわぬ様に奮闘している。


 そんなヒルデの苦道を邪魔するように、俺は少女を殺戮の跡地にて振り回す。

 時に笑い、時に慎み、時に大袈裟に。


「よーし、次はあっちだ短距離転移しろ」

「この距離で!?」


 流石に冗談………あ、ホントにやったよこの子。


「すまん、冗談と本気の線引きはしっかりするね」

「はい〜……」


 うむ。

 でも悩む時間も惜しいぐらいに振り回したから、現状を嘆いたり悩んだりする隙は与えなかった。

 何かと身に黒を孕ませていても、純粋に何も考えず馬鹿みたいにやってる方がこの子は似合ってる。


「さて、そろそろか」

「うっ……デートの時間が終わる…!」

「おいてめぇこら」


 冗談だとしても許されないぞ。極刑またはファンクラブの解体をするぞ。

 後者の方が採用されるだろうけど!


「王子、此方はめぼしい異常は特に」

「我々も同じく!」

「申し訳ありません……」


 入り口に集まり、戻ってきた六人が口々に述べる。


「まぁ気にすんな。それだけ相手が巧妙なんだろ」


 これといった成果は、結局里では得られなかった。

 その外から調査を始めたのが幸をなし、関係性の高い組織の馬車が手に入ったのは良かった。


 ヒルデの便利な転移魔法で素早く撤退し、吸血鬼の里から立ち去る。


 さて、あと残ってるのは報告書の作成、か。

 面倒いな………




 その時は単純に、【這い寄る闇(ニャルラトーテ)】という犯罪組織が絡んだ種族絶滅だと死の追悼を行いながら思っていた。


 しかし、現実は非情なもので。


 俺は■■■■と対面し■■■となりし■■■を相手にしなければならなくなるのであるから。



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