なゆなゆ
なゆなゆが何かわからない人は、
204話「Project:AVALON」をご覧下さい。
日輪の国アマツキミでの騒ぎが終息し。
夜を迎える。
場所は高級旅館と言っても間違えのない宿屋の一室……ではなく。
いつもの異空間である。
温泉にも入りら宿屋の豪華な飯も食べ終えた。
湯気立ち昇る温泉では酒池肉林の状態で、慎ましい身体のタマノちゃんと、小鳥のまま桶の中に張られた温泉に浸かるカグヤも増やして入浴した。
人間の姿のカグヤが入ったら、どれほど美しい空間が出来たかは容易く想像できる。
そして、ところ変わって今現在。
俺は得意の異空間作成能力を発揮していた。
奥に広がる壁、増築される部屋、追加される機能。
俺の手によって目に見て分かるほどに組み変わる異空間を見ながら計画する。
スライム四姉妹とタマノちゃんの為に子ども部屋を拡張し、ベッドも更に大きいのに変える。
鍛治部屋の溶鉱炉もほんの少し細工を加え、彼女が気軽に参加できるように凹みを作る。
「ピィ?(この凹みは何なのかしら?)」
「知らぬ」
俺の作業に付き添うニーファと、手に持つ鳥籠の中にいるカグヤが疑問を浮かべる。
あ、メリアと子供達は宿の部屋で留守番だ。
中に誰も居なかったらおかしいからね。
ついでに子供達はもう寝てた。
「え?………ふふ」
「ピィ!?(今、妾を見て笑った!絶対よからぬこと考えてる!?)」
「まぁまぁ。悪い事はしないよ」
「ピィ……(じー……)」
全く。此奴の利用価値をしっかり考えた上での細工なんだけどなぁ……
神鳥の炎で溶かし、俺が金槌で叩く。
最高の布陣じゃないですか!
「ふんふふ〜ん……あ、カグヤ、一つだけ伝えとくね」
「ピィ?(なにかしら?)」
首を傾げる小鳥が入った鳥籠を、ニーファから受け取って……扉を開ける。
「ピィ!?(え!?)」
「む?良いのか?」
鳥籠の鉄の扉が開き、恐る恐る顔を覗かせるカグヤに手を伸ばす。
やはり訝しげながらだったが、慎重に俺の手に平に乗ってくれる。
俺はカグヤと目線を合わせ、彼女はちょこんと大人しく手に座る。
「……今なら逃げれるぞ?」
「……ピィ(何を今更……力を封じられ、居場所がない妾が取れる選択は限られてるのよ)」
「そう」
まぁ、調子に乗ってはしゃぐよりはマシだな。
神獣だから矜恃とかそういうので怒り散らすとも思うのだが、現実を見て、立場を弁え対応出来る柔軟さがカグヤにも、ニーファにもある。
二人とも性格は過激で戦闘思考だけど、話せばわかる子だからな。
「日輪の国に居る時までは、基本的に鳥籠に閉じ込めとくから。厄介払いの為にな。
でも、世界都市とか魔王国とか、この異空間では自由に鳥籠から出入りしていいからね」
「ピィ…(そう……あ、外なら………いや無理ね)」
「うん。諦めて俺らに飼われてろ」
「ピィ(むむむ……)」
基本的にカグヤの封印を解くつもりは無いから、逃げても直ぐに死ぬんだよね。
一応、不死の特性は封印せずに残してあるから何回でも死ねるけど……
あ、こいつと天父神をつなぐパス的な奴は切断した上に、俺が上書きして主従関係を作ってある。
取り敢えず相手が神獣なので縛り的なのは小鳥の状態で過ごすことだけだが。
命令で自害させたり奉仕させたりは出来ない。
報復が怖いし。
ぶっちゃけカグヤを野放しにしても問題ない。
でも必要だから手放さない。
「取り敢えず、異空間内は自由に飛び回っていい。もの盗んだりするなよ?許可取れよ?」
「ピィ!(考えておくわ!)」
威勢だけは良いな……外見が可愛らしいから全ての悪行が半減するけど。
そのままカグヤは、俺の手から飛び立ちニーファの頭を啄いた後、鍛治部屋から飛んで行った。
……あいつ、今日どこで寝るんだろう?
「あいた……あやつ、許さん」
「まぁまぁ」
たんこぶが出来てるわけでも無いんだから。
取り敢えず、カグヤの鳥籠は収納して部屋を出て……汗を拭う為にタオルを取り出す。
すると、タオルが奪われ、手に取ったニーファが拭いてくれ……ない。
なんか抱きつかれ、俺の腕が包まれる。
腕と足と尻尾が絡みつき汗ばんだ身体に温かみが増す。
「ん……」
「全く。寝る前にはしゃぐでない」
「抱きつく必要性は?」
ニーファは何も言わず、無言で俺の腕を離さず。
なので仕方なく、俺は目的地へと足を進める。
ニーファの頬は仄かに紅い。
さっきから太腿を擦り合わせながら、歩いてて何してんのかなって思ってたけど……
寝室に入り、魔法で鍵を閉める。
基本的にニーファと一緒に寝る為の部屋で、寝巻きの俺達はベッドに飛び込む。
そのまま隣人の状態を無視して睡魔に身を任せようとしたが……
カチッ
部屋の電灯が消されるのではなく……薄い灯火へと押し変えられる。
完全密室、暗めの部屋で、男女二人。
もうお分かりだろう。
「……アレク」
「どっした?……おっぷ」
抱きつかれ、胸板にニーファの顔が擦られる。
そして、ガバッと顔を上げて俺と視線を絡ませる。
「我、何時まで我慢すれば良いのじゃ?」
「……そのまま生殺しってのも悪くないんじゃないかな?」
「じゃあ四肢を拘束して……」
「それ前もやった。なんなら簡単に抜け出せた」
「ぐぬぬ……」
欲求不満。
何千年と性欲を抱かなかった神竜が、俺に対して甘えかかってくる。
食欲と睡眠欲は満ち足りてるものの、最後の3大欲求だけは物足りなさを抱いていたらしい。
まだ中にはしてないもんね。
「新婚旅行、じゃろ?」
「………そだな」
覚悟を決める?
そこまで崇高な意志をって性に挑むつもりなど俺は持ち合わせていない。
あるのは、ただの純粋な欲だけ……年齢に見合うものだけどね。
「俺が成人するまでって話だったけどなぁ〜」
「ふん……神化してるお主には関係ない話じゃろ。魔族としての成長はもう無いんじゃからの」
「ぐっ」
神化により、肉体的成長は乏しくなった。
何年、何十年経っても俺の身体は幼さを残したまま存在し続ける。
でも、一つだけ言ってない事あるんだよね。
「実はさ?神化の影響で……生殖器官は未発達なのだよニーファ」
「…ぬ?」
ぬ。
なゆなゆしたいのはよくわかるが、俺の身体は十二歳前後で止まっているのだ。
内臓器官の発達も、発育も全てが……神化がほぼ進み終わったが故に止まっている。
「嘘、じゃろ……」
絶望して、へなへなになるニーファ。
それを見て俺は……
笑顔で。
「ということで、生殖器官を増強させる魔法薬で化と同時に性器官も発達させて来たよ」
「我の悲しみを返せぇ!!」
「ふべしっ!?」
魔法薬《溺れる愛》。
神化して肉体が成長しないから仕方なく作り上げた苦渋の策だ。
何ヶ月も前に服用したから、既に身体は出来上がっている。1回服用するだけでおkだし。
あ、別にニーファの為に作ったわけじゃない。
ベッドの上に叩きつけられた俺は、ニーファに組み敷かれていたが、上半身だけ上げる。
ニーファと視線が交差し、互いにその紅い瞳に吸い込まれるような感覚に溺れて。
「じゃあ……ゆくぞ」
「どうぞ。年中発情期の龍姫ちゃん」
「煩いわ」
指が俺の肌を這い、唇をさすられる。
「まぁ……本番以外は何度もしてるけどね」
「そうじゃの……よし」
ニーファは俺を押し倒し……唇が重なる。
濃厚で、執拗で、肉欲的な接吻。
「ん……んぷっ」
「ちゅ……」
肉食系の龍娘は、勝手に物事を進めてくるので俺は寝転んだまま身を任せ。
どちらのものかも分からない甘い嬌声が、室内にトロンと溶け込んでいき……影が一つに重なる。
絡まる手、肌が擦れる感触。至近距離の吐息が混ざり合って互いの力が抜けていく。
────……こうして。
俺の童帝へと至る苦行の道は失われ。
二人の夫婦が、また一歩、階段を登った。
翌朝、遅朝。
はだけた布団と、濡れた身体。ほんの少し乾いた部分もあるが、ぐちゃぐちょに濡れている。
………あー。
隣に眠るのは、全裸の龍人、ニーファである。
何があったかって?
………いつもよりも踏み込んだ夜へと踏み込んだだけです。
なゆなゆ本番しただけだよ。
布団の上に無造作に放置されていた寝巻きを手に取り、袖を肩に通す。
首を回してポキパキ鳴らし、肩も回す。
年甲斐も無くなゆなゆしてしまった……
この寝室、性質が悪いことになゆなゆする為の道具が無駄に揃っている。
振動する丸い器具、吸引する丸底、ゴム、粘性の液入りボトル、言い誤魔化せない数々の器具ら。
そして、装飾という名の遊びの為に用意されたチョーカーや油性ペン、鎖もあるし猿轡も用意されているという謎の寝室である。
「んぅ……? アレク……?」
おっと、起きたみたい。
「はよ。ニーファ」
「ん……?」
目をゴシゴシ擦って、伸びをしてから……俺にしな垂れかかる。
あの……色んな液体が寝巻きに付着するんですけども。
俺の心情などお構いなく、ニーファは俺の胸に顔を埋めて……………寝る。
「おい、寝るな。風呂いくぞ」
「ぬぅ〜……」
引き剥がして風呂場に連れて行こうとするが、イヤイヤと首を振って離してくれない。
…………幼児退行してない?
寝起き悪いのは変わらず……いや、今回ので余計悪くなってるな。
「…よいしょっと」
「んぅ〜……ん♪」
おぶる。
どうも俺の体温を感じないとダメなのか、ニーファは全身を俺に預けて半覚醒状態のまま。
「《解錠》」
寝室の扉の鍵を開けて、空気清浄機の役割を持つ魔導具を起動してから廊下を歩く。
遠くからプニエル達の楽しそうな騒ぎ声が聞こえるが、あまり今の姿を見られたくないので走る。
………あ、転移すればいいんだ!
ということで、転移。
脱衣場に来た俺は、ニーファは適当に転がして床に置き、洗濯機に俺の寝巻きを入れる。
……あ、ニーファの寝巻き寝室に置きっぱだ……まぁいいか。
後で赤面するのはこいつだし。
嫁をお姫様抱っこして、脱衣場の扉を開け……大浴場と言っても過言ではない風呂場へ入る。
そして、設置されている冷水の入った浴槽へ……
「ほらニーファ、風呂。風呂ですよー」
「ん……」
「冷水じゃっぽーん」
「ちべた!?」
ニーファ、完全起床。
冷風呂の中でじたばた藻掻くニーファを堪能した後、しっかり引き上げてお湯をかけてやる。
神竜が身体冷やして風邪ひくなんて思えないけど。
「アレク……アレク!!」
「僕だよー?」
「やる事なす事容赦がないんじゃよ!」
「褒め言葉♡」
「ふん!」
「きゃぁ!?」
変な声出た。
理由は簡単。
シャワーから冷水浴びせられた。
「お前、仕返しか!?」
「ふん!可愛らしい声出しおって!もっとかけたろうか!?」
「お前が可愛らしさを声からだせぇ!!」
身体を洗うのなんて考えず。
ただひたすらに温水と冷水を掛け合う。
時に魔法によるジェットで。時に風呂場全体を水浸しにして。
時に当たっても痛くない氷礫を乱射して。
「うぬ!?」
「ははは!!立てないんですか!?もっと当てていいんですか!?いいですよね!?」
「や、やめい!……ぎょわ!?」
ニーファは腰が砕けているようで回避しきれず、その殆どを顔面や身体に直撃する。
直前に、夫婦としての一歩を踏んだとは思えないじゃれあいを。
いつも通りに楽しく。
拝見、お父さんお母さん。
致しても僕らの関係は変動しませんでした。
変わると言ってた母さんは正座して、膝の上に「私は変態です」と書かれた石版を持ってしっかり反省してください。
新婚旅行。
エンカウントした機械の堕神も、巡り合わせた狐の時空神と、共に過ごすことになったその子も。
襲来して封印されて飼われる神鳥も、将軍との形式的な話し合いも。
どんなイベントも軽々と乗り越えて。
神竜と魔族は、世界を巻き込み続ける。
そして……日輪の国での旅物語(?)は帰宅という名の終わりを告げるのであった。
はい。
登場人物紹介で度々書かれていた夜の死闘が終結を迎えました。
今後とも二人のイチャつきながら、たまに殴り合う楽しそうな日常をお楽しみください。




