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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第六章 大迷宮とお兄様

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VS魔統神ダグロス


 人類の救世主として戦場に身を投じる勇者。

 魔族の統率者として魔王国を支配する魔王。


 両者、互いに相反する正義を掲げる者なり。


 他の世界では敵同士の英雄たちが今、たった一人の神を相手に共闘する──────





 神域《魔王の御前》、玉座付近にて。


 勇者と魔王と魔統神の死闘が始まった。


「絶技《無一天・刹那》」


 エイシンアの形見の神剣、形状剣アインシュッドの一振が魔統神へと振るわれる。

 斬り裂いた物体を虚無へと散らす剣技がダグロスを狙うが、それを難なく対応する。


「《神魔の剣》」


 暗黒魔法によって召喚された剣が手に馴染む。

 死を纏った紅い剣が刹那を切り裂く神剣が前線を切り刻み渡り合う。


「温いぞ!勇者!エインシア!──《ぶぐ──》ぬっ!?」

「させません!!」


 魔統神の魔法詠唱を阻止する為、闇夜ノ破神剣を振るいダグロスにぶつける。

 ダグロスは空いている手で掴み、血を流しながら無詠唱で剣を掴む手のひらに魔法発現。

 阻止できない速さで構築された魔法陣から衝撃波としか例えようのない一撃がユメを振動させる。


「くっ……きゃっ!!」

「お前も動きが温い!それで勝てると思うな!!」


 叱責を飛ばし、ユメを吹き飛ばす。


「《武具召喚》!!」


 再び詠唱を紡ぎ、召喚魔法陣を展開。

 そこから出現したのは、正樹の聖剣とはまた違った形を持ち光を放つ聖剣(・・)


「なっ!?」

「魔王だからといって聖剣を持たぬ理由などない」

「そんな無茶な!?」


 召喚した聖剣をユメの方に向け、手元の神魔の剣を正樹に向ける。

 それぞれに合う剣を向けて、魔統神は2対1の勝負に再び身を投じる。


「銘は《セピュノル・ノーア》。かつて異世界から喚ばれた勇者の1人が所有していたものであり……殺したら手に入った代物だ」


 寝返った聖剣と、破壊神の魔剣を手にした神に。


 勇者は怒る。


「魔王が聖剣持つのはルール違反とか駄目路線じゃないんですかっ……!!!」

「使えるのだから仕方なかろう。魔王として聖剣さえも調伏するのは悪くない話だ」

「あぁもう……ホントにこの世界は常識が通用しない箇所が多いですね!!!」


 正樹がふざけた異世界に文句をタレ述べながら形状剣の力を引き出そうとしたその時。


「《断絶刃》!」


 ユメが魔統神の背後を取り、魔力を纏わせ切断力が増した破神剣を振り下ろす。

 その一撃は並大抵の神徒なら切り殺せる威力。

 だが、相手は正真正銘の上級神である。


 魔統神は聖剣を使って肩に回し、破神剣をすんでのところで打ち留める。

 そのまま上半身を捻って聖剣を回転させ、破神剣を遠ざけるように吹き飛ばす。

 二度目の吹き飛ばしは流石に効かないと、ユメは持ち堪えてすぐ近くで低姿勢で地面に手を着くが……それが仇となる。


「《ロード・メルギオン》」 


 魔統神が一呼吸も入れずに詠唱し、聖剣セピュノル・ノーアに神気を送り込みながら強化。

 刃先をそのままユメに向ける。

 しかも、ユメはさほど離れた距離ではなく、剣が届く距離で着地した為に────


「あ」

「っ!まずい───!!」


 眼前に突き出された魔王を殺す為の聖剣。その聖気と神気の気配に飲まれつつあるユメと、本格的に技を使われる前に妨害しようとする正樹。

 しかし時すでに遅し。


「っ!《ま───……》」

「さぁ、どうなる?」


 気を取り戻し、なんとか後ろに転がり詠唱して逃げようとするユメだったが、間に合わず───……

 笑みを浮かべた魔統神の聖剣から質量を持った聖気と神気のエネルギーが放出され、ユメを飲み込みながら一直線に王座の間の床に縦線を入れる。

 それは神域に穴を開けて修復すら叶わぬ一撃を食らわせる。


「む。やり過ぎたか」


 神域は穴が空いた程度では壊れぬが、そこから穴を広げられればたまったものではない。故に開けてしまった箇所に魔力を送り、維持に力を入れる。


 そして、光の奔流が晴れた先には、縦に割れた王座の間が存在するが……そこにユメはおらず。

 影も形も存在していなかった、が。


「まさか、この程度ではあるまい──なぁ?」

「絶技────《羽々織・寄月》!!」


 正樹はユメが消えたその時も臆せず走り続け、魔統神の目の前で形状剣の絶技を行使する。

 形状剣アインシュッドの刀身が三つに折れ、各々再生して三つの神剣となる。

 正樹の手には柄がある元と同じ姿の神剣。

 正樹の両肩にそれぞれ連なる様に浮く刀身しかない神剣二本。


「ほぉ」

「せいやぁーっ!!」


 三方向からの切りつけに神魔の剣を使って対処し、時たま聖剣も振るって難を凌がれる。

 分身のような剣の為か、強度は脆く神魔の剣に一段と力を込めて振れば木っ端微塵になる。


 だが、分身形状剣の破片は宙を舞い、一つ一つが意思を持つかのように動いて飛び道具として降ってくる。


「ぬ!」

「はぁ──!!!」


 雨の如く降り注ぐ破片と真っ向から切り合う聖剣と魔剣。破片は己の聖剣で弾き飛ばす。

 そして正樹は己の聖剣を錬成して双剣の戦いへと持ち込む。


「ぐぬぬ……」

「っ!はぁ!!」


 形状剣の絶技の効果が切れ、破片が粉となって消滅する。

 その最中にも、勇者と神は斬り続ける。


「埒が明かん!!」

「ごもっとも!!」


 互いに一度遠のき離れ、呼吸を挟む。


 だが、魔統神に休みなど許されなかった。


「《魔乙女の斬夢》」


 ユメの声が響き渡り、破神剣の力が行使される。

 魔統神は声を辿って対象を探すが、視界には正樹を含めその他大勢しかおらず、ユメの姿はない。


 だが、それが致命的だった。


「ぐふっ……」


 魔統神の身体が腰元で横に切られ二つに別れる。

 居場所を思考したら最後、無条件で切断される破壊神の殺人特化技法。

 姿を現したユメは、無表情で破神剣を持ち、魔統神の前に出る。切られた魔統神の切断面から体内魔力が漏れ出て破神剣に吸収される。


「……助かりました」


 そう言って虚空を見やるユメを見て、正樹と魔統神は誰がユメを助けたのか察知する。


「《大天敵(アークエネミー)》──、か」


 此度の戦争で最もイレギュラー且つ危険度の高い少年の姿を思い浮かべる魔統神は、魔法で上半身を浮かせて、下半身と接合させる。

 接合の際には、火魔法で溶接するかのような音と煙を出して元の姿に戻る。


「凄い再生能力ですね……」

「否。聖剣の力であり我が素の能力ではない」


 裏切りの聖剣セピュノル・ノーア。

 人類の敵対者にのみ使うことを許す再生と滅びの悪なる聖剣。

 この聖剣の前代は勇者でありながら人類と決別した変わり者であり裏切り者だった。


「大丈夫ですか?」

「えぇ。お兄様のお陰です……!

 マサキ様!同時に放ちます!あわせてください!」

「わかりました!あと様付けはしなくてもいいですよ!」

「……わかりました!じゃあマサキさんも私の事様付けしないでくださいね!!」

「了解、です!ユメさん!!」


 今更と言われても仕方ないが、互いの敬称を外して2人同時に技の準備に入る。

 それを見て、魔統神も合わせて大技の詠唱を始める。


「《遥か夢の無淵源》」


 ユメは破神剣を空高く掲げて暗黒魔法を詠唱。その場に深淵の理を付与し滅びを顕現させる。

 刀身が闇に溶けて空間を歪ませ、深淵の穴をその背に広げてユメは立つ。


 柄と鍔しかない破神剣を魔統神に向けて、ユメは自身に宿る破壊神の魔力を総動員して発動する。


「ハワードさん」

「承った」


 呼び出されたハワードは影から這い上がり、深淵の穴へと身を投じる。

 同時に、深淵から虚無の権能を宿した紅く輝く刀身が出現し、破神剣の鍔に刺さる。


 上半身だけを出したハワードが、深淵の理という説明不可能な力を制御し、ユメの手に静かに破神剣を握らせる。


「名もなき神剣、今此処に貴方を葬ります」


 魔王の一品、無限に辿り着けぬ深淵の原理を手に入れたユメ。

 背に広がる深淵と、手に持つ深淵の剣が、魔王としての風格を存分に世界に教えこんでいた。


 そして。


「《神刻の聖煌創刃》────……

 そして、《天命の千流(アインシュッド)》」


 創造を司る半透明の聖剣と、千の姿を持つ形状剣の聖句を同時に唱え、合わせる。

 半透明の聖剣に纏わり付き渦を描く形状剣。


「《霊神天剣エヴァ・フォルミード》」


 今ここに、勇者の秘奥が開かれた。

 白銀の刀身を持つ形状剣アインシュッドを纏った半透明の聖煌創刃の姿は、今や計り知れぬ神気を内包した唯一無二の神剣となっていた。

 足元には剣の模様が描かれた魔法陣と、更に神代の古代文字が刻まれた魔法陣が外円として囲む。


 霊神天剣エヴァ・フォルミード。

 人類を守る為に造られ、霊体になろうとも天に召されようともその一撃は人類の為に振るわれる。

 今や、その中には魔族も含まれた。

 勇者と神徒の武器が合わさり、神造級の剣がここに誕生したのだった。



 深淵の滅びの神剣と、具現化した勇者の神剣。



 その2つと相なすのは───……


「───我は魔族を統べし大神。我が真名の名の元に真価を晒し未来ある者を選別せよ──……」


 神魔の剣が鳴動し、聖剣セピュノル・ノーアが悪に寄り添う輝きを灯す。

 魔統神の手から離れ、宙を舞い、回転する。


「我が名はダルクロス。神にして初代の名を冠する唯一無二の始まりの魔王なり───……」


 魔統神の名ではなく、敢えて魔族であった頃の名を宣言する。


「根絶せよ、明滅せよ、敬神せよ──……今此処に世界に下す王の裁きを」


 二振りの魔王の剣は踊り狂いながら、空中分解して粒子となり、そして再び手に集う。

 生まれしは、剣の鍔に王の生涯を生き写した模様が刻まれた粘土板が嵌められた、クレイモアに近い形をした一振の神剣。


「《魔王全剣ダルクロス》」


 自身の名を冠した初代魔王の神剣が顕現する。


 魔王全剣ダルクロス。

 初代魔王の生涯得た知識と経験を力に還元して魔王の名の元に全てを併合する神剣。


 《遥か夢の無淵源》《霊神天剣エヴァ・フォルミード》《魔王全剣ダルクロス》。

 三本の神造級の剣が今此処に揃う。


「勇者の奥義ここにあり!啓け───っ!!」

「深淵の理、今此処に在れ───!!!」

「我が生涯、その身で受けるが良い──!!」


 剣の魔法陣から霊神天剣の贋作が錬成され、空間を切り裂く一閃と共に神剣は初代魔王へと。

 深淵の穴から生まれし虚無の剣を振るい、距離という概念を無視し初代魔王を切り裂かんとする。

 粘土板に刻まれた文字と模様が青い光を発し、魔統神の力の殆どを乗せて振り下ろす。



 神域《魔王の御前》がかつてない程に震動する。

 それは崩壊の序曲。

 王座の間は音を立てて崩れ始め、凍った空間も燃える床も砕けた壁も全てが塵となり虚無へ還る。

 神域は完全に崩壊し、この地でしか生きられない配下達は終わりを悟った。



 一身に二つの攻撃を受けた初代魔王ダルクロスは防御の姿勢も取らずに全てを受ける。

 黒い鎧は砕け散り。強靭な肉体を晒す。


 虚無の破神剣は概念の全てを無視して一方的にダルクロスを切り刻み、力を削ぐ。

 霊神天剣の一閃と神剣の雨は初代魔王の鎧を斬り砕き、次々と肉に突き刺さる。

 魔王全剣の一振が神域に最もダメージを与え、同時に回避不可能な攻撃を二人に与え身体に深い傷を負わせる。

 ユメは神剣を持つ右腕がズタズタにされ、正樹は鎧を豆腐のように斬られ胸に深い傷を受ける。


「っ!はぁ─────!!!」

「くっ────まだまだぁ!!」

「おおおぉぉぉぉぉぉ───────!!!!」


 止まぬ攻撃、終わらぬ攻防。

 やがて本当の終わりが来て、3つの人影が地に膝をつく。


 深淵の穴は閉じ、紅い刀身も霧散し元の破神剣へと形を戻し、ユメの杖立となって身を守る。

 霊神天剣の軸たる聖煌創刃は光の粒子となり、形状剣は元の形に戻る事で霊神天剣は消える。


 魔王と勇者は満身創痍。

 費やした魔力と神気が底を着きかけ、息も絶え絶えに跳ねる鼓動を胸で押さえつける。

 ユメは右腕、正樹は胸に。深い傷を負い血を垂らすが、その瞳には戦意のみが宿っていた。

 そして、彼等は初代魔王に致命傷を与えた。


「……く、くくく……フハハハハハ!!!」


 声を上げて笑う初代魔王。

 その姿を見た全員が声を失う。


 黒い鎧が砕けた上半身。神剣が突き刺さり斬り続けた痕が血を流して世間に晒される。

 その胸の中央には、取り込んだ《心臓の天使》の核が埋め込まれていて。脈動し、根を張るように血管が浮き上がっていた。

 さながら生命装置であり……彼の命が、アレが無ければ生きられないと理解出来る。


 そして、よく目を見れば。


 《心臓の天使》の核には。

 砕けたヒビが入っていて、徐々にそこからアンデッドから奪った魔力が漏れ出ていた。


「まだ精進が足りぬが……良い。良い。認めよう、魔王ユーメリア。勇者マサキ。汝らは今の世を担うべき存在であると」


 二人を再び認め、初代魔王は未だ壊れず魔王全剣を二人に向ける。

 否、勇者と魔王の後ろには、他の面々と戦っていた仲間達の姿があって。


「しかし……認めたとしても、我らは敵。故に我が本当に最後の一撃を汝らに与えよう」


 初代魔王は魔王全剣に残りの全てを捧げる。

 己の魔力も神気も、命すらも注ぎ込む。


「我が城は唯一にして一つ。魔皇城の名をここに捧げ覇道を示せ───」


 魔王全剣の粘土板が光を放ち、初代魔王の背後に一回り小さくした魔皇城エグメニオンが幻視され。


「《ロード・エグメニオン》!!!」


 城の名を冠する最後の一撃が、魔王全剣に溜められて……その一振を無造作に振り下ろす。

 アヴァロン地下迷宮第30階層。

 今この瞬間、迷宮を維持し守る霊素皮膜結界を壊すことも出来ると確信できる一撃が。



 一同全員に放たれた───────……













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