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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第七章 新婚旅行とお兄様

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嫁の嫌いな物は夫が管理すべし


 日輪の国アマツキミ上空で始まった神獣の戦闘。


 焔院凰カグヤと神竜ニールファリスが織り成す国家存亡の危機に陥りかける死闘が始まった。


 その時、男は動いていた。

 この国を治め、導く将軍、徳堂創士だ。


「火消は最悪を考えて準備を進めさせよ!侍は民衆の警護、陰陽師は結界の展開に血肉を注げ!!

 絶対に手出しはするな!お前たちの命だけで済むものでは無いぞ!!良いな!?」

「「「御意!!」」」


 各役職の長たちが将軍の命を受けて散り散りに天守閣から走り去る。

 窓から見えるは深紅の空。

 紅く燃え、夏かと感じ間違えてしまう熱量が日輪の国を襲っている。


「………御庭番衆」

「ここに」


 将軍の呼び声に、黒い衣に身を纏った影の者達が闇より現れ平伏する。

 忍装束の彼等は、この国の暗部であり密命を受け任務をこなす熟練の影たちだ。


「事が済み次第、神獣を始末すべきか悩んでいる。お前たちはどう結論する?」


 無慈悲な将軍の自殺行為にも等しい考え。

 それを聞いた御庭番衆たちは、おやめ下さいと口に出してから……一人が前に出る。


 それは、女であり、かつては武士だったが将軍に見初められて仕える事を決めた一人の猛者。


「進言します、創士様」

「許す。……確かお前は、ヘルアークの祭に参加していたのだったな。ノブメ」

「はっ」


 濡れ烏のような黒髪を纏めた忍であり、かつては流浪する武士として名の高かった美女ノブメ。

 麗しき武士の名を持ち、忍びとしての技術も有していた彼女は、将軍に進言する。


「神竜の方はやめておくべきだと私は思います。

 ここは誠意を見せ、敵対するのは愚策。手を出せば世界同盟との軋轢は必然かと」

「………焔院凰はどうだ?」

「……勝敗が分からぬ以上、なんとも」


 神獣同士の争いが自国内で起きるなど前代未聞。

 始末するなら接点がある上で既に日輪の国に被害を及ぼした実績のあるカグヤなのだが、それが出来る戦力が足りない。

 まぁ、例え弱っていたとしても、不死である神獣を殺せる手段など将軍達には一切ないが。


 つまり、先程の殺すべき云々も単なる文句。


「……静観するしかないのか」


 空を見上げ、苦渋を飲む顔で燃える鳥を睨む。


「日頃の恨みを晴らす事は出来ぬか……ちっ」


 将軍は舌打ちをして、目を血走らせ天を睨む。

 神獣に対しての溜飲が下がるか否かは、今後の戦況次第であった。








 ◆新婚旅行に来たはずのアレクさん


 そう、俺は新婚旅行に来たはずなのだ。

 断じて神獣決戦を見に来た訳では無い。


 早く終わらせて観光を続けなきゃ……いや、店が閉まってでも無理矢理営業させて楽しむぐらいはしなくてはいけない。

 これは使命だ。うんうん。


「にしても……」


 熱波から身を守る結界を張っていた俺は、タマモミヅキの異空間が崩壊したので日輪の国全域に結界を広げていた。

 この地の魔術師……陰陽師たちも総力を上げているが、俺の結界に足し算してるにすぎない。


「あの鳥、いいね……」


 欲しい。

 理由は単純。


「やっぱり武器造りの火に最適じゃん……!!」


 俺は感涙していた。

 あの炎は、アダマンタイトもオリハルコンも容易く溶かせる火力を持っている!

 今まで魔力を消費してひたすら硬い鉱石を加工し錬成し鋳造して来たが、その過程が随分と楽になるなんて……素晴らしいな神鳥は!!


「くっ……炎だけでも欲しい!」


 最悪それで我慢するが、確実にダメだしが来る。

 炎だけが単体で存在し続けるのは不可能だと仮定してもいいだろう。

 現に、奴からの飛び火は永遠に残るわけでもなく簡単に鎮火出来たのだから。


「くそ、どうする、どうす…………はっ!?」


 名案(迷案)が俺の脳裏に描かれる。


 ふっ、ふふふ……これなら!!これなら行ける!

 ニーファに黙って………は人としてダメだから、丸め込める言い訳も考えた上でやるしかない!!


 よし、早速魔法開発だ!!


『主様……』


 一部始終を異空間から見ていたメリアが、ジト目で睨んでいた事を俺は知らなかった。

 主としての威厳?

 最初からないよ?


 さて、まずはここの術式を弄って………








 ◆日輪の国 上空



 燃える空、焼けた空気、紅く染まる世界。


 私怨を宿す神獣が2体、一つの国を滅ぼす戦禍を此処に広げていた。


 右に神竜ニールファリス。

 左に神鳥カグヤ。


 未だに成長を続ける最強の龍と、破滅と再生を司る焔院凰。

 この2体が真の姿で、八百長なしの本気の死闘を世界で繰り広げる。


『《炎獄牢》!!』

『ふん!』


 神竜の巨躯を容易く封じ込める炎の牢が生成され手掴みも噛み切る事も不可能なはずの技。

 だが、そんな定説をニーファは覆す。


 気合いで炎を掴み、気合いで捻じ曲げた。


『はぁっ!!』

『小癪なっ!!』


 爆炎を推進力に変えて、一気にニーファに接近し、喉元に食らいついたカグヤ。

 そのまま獄炎で頭を焼こうとするが、それに抵抗するニーファが神鳥の両翼を掴み、折る。


 しかし、カグヤは止まらない。


『すぅ───……《自爆炎華》!!』


 身体の内から起爆させ、莫大な炎の渦を巻いてニーファの頭頂部……どころか、上半身すらも覆う規模の大爆発を引き起こす。


『ぐぬぅっ……!?』


 上半身の龍鱗に焼け傷と溶け痕がついたニーファはされどその程度のダメージで済ませる。


 そして、火炎と共に散った神鳥の肉片が、宙を舞って集合し、再び復活し君臨する。

 破滅と再生の二つの権能を惜しげも無く使えるから出来る芸当。


『じゃが、再生にも体力使うのじゃろう?乱用は出来ぬのは昔と変わらぬじゃろ!!』

『あらあら心外な……体力の消耗など、此度の戦いに含めるわけないでしょう!?』


 カグヤは喉から甲高い鳥声を天に轟かせ。

 それに対抗するように、ニーファは龍の咆哮を天空に貫通させる。


 互いに咆哮しながら、魔法を展開する。


 片や龍が操る魔法、竜言語魔法を。

 片や炎を司る魔法、焔院凰の神炎。


『《エレ・シルドラク》!!』

『《死舞盃(しまいさかずき)》!!』


 集束した嵐が、荒れる雷風と穿つ豪雨を伴ってニーファの手元に作り出され。

 天を向く嘴に、燃える逆円錐が築かれ、膨大な質量を持つ炎の塊が生まれる。


『『死ねぇぇぇ!!!』』


 何時もの殺し文句を叫びながら、振り下ろす。


 災禍の嵐がカグヤを刻み、天滅の炎がニーファを叩く。


『きゃあああ!!!?!?』


 不死と言えども痛覚は健在なのか、全身切り傷を負い、雷による火傷は防げど感電死は防げない。

 雨に打たれ鎮火する炎と共に、何度も蘇っては感電死で沈黙する。


『ぬぅぅぅぅううう!!?!』


 頭に叩きつけられた円錐から、酒が零れ落ちる様に溶岩が垂れ、神竜の身体を燃やす。

 結界を全身に張って、持ち堪える勢いを付けるがその結界すらも焼き溶かす。


 カグヤが減るのは体力のみで。

 ニーファは全てが減っていく。


 しかし、カグヤの死ぬ回数が増えるということは、それだけニーファの火力が凄まじいという事を意味し。

 焔院凰の猛攻を負傷程度で済ます神竜の肉体がレベルを逸脱しているのがよくわかる。


『………────■■■■■■■■』

『ちっ……《多羅吹》っ!!』


 思考する隙は与えまいと、ニーファは竜言語を紡いで魔法の構築を始める。

 それに伴い、危機感を抱いたカグヤは大きく飛び退いてから獄炎を纏い直し乱射する。


 飛んでくる炎の雨が、龍鱗を掠るが意に返さず。


『──……《クラウ・アルベンド》!!』


 炎に対抗するのは炎。

 そう本気で言っているのかと疑うレベルの高熱量を誇る大炎を天下の炎に喰らわせる。


『妾に対して炎……!?舐めてるのかしら!?』

『ふむ、どうかの?』

『なに……!?』


 余裕のあるニーファが、含みのある言い方をすれのでよく見てみれば、その大炎は炎では無かった。


『光……!?』


 太陽光だった。


『太陽の光を無理矢理集めてぶつける、それだけの自然支配じゃ……乱用するとソレイユが怒る』


 太陽神が可愛くポコポコ殴ってくるレベルの大技を軽く披露して神鳥にぶつける。

 圧倒的な光の力によって上半身が焼滅して体勢を崩し転落するカグヤ。


 転落しながら再生するが、アレクが張った結界に激達して吐血する。


 竜言語魔法は、自然を支配する力。

 その力の一旦は、結界を維持するアレクにも余波が届き、魔法開発をしていた阿呆めは吹っ飛ぶ。


「いってぇ!?」

『自業自得だろう』

『主様……』

「酷くね!?」


 時空神と従者に失態を見られ、顔を赤くするが気にせずアレクは魔法開発に勤しむ。

 学習していない。


『かはっ!…………はぁ!《地の炎》!!』


 負けるつもりは無いと、戦意途切れぬ瞳で神竜を睨みつけ魔法を展開する。

 アレクの結界を蝕んで魔力を吸い取り、対空砲火の威力を底上げする。


『妾の炎は再熱する……!如何なる滅びを迎えうとも、終わる事は無い………!!!』


 その発言と共に、天を更に焦がす炎が打ち上げられる。

 被弾しないように躱すニーファだったが、何弾かは翼や尻尾に着火してしまう。

 勢いよく振り払って難を逃れるが、受けたダメージは治らない。


『ふん……さっさと退場せい!!』


 神獣との戦闘は、一つ一つの事柄に全力を集中しなければ生きて帰れぬものとなる。

 それゆえ、神獣最強であるニーファも慢心せずに攻防全てに全集中を注いで戦った。


 故に……そろそろ集中が途切れそうなのである。


『終いにさせるぞ!』

『此方のセリフよ!』


 飛び上がり、同じ位置に滞空した神鳥と、痺れを切らした神竜の二体が大技の準備に入る。

 入ってしまう。


 高まる神気、重圧が日輪の国に伸し掛る。


 事態のヤバさを悟ったアレクは、魔法開発を中断して結界の防護力を底上げし、更に上に上に結界を重ねがけし続けて、観光するために国を守る。

 国全体を、島全体を覆う大結界。


「うわーっ!頑張れ俺!ニーファは白熱しすぎなんだよぉぉぉぉ!!!」

『あー……本当に終わった。さようなら、ありがとう日輪の国……』

「諦めないで!?」


 時空神タマモミヅキの力も借りて結界の強度を底上げして、さぁ来いと、アレクは来る(きたる)敵味方関係なく虐殺死滅させる攻撃を迎え守る。


 地上に住まう日輪の住人達の多くが、混乱に陥っていた。

 マトモに動けたのは陰陽師や侍のみで、小さめながらもアレクの結界の内側に結界を張りまくり、一般人が被害を受けぬように戦場から遠ざける。

 それしか対応出来る事がなく、為す術もないのは明らかであった。


『……………』

『……………』


 互いに無言の時間が続き。


 幕は落ちる。


『《グラウンド・ゼロ・フィナーレ》!!』

『《火帝晩鐘(かていばんしょう)日輪大絶焼にちりんだいぜつしょう》!!』


 かつて龍泉霊峰に致命的ダメージを与えた竜言語魔法、核の数倍の威力を誇り、視界を埋めつくし空を覆い潰す核熱線が放たれ。


 回転する炎の円環が太陽の輪郭を幻視させ、鳴り響く滅びの鐘が空間に伝播して燃やし尽くす。


 熱線が結果を何枚も突き破り、穴を開ける。

 晩鐘の伝播する炎が空間ごと結界を燃やす。


 隔てる物がない状態で、響き続ける滅びの音は永遠に空間を焼き尽くす勢いで。

 結界という遮蔽物のおかげで事なきを得る国だが、結界の枚数が減る度に心労が重なる。


 核熱線が何度も体を掠っては再生をし続け。

 方は滅熱波が全身を燃やす。

 どちらかと言うとニーファへのダメージが大きい中、彼女はその巨躯に似合わぬ速さで焔院凰に接近して身体を掴む。


『っ!?離しなさい!!さっさと死ね!』

『それは無理な相談じゃ!!』


 互いに退けぬ状態にまで陥り、互いの魔法に焼かれながら空でもみくちゃになる。

 自分を守る結界が崩れた為に、自身の核熱線で身を破壊されながら。

 空間を歪められて自分には効かないはずの範囲攻撃が自分にも適用されるよう書き換えられて。


 やがて魔法陣が停止し、禁忌の猛攻は終わりを見せ───────

 アレクの結界は残り一枚までに減らされていた。

 その一枚も、核熱線があと一本掠れば決壊する姿は予知せずとも想像はできる。


 そんか状況の中。

 ニーファがトドメを食らわす。


『アレク!!』

「ん?」

『硬めの結界を何重にもはれぇい!!』

「……ん、わかった」


 何かを察したアレクが、弔いの指切り等をしてから結界を張りまくる。

 それは注文通りに硬さだけを求めた最早透明な要塞の壁で。


『ふん!こうしてくれるわ!!』

『くっ!?いや!?離しっ─────……』


 カグヤを掴んだまま、この結界の層に叩きつける。

 力の全てを膂力に変えて、ニーファの腕の血管から血が漏れでる程に力を込めて叩きつけられカグヤは、抵抗虚しくダメージを受け続ける。


 只管に硬くした結界を、何枚も、何枚も、焔院凰の身体で割っていく。

 度々重なる衝撃に、カグヤは吐血し、何度も意識を手放しては死ぬを繰り返す。


『がっ、あっ、ぐぎぃっ……!?』


 やがて。

 残り一枚、最後の砦まで叩きつけ………破壊。


 その瞬間、焔院凰の身体が発光したが、すぐに収まり何ともなかった。


『………』


 無言の神鳥、焔院凰カグヤ。

 アレクが張った全ての結界を破壊し、その勢いのままでは日輪の国にクレーターを開けてしまう。

 故にか、ニーファはカグヤを掴み直し、背負い上げる。


『終わりじゃあぁぁ!!』


 そのままニーファは空を飛んで、そのまま大海へとひとっ飛び。

 島であるが故に、陸と海の距離は短く、簡単に到達できて……


 深海に叩きつけるように、焔院凰カグヤを突き落とす。


 天高く打ち上げられた海水柱、揺らめき昇る湯気、神獣の一体が海へと沈められる。




 そして。


 神鳥、焔院凰カグヤは─────……二度と海から炎と共に姿を現す事はなくなったのであった。










 湧き上がる歓声、安堵の声が立ち上り、誰しもが神獣の脅威が去ったと思っていた。

 日輪の国に平和が訪れたのだ。


 ニーファは人化して龍の姿から変わり、何時もの人間形態になって地上に降りてくる。

 その先にはアレクとメリアと子供達が居て………


 アレクの手には鉄製の鳥籠が。


「おつかれ!」

「うむ……それはなんじゃ?」


 その中には……紅い美しい羽を持つ、小ぶりな鳥が一匹、入っていて………鳥籠の檻を啄き、脱出を試みようと藻掻くのがいた。


「……まさか」

「カグヤだよ」

『ピィ!(出しなさい!餓鬼!焼くわよ!?)』

「…………」


 力を奪われ小さくなったカグヤが中にいた。

 先程まで死闘していた相手が、気付かぬうちに夫の手の内にいて声も出せぬニーファ。


「《神転弱化》……神獣と共にいる俺だからできる神獣弱体化の魔法!」

「そ、そうか……原理は?」

「ん?神獣が弱ってる隙に封印してなんやかんやするだけだけど?」

「そのなんやかんやはなんなんじゃ」

「安心しろよ、お前には使わないから」

「そういう事じゃないんじゃよ!?」


 先程、結界を全て破壊したカグヤが光ったのはこの術式を付与したのが理由。

 深海に沈んだ瞬間に発動し、この姿にされた上にアレクの持つ鳥籠に転移させられたのだ。


「はぁ……」


 激闘を終えた披露と、夫がしでかした事に対して溜息をつき……

 だが、しかし。


「ほい、お疲れさん」

「……ん?」


 ニーファを引き寄せたアレクが、彼女の肩を掴んで自分の方に倒れさせ………膝枕をしだした。

 そしてタオルを取りだし、身体についた血を拭いて、魔法で癒し始める。


「お主………」

「ん?……なんだ、不服か?」

「いや……良い」

「そうか」


 口から立場逆の方が良いのではと思ったが、ニーファは無言で膝に頭を預ける。

 その甘ったるい空間の出来上がりに、その場に居合わせていた全員が口を慎む。

 いや、一人を除いて。


『ピィ!(おいこら人前でイチャつくな焼くぞ!?早く解放しろ餓鬼!ねぇ聴いてるの!?ねぇ!)』

「聞いてなーい」

『ピィ!?(なぁっ!?)』


 鳥籠の中で鳴き叫ぶカグヤを投げ捨てる。

 その鳥籠をメリアが上手くキャッチし、地面に降ろす。


 降ろされた先には……好奇心旺盛なプニエル達がしゃがんで鳥籠の中にいる可哀想な鳥を見つめていた。


『ピィ…?(な、なにかしら……?)』


 幼女たちに無言で見つめられるものだから、流石のカグヤも、勢いを失い、後退る……と言っても逃げ場なく、全方向から見つめられてるのだが。


「とりさん?」

「おいしー?」

「タレにしますか?塩にしますか?」

「〜〜〜♪(焼く〜!)」

「…んまそう」


 食い意地しかなかった。


「ピィィ!?(これが狩られる側の気持ち!?)」

「いやさっきも狩られる側だったろ」

「ピィ!(るっさいわよ餓鬼!)」

「みんなー、今日は鶏飯だよー!」

「「「(「はーい!」)」」」

「ピィ!?(ごめんなさい食べないでぇ!?)」


 年下に虐められる同族を眺めながら、ニーファは実行犯に問う。


「何故こやつをわざわざ捕獲したんじゃ?」


 封印するなら深海に沈めとけば良いのにと言外に言うニーファに、アレクは説得を開始する。


「こいつは天父神の名を出した、つまり俺達全員の共通敵なんだ。ただ封印しただけじゃ、無駄になる。相手は最高神だぞ?自分の封印は兎も角、他者の封印を解くぐらい容易なはずだ。なら、どうすれば良いか。簡単な話だ。自分の手元に残しておきゃあいい。そうすれば奪われる心配も此奴を利用されることも無い。更にこいつの火力を制すれば自陣への貢献は大きい物へと至る。つまり敵戦力を減らせる上に自陣営を強化できるんだ。

 そうだろう?」

「……まぁ、納得はしておくが」


 口では理解するが、嫌いな奴が身近に居ることに不快感を抱くニーファ。

 矢継ぎ早に説明したアレクも、息を吸い直す。


「どっちにしろ、この国には此奴はいれない。俺達が来る前から大分やらかしてるみたいだし……」

「ピィ…(ふん。別にこの国に執着なんてしてないし……)」

「その割には悲しそうだけど?」

「……(……………)」


 やはり此処に愛着はあったのか。


「……取り敢えず、お前は俺の監視下におく。妻の嫌いな物は夫が管理すべき、って言うからな。

 ……あ、暇な時ニーファの傍に置くから」

「え」

「サンドバッグにしていいぞ」

「やったぁ♪」

「ピィ!?(笑顔にならないでくださいまし!?)」


 両手を合わせて喜ぶニーファと、涙めになるカグヤを横目に、アレクは宿屋に戻る準備に入る。


「んじゃ、帰るね」

『うむ……もうこの国で面倒起こすなよ』

「それは相手の出方しだい」

『むぅ……まぁ、我に実害は無いし、どっちかと言うと貴様らよりだから困ったら来い』

「あざっす」


 手伝ってくれた時空神にも挨拶して、みんなで足踏みを揃えて帰る。


「ふんふふんふーん♪」

「機嫌が良いの」

「だってニーファが勝ったもんね〜♪」

「そ、そうか……」

「…ニーファ様、本当は「おっと」んきゅう!?」

「メリア!?」


 アレクがコケてメリアの首に魔法で冷やした手を突っ込み沈黙させる。

 涙目で睨むメリアに対して、まぁまぁわざとじゃないんだよと笑うアレク。

 確信犯である。


「おいカグヤ。身の安全は俺が確保してやる。下手に動いたら何もしてあげないからな」

「ピィ……(拒否権ないんだから何もしないわよ……なんか力も使えないし)」


 プニエルが頭に乗せて運ぶ鳥籠の中で、悲しそうに羽を弄るカグヤは、見るからに意気消沈していて……


 それを見たニーファは、晴れやかに微笑む。


「結果はともあれ、嫌いな奴がこんな目にあっとるのを見るとお腹が満腹じゃな!」

「そだねー」


 満面の笑みの嫁を従えながら、階段を降りる。


「いやー、今回の旅は有意義だな!

 タマノちゃんにカグヤ!良いのが手に入った!

 これからも宜しくねタマノちゃん!」

「…はい、頑張る」

「ピィ?(あれ、妾には?)」

「俺の実験動物(モルモット)として強く生きろ」

「ピィ!?(ひぃ!?)」


 愉快な寸劇を交えながら、日輪の国の戦いは終わりを告げる。


 神獣と神獣の戦い。

 それは日輪の国に何のダメージも与えずに、逆に神獣の恐怖のない平和を与えた。


 約一名以外が幸せを迎える結末。


 こうして。

 アレクは新たに時空神の子供と、獄炎の神鳥を手に入れたのだった。



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