幼女遊戯
積み木、ままごと人形、童話、バランスボール、お絵描きセット、滑り台etc…
子供のために用意された玩具が一通り揃っている華やかで可愛らしい空間。
五人の幼児達が、永遠に幼い少女達がこの地で溢れんばかりの遊び魂を発揮する。
「わきゃー!」
「ばふー!」
「わ、わ、わ!」
「〜〜〜♪(てってけ〜!)」
「たららーん」
幼女たちの名は、プニエル、デミエル、ウェパル、エノムル、タマノちゃんである。
出自も異なる五人の子供たちは、同じ空間で楽しく年相応の暴れっぷりを………俺に見せる。
「うへぇ……」
目の前に広がるのは、純粋な心を持って子供部屋を蹂躙する五人の人外幼女。
もう遠回しに言うの面倒いからハッキリ言うけど、【おままごと】という名の怪獣決戦をし始めているのだ。
………多分、ニーファとカグヤの戦闘に触発されたんだろうなぁ……もっと可愛らしい遊びしよ?
まぁとにかく。
俺は今、うちの子五人娘達の遊びに付き合っているのだ。
時刻は昼過ぎ、おやつ前。
ニーファの剣を造って、酒問答をした後である。
使われている人形は、物騒な怪獣などではない。
魔法少女のデフォルメ人形、ウサギ、ネコ、仮面爆走者の可動式人形、チャッ○ー人形など…
ん?今なんか変なの混ざってなかった?
「デデドン!」
「ででどん♪」
「で、ででどん!」
「〜〜〜♪(でっでどーん!)」
「ででどん?」
今度は五人で同じ擬音を放ちながら戦隊ヒーローの集合ポーズを決めて………何故デデドンなのか疑問に思っていた俺に向かってライダーキック(か弱い)を喰らわせ────ぐふっ!?
「ヤーラーレーター」
「わーい!」
「かた!」
やられた振りをして、クッションの上に倒れる俺に、追撃という名の甘えダイブをしてくる四人。
プニエル、デミエル、エノムルは率先して、ウェパルはゆっくり伸し掛るように。
タマノちゃんはしていいのか迷ってあたふたしている……
「タマノちゃん、おいでー!」
いや、俺の許可は?
「……ん、わーい」
感情の起伏を感じぬが、楽しそうな雰囲気だけは伝わらせるタマノちゃんがプニエルに誘われ俺にアタックを決める。
そう、今俺は両手に花ならぬ全身に幼女状態。
子供の無限に近しい体力には負けて、嬉しさよりも疲労感が全身を支配する………俺も若いのに。
「マシタ!マシタマシタ!」
「あるじぃ〜!」
「ご主人様!」
「〜〜〜♪(マスター!)」
「………何て呼べば?」
それぞれ好きなように俺を呼ぶ中、タマノちゃんはやはり迷う。
この子、ここに来て迷ってばっかだな……まぁ、タマノちゃんにとっては未知の世界だもんな。
さて、なんて呼ばせるか………
「ととさま?」
「それはどうかと思うな!」
一度定着した名は離れぬとでも言うのか。
「ととさま!ととさま!」
瞳の見えぬ仮面からでも分かるほどに、キラキラしたオーラを出して袖を力強く引く。
今まで以上、というか初めて見たレベルのテンションでととさまコールを続けるタマノちゃん。
「……うん。いいよ、それで」
「ととさま!」
此方から折れる。
………ニーファにどう説明しようか。
あれだろ?これお義父さんって意味だろ……?
ニーファ、個人的にタマノちゃんは良いけどタマモミヅキには悪印象なんだよな……
ま、いっか。
「ととさまだよ〜」
「ととさま!」
ギュッと抱きつくタマノちゃん。
一気に距離感が縮まった……これでいいのか。
「マシタ、タマノちゃん!あそぼあそぼ!」
「つぎ!ふえおにごこやるー!」
「鬼は?」
「〜〜〜♪(マスター一択!)」
「ん。ととさま、鬼!」
「はいはい」
俺が承諾した瞬間、散らばる子供たち。
ただでさえ広い子供部屋に、五方向へ散る後ろ姿を見ながら、俺は律儀に十秒数える。
かくれんぼではないが、後ろを振り向き進行方向は敢えて見ない。
増え鬼か……取り敢えず全員捕まえれば良いんだよな?
「10……9……8……2……1!行くよー?」
「はーい!」
「わー!」
「……あれ?」
「〜〜〜♪(にっげろ〜♪)」
「たたたー!」
ちゃんと数えたよ?気付かれてないから大丈夫。
勢いよく後ろを振り向き、全力で足を動かし前進するプニエルを視認する。
そして、追いかけ回す。
「待て待てー!」
「きゃー!?」
やはり子供相手とはいえ、格の差というのがあり簡単にプニエルにタッチできた。
「よーし、皆を捕まえるぞー!」
「おー!」
鬼になったのに楽しそうなプニエルを横目に、俺は他の子達が逃げ隠れた場所を気配で察知して満面の笑みでそこに向かって足を突き出す。
狙うは…………デミエル!
「はぁー!!!」
「わー!?」
無限にも続く追いかけっこ。
延々と、嬉々楽々と続く幼児組との遊びは夕暮れまで続き…………
その時は訪れる。
「マシタ〜……」
「ん……」
「ふわぁ…ごしゅじん、さま……」
「〜〜〜……(……zzz)」
「ととさま……?」
おねむの時間である。
時刻的にはアレだが、いつも以上に走り回ったのだろう。五人は皆同様に眼を蕩めかせ、欠伸をしながら目を擦る。
「うん、じゃあ寝んねしますか」
「ふぁーい」
子供部屋の奥にあるベッドに、五人を寝かす。
それぞれ手を繋ぎ合い、抱きつき、身体を絡ませて寝に入る姿に、自然と頬が緩む。
先程までの騒々しさが嘘のように、静かに寝息だけが響く。
無限かと思われていた幼き体力は、実は有限だったようだ。
「…………さて」
子供たちの相手は終わった事だし。
「明日の準備でもするか……」
魔界執行官、緊急任務。
……………【吸血鬼の里】の調査。
「全滅ねぇ……嫌だ嫌だ」
一難あってまた一難。
人生ってのは大変だなぁ……




