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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第七章 新婚旅行とお兄様

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巡ろう和風世界



 日輪の国アマツキミ。

 北海道よりも少し小さい島を領土に持ち、港に隣接する城下町は広く、魔都よりも広い都市面積を誇る上に山の麓にも続くため段段となる地形。

 遠方を覗けば綺麗で静閑な田や畑が広がり、長閑な雰囲気を漂わせている。


 そんな新天地に、俺達は到着する。

 クルーザーに乗ったまま検問を通り、観光券を提示して港町の大地へと足を降ろす。

 皆全員が降りたのを確認してから異空間にクルーザーをしまって盗難対策。


「おぉ……」

「ふむ……」

「わぁ……」


 黒い瓦屋根に色い壁の蔵が乱立し、シュンさんのような和装の屈強な海の男達が忙しなく働いて。

 帆船から次々と下ろされる荷物と、人の流れ。


 これが昔の日本の風景に近いと言われる国の玄関口であり、交易の要……ミズチ港!!


 取り敢えず。

 潮風に乗る働き者たちの汗の臭いがほんの少し漂って来たので移動しようか!


「完全に異文化じゃな」

「そりゃ、何百年も隔絶されてた上に独自の発展を遂げたらこーなる」


 この日輪の国アマツキミは日本とは少し違う。

 なんせ中国とかイギリスとか、文化を教えてくれる大文明が存在しないのだ。

 如何なる経緯で生まれたのかを外部の人間は知ることも出来ないし、そこまで興味無いから知らん。

 俺も興味無いし。

 あ、でも俺以外の転生者とかが関わってそうな匂いがプンプンするぞ!!勘だけど。


「わふー?」

「さかなー!」

「良い匂い」

「〜〜〜♪(新鮮味〜♪)」


 プニエル達がはぐれないように、各々抱えたり手を繋いで一緒に歩く。

 プニエルは俺の腕の中で、デミエルは俺の頭の上に、ウェパルはメリアと手を繋ぎ、エノムルはニーファの頭の上に乗っかっている。

 特にエノムルは見た目が異質なのでニーファの頭に乗ってもらっている。いつもと逆だ。

 魔物だって言われて襲われても困るしね。


 さて、子供たちの安全は絶対となったので、当面の問題を解決しなければ。


「てことで、まずは宿探そうぜ?」

「異空間じゃダメなのか?」

「それじゃ旅行じゃないだろ!」


 ニーファよ。旅行とはその場の物で楽しむものなんだぞ?

 異空間を使うのは物の取り出しだけだ。

「あ、その前に両替してこよう」

「……そういえば、まだこの国は共通貨幣じゃなかったんでしたね」

「そうなのよねー」


 日本語に近い文字で両替と書いてあったのでそこに足を運び、金貨十枚、10万×10で100万円を此方の貨幣と交換する。

 少し時間はかかったが、手に入った貨幣を貰ってから宿探しに戻る。


 まだ共通貨幣が浸透してないのは、観光客といった観光客はあまり多くなく、せいぜいが行商人や外交に来たお偉いさんだからな。

 それでも、一定多数の人気はある国だ。


「そんなに必要なのか?」

「だって服とか装飾は高いよ?」

「むー……人間の世界は面倒いの」

「順応してる癖に何を……」


 辺りを見回しながら、ここの現地民の特徴を掴みとる。

 日本っぽいから黒髪だらけかと思ったら、普通に青とか緑とかの異世界色に染まってた。

 おかげで、俺達全員の派手な髪色が何かを言われる心配はないかな。


「さて、宿屋宿屋」


 結論を言うと、宿屋探しはほんの少し難航した。   

 だが、坂を登って城下町の中間辺りに建っていた有名らしい宿屋を見つけて滞在することに成功。

 美味しい料理もあるし、なんと天然温泉もあるという。

 滞在期間は一週間。充分な新婚旅行タイム……行ったことないからわかんないけど。


 客もそれなりに居たが、温泉に入る時間帯は予め決められており、俺達は夕飯前に入浴する事となった。


 まぁ、入浴と言ってもまだ昼前なので。


 楽しく散策することにしますか。


「で、女将さん。値が張ってもいいから良質な着物屋とかありますか?」

「ありますよ。地図をお持ち致しますね」

「あと甘味処とかも」


 宿屋の女将さんは黒髪を簪でお団子のような形の和風的な髪型に淡い紫の着物の美人さん。

 棚から最新版の地図を取り出して……教えてくれた場所は、シュンさんが教えてくれた場所と名前がほぼ一致した。


 どうやら六年経っても存続しているようだ。

 甘味処も、着物屋も、有名店の退去や閉店はつい最近は起きてないらしい。


「じゃ、夕飯前に戻ります」

「はい。どうぞご堪能ください」


 礼を言ってから皆で目的の着物屋に向かう。

 貴族御用達というか、高値の上にこの国を治める将軍からの太鼓判もあるという。

 あ、何故か知らないけどこの国のトップは将軍。

 戦国でも何でもないのに……江戸っぽいから?


 どうでも良い国事情は関係ないので無視して、目的の着物屋に向かって足を進める。

 道を歩けば目に入る着物姿の女性を見て、ニーファとメリアは先程よりも気になり始めている。

 なんなら尻尾が凄い。

 ニーファは俺の腰に巻きついたり締め付けたりを無意識にしてたり。

 メリアはどういう原理か兎尻尾が振動してる。


 いやどゆことよ。


「あ。あれかの?」

「ん?……ぽいな」

「あれですね」


 着物屋発見。

 からの入店。


「いらっしゃいませ」


 入った着物屋は大きくて、左右に性別が別れて着物が陳列していた。

 ここの店員さんは濃い緑の髪に藍色の着物を着たお姉さんと、細身の黒髪の青年だった。


「着物買いに来ました」

「観光の方々でしょうか?」

「はい」

「かしこまりました。では」


 そういうや否や、女性陣は全員左側、女性用着物の区域に連れてかれた。俺に密着していたプニエルとデミエルはメリアに託した。


 生憎と、昼前故に客足は少なく……俺は今、お店の青年と二人きりである。


「お客様、よろしくお願い致します」

「あ、はい」


 そのまま成されるがままにトントンと話は進み、俺は着物を三着程買った。

 見た目通り、誠実で仕事熱心な人だった。

 素材も質も良いし、値段もぼったくりでは無かったので良い店だと俺は思う。


 そして、一時間ほど経過してニーファ達が会計に戻ってきた…………長い。随分時間かかったな…

 ってうぉお……


「ど、どうでしょうか……」


 まず最初に来たのはメリア。

 ピンクの髪と兎耳が映える桃色の着物で、月の柄が薄く描かれている。

 女子としてはほんの少し高い身長と大きな胸部を控えめに見せる和服の技術って凄いな。


「うん。似合ってるよメリア」

「主様もお似合いです……」


 恥ずかしいのか……まぁ、普段戦闘メイド服しか着てなかったし……いやよく考えると凄いな。

 アレって一応鎧も兼ねてるんだが?

 あれ?メリアってあれ着て家事してるの?

 ………やめよう、この話は。筋肉に繋がるから。


「主様?」

「なんでもないよ」


 さて、次だ次……次は子供たちだな。


「マシタ!みてみて!」

「あるじー!」

「ご主人様!!」

「〜〜〜♪(かわい〜)」


 プニエルは花柄の赤い着物。でっかいリボンが腰に付けられていてヒラヒラしている。

 デミエルは和風なゴスロリ。黒い布地にピンクの花柄、でっかい萌え袖で凄いファッション。

 ウェパルはの無地の給仕服。和風メイドというウェパルの印象を形作っている。

 エノムルはスリッド入り着物。青いスライム肌をこれでもかと主張している……


「いやよくあったな」

「店員さんの手捌きが凄かったです……」


 見れば、女店員さんは満足気に自信満々に静かに佇んでいた。いやほんとにありがとうございます。


 さて、メインディッシュ。


「どど、どうじゃ!アレク!!」


 ニーファ降臨。

 その着物は、白を基調としたもので、襟や袖の厚い布部が青色に染められ、白と青の調和が成され。

 銀色の流れる髪と龍の角と尻尾がアクセントとして美しさと可憐さを増幅させる。


「あ、アレク?」

「ご馳走様でした、可愛いです」

「そ、そうか……よ、良かった」


 ご馳走様でした。

 取り敢えず後で、皆で並んで写真撮ろうね。


「「ありがとうございました〜」」


 金を払い店を出る。

 女性陣が多い分、買う着物も多かった為に60万の支払いをした。まぁ、必要な犠牲だった。

 なんなら100万も全財産じゃないし。

 追加で両替しとくか?いやいいか。


 全員が着物姿になって町を歩く。

 次の目当ては甘味処だ。


「団子、鰻重、煎餅、蕎麦、饂飩……」

「漢字表記やめてください」

「だんご、うなじゅう、せんべい、そば、うどん……」


 さっき鰻重の匂いしたから絶対あるよ。山椒の匂いも一緒にしたから期待大!!

 すっごい食べたい。

 けどまずは甘味処だ。鰻重とか炭水化物は明日にでも食べよう。

 まずは団子、煎餅………あと何があるんだろ?


「取り敢えず甘い匂いを辿るか〜」


 シュンさんと女将さんからの新旧地図の情報も照らし合わしてね。


「……む。この匂いは何じゃ?」

「………みたらしだ!」


 みたらし団子ー!


 ヨモギもある!すげー、流石江戸風異世界!

 取り敢えず全制覇するわ。


 買った食べ物はだいたいお手頃価格。

 お土産件、帰ってからのおやつ用は帰りの日に爆買い(迷惑にならない程度)するとして………


 お、アレも美味そう!!


「マシタ〜あれー!」


 って、プニエル!?勝手に行かないで!?













 ちかれた。


 昼ご飯は近くにあった蕎麦を食べた。

 炭水化物は避けようと思ったけど、美味しそうだったから誘惑に負けた。

 幸い、身内に蕎麦アレルギー持ちはいなかったので良かったと思う。これでアレルギーだと相当キツいって話だからな……

 まぁ、この世界の人って殆ど逞しい生き方してるからアレルギーとかも克服するんだってさ。

 眉唾だけどね。


 そんでもって、城下町の隅々を歩いたり走ったり散策して時間を潰した。

 神社と花見の場所も遠目から見つけたが、明日の楽しみとして取っておいた。


 で、既に日は降りてきて、月が登っている。

 つまり夜だ。


 ということで俺達は宿屋に戻ってきた。

 そして、夕飯前の一時間は、俺達の貸し切り温泉だという事で案内を受け、入浴する事になった。


「はふー」


 服を脱ぎ、裸体を晒して岩風呂に浸かる。

 ここの風呂は外にあり、高い生垣と竹の柵が他界との接触を塞ぎ、立ち昇る湯気が視界を塞ぐ。

 一応、念には念を込めて防音結界も張ってある。


 この露天風呂、天然らしく効能とかもある。

 真偽は既に魔法で解析し、事実だと確かめた。

 良いよね、嘘つかないの。


 効能、美肌効果のみ!!


 本当にこれしか無いし、看板にもこれしか書いてないから正直者だなぁって思った。


「ふぅー」

「………」


 隣にはニーファ。濡れた銀髪が湯に広がって、波紋を描く水中に裸体を垣間見る。

 で、もう片方にはメリアがいる。

 こちらも全裸で、男の俺の存在など気にせずに……というか割と近距離に座っている。


 見慣れた光景だ。


 メリアに貞操とか俺に襲われる心配とか無いの?って結構昔に聞いたんだけど……


「奴隷ですし……というか、お二人の布団を片付けてるのは誰だと思ってるんですか?」

「「いつもありがとうございます」」


 いや、別にまだ致してはいない。

 ただ液体が飛び散ってるだけだ。

 まだ童帝の道は失われていない。


 っていうか話戻すけど、ニーファは兎も角、メリアは俺に裸を見せる行為の抵抗は薄い。

 頬を染めるは染めるが、嫌々とは言わない。

 凄い恥ずかしいけど別に嫌じゃないてきな?

 ………身長低いのが拍車をかけてるのかな?


「わぷー?」

「きゃっ!きゃっ!」

「んぅ……」

「〜〜〜♪(とけるー♪)」


 子供たちも楽しそ……エノムルが温泉に溶けてるんですけど……それを掴んで遊ぶデミエルが狂気。

 可愛いんだけどさ?

 掴んで握って伸ばして叩くとかやめたげて?


 やりたい気持ちはわかるけど。


「んあー……メリア」

「はい」

「酌」

「ダメです」

「……」


 ニーファよ。

 酒弱いんだから辞めなさい。


「…………アレク」

「未成年はお酒触っちゃダメなんだよ」

「蔵に保管しとる奴が何を言う!?」

「……触っちゃダメなんだよ」


 それは未来への投資だ。


「そんなに飲みたいなら…………やっぱいいや」

「え?……続き、続き早う」

「やー!」


 夕飯の時に飲めばいいじゃんって思ったけど、直ぐに酔っ払って絡んでくるのは見て分かる。

 主にセクハラ、アルハラ……どうしようもねぇ!

 そして最後に負けて、いっぱい飲まされて気づいたら朝!

 どうしようもねぇ!!


「む……そうか、飯の時に飲めば良いのか」

「ちっ」

「ちっ」

「おい?アレクは兎も角メリア?……え、メリア?」


 勘が鋭いヤツめ……てかメリアが舌打ちした。

 そりゃ、後片付けするのメリアだもんね……舌打ちしたくなるのも分かるよ……ごめんね。


「いいえ、してませんよ?」

「そ、そうか……?」

「別に後片付けの事に対して恨めしく思ってるわけではございません」

「「すいません」」


 本当にすいません。

 多分今度もお酒に負けて蕩けるので、その時はメリアも呼んで巻き込むね……。

 あ、まだ未成年………ま、いっか。


 俺もニーファも酒に弱いが、全然飲めない訳では無い。直ぐに酔いが来てぼーっとしちゃうだけだ。

 飲み比べも短時間ならできる。

 味も記憶も覚えてるのに寝る前後だけは記憶してないっていう結末を迎えるんだけどね。


 魔法使えば解決するが、雰囲気の為に使わない。

 あれか。ニーファに対して甘いのか俺は。

 もっと厳しめに行くか……?いや、やめとこ。


「のぼせる。俺は上がる」

「……我も」

「では私も……あっ」


 俺とニーファは上がろうとするが、メリアは未だに楽しく遊ぶ子供達の様子を見て思い留まる。

 保護者よろしく〜。

 露天風呂から出て、冷たい風に当たりながら布で湯液を拭い、室内に入る。


 ふい〜……


 旅行とかは前世行かなかったから、テレビ画面でしか味わえなかったけど………

 いいもんだね。本当に。


 大きめの布で全身の水分を拭い……ついでにニーファの尻尾も届いてないみたいなので拭いてやる。


「んっ!」

「そういや弱点だったな」

「……」


 性感帯その一、尻尾。

 常に弱点晒してるとか……いや、龍形態だと面積が広いから逆に鈍くなるのか。

 でも、人の姿だと………うん。敏感になる。

 あと、角とかも優しく撫でると反応する。


 雑念を余所に、竹細工の籠に入った下着と着物を取り出して着る。

 それと同時に、子供達を連れたメリアもやってきて身体を拭ってあげている。


 早く手伝ってあげよう。


 そして時は進み。


「おぉー」

「おぉ〜」


 夕飯は豪華だった。

 おせち料理では無いが、そんな感じの容器にこれでもかと美しく盛り付けられた一つの芸術。

 薄く切って並べられた白魚や赤魚の刺身、小ぶりの海老の刺身といった海鮮系が目を引く。


 そして何と。


 鰻重〜!!

 美味しく仕上げられたウナギを引き立たせるタレをかけた絶品を、山椒が更に盛り上げ……

 新米が味を向上させる。


 夏バテ防止とか眉唾物に思ってるけど、ただ食いたいだけの言い回しにしか聞こえんくなってきた。

 美味いものって不思議な魅力があるね。


 本当に美味い。この宿屋を選んで良かった。



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