魔族の団欒
魔都エーテルハイト。
内戦スレスレの戦争を乗り越え、復興を進めている魔王国アヴァロンの首都。
その中央に威容を晒す魔王城にて。
俺は手始めに、各四天王達へと日輪のお土産を渡していく。
《力》のアンデュラー。
「ほう……この味わいは……ふむ……」
我らが総料理長は濃口醤油や味噌を舐めたり掬って味見をし始めた。
既に試作に取り掛かっており、今日の夕飯が楽しみであ……俺も食べていいよね?
《楔》のノーストール。
「早く情報を纏め上げろ!……ん?あぁ、アレク様。これは……ありがとうございます」
何やら騒がしく動いていた彼にも送る。
全滅やら血やら不明やら不吉な言葉が、その場で働いてた部下の口から何度も連呼され羅列していた。
関わりたくないな……フラグはへし折ろう。
《棺》ヘイディーズ・エンド。
「日輪人形………まんま日本人形ですな」
「さてさてさーて……むむ!?おいシューイチ!これは何の触媒だ!?」
「煩いぞ国家機密」
骸骨の賢者にして転生者としての先輩にも。
あと見たことはないけど魔力は知ってる紫髪の若い魔族が人形を見てはしゃいでるんだけど……
ゾンビ化してるけど楽しそうだな、この老神徒。
《炎》のミカエラ。
「あ、ありがとうございます、ですわ……」
どうやら四天王の座に就いて、ユメの側近となってから苦労が絶えないらしい。
書類にまみれていた。
あと彼女の炎の魔法の才を見抜いてカグヤが話しかけようとしてたのを全力で止める。
それは後だ。
元《豪》のグロリアス。
「…………素晴らしい………ふふっ」
気持ち悪く笑う変態紳士エルフ。
ユメの専属秘書であり、手は出さないと思ってはいるが怖いので幼児用の玩具を与えたら妄想をし始めた。
なんでもユメの子をあやす姿だとか………当分死にそうにないぞこいつ。
《秤》……の娘、ヒルデガルド。
「ありがとうございますアレク様!大切にします!!」
ブロッケンの愛娘である彼女にもお土産を手渡す。最近は転移魔法を頻繁に使って発動距離を広げているらしい。
この子は俺と違って一度も訪れた事のない場所にも転移出来る事は実証済みで、ネザゲルートの天才児の名は伊達ではないと知った。
で、ミカエラとグロリアスとヒルデは同じ部屋に居たので……やはりこの部屋の中心人物にも手渡さなければ行けない。
《黒薔薇の魔王姫》ユーメリア。
「ただまー。はい献上品」
「おかえりなさい……普通にお土産って言って欲しいです!」
「はい、お土産」
あと数日後に魔王になる事が決まったユメ。
今はユメの執務室だが、今後は魔王専用の執務室へと移動することになるだろう。
戴冠しないと移動しちゃいけないらしいぞ。
「じゃあ父さん達にも渡してくる」
「はい!……今日は家にいるんですか?」
「うん」
「やっ……ごほん。それは嬉しいです♪」
取り繕ってももう遅いけどな。
満面の笑みでガッツポーズと共に「やっ」まで言われたらねぇ……
そろそろ兄離れ考えない?
で、今は魔王城の離れにある王族住まい。
「ただまー、お土産と報告〜」
「おかえりアレク、ニーファ殿」
「あら〜、おかえりなさい〜……で、どのくらい進展したのかしら!?」
「ほほぉ……これはいい着物じゃ。でかしたぞ孫よ」
「美味しいわね、この煎餅」
父さんは真面目に、母さんは口を塞がせ、爺ちゃんと婆ちゃんは既に土産を物色している。
「ムジカもはいこれ」
「……ありがとうございます」
待機していたメイド長にも菓子折を渡す。
「でで、アレクちゃん、ニーファちゃん?教えて〜?何処まで進っ、ぐぺっ!」
「全く、アンタって娘は変わらないねぇ……」
婆ちゃんの手で首を絞められ、昏倒する母さんを横目に、告げる。
「古神とあった。神獣を倒した。将軍と話した。性行為をした。以上」
「「「待て待て待て待て」」」
簡潔に事実を伝えたら、凄い詰め寄られた。
母さんは性行為という言葉に反応して復活して鼻息荒くニーファを抱き寄せた。
逆らうと面倒だと知っているニーファは無抵抗だ……恐ろしき母の性癖。
「まず古神と言うのは……?」
「日輪の国に住み着いてた時空神タマモミヅキ。
んで、これがその子供のタマノちゃん」
「…宜しくお願いします」
「「「「えぇ!?」」」」
父と祖父母は驚愕し、母は可愛い者が増えた事への喜びで驚きの声を上げる。
なんでこんなにも差があるんだろう。
「じゃあ………神獣というのは?」
「焔院凰、神鳥カグヤ………この小鳥は封印して無力なペットにしたカグヤだ」
「ピィ!(ペット言わないでちょうだい!)」
「「「……えぇ」」」「わーい!」
神竜の次は神鳥を家に連れてくる息子。
大丈夫。こいつはペット枠だ。
あと母さん、何の喜びの舞なのそれ。
「将軍はニーファとカグヤが殺りあった後始末について話をつけただけ」
「「「ほっ……」」」
なんか心労を増やしてばかりでごめんね。
「で、夜の話について詳しく知りたいわ、私」
「ソダネー」
「ソジャノー」
「アレクちゃん!?ニーファちゃん!?………あなた、大変。息子達が冷たいわ〜……」
「当然の仕打ちだと思うんだが……?」
母さん直伝のテクニックはためになるが、もう少し恥じらいというのを持って頂きたい。
切に。
「仕事終わりました!!」
ここに、ユメ帰還。
仕事から解放されて俺たちの元へやってきた。
「お疲れさま」
「はい!……で、この可愛い子は誰ですか?」
「神のタマノちゃん」
「……もう驚きませ、ませんよ!?」
めっちゃ驚いてるじゃん。
ユメはタマノちゃんを恐る恐る抱いて、頬をぷにぷに触ったり、髪の毛を撫でたりと接触する。
……二人とも頬が緩んでて良きかな。
「……じゃあ、もう夫婦に!?」
「うん」
「そじゃの」
ユメや母さんにしつこく聞かれ、渋々答えながらも楽しく家族団欒の時は流れる。
魔都エーテルハイトの復興は、魔法もある世界であるからか早く進み、来週辺りには終了予定。
そして、戴冠式も来週だとか。
あー、ユメが魔王か。
業務の引き継ぎとかも全部終わってるみたいだし、本格的にユメが職務に追われると……
「まぁ、このご時世だ。一人の英雄として最前線を走ることを強いられる事も覚悟しておけ」
「はい!魔王として頑張ります!」
……じゃあ、ユメの安全の為にも四堕神を葬らなきゃ(使命感)
「あら〜……ユメちゃん、危ない時は逃げてね〜?」
「魔王としてそれはちょっと…」
「逃げるのも戦略のうちじゃよ」
「お爺様……」
「まぁ、仲間を頼りな。必ず勝ち星は見える」
「はい、お婆様!」
皆がユメへ激励を送っているのを横目に、俺はどんな言葉をかけようか迷っていた。
んー……あ、そうだ。無難に行こう。
「ユメ、困った時は天に向かって『助けてお兄様〜!』って可愛らしく叫べばすぐ飛んでくから」
「はい!お兄様!」
……そういえば、この子の婚約の話とか聞かないな。
大丈夫なんだろうか?
俺が全くもって別の疑問を浮かべていると、ユメと父さんが密談を始める。
「あ、お父様、例の件についてですが……」
「ん?……あぁ、そうだな……」
あの二人とも? 何故ぼくの方を見ながら……?
「お兄様、帰ってきてすぐで申し訳ないですが…」
「嫌だ!!」
「我儘言わないでください!お願いですから!」
「働きたくなーい!!」
これはあれだ。
魔界執行官として働けと言ってるのだ。
「アレク」
「な、なんだニーファ……」
救いの手かと思ったら、全然違うなこれは……悪魔の手先になってやがる……!!
「我、アレクが働く姿が見たいぞ!」
「全く。俺がそんな手に乗るとでも?」
全くもって腹立たしい。
舐められては困る。
「で、何するの?」
「「「「いやいやいやいや」」」」
急な手のひら返しに全員が反応する。
「チョロいの」
「チョロいですね」
「ピィ!(チョロいわね!)」
うるさい。
そして、この指令が新たな波乱を呼ぶことを、俺達はまだ知らない。




