燃やせや溶かせ神秘の炎
「はぁ〜……」
「ピィ!(何よその溜息は)」
家族団欒を終え、魔王から指令を受けた。
ハッキリ言って憂鬱だしやりたくない仕事だ。
「まぁ、実行日は明日だから良いけど……」
既に日は登り、土産を渡し回ってから一日が経過している。
そんな時に、俺は異空間の最近増築改造した鍛冶部屋にカグヤを連れて来ていた。
「ピィ?(で、何するのよ)」
「わからない?」
「ピィ(わからないわ)」
おいおい……仕方ねぇ教えてやろう!
「ニーファの剣がお前に溶かされたじゃん?」
「ピ、ピィ(え、えぇ、そうね)」
「んでニーファがまた作ってとねだって来たから……こりゃお前に責任取って貰わんとなぁ……と思った次第」
「ピィ……(いや妾に出来ること無いわよ……)」
何を言ってるんだこいつは。
「お前の炎が神竜の鱗を溶かしてただろうが!その炎を使って金属類を燃やして溶かしてする為に働かせるに決まってんだろうが!!」
「ピィ!?(強制労働!?)」
「YES!」
「ピィ!(やぁー!)」
「逃がすか」
飛んで逃げようとするので、足を掴んで引き寄せる。嫌々首を降ってもがくので、胸の中にしまう。
すると大人しくなった……なんで?
頭を下げて覗き見ればポケ〜と惚けている小鳥が一匹。
「…………よし、やるぞ」
人の温もりを感じると止まっちゃう子のようだ。
まず異空間からニーファから剥がれ落ちた龍鱗や、先の死闘で溶け落ちた龍鱗を取り出す。
全部結界の上に落ちたので、しっかり回収して保管しておいたのだ。
あとはミスリル、オリハルコン、アダマンタイト……希少鉱石をこれでもかと取り出して作業机に纏めて並べる。
ミスリルは魔力伝達を良くする為に、オリハルコンとアダマンタイトは強度と性能を求めて。
それぞれ用途を求めた結果、金銭取引が生じたら経済が傾かない程度の大金が動くかもしれなくなった………やりすぎがちょうどいいよね。
「おい、再起しろ」
「……ピィ?(ん?)」
「晩飯になりたくなけりゃそこの窪みに座れ」
「ピィ…(妾に命令とか不遜ね……まぁ座るけど)」
カグヤは文句を言いながらも溶鉱炉の入口に細工されてある、凹んだ箇所に身体を降ろす。
小鳥の姿がちょうど収まる程度のサイズで、底に刻まれた魔法陣が紅く煌めく。
「ピィ?(でも妾、封印されてて魔法は愚か炎の一つも出せないわよ?)」
「それなら大丈夫」
ここで紅い魔法陣が役に立つ。
「ピィ!?(きゃっ!?)」
紅蓮の輝きが魔法陣から発光し、カグヤから痛みなく無理矢理、力を引き立たせる。
「……ピィ?(なにこれ)」
「強制的に炎を放出させる魔術刻印が刻まれてる。身を持って体感してると思うけど、激痛とか後遺症とかは無いから安心して」
「ピィ?(ほんとに?)」
「俺も身を持って体感したからね」
「ピィ!?(アンタ体張るとこ間違ってない!?)」
いやいや。
他人に痛みを伴う魔法とか使ったらそれこそ悪役の屑だろ……例え元敵でも配慮はする。
炎の引き出し方は単純構造で、神獣を封印している術式の隙間を魔力粒子が侵入して炎の通り道を造り、カグヤの身体を刺激して炎だけを出す。
ただそれだけ。
「ピィ〜!(炎が変な所から〜!!)」
「ケツから………因果応報、ざまぁ、なんかごめん?」
「ピィ!(煽ってんのか謝ってんのかどっちかにしなさいよ!!てかやだやだやだぁ!!)」
小鳥カグヤの肛門部から吹き出る炎。
なんか見苦しいから一旦止めて、カグヤを退かしてから魔法陣を改造して口から出るようにする。
これなら見た目大丈夫だろ。
「ピィ!(これなら平気よ!)」
「なら良かった」
口から火を吐く小鳥は何処かシュールだが、可愛らしさもあるので相殺されている。
まぁコイツに愛嬌なんて求めてないが。
溶鉱炉に溜まる神鳥の炎。
ある程度炎が詰めさせ、半永久的に炎が煮詰まっている事を再確認してカグヤを止める。
そして、その溶鉱炉の中に金属類を投入。
耐熱超加工ガラス越しに見える、一瞬で融解するオリハルコンを見ながら神竜の龍鱗を加工する。
いややっぱり凄いな神獣は。
そんなカグヤは、もうフリーハンドで溶鉱炉から離れて、俺の肩の上で邪魔にならないように鑑賞している。
天罪紫刀。
かつてニーファの為に拵えた大剣で、希少金属と龍鱗を上手く組み合わせて造った武器。
神化してないかし始めた頃の作品なので、我ながらよくやったと思うがまだ幼さの残るものだった。
それが今や、溶けてしまって見る影もない。
そんな大剣を、色々と技巧を深めた今なら上位互換の物を作れるはずだ。
同程度ならともかく、下位互換を造ったら自決するつもりである。
本気だ。
「使うのは勿論………」
「ピィ?(金槌?)」
「魔法陣〜」
「ピィ…(そうなのね…)」
当たり前だろ。
か弱い細腕であんな重いの持てるか。ニーファじゃないんだぞ。
普通に魔法陣で加工したり錬成するんだよ。
精錬も鍛錬も全て魔法でこなす。
「《大いなる炎よ・秘中の術理・須らく支配せよ》」
詠唱。
掌握された妻の龍鱗が、かつての威光を無く息を吹き返すのを待つ紫の大剣が。
翳した俺の手の中で粘動し、流動し、その形を液体へと変化させる。
魔法陣の上で操られし神竜の鱗と共に、通常よりも素早く溶かされた希少金属共を混入させる。
「ねるねるねるねるねるねるねるねるねるねるねるねるねるねるねる……」
「ピィ…(怖いわ…)」
ねるねるねるねるねるねるねるねるね……。
特に意味は無い。
「【天命髄の欠片】と……えぇ、何だっけ……何入れるっけ……あ!【龍泉岩の魔石】だ!……よし」
「ピィ…(うわぁ…)」
神鳥も引くレベルの偉業が成される。
魔法陣の上で形を得る《天罪紫刀》の新たな姿。
その姿にはもはや紫の要素は無く、全面が銀色となって……最早別物であった。
神秘性を宿した美しき大剣。
刀身には透明な管が巡ってその中を綺麗な液体が絶えず動脈のように液体……龍泉酒が流れる。
更に、天界の浮遊大陸に生える結晶が剣の重さを軽減させてニーファの負担を減らす趣向を凝らす。
神竜の為だけに作り上げた至高の一品。
「完成──……字名は《龍神命脈剣》!!」
命名は即席。
大剣の、刀身と柄を延々と、魔石から漏れ出ては異空間に消える龍泉酒が血脈のように巡っている姿と、神竜の為が為に造った物だから。
龍神命脈剣:魔王の兄にして神々の天敵が造りし至高の一品。神竜ニールファリスの為だけに存在し、新生した旅の友であり手に収まりし裁きの銀。生物が如く輝くその姿は天に仇なす罪を滅する。ランク-SS。
新生した天罪紫刀と言えばそうだし、全く持って別物であると言ってもそうであると言える矛盾。
そんな心材を孕む人の姿に化ける神竜の剣。
「神竜ニールファリスの魔力と神気に鳴動して龍泉酒に秘められた力を引き出して膂力の真価を過剰に強化させてしまう………ニーファならこなせる!」
「ピィ…(重ねられる負担)」
「更に!!天命髄の力によって軽くなってるし、ミスリルと酒の力で魔力の浸透性は高く!オリハルコンとアダマンタイトを綺麗に均等に完璧に混ぜ合わせた事で強度を確固たるものとし!!………あと小鳥の大火炎にも耐えられるようにパワーアップ!」
「ピィ(ねぇ)」
「さ・ら・に!……………えーっと」
「ピィ(勢いで喋るのやめたら?)」
「そうする……」
でも、凄いのは分かってくれたかな?
取り敢えず人間の姿を真似てる状態でも神獣を一方的にぶちのめせる様に身体強化させる……
まぁ、後は因果律を斬るとか世界の理を切断するなんて機能も付けれたら付けたいなぁーって……
いつか鍛冶の神様に会ってみたいな。数時間教えをこいた上に技術を盗み見たい……いや待て。
俺は魔法陣タイプだから……意味ねぇか?いやまぁ経験を得るって意味ならありありのありだけど。
「よし、呼ぶか……《もしもし》」
左耳に付けた二つの勾玉。
紅と青のうち、薄い光を放つのは紅い勾玉であり、それが目的の人物の名を呼ぶ。
《盟約の宝珠》……名前は大層な物だが、単なる通信魔導具であり、対になる物同士でしか使えないがわかりやすい代物だ。
もう片方はメリアが持つ《信頼の宝珠》である。
「ニーファー?」
『……む?どうした?アレク?』
「剣 出来た おいで」
『なぜ間が空く?……まぁ良い、すぐ行く……ぐぴっ、ぐぴっ!』
「おい待て何を飲んでる」
『んじゃ切るぞー』
「あ、おい─────……何を飲んだんだ……?」
あんなぐぴくぴなるって……本当に何を飲んだ?
いやそんな激しく追求するつもりはないんだけど……こんな時間から酒とか飲んでないよな?
嫌だぞ介抱するの。
「ピィ(アナタも大変ね)」
「わかってくれるか元凶その一」
カグヤに悪態をついていると、ニーファが来た。
「ひっく……来たぞ」
「ワァ、シャックリシテルゥ……」
思わずカタコトになったが、こいつ酒飲んでやがる……現に頬は紅くなり、目は蕩けている。
ここで一つ豆知識。
ニーファは酒が強いか弱いかで言うと、どちらでもあると言える。
理由は単純。
ドラゴン形態、つまり本来の姿では龍泉酒を飲んでも2リットルまでなら耐えられる(他の知恵ある龍種は2桁は普通に越える)。
人型形態、つまり俺に合わせての姿だと、肉体の大きさに釣られて龍泉酒一杯で凄く酔う。
……すまない、訂正しよう。
ドラゴン平均で答えるなら、ニーファはお酒に弱かったでございます。
変な事言ってすいませんでした。
うちの嫁はお酒弱いのに強いと勘違いしてる……最近少しだけ自覚?し始めているのが救い。
「なーんでお酒飲んだんでちゅか〜?」
「むー?おなか減ったから……」
「メリアは!」
「メイドの所で料理習っとるぅー」
「ぐ……なら仕方ない」
魔王城宮廷メイド長ムジカの元で料理の勉強をしているってことは……
コイツを止めるストッパーが俺しか居ない……!
「よーし、冷水をやろう」
「いらぬ!ぐぴっ!」
「目の前で飲むな!」
あまり顔を近づけると口移しで酒を飲ませてくるから顔を遠ざけながら酒の入った瓶を奪う……奪わせろ!!おい!!
「ピィ……(大変ねぇ……神竜が酒弱いの知ってたけど、ここまでとは……悪化してるわね)」
「そうなの!?」
「ピィ!(なにせ、昔は酒を悪用して討伐しようとした蛮勇が居たのよ?)」
「へぇ……やっぱり?」
「ピィ(酔った龍の何気ない尻尾振りで死んだわ)」
「草」
蛮勇の中でも愚に近しい英雄だな……
人間形態だと可愛らしく、ウザったく絡んでくるからマシなんだなぁ……尻尾も当たっても痛くも痒くも何ともないし……あ、肉体普通じゃ無いから耐えられるだけだったりする?
まぁいいや。まずは目先の問題を解決せねば。
「ニーファ、よく聞け。今、俺は、剣を、造った」
「うむ」
「あげるから、酒、終わり。オケ?」
「むー……むー!」
「ピィ…(あらあら)」
首を凄いゆっくり振って抵抗する酒酔い雌龍に痺れを切らした俺が取った行動とは────
「殴って沈める!これはDVに在らず、正当な夫婦円満の触れ合いであ────あ」
「すきやり〜」
「んぷっ!?」
「ピ(あ)」
ごくっ、ごくっ、ごくっ。
ここで二つ目の豆知識。
アレク=ルノワールはお酒を飲むと、それはもうご都合展開へと転ぶのである。
何がとは言わないが。
「んっぷ」
「ほれ〜……顔が良くなってきたぞ〜?ひっく」
「んぅ……あたまくらくら?するっ……」
顔は蕩け、目は溺れ、口からは唾液とも酒とも判別つかぬ液が垂れる。
すっかり出来上がった俺はニーファに唇を奪われ、思考もままならぬままに溺れていき────
アレク は めのまえ が まっくら に なった !
「ピィ…(いや収拾つかないんだけど……?)」
オチはない。
ハッピーエンドである。
「ピィ!(何がよ!)」
「で?何か言うことは?」
「可愛い顔で酔うのがわるい!」
「開き直るな」
「はい……」
しかし終わるとは言ってない。
何かを察知したメリアがこの部屋まで走ってきて、酔ってなゆなゆし始めた所に冷水をドパッと頭からかけて酔いを強制的に覚まさせた。
頼れるメイド、再び料理教室へと駆けて行った……忙しすぎる、哀れ。
ということで!(どういうことだよ)
前身ずぶ濡れ、シャツは肌にひっつき互いに薄らと肉体を晒し続けながら、俺はニーファに問う。
「あのな?俺はお前に剣を渡したらやる事が沢山あるの。それにお酒は夜って決めただろう?」
「そうじゃったか?」
「そうなのー!忘れないでー!」
昨日!昨日も同じ流れを歩みましたよ僕達!?
「がっくしゅう!がっくしゅう!」
「なんじゃ……学習能力がないとでも?」
「うん!」
「今心に深い傷がついた」
「じゃあ増やすね」
「やめろ!!」
満面の笑みで蔑んだらニーファが負けた。
「ピィ……(夫婦漫才は良いから、早くしなさいよ……)」
「ぬ?居たのか?焼き鳥」
「ピィ!(焼き殺すわよ!……今出来ないけど!)」
「知ってるか?こいつさっきケツから炎出してたんだぜ?」
「ピィィィ!!(アンタのせいでしょうがぁ!!)」
「ふははははは!!傑作じゃな!!ふははははは!!」
いつも通り新人いびりを楽しんでから、ニーファに造った大剣を手渡す。
うわぁ、すっごい軽い。
「ほう……これが話のやつか」
「名前は《龍神命脈剣》っていう頑張れば神を両断できるかもしれない剣だ。手書きの説明書も付けとくから読んどいて」
「ピィ!?(あれ、いつ書いてたの!?)」
手渡した龍神命脈剣を握ったニーファは、その場で軽く素振りをする。
豪っ!と吹き荒れる小規模な嵐が発生し、鍛冶部屋を意図も容易くぶち壊した。
「うむ。良い腕じゃ!」
「おいてめぇ」
溶鉱炉も金床も作業机も何もかも物理法則さよなら宜しくで根元からはがされて壁に叩きつけられ、手の込んだ鍛冶屋も手を挙げて喜ぶ部屋が壊滅。
流石にこれは俺もにっこり。
「場所を考えて使えやぁーー!!」
「のわぁーー!?」
今日も夫婦は平和です。
たまによく拳と蹴りが飛んできて笑って諌めてなかよく笑い合う程度には寛容な二人です。
たまになのかよくなのかどっちかにしてほしい。
「あ、流れ弾……いや因果収束の鉄鎚が」
「スプラッシュ……」
「ピィィィ!?(痛、いたぁーー!?)」
小鳥カグヤ、ここにて再生の権能を披露するのであった…………
理由、金鎚がクリティカルヒット、綺麗に頭だけが吹き飛んだ。
なんかごめん。




