全てを沈める爽快な船旅です
ニーファの名前表記の誤字、再発防止を心がけます
世界都市発の船に乗って大洋を渡る。
遠く離れた中央大陸に根ざす世界樹は徐々に小さくなっていく。
大型客船ではなく、クルーザーもどきに乗った俺達は日輪の国までの航路を進んでいた。
航路はヒューマンド大陸とビストニア大陸の間を通る海を一直線に進み、ほんの少し北にズレてヒューマンド大陸の東端にある有人島、つまり例の国へと突き進む。
「おぉー……凄いスピードだな」
「製作者がなんか言っとる〜」
「合作だ合作!!」
甲板に立ち、フェンスを掴む俺と、体幹良きかな仁王立ちで呆けた事を言うニーファ。
このクルーザーもどきは、クロエラとの合作だ。
《銀嶺ユースティア》の起動実験や耐久調査をしているのを横目に、暇な時間を活かして造った。
それも随分前……魔都が占領される前の話だ。
中型タイプの白い塗装が塗られた船で、潮風による物質劣化の影響を抑える塗料……港町なんかは絶対必要な市販品、その改良版を塗ってある。
乗員数は少なくとも20人は乗れる計算である。
移動手段という事で室内を空間拡張する事はせずに、低コストで出来上がった……はずだった。
「なんじゃその言い方は」
「クロエラが……」
「あっ………」
本来なら操舵者なりし運転者が必要だった。
だが、アイツは物の見事に解決しやがった。
「俺の魔力で遠隔運転できるようにしやがった」
「いつの話じゃそれ」
「船が出来たのは随分前。魔改造されたのは昨日……旅行報告した後に一刻で造って寄越してきやがった」
アヴァロン大迷宮攻略時に俺の魔力と神気を解析してしまったクロエラは、それらのパターンを利用して謎のオーパーツを生み出した。
現に、今このクルーザーのエンジン部には操舵輪の形をした魔導機械が取り付けられている。
所謂、電気信号で動く自動操舵装置の魔力版だ。
はっきり言って、クロエラは生まれる時代を間違えてる気がする。オーバーテクノロジーすぎる。
「とりま船旅、楽しもうや」
「じゃの」
「お二人共ー!朝ご飯の準備出来ましたよー!」
「む。今行く」
「わーい」
メリアから朝飯の呼び出しをくらったので甲板から室内に入る。
既に席に着いているプニエル達が今か今かとフォークを握りしめ、エプロンを胸に目を輝かせる。
「今日はホットケーキです」
「生クリームは?」
「あります」
「アイスクリームは?」
「あります」
「有能」
メリア特性のホットケーキの上に生クリームを大量に乗せ、丸く整えられたアイスクリームも大胆にトッピングして、手を合わせる。
「いただきまーす」
ナイフとフォークを使って1口サイズに切り分け、口に運ぶ……前に、子供たちのも切ってあげて食べやすい様にしてから自分の口に運ぶ。
ん〜〜!!!!
甘いの好き。熱いホットケーキに冷たいアイスとクリームが合わさって美味しさが増している。
作る度に料理技術が上がっているメリア。
彼女を家に迎えられて良かった。あの時助けておいた上に育てた甲斐が有るもんよ。
至福の一時を楽しむ。
プニエルもデミエルもウェパルも満面の笑みで美味しそうに食べている。
前者の二人は口周りがクリームとパン屑で汚く、ウェパルは行儀良く綺麗に美味しく頂いている。
エノムルも器用に食べ…………………んんん?
「なんかエノムル小さくね?」
「む?………違和感に気付かんかった……」
「へ?あ……え?」
エノムルの身長、体積が小さくなってる。
昔は俺達よりも大きかったのに……
プニエル=デミエル<エノムル<ウェパル
といった身長の順に。
プニエルとデミエルは幼児、エノムルは中間、ウェパルが小学生高学年ぐらい。
チビッ子が増え……いや、視界が広くなった。
「〜〜〜?(なに〜?)」
「エノムル、お前いつから小さくなれたの?」
「〜〜〜♪(前から!)」
「なっほど〜」
あれだな。この子、一番引き出しが多い。
というか見た感じチビッ子達は知ってたみたいだな。特に驚いた様子もないし。
青いスライム肌の全裸チビッ子が健気に両手を広げて美味しいを全身でアピールする。
これ服とか着せた方がいい?
前は巨体だったし乳とかあっても魔物っぽいから平気かなぁって思ってたんだけどさ?
ロリ巨乳スライムとか言うてんこ盛りが全裸徘徊はヤバい。服を着せなきゃ。
なんなら突起物あるよ…!?
双山に体色と同じだけどれっきとした青いちぃくびぃがついてるよ!?
「我の移動手段が………」
「おい」
俺の心配を他所に、何故か絶望していたクズが顔を青ざめ項垂れる。
そんなに気に入ってたのかエノムルソファ。
「〜〜〜!(んー!)」
それを見かねたエノムルが、席から離れて身体を震わせ……体積が膨張した。
文字通り、今までの姿に戻った。
………使い分けできるのか。ベクトルが違うがウェパル並に器用だな。
「おー!!よし!我が命じた時はその姿になるのじゃぞ!!普段は小さくて構わん!!」
「〜〜〜!(はーい!)」
なんと横暴なのだろうか。
てか、エノムルから漂う思念っぽいのが凄い柔らかくなってない?前まで(歓喜)とか(肯定)とかだったのに……。
子供の成長って早いなぁ。
エノムルの変化に賛否両論、結局可愛いから良しといった結論が下されワイワイして朝食の時間は過ぎ去ったのであった。
取り敢えず服は着させた。可愛いのを。
眼福眼福。
そんな楽しく幸せな時間は破壊される。
キィィィィィィィィィィイイインンン!!!!!!
「うるせぇ!!」
エンジン音とでも言うべきか。
船の外から騒がしい機械の音が、超高速で迫る戦闘機の様な音が聞こえてきた。
外に出て、空を見てみれば。
キィィィィィィィィィィイイインンン!!!!!!
黄色い戦闘機のような浮遊機械が飛んでいた。
一直線に空を飛んでいたかと思うと、俺達の頭上を通り過ぎた後に旋回してこっちに落ちてきた。
────────……落ちてきた!?
「ちょ、退避!退避!」
「のわっ」
「きゃっ!!」
魔力で操舵輪を遠隔操作してクルーザーのエンジンを吹かし速度を上げる。その勢いで俺とニーファ以外の皆が転がり倒れる。
凄い波飛沫が飛び、ギリギリ黄色い戦闘機の落下を避ける事に成功する。
「あっぶね…!!」
「なんじゃアレ……クロエラの差し金か?」
「やめたげて!何でも彼のせいにするのはやめたげて!!」
俺は悲痛な声でクロエラを援護するが、内心はすっごいクロエラを疑ってる。
アイツなら嫌がらせではなく純粋な気持ちでこーゆー野外実験をし出すからな……
「さて……」
着水……というかダイナミックダイビングした黄色い戦闘機の安否は……?
キィィィィィィィィィィイイインンン……!!!!
生きてた。
甲高い機械音が海を唸らせ、天まで届く水柱と塩辛い雨が甲板を濡らす。
それを起こし、水面スレスレに滞空する……よく分からない黄色い戦闘機。
「───生命波紋解析。対象ノ識別ヲ開始……。
照合成功。大イナル天敵、神竜ト断定。
真ナル脅威ト確認スル──────……」
そのまま黄色い戦闘機は、再び急発進して俺達の乗るクルーザーを破壊せんと特攻してくる。
音すら置いてクルーザーを襲う戦闘機。
それに対して俺は────
「なんかごめん」
異空間、ゲートオープン!!
凄い速さでやってきた戦闘機を異空間に入れた。
そして閉じる。
「ちょ、主様!?大丈夫なんですか!?」
「ん。大丈夫」
そして、俺は何事もなかったかのようにクルーザーを通常スピードに戻し、航路を進む。
その後方で、空にゲートが開かれ。
物凄い勢いで着水、からの海底へと沈んでいく黄色い機械の残像が見えた気がして────……
そのまま浮き上がらずに波は静まる。
「異空間の中を通ってる隙にあの機体の燃料を全部抜き取った」
「うわぁ……」
「こやつ……」
外道?非道?極悪?
いやいや。新婚旅行を邪魔すんのが悪い。
「暫く動けないと思うよ」
「永遠ではなく?」
「無からエネルギーを生成する仕組みだった」
「うわぁ……」
いやほんとにうわぁ……だと思った。
「あれの相手はまた今度……相応しい舞台が整ってからだ。そう、今の俺達にはやるべき事がある。
そう、俺達は──────────……」
俺は溜めに溜めて、吠える。
「日輪の国に行くんだーーー!!!!!!」
「凄い気迫!!」
「絶対ノリと勢い、面倒ごとは後に回すのを悟られぬ様にアホを演じとるな」
地味に感がいい、だと!?
まぁ、あの神性を持つ機械は後回しだ。
何か異常があっても、2つの大陸の間にある海……しかも何気に世界都市に近い位置なのだ。
……まぁ、動きがあったらすぐ分かるだろう。
一応、父さんに連絡して機械人形の事を伝え、注意を促す。
あれ、一直線に世界都市向かってたからな……俺とニーファの神性に気付いて、出向いてきてくれたのが救いだった。
アレで来なかったら世界都市まで戻って戦う羽目になってたからな………機械ってのは素直だな。
でもさ。
人の幸せの邪魔をするんじゃない!!
プンプン!!
海の底にて。
「…………ASエネルギー、残量0……完全回復マデ、推定約───……」
今此処に。
いざエネルギーが溜まったから進撃しよってプログラム通りに動き出した堕神の一柱が。
無様にも再びエネルギー充填の猶予が下され、生き延びる事が約束された。
……海の底で、仲間に救難信号を飛ばしながら自己回復をし続ける。
機甲神マナ・ジスタ。
その存在が再び世界を激震させるのはもう少し後のお話なのだから。
こうして。
土壇場の一日目が終わりを告げたのだった。
それから2日後。
海を通ると襲ってくる水棲魔獣や鳥獣達を水面に浮かしたり底に沈めたりするだけの平和な時間。
「にしても……」
俺はクルーザーの甲板の上で、先程の機体から奪ったと思っていたエネルギーを思い出す。
「機械の外に出たら消滅って何だよエコかよ」
あの機械人形の身体から出た瞬間、気化して消滅して何も残さず逝ってしまわれた。
なんてエコなエネルギーなんだろう……
クロエラには内緒にしとこう。下手したら機体が目覚める前に回収とか言いそう。
「おい、アレク」
「どうしたニーファ」
「見えてきたぞ」
「なに?」
そう言われて、視線を上げれば。
いつの間にかヒューマンド大陸とビストニア大陸の間を通る海が開けていて。
ヒューマンド大陸側……つまり北の方に、起伏が目立つ島が遠目にだが見えてくる。
「おぉー……2日で着いたか」
山と山の間に、大きな和風の城の一角がチラ見えする。
ここからでも黒松の木や高く急な滝が映え、その世界観に現実味を持たせてくれる。
そして、視界の端には港らしき町が。
「さぁて……他の船はっと」
望遠鏡を取り出して、船乗り気分を味わいながら海を見渡し、港に近づく大小様々な帆船を視界に入れる。
あの船の集まりに紛れこもう。異質なクルーザーで第一人称はアレかもしれないが、入国できる為の道具は準備してある。
不審者、侵入者扱いはまずない。
「これが日輪か───……こんな離島にわざわざ居を構えるとはのぉ……」
「そーゆー国なんだ。楽しもう?」
「うむ。そうじゃの」
いやー、楽しみだ。
日輪の国アマツキミ。
入国である。
機甲神の出番はまだまだ遠い、遥か先。




