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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第七章 新婚旅行とお兄様

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日輪の国の将軍



 ◆アレク=ルノワール


 神鳥カグヤが撃破された事実は、日輪の国の住民全員が狂喜乱舞するという喜びようを見せた。

 将軍がその事実を認めた事で拍車がかかり、神鳥を倒した神竜を崇める奴まで現れる始末。


「お前……何をやらかしたんだ?」

「チュン……(別に。妾の拠点として此処に居座ってただけですわ)」

「それ絶対何かやらかしてるんだ俺知ってる」


 人間社会に基本溶け込まない神獣が問題を起こさないわけが無い。

 経験談だ。矯正済だが。


 驚くことに、天空で大戦闘があったにも関わらず地上の店はほぼ全て営業してるのだ。

 商魂逞しいというか、神鳥が敗れた事を記念してかお祭り騒ぎ。

 もう俺からすれば日輪人すげぇとしか言えない。


 宿屋の女将さんも笑顔で仕事をこなしている。


「凄い賑わいようですね〜」

「えぇ、この地に住み着いて悪さをしていた神獣が討伐されたと言うのですから……みな喜ぶものですよ」

「へぇ〜」


 さり気なく聞いたが、本当に何したんだコイツ。

 やっぱり捨てよっかな。


「チュン!(良いわよ!早く解放なさい!)」

「手足を切って魔法で再生不可能に細工した上に常に苦痛が襲ってくる呪いをかけて石の中に埋めて光の届かない深海に沈めてあげるね♪」

「チュン!?(やっぱりいいです!!お世話になりますぅ!?だからやめてぇ!!)」


 カグヤを脅して言質を取る。

 今、お世話になりますって言ったね?ちゃんとお世話してあげるね………メリアが。


「こんな時まで人任せですか!?」

「適材適所……」

「だいたい私に丸投げですよね!?」

「ごめんって」


 事実だから何も言えないよね、ごめんね。

 有能に生まれ変わったメリアが悪いんだよ……そういう風に育てたのは俺とニーファだけど。


 宿の割り振られた部屋に戻って、手洗いうがいしてから気楽にそれぞれ休む。


 俺はカグヤの入った鳥籠を床に置き、鳥籠の強度を上げる為に魔改造をして。

 ニーファはその隣で、カグヤを籠ごしに指で突いて遊び、噛まれては威嚇しあい。


 メリアは一人と一匹増えたので今後の食のレパートリーを考えながら子供たちをあやし。


 プニエル、デミエル、ウェパル、エノムルは可愛らしい着物でフリフリ可愛らしく腰を振って遊んでいた……いやなにそれ。


 タマノちゃんはそれを見ながら、尻尾を勢いよく振り回して楽しそうに微笑んでいる。

 それがプニエルには不服だったのか、彼女を引っ張って一緒に腰振りして……いやだからなにそれ。


 カグヤはニーファの指を噛んだり、威嚇したりしてじゃれあって………あの2人、嫌いあってるけど実は仲良いんじゃないの?


 なんかニーファも笑顔だし。

 カグヤもその小鳥の姿満更でも無いだろ……


 そんな風に、各々が楽しく夜を待っているさ中、俺はある疑問が思い浮かぶ。


「これ、この国のお偉いさんに話しつけといた方が良いかな?」

「……我は行かんぞ?」


 俺は魔改造済の鳥籠の中にいるカグヤを睨みつけながら聴くと、事の発端である小鳥に勢いよく首を逸らされる。

 そうだよな……こいつが厄介事持ち込まなけりゃ今頃楽しい新婚旅行を………


「お前、後で覚えてろよカグヤぁ……」

「ピィ!?(本気の怒り!?助けて神竜!?)」

「ほーれ、よしよし……」

「…………あれ?」


 なんかニーファの瞳が軽蔑と嫌悪とかそーゆーのじゃないんだけど……どっちかと言うと可愛らしい小動物を愛でる瞳だ。

 カグヤもカグヤで、ニーファに助けを求めている辺り……


「なぁニーファ、カグヤ」

「なんじゃ?」

「ピィ?(なにかしら?)」

「お前らって実は仲良いだろ」

「「…………」」


 一瞬流れる無言の時間。

 その無言は肯定と見倣し────……


「そんなことないぞ!」

「ピィ!(何言ってんのよ!)」

「あー、はいはい」


 そんな否定はもう通用せんがな……あれか。

 好きの反対は無関心。

 何度も牙を交えて戦い続けると、気付けば満更でもない感情を抱くという………


 それに拍車をかけたのが、カグヤのマスコットキャラ化だな……俺のせいか!


「取り敢えず、今夜行くぞ……ニーファ、お前は功労者なんだから強制だ」

「むぅ……」

「仕方ないだろ……あ、カグヤも行くんだからな」

「ピィ…(えー……負けたのに顔合わせるのは嫌ですわ)」


 文句を言うな。

 元凶は天父神だけど実行犯お前だから。


 故に俺達2人と一匹、そしてタマノちゃんも何故か着いてきたので3人と一匹は………

 徳堂城正門に来ていた。


「何者だ!」


 そして生憎と門兵に止められていた。

 まぁ夜分にこんな未成年3人が鳥籠持ってやってきたら警戒するわな。


「魔王国アヴァロンから来た観光客なんですけど、政治的問題で将軍と話をつけたいのですが」

「……へ?」


 あらら。思考が追いついてないぞ。


「身分証とかもあるんですけど……将軍様にお取次ぎお願いできます?」

「は、はい!」


 混乱してる隙に平静を装う暇を与えず、身分証を門兵に渡すと……


「なら、私が将軍様にお伝えしよう」

「っ!?ノブメ様!?」


 門の上から飛び降りてきた女性が、門兵から身分証を受け取ってそう言ってきた。

 黒髪に黒目、腰に指した日本刀と忍び装束がどう見ても忍者にしか見えない女性。


「初めまして、アレク=ルノワール殿と、ニールファリス殿。私はノブメ。この国の忍でございます」


 そう名乗った彼女は、俺達の事を知ってるようでお辞儀をしてきた。

 そして、その視線はニーファが抱えている鳥籠の中身に注がれている。

 ………コイツの正体に気付くか。


「どうも……どっかで会ったことあります?」


 でもさ。

 まずなんで俺の名前と、特にニーファの本名知ってんだよ。


「ふふ。こう見えて以前、ヘルアークの武闘大会に出場していたものでして……暫く其方に滞在していたのです」

「ふーん………あぁ、思い出した!」


 ヘルアーク武闘大会の予選突破者、《麗しの武士》って異名があった人だったか。

 直接対峙したわけでも、会話したわけでもないけど、名前だけは知ってる感じだな。


「んじゃあ、宜しくお願いします」

「はい、必ずや」


 そのまま、ノブメさんは音もなく消えて将軍の元へと移動した。

 忍びってすげー……魔王城のメイド、ムジカもこんな感じの瞬間移動……いや、あれは影移動だったっけ?凄いやつ多いなほんと。


 それから数分後、門の奥からノブメさんが歩いて迎えに来た。


「将軍様の準備が出来ましたので、どうぞお上がりください。我々はお二人を歓迎します」


 礼儀正しくお辞儀をされ、門兵に別れを告げて城内を案内される。

 ニーファの手の中にいるカグヤは、見知った様子で特に辺りを見回さず、静かに立っていて。

 タマノちゃんは俺の手を握りながら興味深く城内を見回していた。


 廊下を渡り、階段を登り、門扉を潜って。


 大広間へと案内される。

 そこには、若々しさと渋さを足して2で割ったような丁髷の男が中央に座り、周囲を侍や陰陽師、国政に携わる者達が待っていた。


 ノブメさんはササッと横に移動して家臣その一として紛れ込む。


「良くぞいらっしゃった。異国の方々。我々は貴殿らを歓迎する。

 俺の名は徳堂創士。この国を治める将軍だ」


 挨拶を終えた将軍………徳堂創士の視線は、キツく締められ、俺達を見ていた。


「ニーファじゃ。神竜である」

「……神竜。貴女には感謝している。此度の功労者として我々は貴女の名を語り継ぐだろう」

「やめろ気色悪い」


 国を救ったんだから仕方ない結末だと思う。まぁ将軍も場に合わせて言ってるだけだろうけど。

 さて、俺も挨拶しなきゃな。


「アレクだ。要件は一つ、この鳥の事だ」


 別に下手に出る必要は無いので、軽く要件を提示する。

 でも、わざわざ時間を空けてくれた……というか待っていたご様子なので、程々に丁寧に。


「言え」

「この鳥はご存知の通り、神鳥《焔院凰》カグヤだ。此奴の処遇、対応は俺に任せてもらう」

「……ふむ。しかし、我々にとってそいつは仇敵。それに加え、貴方がそやつを管理する理由がわからない」


 まぁそう来るな。

 だが、まずは事実を伝えよう。


「お前ら如きで神獣に鬱憤晴らしなんて不可能だ」


 ザワザワ……


 あー煩い。そんなに機嫌悪くすんなよ。

 侍だか陰陽師だか何だか知らんが、総じて俺とニーファ、カグヤよりも弱いのだから。


 しかし、他の有象無象とは異なり、将軍だけは現実を直視し、しっかりと理解していた。

 先程の言葉も、配下の心を代弁したような物か。


「あと俺が管理する理由?

 簡単な話だ…………この鳥、もう俺の玩具なの」

「ピィ?(え?)」

「……神獣を玩具扱いか」

「当たり前だろ」

「……ふん。これは敵わんな」


 なんか向こうから勝手に折れてくれた。


「勿論、我々から其方の方針に口出しするつもりは元から無い。貴殿らと軋轢を産むのは個人的にも国家的にも損しか無いからな」

「しかし将軍!彼奴めを引き渡されずに、あちらに持って行かれては我らの威信に関わります!」

「黙れ」

「っ……」


 将軍自身は元よりその気は無かったようだが、周りの大臣が吠えたので、彼は一喝して黙らせた。

 その一言で、騒然としていた場は水を打ったように静まり返る。


「もとより、神鳥を先に利用しようと考えたのは先代であり。先代から将軍に仕えるお前らも加担していたはずだ……俺が知らぬと思ってただろう?」


 その一言で、自分たちに落ち度があった事を認める将軍と、事実に口を閉じる老獪な大臣共。


「そんな邪心を逆に利用されたのだ。父も貴様らも。この俺も。そんな神鳥ものされた今、初手でしくじっている我々が何をどう行動するというのだ?」

「「「…………」」」


 黙り、反論の一つも言えない大臣達に向かって、呆れの溜息をつく将軍。


 カグヤは、この国に来た時に先代将軍が捕らえて利用しようと考えたらしいが、それを逆に利用してこの国を牛耳ったらしい。

 圧政などは引いてなかったらしいけど、結構暴君みたいな裏ボスとして君臨していたらしい。

 色々と、民への嫌がらせという名のスキンシップも酷かったようだ。


「相変わらず執政者ってのは苦労性だな」

「そうだな。……ん?よく見れば、稲荷の所の神も従えているのか……余計手出し出来ぬぞ。ははっ」


 現実を見据えているというか、色々と後始末に追われていて早く寝たいとか……そういう風に見える。


 タマノちゃんの正体に気付いた将軍の一言で、他の面々……陰陽師以外は驚きに揺れる。

 流石に陰陽師は、陰陽術……和風版魔術を使ってるだけあって気づくのが早かったな。


 俺はタマノちゃんの頭を撫でて、可愛がる。

 無言だが、嬉しそうに頭を預ける姿はどうしても庇護欲が注がれる。


 そんな時に、爆弾を落とすかのように、カグヤが可愛らしく鳴いた。

 内容は物騒だけど。


「ピィ!(ふん!妾が居なくなった所で、アンタら全員死ぬ運命よ!妾に毒酒を呑ませたのが運の尽きよ!)」

「……何も言い返せないが、これだけは言う。

 負けた上に小さくなったお前の罵倒など、小さい頃から聞いてる俺には聞かんぞ」

「ピィ!!(不遜よ創士!!)」


 やっと目の上のたんこぶが消えて清々するのか、家臣も見たことない程の笑顔の将軍。


「じゃあ、会談はここまで。時間を取ってくれて感謝する」

「うむ。こちらも国の危機を救ってくれた事、礼を告げる」


 これにて終了。


 この国で生まれたすべき事は全て片付いた。

 後は普通に新婚旅行を楽しむだけだ。



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