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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第七章 新婚旅行とお兄様

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さらば日輪、ただいま世界


「ピィ(あら、ヤったのね)」

「お疲れ様です」

「「なんで仲良くなってんの?」」


 風呂場から上がった時には既に昼前。


 俺とニーファの前に広がっているリビングの光景には、紅茶を飲むメリアと小鳥サイズのカップを手に紅茶を器用に飲むカグヤが。

 いやなんで仲良くなってんの?


「ピィ(あら、これ美味しい)」

「魔王国のラポーム平原産のアポーを使ったアップルパイです。職人が作った高いやつですよ」

「ピィ(へぇ……人間もよくやるわね)」

「魔族ですけどね」


 ………俺も食べる。


 疑問は浮かぶが、取り敢えず目先の食を今すぐ口の中に放り込みたい。

 メリアがしっかり気を利かせて用意してくれていたアップルパイが、席に着いた俺とニーファの前に出される。

 早速噛み付いてみれば、サクサクふわふわの生地の中に秘められた熱々のアポーが口の中に広がる。

 ほんの少しの物足りなさを抱いた俺は、異空間からアイスクリームと生クリームを取り出して甘々度を倍増させる。


 そして、熱々のパイに冷々の奴らを同時に口に入れてしまえば……もう、そこは至福の楽園である。

 口内に広がる楽園が全身を支配する。


「ん〜〜♪」

「アレク、我にも!」

「ピィ!(妾も!)」

「主様……太くなったら処しますからね」

「物騒だなおい」


 メリアもだいぶ言うようになってきてご主人様嬉しいです…………あむあむ。

 三人と一匹で仲良く食べていると、匂いを嗅ぎつけたのか子供達まで群れてきて……


「あー!たべるー!」

「あるじー!あーん!」

「ください」

「〜〜〜♪(あーん!)」

「…食べたい」


 俺の皿に群がる五人。

 多分、生クリームとアイスクリームが一番沢山乗ってるからだと思う。


 結局、俺のアップルパイは食い尽くされ、生クリームの一滴も残さず舐め取られた。

 がめついな幼児って。


「ピィー?(で、どうだったのかしら?)」

「な、なにが?」

「これからは奥様と呼びますね」

「んぐ……いやまぁ構わんが……」


 しつこく興味深げに質問攻めしてくるカグヤを鳥籠に押し込み黙らせたり、メリアがニーファを奥様と呼称するようになったりと、微妙な変化を築きながら時は流れていく。


 それは旅行の終わり。

 和風国家とのおさらばの時間である。


「帰る前に土産とか買いに行こう」

「甘味か?」

「衣食だよ」


 というわけで。

 まずは宿屋のお会計を済ます。


「はい、ありがとうございました」

「お世話になりました」


 女将さんに代金を渡し、宿屋から去る。そのままの足で屋店や店舗を冷やかしに行き、気に入った物は取り敢えず冷やかさず買う。

 すでに買う物は決めてたりするが、こういうのも悪くないと思う。


「これ、ユメに会うかな?」

「それを我に聞かんでほしい……」

「そりゃそうか」


 美的感覚は獣寄りのニーファさん(本人談真実はさて置き)は頼りないので写真と照らし合わせて着物や髪飾りを選別する。

 他にも、父さんと母さん、アンデュラーやグロリアス、ヘイドさん、新四天王であるミカエラとノーストールさんにも買っていく。


 あと、久方ぶりに迷宮から外に出た爺ちゃん婆ちゃんにも土産を買ってあげる。

 あの二人は普段から着物を着てたけど、婆ちゃんの手作りらしいから、本場のをあげるか。


 魔族陣営以外にも、正樹と勇者パーティやリョーマと妻達、ミラノ夫婦、クロエラとマール……クロエラは興味無さそうだから買わなくてもいい?

 あ、フェメロナとか転生者諸君にもお土産は買っておくか……


 結構金使うな。


「次は食べ物だ!」

「よし、我に任せよ!」

「だからって甘いのばっか買うなよ!?」


 ニーファが甘菓子ばっかり買うので、俺は煎餅や鰹節、醤油など渋っぽい物を買っていく。


 プニエル達はタマノちゃんを先頭に、メリア引率の元店を走り回って物色していた。

 日本人形……ではなく日輪人形と呼ばれる物とかは怖かったらしく近づかなかったようだ。

 人形遣いのデミエルも涙目である。


「凄い精密な作品だなこれ」

「お主……こんなのに興味あるのか」

「ふっ……いい事思いついた」

「顔が悪い」


 俺は日輪人形を片手に、何体か購入して、ついでに別の店で塗料も購入して悪戯の道具を増やす。

 お化け屋敷とか開いてみたい……俺に恐怖耐性は無いので自他共に死を覚悟するかもしれんが。


 そして時は回り、買い出しを終えた俺達は出国手続きをとる、その前に────……


『別れの挨拶とは、律儀だな』

「そりゃ世話になったし」


 稲荷小金神社に足を運び、時空神タマモミヅキに挨拶しに行く。

 白金の狐の姿を持つその神は、溢れ出るその神気を少し抑え込んで会話に応じる。

 古神故に、内包し放出する神気の量は凄まじく、常人が近寄れば卒倒するだろう。


『タマノ、達者でな』

「ん」


 短い別れの挨拶を済ませた後、タマモミヅキは小鳥の姿で鳥籠に囚われたカグヤを見つめ……


『ぶはっ』

「ピィ!?(笑った!?焼くわよ狐!!)」

『いやすまん……随分とめんこい姿になりおって……ふふっ』

「ピィー!(うがー!!)」


 古い付き合いの神達の楽しそうな言い争いを目にしながら、俺達は異空間を出て、サッサと出国手続きをとってからクルーザーを取り出す。

 突如、港に出現した謎の白船に現地民が驚く姿を横目に堂々と乗り込む。


 遠くから視線を感じて、遠視の魔法で徳堂城を見れば、顰めっ面の将軍、徳堂創士が此方を城内から眺めていた。

 取り敢えず、見えないだろなと思いながら手を振ってみたら振り返されたので心底驚いた。 


「よーし、帰るぞー!」

「「「おー!」」」


 目指すは世界都市ユグドラシル!


 日輪の国を背後に、俺達は大海を渡っていく……

 俺達は感傷に一切浸らずに、全てを乗せたクルーザーは新婚旅行の終わりを告げる海へと踊る。


「楽しかったか?」

「うむ。本当に、お主と居ると忙しなくて楽しい」

「それは良かった」


 別に俺から騒ぎを引き起こしているわけではないが、ニーファが楽しんでるなら良い。

 好きなだけ周りを巻き込んで楽しくやるさ。

 誰かの迷惑や困惑を考える暇は、今世には無いのだから。


 いや、前言撤回。

 討伐隊とか抹殺命令とか指名手配書が出されないように用心しながら好きにやらせてもらおう。


 慢心は得意だが、用意周到な側面を持つ俺にかかればちょちょいのちょいよ。


「ピィ?(何が?)」

「おいなんだその発言は」

「7:3じゃの」

「どっちが!?」

「まんしんってなーに?」

「えっと……【慢心】・自慢していい気になること。・おごり高ぶること。・その心。…らしい」

「ウェパルは辞書をひけて偉いですね」

「えらいー?」

「〜〜〜!(えらいー!)」

「難しい」


 六法全書なみの分厚さを持つお手製辞書をしっかり読み込むウェパルに感心して。

 タマノちゃんも負けじと辞書を開いて、頭を回しているのを眺めながら。


 同じ日数をかけて大陸間の海を渡る。


 その間。


「あれれ。居ないぞ?」

「ピィ?(何が?)」

「ふむ……引き上げられたか?」

「ピィ?(だから何が?)」

「なんか機械の神が居たんだ」

「ピィ……(え、それって……)」


 原動力となるエネルギーを奪って海の底に墜落させた神性を持つ黄色い機械。

 燃料を無から生み出すタイプの機械人形で、人の部位に変形できそうなパーツを持つ戦闘機。


「知ってんの?」

「ピィ(四堕神の1柱で、機甲神マナ・ジスタ)」

「あぁ……やっぱりか」


 予想通り。


 日輪を出たので鳥籠から解放して、自由に俺達の周りを飛び回ったり、肩に乗って寛いだりするカグヤから情報を得る。

 ……めっちゃ自由にさせてるけど、逃げる気配がなく何気に馴染んでいる神獣の順応性が恐ろしい。


 さて、機甲神マナ・ジスタか。

 名前までは知らなかったが、その存在が世界都市という人類の中枢を担う場所を狙っていた。

 四堕神と確定した今、次に相対する敵だと確定させる。


 にしても、小出しか。

 纏めてかかって来ないのか?


「タマノ知ってる」

「ん?じゃあ教えて?」

「はい」


 何気に初めて知ったけど、君の一人称って自分呼びなのね。


「三千年前の大戦で同時に動き出したら互いの自陣営にも被害が凄くて天父神以外は焦った」

「マジかよww……….ん?タマノちゃん体験談?」

「って、母様(かかさま)が教えてくれた」

「良かった…」


 危うくニーファよりも歳上説が……


「まぁ、我は戦争には加担せんかったが、その様子を見てはいたからの」

「何歳ぐらい?」

「ド直球に聞くの……確か、生まれて五百年…いや、もっとか?」

「考えを改めさせてもらうわ」


 3000歳だと思ってたけど、もっと上だな……まぁ、この世界で(・・・・・)最初に造られた龍がその程度の年齢なわけないか。

 こいつの感覚だと500歳も幼少期っぽ……今も見た目や思考は年寄りより若さよりだけど。


「てか、天父神は焦らんの?」

「魔統神は魔族を率いて、禁帝神は存在しない者達を、機甲神は兄弟達を引き連れてた。でも天父神の配下は少ないからそれ程被害はなかった」

「ふーん」

「って母様が言ってた」

「うんうん」


 さり気なく盛られる情報。


「ま、タマノちゃんが博識だってわかったし、敵さんの出方もだいぶ絞れこめ……たし、何とかなるだろ」

「何故言い淀んだのですか…?」

「そりゃお前………うん」

「お主、物事を考えてから言葉を話せ?」

「てへ☆」

「ふん!」

「あ」

「ピィ!?(痛い!なにごと!?)」

「あ」


 そのまま大海に墜落しかける小鳥の足を何とか掴んで生還させるなど、楽しい幕間を堪能しながら。


 行きと同じ時間をかけて、やっと世界都市の影が見える。


 相変わらず港には多くの漁船と観光船が屯しているが、俺達はお構い無しにその間を縫って進んで停泊して上陸してしまう。


 帰ってきました世界都市!

 まずはここにいる知り合い達に土産を渡してから魔王国で復興に従事しているだろう家族の元へと向かうとしますか。


 ということで、ダイジェスト。

 ニーファ達は行かずに、俺だけ土産渡しに出向くことになった。ぼっち悲し。


「ただいま。土産渡しに来た」

「おかえりなさい。アレクさん」


 勇者マサキへ。


「はいこれ」

「ありがとu……はい?」

「なんだ見たこと無いのか?」

「いや……あります、けど」


 床に置かれた五つのクローゼット。

 そして、中を開けば大量の、色彩豊かな着物が。


「まさか……」

「何が似合うかは俺には判断出来ないので、取り敢えず全色全装飾の選り取りみどりを買ってきた!

 未来の嫁の衣装選びは勇者の試練だ!あ、お前も着せ替え人形になれるように男性物も沢山買ってきておいたぞ」

「ありがとうございます!そして自重してくださいよ本当に!!」


 血涙を流すのを押し留め、取り繕った笑顔……から普段の笑顔を取り戻して仲間達と自分に合う着物を皆で見繕い始める勇者。

 仲が良くて何より。

 着物だけでなく、懐かしさを覚える菓子なども渡しておいた。

 まぁ、彼らにはよくお世話になってるので一番金をかけてやった………請求はしない。


 次。


「ほい」

「わぁ……綺麗だね」

「ふわぁ……」


 ミラノとステラの未来の王と王妃へ土産を。


「着物も良いけど、甘い物も」

「へぇ……これがシュンの故郷のものか」

「美しいです……」


 髪飾りを手に取り、器用に髪の毛に刺すステラさんが、ミラノに可愛いですかとアピールし、それを肯定する甘々夫婦を横目に。


「助かりましたシュンさん」

「いえいえ。楽しんでいただけたようで何より」

「テオラさんにも、これを」

「あ、ありがとうございます!」


 近衛騎士の二人にも土産を手渡して、もう一度夫婦を見れば、甘々空間がいつの間にかガラリと変わっていて。

 二人で黙々と着物を吟味していた。


 ………どうぞ、異国の文化を楽しんでくれ。


 納豆はシュンさんに渡した。


 さて次。


「おう、帰ってきてたのか」

「さっきね」


 鉄剣リョーマとその妻達。


「濃口醤油とかあるけど……いる?」

「もらう!」

「じゃあ銀貨8枚ね」

「あぁ。…………ん?」


 嘘だよ冗談。

 だからその手に持つ鉄剣をしまってくれ。


「いい大人がか弱い子を脅すなよ」

「は?……憎たらしい餓鬼しか目に映らんが」

「じゃあ濃口醤油と鰻重のタレはいらないね」

「ありがとうございますアレク様ぁ〜〜!!」

「恥も外聞もないのか……平然と土下座するなよ人類最強」


 物欲に支配されたSランク冒険者に、こいつは衣より食だろという自己判断の元、色々と買った。

 正樹にも同じような感じにだが、濃口醤油、赤味噌、白味噌、鰻重のタレなどの日本の味を引き立たせるような調味料を見つけておいた。


 あ、人類最強はほぼコイツの事を指す。

 ついでに語ると、神獣最強がニーファで、魔族最強は俺(自称)なのだ!


「うおー!大和の愛する醤油!!」

「あ、皆さんにはこれを」

「ありがとうございます」

「……ありがとう」

「あ、ありがとうございますアレク様ぁ…」


 リョーマの嫁のクレアさん、ルフさん、シェーンさんには着物を贈っておいた。

 あとさっき出した調味料や薬味を使った夫が喜ぶ手料理の調理法が書かれた紙をあげる。


「あ、そだ……ごにょごにょ」

「「「っ!?」」」

「ん?……おい。俺の嫁に何を耳打ちしている」

「ははっ……ハハッ♪」

「その甲高い声はやめろ!?」

「すぅ………夢を見たけりゃ、金払ぇ!」

「やめろーー!!!?」


 笑いで誤魔化し、そそくさと退散する。


 そして、俺が居なくなった後。

 はだけた着物姿で誘ってくる女性陣に、寝込みを襲われた冒険者が居たとか居ないとか……


 はい、次。


「わぁ〜……で?」

「殺す!」

「ごめんごめんごめんごめん!?」

「…馬鹿」


 クロエラ、マールにも土産を渡しに来たが……


 この野郎には必要ないようだ。


「はい、マール」

「…ん。ありがとう」


 他の面々と同じように手土産を渡すと、頭にたんこぶを乗せたクロエラがゴマすりしたがら出て来た。


「あの〜、アレクくん?」

「………」

「実は一つ謝りたい事がありまして……」


 何故か敬語で、言いずらい事を言い出そうとするクロエラ。

 その顔は何処か青ざめているように見える。

 そして、彼を後押しするかのように、背を押すマールがいて。

 

 ただならぬ雰囲気を感じる。


「生言ってごめんなさいボクにも頭の回転良くするために甘いのください!」

「清々しいな………」


 さっきの重苦しさは何なんだ一体。


「ほれ」

「わーい!」


 子供のように喜ぶクロエラを横目に、結局さっきのは何だったのか疑問を挟みながら帰る。


 さて、次。


「ほれ、餌だ」

「わーい……って、酷くないか?」

「いえ、あってますよ」

「おい!」


 フェメロナと冬馬さんにも土産を。相変わらず愉快な二人を横目に手渡した。


 次次。


「え、私にも!?」

「あざっす……うわぁ……」


 茜さんと蓮夜にもあげた。

 ちょうど魔都の復興手伝いを終えて帰ってきたらしい。


 次次次。


「まじー?わたしにもお土産くれるの!?」

「あげるよ。はい」

「ありがとー!」


 堤防で釣りを嗜むギャル、夏鈴さんにも渡す。

 ふと堤防の下を見れば、色とりどりの下半身の人魚が泳いでいた。


 そんなこんなで世界都市にいる面々には土産を渡し終わり、俺は異空間に戻った。

 後は魔王国にいる家族や家臣達に渡しに行くだけだが、一先ず休憩とする。


「あー、疲れた」

「うむ、お疲れ」

「本当はお前も来てくれると助かったんだが……」

「すまんの……ほれ」

「ん?」


 ニーファが手渡してきたのは、手作りの菓子折りが入っている袋。

 和菓子洋菓子、取り敢えず歪な形の物が多いが、美味しそうなのは確かである。


「ありがとう……これ作ってたん?」

「うむ」

「そう」


 目の前で袋を開けて、クッキーを一口。

 うん……美味しい。


「美味いよ」

「ん。それは良かった」


 あともう少し休憩していくか……











 とある研究室にて。


「…言わなくて良かったの?」

「いやー、言えないよ」


 クロエラとマールは椅子に座って語らっていた。


「言えないよね……《銀嶺(・・)》が盗まれたなんて………はぁ」


 再び波乱が起きる前兆であった。



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