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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第六章 大迷宮とお兄様

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これからの戦い


 時は進み。

 ダンジョン攻略から三日経過し、魔都エーテルハイトの復興は着々と進んでいた。

 倒壊したり燃えたり悲惨な目にあった建物が解体され、新たに建てられていく。


 酷い有様を晒している西地区のスラムは住人含め新たな雇用先を与え、再開発を行う。

 都市郊外に広がるラポーム平原の一部は焼け爛れてしまったが、精霊魔法や土魔法が使える魔術師が各国から派遣され土地の復興にも力が入る。


 ……中でも一番の被害は、魔王国の象徴である魔王城であろう。

 魔皇城エグメニオンに押し潰されたのだから。

 魔皇城も激戦によって廃墟と化してはいるが。

 そして、その城たちは今。


 空中解体され浮遊していた。


 二つの城の瓦礫は再利用され再構築。空中で組み合わさり魔法術式を刻まれ何度も合体を続ける。

 そして、再び象徴がこの世に復活する。

 魔王の城を二つ再利用したが為に一回り大きく生まれ変わった新生魔王城。

 アレクの手によって再建された城は、再び地に下ろされ権威を示す。


 こうして、魔王国アヴァロンは再び歩み出す。


 ……失ったものへの哀悼を抱きながら。






 交易都市メタンネド、6000人が死亡。

 魔王城占領時、兵士59人が死亡。

 同じく侍女5人、文官15人死亡。

 魔界戦争、自陣営の死者なし。


 行方不明者、数百人。


 これだけの被害に収めた、3000年ぶりであり、初めての堕神との戦争は、幕を下ろした。


 復興中、時間を割いて追悼式を行い。

 霊廟の建築も同時並行し、死者を弔った。


 犠牲の上に国家は成り立つ。


 その言葉をそのまま表した魔王国であり……新たな一歩を進む為の下準備が始まった。





 ◆新生魔王城・執務室にて


「陛下、お呼びでしょうか」


 魔王シルヴァトスに呼び出された《豪》の四天王グロリアスが平伏する。

 今はもう五体満足で普通に歩けるまで回復したグロリアスだったが、その顔は暗く染まっていた。


「治せそうだったか?」

「……医師の見解ですが、肉体の治療は出来ても活性化による代償の治癒は不可能だと」

「そうか」


 最早、グロリアスは四天王として生きる事は叶わない。遠回りにそう言っている。


 ………というか既に、グロリアスから四天王の座は返還されており、今彼は魔王軍に従う戦闘力の無くなったエルフという扱いになる。

 実は既に()四天王なのである。


「してグロリアスよ。四天王を辞めたお前は何をして生きるつもりだ?」


 魔王の質問に目を丸くさせるグロリアス。

 何も考えていなかったのか、数秒腕を組んで悩みこみ……結局思いつかなかったのか首を傾げる。

 呆れた魔王はため息を吐いた。


「……決まってないのか」

「申し訳ございません」

「良い、許す。………まぁ、優秀な人材が勝手にそこらに引き抜かれるのも困るのでな……実を言うとお前に適任の役職を既に探しておいた」

「!? 陛下……!!」

「これだ」


 投げ渡されたのは一枚の紙。

 それを手に取るグロリアスは……声を失う。


「…………………」


 そして。


「天職ですか!?」


 顔に生気が戻りテンションが上がった。


「うむ。お前にはユメの専属秘書を任せたい」

「お、おぉ……ひ、姫様からの許可は?」

「渋々だったがな。お前とユメの付き合いも十年以上あるからな。断るのはお前の性癖ぐらいだろう」

「ふぅーーー!!!!」

「聞いてないなこれ」


 狂喜乱舞するグロリアスを横目に、シルヴァトスは頭を抱えながらも部下の復活を喜ぶのだった。


 ……その後、あまりのハイテンションな動きをした事によって怪我が悪化したのは言うまでもない。





 ◆偽りの魔都・魔王城・病室にて


「お疲れユメちゃん」

「うん。頑張ったよ、私」

「えぇ……流石ですわ」


 帰ってきたユメと、病室に籠るヒルデガルド、見舞いによく来るミカエラの仲良し三人組が病室に集まっていた。


「そう言えばヒルデ。お父様が来たって聞いたけど……」

「あ、うん。私の処遇を言い渡されたよ」

「……なんて言われたの?」

「あれ、まだ聞いてないの?」

「うん」


 ヒルデガルドは、ユメが迷宮に潜っている間に起きた出来事を思い浮かべる。

 それは、この病室で起き、自分の人生を左右する重大な局面だった。


『ヒルデガルド=ネザゲルート』

『は、はい!』

『お前を魔王の元で直接監視し、その空間能力を大いに発揮してもらう事になった』

『………え?』

『如何に裏切り者の一族の生き残りと言えど、貴様らの能力は代を越えて頼りにされた力だ。今後も必要になるであろうからな……下手に処刑して断絶させるより監視下の元利用する方が損失が小さい』

『つ、つまり……!!』

『何度も言わせるな。ヒルデガルド。今後の出来次第でお前の処遇は大きく変わると思え』

『っ………はい、はいっ……!!』

『………お前の活躍を我々は期待しているからな』


 魔王シルヴァトスから言い渡された今後の自分。


 許された訳では無い。

 裏切り者の一族という烙印は変わらず己に付き纏う。だがそれでも、嬉しかった。

 生きられることが。


「そっか……良かったね!」

「うん!これからはユメの奴隷だね!!」

「縁起でもないこと言わないで!?」

「あらあら……じゃあ首輪、買ってきますわ」

「「やめて!?」」

「フフフ……」


 こうして、再び笑顔になった三人娘は楽しげに談笑を重ね…………


「あ、そうだ」


 ユメが爆弾を落とす。


「ミカエラ、四天王やらない?」

「…………………………………………………………………………………………………はい?」


 新たな四天王、《炎》のミカエラが誕生した瞬間であった。





 ◆魔王城正門にて


「はぁ……」


 再び世界に威光を示す魔王城の正門を守る魔族の門番達は、平和に興じながら暇を持て余していた。


「溜息をつくな。まったく」

「いや先輩……」

「暇なのは良い事だ。逆に我々が忙しければそれ程の一大事だと言うことなのだ」

「そうなんすよねぇ……」


 真面目な先輩と、理解はしてるが退屈に感じる後輩の門番二人。

 そんな二人に、大事件が降りかかる。


「おぉ!これが新しい城か!見た感じやったのは孫か!?」

「凄い魔法だねぇ……あら、ギルノイじゃない」

「む?……ホントだ。まだ門番やっとったのかお主」


 門前に現れたのは、魔族の老夫婦。


「えっと……どちら「うぉぉおっ!?!?」っ!?え、先輩!?」


 いきなり平伏する先輩ギルノイに驚き慌てる後輩に、ギルノイが叱責する。


「おい、ダルメス!この方達は先代魔王様と奥方であるぞ!!?」

「な、なんだってぇーー!?」


 後輩ダルメスが凄い驚いて凄い目で二人を見てから慌ただしく平伏する。


 そう、現れたのは先代魔王ジークフリードと王妃ルミニスの迷宮隠居老夫婦なのである。


「うぅむ、ギルノイよ。お前は出世欲とかないのか?」

「先代様、恐れながら私めは門前であることが誇りなのです。今更それを変えるつもりはございません」

「そうか……相変わらず良い奴で安心したわい」


 ギルノイと先代魔王の会話を耳にしながら、目の前に伝説的な魔王夫婦が居ることに色々な汗をかきまくるダルメス。


「ん?あんた……ギルノイの女か何か?」

「ち、違いますぅ!!……はっ!失礼しましたっ!!!」

「ル、ルミニス様!そやつと私には上下関係しかございませぬ!」

「そうなのかね……そうなんだろうかねぇ………」


 当代に王座を譲る直前に、魔王城の門番を勤め始めた青年が、今になっても門番として人生を全うしている姿を見て。

 ついでに年の離れた小娘のウブな反応を見て。


 二人は若さを垣間見ながら笑った。


「では、儂らは息子に会いに行くからの」

「門番頑張りなさい。根を張りすぎんようにな」

「「はっ!」」


 二人の門番は敬礼し、今日も今日とて門を守る。



 そして、正門を通過してからの執務室にて……



「よっ!息子よ」

「身体平気かい?」

「げっ!?親父に母さん!?隠居人共が今更なんで……」

「おい、儂らの扱い酷くない?」

「今更っていうか、ほら、孫が頑張ってるのに隠居してるとは言え何もしないのは可笑しいだろう?」


 めちゃくちゃ驚いたシルヴァトスは、その言葉を受けて数秒沈黙し……


「は!?ダンジョンで隠居生活してたのか!?」

「「うむ」」

「二度とするな心臓に悪い!!!」

「「いやでも既に定住してるし」」

「はぁ……もうやだほんと」


 魔王、弱音を吐く。


「まぁ、暫くは復興するまでぐらいは手伝いぐらいしてやるぞ?」

「老害でもできることはあるからねぇ……」

「なんじゃ、理解しておったのか」

「あぁん!?喧嘩売っとんのかぁ!?」

「事実を言ったまでじゃろー?んー?」

「やめてくれ……ほんとに」


 目の前で親の老害夫婦喧嘩をされる魔王の苦悩。


 そして。


「お義父さまにお義母さま!?」


 再度爆弾投下。


「おぉ、エリちゃん、元気しとったか?」

「十年ぶりじゃの……いや、ほんとに若いのお主」

「お久しぶりですお二人共〜」


 噂を聞きつけ走ってきた王妃エリザベートが執務室に乱入し、更に混沌と化す。


 こうして。

 先代と今代の魔王が十年ぶりに揃い……共に次代の魔王へと紡ぐ為の作業をこなしていく……





 ◆???の廃城にて


「クハハハハハハハハ!!!!!!」


 とある黒い丘の上に立つ廃城にて、高らかに笑う一人の男がいた。


 浅黒い肌、尖った耳、後頭部に四本の鋭い角。

 白ではなく黒い目と紅い虹彩を持つ瞳。

 そして年齢を感じさせる白髪をかっこよく整えた上にサングラスをして怪しい雰囲気を醸す男。


 老人は廃城の窓から外の景色を見ながら、再び大声で笑い出す。


 外の風景は、黒と紅の世界。

 黒土とはまた違った純黒の土を持つ大地と、紅い森が丘を囲んで広がっており……更に紅い森を囲むように剣の如き鋭い山が囲んでいる。

 空を見れば、こちらも紅く染まっていて、星の一つも雲の一つもない空が広がっている。


「閣下、煩いです」

「クハハハハハハハハ!!そういうな!!こうも楽しいのは久方ぶりだ!閻魔を将棋で負かした時ぶりだ!!クハハハハハハハハ!!!!」

「最初の方は勝てたけど連戦重ねるにつれて負け戦になってましたもんね。今んところ連敗ですよね」

「黙れぇぇ!!我輩の心を抉るなぁ!!!」

「はいはい」


 配下らしき男におちょくられ、半泣きになる老人は、軽く激昂しながら勢いよく椅子に座って、ふんぞり返り、自身の部屋を見渡しながら青年を睨む。


 ……廃城などと説明したが、それは外見の話で、内部は美しい装飾で飾られ、掃除も行き届いているという矛盾を抱えている城であった。

 老人が座った椅子も勿論、売れば数億の価値はあるレベルの代物である。


「そんなことより、お前、此処に居て良いのか?」

「……どういうことでしょうか」

「道を踏み外した息子(・・)の追悼ぐらいせんのかなぁ、と」

「………」


 老人と同じ特徴を持った青年は、沈黙する。


「……暫く休暇でもいるか?」

「いりません」

「相変わらずつまらんのぉ……あ、そうだ。妻の墓と一緒にこれを入れておけ」


 そう言って老人はゴソゴソとポケットを漁り、中から指を一本取り出して青年に渡す。


「これは……?」

「我輩を召喚する際に、身体の一部を贄にする必要があるだろう?それそれ。一緒に埋めてやれ」

「……御意」


 そのまま主の部屋から出る青年。おそらく、廃城の麓にある本来なら必要ない(・・・・・・・・)墓地へと向かったのだろう。

 老人は青年の後ろ姿を眺めながら、いつの間にか傍にいた従者にワインを注がせ、イッキする。


「……ふむ、やはり息抜きというのものは必要なのであるな」


 そう言って、床に転がる『ト三カ』製の玩具車や『仮面セイバー』の小さな人形を見つめて言う。


「────我輩に、だがの」


 その本性は自分第一の愉悦大好き老人であった。





 ◆世界都市、勇者の屋敷にて


「みんな、僕はもっと強くならなきゃ行けなくなった」


 世界都市へと帰った五人は、自分達の屋敷の広間に集まっていた。

 そこで正樹が真剣な表情で、話を切り出す。

 それに黙って、彼の女達は無言で聞き入る。


「初代魔王からの言葉と、僕のこれからの人生。生半可な覚悟じゃきっと失敗する。だから、これまで以上に強くなって……勇者と呼ばれるに恥ずかしくない男にならなければいけないんだ」


 かつての敵から贈られた言葉を思い返し、勇者は一つだけ抱く思いを告げる。


「その為にも………これからも、僕に一緒についてきてくれる?」


 自分一人じゃ辛いから、誰かに傍に居て欲しい。

 ただの運動が得意なアニメ好き日本人だったのに、死んだら適正があるからと勇者を任せれて。

 それからは流れに身を任せて戦った時もあり、幾分か成長して自分の意志を貫き通して戦った。

 人殺しもやった。助けられた筈の人をあと一歩で救えなかった事もあった。

 全ての苦悩とはいわないが、転生してからの酷な救済を勇者は背負っていた。


 今も昔も、正樹には理解者が必要だった。

 それが彼女たちであり……心の柱であって。

 そんな大切な人達が自分から離れたら……そんなことを考えてしまったが故の質問。

 正樹の弱気な質問に、長く共にいる女性陣は呆れた顔で答えてくれる。


「当たり前じゃない。馬鹿じゃないの?」

「乗りかかった船だし……最後まで筋を通すわ」

「マサキ様にいっしょーついてきます!」

「ふふ。心配しなくても、私達はマサキ様を見捨てるなんてしませんよ。一蓮托生ってやつです」


 そうやって肩を叩いたり、抱きついてくる仲間達に照らされて、正樹もにこやかに笑う。


「……うん!これからも宜しくね!!」


 今まで考えた馬鹿みたいな、しかし必要な悩み全てが吹っ切れて。

 これからも、救うべき誰かの為に戦う。


 勇者の物語は始まったばかりなのであるから。





 ◆世界都市、魔法学総合研究所にて


「ふんふふ〜ん」

「…わっせわっせ」


 クロエラとマールは、クロエラの研究室に出向いて機材を移動させていた。

 ……マールに至っては、学園にある寮とこの研究室をよく通っており、完全にホームグラウンドと化していた。

 現に、この研究所にマールの名が登録されてたりもする。


「…ん、これここ?」

「あー、うん。その機材はそこで良いよ」

「…わかった」


 機材と言っても、アレクの異空間に移動してあったのを再びこっちに移動させただけだが。

 勿論、荷物を運び終わったら強制的に異空間の穴は閉じて二度と通れなくなる。

 ………まぁ、本人に頼めば何時でも研究室は借りれるだろうが。


「いやぁ、今回は良いデータが入ったぞ!!」

「…良かったね」

「あぁ!マールも手伝ってくれてありがとう!君のおかげだよ!!」

「……ん。良かった」


 少し頬を染めたマールと、普通に褒めたクロエラとの空気のズレ。

 それを二人は片方は気にせずに、片方は気付かずに作業を続ける。


「んー、後でユースティアの実験するんだけど……マールも来るかい?」

「……行く」

「わかった」


 こうして、今日も今日とて狂気的激強兵器や魔導具が誕生したりしなかったりする。

 孤高の魔工学師と氷心の魔女は今日もコンビで楽しく作ったり止めたりしながら程よい距離感で物作りを続けるのであった。





 ◆世界都市、ヘルアーク大使館にて


「お疲れ様です、はい」

「ありがとう」


 ミラノは世界都市のヘルアーク王国の重鎮の為に作られた大使館にて、妻のステラに淹れてくれた紅茶を王族らしい振る舞いで飲んでいた。

 ミラノとステラには学園内に寮室があるにはあるが、大使館から直接王城にある父の執務室へ連絡を行う為に此処に来ていた。


「どうですか、調子は」

「……うん、神剣の出し具合もいい感じだし、後は聖句を唱えた後の戦闘時間を少しでも伸ばすのが目先の修行理由かな?」

「ふふっ……どんどん強くなっちゃいますね」

「……不満、あるかい?」


 ステラのふとした呟きに、悪戯を覚えた子供のような笑みで聞くミラノ。

 それに対して、慌て出すステラ。


「い、いえ!そんなことは……その、彼に会ってから凄い熱心に頑張ってますから……」


 彼、という言葉を聞いて、ミラノは爽やかに微笑んだ。


「うん。アレク君に負けたあの日から、本格的に強くなろって思ったからね」


 懐かしむように遠くを見つめ、腰に指した神剣を撫でる。

 ヘルアーク武闘大会でアレクに負けたミラノは、皆が知っている以上に底力をあげる為に努力を努力で塗り続けた。

 その姿をずっと、余さず見ていてくれたのは最愛の人であるステラだから。

 ミラノは離さない。


「ふふっ、安心してくれ。私は剣に夢中になって君を疎かにするなんて事は絶対にしないからね」

「……約束、ですよ?」

「勿論。約束だ」


 二人で固く手を握り合ってから、腕を組んで密着し、仲良く父の元へ魔導具を使った遠距離通信をする為の部屋へと足を運ぶ。


 その後ろ姿を見た者達は、皆その輝きに目が眩み、二人の夫婦愛に打ちのめされるのであった。





 ◆世界都市、獣王国グランヒッツ大使館にて


「おい、トウマ」

「どうしました?」

「暇だ」

「…………」


 獣王国の外務大臣である冬馬が、仕事で世界都市に出向き書類を捌いていたら、帰ってきたフェメロナが開口一番に言い放った言葉がこれ↑。


 ソファの上に仰向けになって座り、猫のように身体を捻るフェメロナを見ながら冬馬は息を吐く。


「……暇になっても喧嘩売りに行くのはやめてくださいね」

「えぇ……」

「行くつもりだったのかコイツ」


 ガタンと椅子から立ち上がり、ピキピキと赤筋を立てる冬馬の事はいざ知らず、フェメロナは寝に入る。


「お昼になったら起こしてぇ………ぐぅ……」


 秒で寝たフェメロナに対し、殺意が湧いた冬馬は……


「ふん!」


 羽根ペンを取り出して顔に落書きをすることで日頃の鬱憤晴らしをするのであった………





 ◆魔都エーテルハイトにて


 急ピッチで進む復興作業を横目に、一度乗りかかった船だからという理由で冒険者パーティ『蒼穹の戦線』はお手伝い(ボランティア)として参加していた。

 特にリーダーの蓮夜と副リーダーの茜の二人が率先して働き……今は休憩していた。


「ふぅ……凄い頑張ったな」

「うん……てか、まだ足りないよね」

「う、うん……」


 この2人が必死になって働いてるのは……


「「俺達(私達)が街を派手に壊してごめんなさい……」」


 小声で懺悔する。

 戦争だから仕方ないとは言え、市街地で銃火器をぶっぱなし、天使の姿で大立ち回りをして住宅を破壊したり……


 割と洒落にならない被害を二人は出していた。


 無論、市街地戦での彼等の戦いは魔王にも伝達されているが、本人曰く『本気でやらないで死なれては困るから、気にする事はない』との事を言われたのだが、日本人である彼等は無理にでもこうやってボランティアという名の贖罪作業を行っているのだ。やりすぎたという自覚があるのだから。

 ………彼等のパーティメンバーは、まるで付き合わされている感じだが、本人達が自分も手伝うと言ってきたらしい。

 優しい仲間に恵まれている。


「……一応、俺達が暴れ回った箇所は周り終えたから……後はここだけだな」

「うん……頑張ろうね」

「だなぁ……初めての戦争で気合い入れすぎたなぁ……」

「で、でも、魔王様が言ってたみたいに出し惜しみして死んじゃうなんて、私嫌だなぁ……」

「それは同感だわ……」


 休憩を終えたら、再び二人は瓦礫の山へと走り向かい、率先して撤去を手伝うのであった。

 この作業が、この二人の関係をまた一歩近づけるのはまた別の話。





 ◆アレクの私室にて


 白と黒のタイルが敷き詰められた部屋の中で、アレクと愉快な仲間たちは寛いでいた。


「いや〜、今回もご苦労さん〜……なに?もっと温いのにしろ?………我儘だな。仕方ない」


 アレクは相棒の魔神杖ガドケウスの要望を叶え、温水で暖めた布で杖を拭いてあげていた。

 意思を持っているので布の温度に文句を言う相棒に甲斐甲斐しく世話をする。


「マジカルぅ〜?」

「ぐーるぐる〜?」

「キーラキラ…?」

「〜〜〜(歌唱)!」


 プニエル、デミエル、ウェパル、エノムルのスライムっ娘たちは某少女アニメの歌が流れるラジオを囲んで聞き入っていた。

 これは、アンテラから直接貰った子供達へのプレゼントであり……


「ぬぉ!?おぉ!!これ楽しいの!?」

「俺のゲームなのに……なんでニーファからやってるんだよぉ」


 本来ならアレクが貰ってplayするはずだったゲーム機を片手に、モンスターをハントするゲームを楽しむニーファ。

 それを横目に、魔神杖の手入れをするアレクが僻んでいた。


 そんな日常を横目に、メリアは座って部屋に備え付けられたタンスの中にアレクの服をしまう。

 綺麗に畳んだ様々な服を皺ができないように収納してからタンスを閉じて、肩を回す。


「ふぅ……」


 息を吐いて肩を回すメリアに、近くに居た……というか何故か居るアンテラとソレイユが労う。


「お疲れメリアちゃん」

「お疲れ様です〜」

「…………ありがとうございます。後なんで居るんですかお二人共……」


 何故かアレクの部屋で寛ぐ姉妹女神。


「いやー、僕は特に理由ないよ」

「私はアンテラに仕事と言われてついてきただけですけど……」

「あ……。えと、し、強いて言うならみんなと遊びに来たよ!」

「え……じゃあ戻りましょう?」

「なんでさ!?」


 メリアは久しぶりに神の存在意義を疑った。

 頭を押え天井を見つめるメリアだったが、ソレイユに引っ張られて帰りそうなアンテラを可哀想な物を見る目で見つめる。


「メリアちゃん!?そんな目で僕を見ないで!?」

「私を騙してまで遊びたいのはよくわかりました。その分ウルキナさんに伝えときますね〜」

「姉さん!?後生ですからー!?!?」


 そのまま強制退出する二人を横目に。


「なんだったんですか一体……」


 メリアの疑問は虚空に霧散するのであった。







 そして。


「あ、そうだ」


 何かを思い出したアレクが、ニーファの隣に座って話を進める。

 自分に関係あると悟ったニーファは、ゲームの手を止めて顔を傾ける。


「なんじゃ?」

「ニーファニーファ」

「うむ」


 そして、アレクは述べる。



「新婚旅行いこっか!!」



「……………え?今?」

「うん!」

「主様!?今は四堕神の対処とかで……」

「それいつ終わるよ?」

「……さぁ?」

「だから今行く!てか俺いなくても充分機能するだろ!しなくちゃおかしい!!」


 絶対にこの意見は譲らないという姿勢のアレクに、メリアは折れる。

 ふと目を向ければ、新婚旅行という言葉を何度も口ずさんで固まっているニーファが。


「…………ウブですね……」

「あ、メリアもついてきてね」

「え」

「新婚旅行とは言え、従者も連れてかなきゃね」

「は、はい……わかりました」


 こうして。

 世界が敵対する神との激突への準備を進める中。


 アレクとニーファとメリアとスライム娘たちは。

 新婚旅行へと行く手筈を整えるのであった……


「新婚旅行、行くぞー!」

「お、おー!…………で、どこ行くんじゃ?」

「それをこれから決めるんだよ」

「グダグダじゃないですか………」


やっと6章終わり……

サボりすぎました。ごめんなさい……

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