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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第六章 大迷宮とお兄様

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VS初代魔王の家臣たち


 地下迷宮にて顕現した神域、《魔王の御前》。

 具現化せしは真の魔族と自称する3000年前の魔族の精鋭たち。

 各々が業物の武器を手に、時代の救い手となる攻略者たちの道を阻む。

 そして、各々が最後の結末を迎える戦いへ───





 ◆VS親衛隊


 親衛隊。

 魔王を守るべくして結成された誇るべき部隊。

 それが今、ミラノ、フェメロナ、メリアを襲う。


「──《天火車》」

「オラオラオラオラァ!!」

「《影絵》───《爆》!!」


 炎を纏った回転斬り、獅子の如き連続の殴り、影が地を這って爆発する。

 その全てを、親衛隊は華麗に防ぎ、時にはいなし、そして避けて対処する。


「何処ぞの王族と見るが……親衛隊を舐めるな」


 親衛隊の各員から魔力が流れ出る。その全てが、後方にて魔法陣を展開する五人に満ちる。

 それは合義(・・)と呼ばれる他者の魔力と属性を拝借し、術式展開に利用し合体させる奥義。


 今はない、かつて(・・・)の魔族が使っていた技。


「合義《魔界旋風陣》」

「合義《虚空封熱陣》」

「合義《孤氷伝陣》」

「合義《八千流刃雷陣》」

「合義《連峰突貫陣》」


 五つの猛威が三人を……余波を含めれば他の面々をも襲う。

 地を抉る死風、肉を溶かす炎、空気を凍らす冷気、全てを切り裂く雷、地形を壊す土の槍。

 その全てが三人に迫る、が────────


「《太陽の紅剣(シェメッシュ)》!!」


 ミラノが神剣たる神器の力を引き出す聖句を唱え、神剣の真の力を解放する。


 以前、ヘルアーク王国での武闘大会にて使用した未熟ながらも強い必殺剣となったこの神剣。

 アレクに敗け、己の弱さと未熟さを身をもって理解したミラノ。


 持ち前の冷静さ、優しさ、努力家……そして負けず嫌いの彼は、あの日からの鍛錬を怠らなかった。


 素振り、稽古、自主練。

 己の魔力を神剣を介して全身に循環させて魔力器官や肉体を強化し、神剣と己を結びつけ。

 一日一回、迷宮攻略前日まで聖句を唱えて神剣の状態を確かめ続けた。


 その成果が今、ここに記される。


「はっ─────……」


 静かに、一振の刃を下ろす。

 太陽の輝きを縮小した美剣が煌々と揺らぐ炎を纏いて迫る五つの合義を、焼き斬る(・・・・)


 旋風は熱を帯びて霧散し。

 より熱い炎に飲み込まれ。

 想定外の温度に溶けきり。

 雷は撃ち負けて消失する。

 形を保てず溶け泥となる。


 親衛隊の七割の魔力を賭した技が、一方的に封殺された。


「なん、だと……」

「くっ、ぎぃっ!?」


 だが、それだけでは終わらず。

 炎は止まらず、消えず。魔法を焼き切って尚、ミラノの意思にそって親衛隊へと牙を剥く。


 親衛隊の中でも、剣技に優れた者はギリギリ避けることに成功したが、後方にいた、合義を放ったばかりの魔術師五人は避ける暇なく焼き殺される。

 そして、残りの親衛隊員にも太陽の小さな神罰は迫っていき……


「凄い炎……!!」

「これが神剣の力……!!いいねぇ!後で手合わせ願いたいものだ!!」


 国際問題になるのでやめてください。

 なりふり構わず襲うのやめてください。

 王族と王族が私闘するのはやめてください。

 前例あるけどやめてください。


「……ふぅ」


 一滴の汗が頬をつたり、ミラノは神剣を鞘にしまう。

 炎が通った後は、床が熔けて何も残らず。

 未だに熱気はそこにあり、熱々とした湯気が立ち上る。


 そして、親衛隊は息をする暇も与えられずに焼け死んでいた。


「聖句唱えたら、三分は使えないから、後はよろしくね?」

「そう言うの早く言ってください!?」

「出番無いだとぉ!?」


 神剣を使った反動で、体中に熱が回り、戦闘に支障をきたす程に肉体が熱され蝕まれる。

 それが収まるまでに三分。

 神剣の聖句を解き放った対価にしては安いもの。

 しかし、この対価こそ、神剣の真価を行使した証拠なのである。


 結論を述べるなら、親衛隊はミラノ一人の手で焼滅してしまった。


 だがしかし。


 それでは終わらなかった。


「っ!?」

「なに?」

「……そう来たか」


 立ち上がる黒焦、溶けた身体。

 暗黒の魔素が集まり肉体を再構築、修復して先程と変わらぬ姿に戻った……親衛隊、全員。


「我ら不死身。貴様が神の加護で弱き我らを殺そうが何しようが……我らは立ち上がる。陛下への忠誠心を持って!!」


 神域《魔王の御前》の効果が発揮されたのだ。


「ちっ───ミラノ様!三分でしたね!?」

「よーしっ!!出番あった!戦えるぅ〜〜〜!!」

「うん、二人共任せたよ」


 ミラノは後ろに下がり、残り三分、耐え忍ぶ。

 そして、発狂の如く喜び駆けるフェメロナと、慌てる心を抑えて走るメリアが親衛隊を迎え撃つ。


「《限定転身》───《四器武陣》!!」


 四肢を獣へと変え、獅子の棘毛が逆立ち鋭い武器となる。

 そのままフェメロナは駆け、盾で防ごうとした親衛隊員を盾ごと切り裂き首を狩る。

 だが、狩った先から治って立ち上がる。


「《ダークカーテン》」


 兎の獣人特有の跳躍力を活かして高々と王座の間の天井へと手を伸ばし、魔法を発動。

 闇の帳がおり、親衛隊を闇に覆う。


「っ!闇魔法か!」

「背中を合わせろ!隙を無くせ!」

「無駄です」

「っ!?」


 闇の中、得意の連携を活かす親衛隊だったが、メリアが無造作に轟砕の爆戦棍を地面に振り下ろす。

 爆発、爆砕、爆殺。

 足元から吹き出る破壊の火と風に身を焼かれ、吹き飛ばされる親衛隊。

 しかし、再び蘇り立ち上がる親衛隊。


「……無駄なのは、此方もですね」


 如何に訓練された親衛隊と言えども、魔皇四将のような幹部格になれなかった格下。

 そんな彼等が、父王を目指して高みを目指す獅子乙女と、己より強い神徒を倒した従者に勝てる理由など存在しない……のだが。

 二人の獣人によって圧倒される親衛隊。

 だが、殺した先から復活して恐れずに特攻してくる親衛隊たち。

 死ぬ度に、蘇る度に対処法を編み出して二人の攻撃に慣れ始める。


「くっ!死に戻りがこんなに厄介だとは!!」

「いいぞ親衛隊!!こうでなくてはなぁ!!」


 だとしても、対処を熟すメリアとフェメロナは無傷とは言えないが親衛隊をまた殺す。殺す。殺して蘇らせて殺す。


 それを見て、ミラノは。


「獣人って怖いなぁ……武力的に」


 今ここに偏見が生まれたのであった。







 ◆VS銀水の神徒メノウ


 流れる銀流。

 襲われる神の御業を軽々避けるアレクは、水に掻き消されない氷の礫を放ち牽制しながら、常に周囲に視線を配って観察していた。


 相手たるメノウも、目の前にいる敵が自分だけでなく周囲にも注意していて、余所見しやがってと頭にくるが、あえて言葉には出さない。

 アレク=ルノワールがどういう人物か、短期間ではあるが理解しているがため。


「なぁ、あの合義って……」

「……言ってやるな。親衛隊が独自に編み出した技だが、根本的には合体魔法とかそこら辺と変わらん……弱者なりに知恵を振り絞ったのだ」

「辛辣ぅ……悲しい世界だなぁ」


 親衛隊の合義(笑)の雑談を噛ましている間に、アレクは思考を纏める。


「……んー、試すか」


 思い至ったら即行動。

 アレクはメモ帳を取り出し、ペンを走らせ、異空間の穴へと放り捨てる。


「俺にとって初めて出会った神徒であるお前に敬意を表そう!」

「貴様のその言い方、嫌な気がしてならんのだが!?」

「そーゆーなよ。地味にお前が初だし」

「語弊を招く言い方はやめろ」


 初めての出会いは魔界祭。

 魔統神に送られる魔力を増やす為にわざわざ出向いた彼と交戦したのが初めての神徒戦。

 その事を思い出しながら、二人は動く。


「ユメを誑かしたお前を許さない!」

「任務だ!致し方なかろう!というか、アレは我の力ではなく杖の力だ!!知ってるだろう!?」


 軽く文句を垂れ流し、同時に魔法詠唱。


「《魔水蛇》!」

「《寒燈吹雪》!!」


 銀色の水の蛇が杖から無数に出現。

 アレクの前に展開された魔法陣から吹雪が吹き荒れて水蛇を凍らせる。

 それは、水にしては有り得ないスピードで。


 そして、視界は吹雪で隠れ、両者の前に壁が出来上がり、お互いを視認できなくする。


「やっぱりね?」


 表情筋が動いて居ないのも関わらず、笑い声を出すアレク。声を聞いたメノウは口を歪める。


「なーんで今まで使わなかったんだろうな?」


 そう言いながら、アレクの口は動く。

 同時に、吹雪が晴れ、此方を睨みつけるメノウと目が合う。

 その顔は、極限にまで表情を切り捨てたような印象をメノウに受けさせた。


「お前の銀水は、普通の水に自身の魔力と神気を練り込んで作ったオリジナル!ただの水より威力はあるが、冷気にはとことん弱い!!」


 メノウの銀水は、真水と比べて重く、硬い。

 たった一滴で石礫が急所に当たるのと同等のダメージを与える。

 そして、彼が聖水をも操れるのは彼が神職者でありあの錫杖そのものから形質変化させた聖水を生成できたから。


 確信を持ったアレクは、言いながら、詠唱。


「…《アイス・バーン(・・・・・・・)》」


 周囲に展開された魔法陣から、氷の塊が射出。

 全てがメノウを襲い、メノウが銀水で対処する寸前で止まり、爆発する。

 だが、銀水で防がれた為に対したダメージにならない。


「違う?」

「……いや別に、冷たいのが嫌いなのでは無い。昔、陛下の御息女が雪山に遭難したから救助に行ったら我も遭難して一人寂しく雪山を彷徨った事があるだけだ」

「トラウマじゃねぇか」

「あと、御息女は知らぬ内に城に帰ってた」

「……なんかごめんな?」

「同情するなぁ!!!」


 自暴自棄になったメノウは、やけくそに叫ぶ。


「どうせ勝っても負けても貴様と戦いのは最後!!

 ならば冥土の土産に我が能力の真髄を───」


 と、言いかけている間に。

 メノウは異変に気づく。気づいてしまう。


「─────貴様、誰だ?」


 不事前な箇所はいくつもあった。

 だが、気付くのに遅れた。


 動かない表情。先程よりも少し低い身長。

 別地点から此方に言っているような声の響き方。

 微妙に声と合わぬ口の動き。


 そして、魔法の詠唱。


「…バレた」


 自身が偽者であることをバラしながら、少年の姿をした魔女(・・)は決着をつける。

 メノウは、突発的だったが為に、回避行動もろくに取れず彼女の術中に嵌る。


「…《完全なる絶対零度(アヴソリュート・ゼロ)》」


 死の世界。

 氷の禁術。

 神域の一部が一瞬にして凍りつき……メノウの攻撃の要である錫杖が根元まで凍りつき、壊れる。

 ヒビが入り、錫杖の先端にある宝珠が割れて中身の水が溢れるが、すぐさま凍りつく。


 空気が、大地が、血肉が、魔素が、凍死する。


 メノウの身体は氷で拘束……否、封印されていた。

 下半身は氷の山に埋まり、上半身も胸と顔しか出ておらず、両腕は氷で隠されてしまう。


「───なんという、氷の境地……」

「…出力も弱めた。だからこの程度で済んでる」


 幼子の声で喋り、自らにかけられた幻術を剥ぎ取り姿を現したのは………氷心の魔女マール。

 アレクと同じ軍服に常闇の黒衣を羽織っていた姿から一変し、可愛らしい魔法使いのローブに戻る。

 腕には、防寒対策のクロエラ印の魔導具腕輪が取り付けられている。


「……入れ替わっていたのか」

「…ん」

「そうその通り、有効打だと予測して呼び出した。ありがとう、流石会長」

「…ん」


 アレクの声だけが、メノウとマールに聞こえる。

 本体は何処にあるのか、検討もつかない。


「……策略負けか」

「ん?直接対決しないで巫山戯るなとか言うと思ったんだが……」

「貴様、我をどう思ってるのだ……?

 ……魔界祭、魔都占領時、魔皇城、そして神域……四度に渡って負けては、何も言えん」

「うち1つはメリアだけどな」

「貴様の従者であろう?ならば主たる貴様の勝利という扱いになるだろう」

「ふーん」


 既に会話の蚊帳の外にいるマールは、メノウを封じる氷の強度を維持する事に専念していた。


 先程、アレクが書いたメモ帳。

 そこには、マールに自身と同じ姿に見える様な幻術をかけ、暫し偽者を演じてほしいと。

 会話は遠隔でやるから無言でも構わないとのフォロー。

 殺さず生かし、封じ込みを維持しろとの命令。


 要約すれば、こんな感じの事を書いたメモ。

 異空間を通して王座の間の入り口から動かず戦場を把握していたマールに投げ渡し、吹雪を引き起こしたタイミングで転移で引き寄せ代行を任せたのだ。


 身長や声までは完全に誤魔化せないので、基本的に無口であり、自身よりも少し低い身長のマールを選んだのは普通である。


 彼を封じ込めるのは、この神域について大まかな内容を把握したニーファから念話で聞き取り、自身でも解析して把握したから。

 神域内では神の家臣は死なない。殺しても復活する。

 なら、封じ込めればいい。


「……申し訳ありません、陛下」


 会話と首を振る、瞬きする以外の行動全てを封じられた状態で、天井を仰ぎ見る。

 その姿は、形容しがたい悲しみを漂わせていた。


「…暇なら、話し相手ぐらいにはなる」

「………そうか」


 コミュ障ぼっちのマールが、暇で可哀想だから自ら話し相手になることを宣言してあげて。

 マールのことをよく知らないメノウも、自身を凍らせた彼女に陛下自慢して嫌がらせしようと思う。


 その姿を、何処からかアレクは見ていて────


(うちのコミュ障ぼっち会長が………自ら会話を、だと…………飛躍的な成長を遂げている!?!?)


 凄い失礼だった。


 ………余談だが、アレクはまだ味方にかけた強化魔法を解いていない。

 マールに戦場を譲ったのも、あまり派手に暴れて強化魔法が解けたら悲惨な事になりそうだから。

 まぁ、メノウの攻撃を避けたり対処する程度には暴れられると本人も理解出来たので、今回の戦闘は良き収穫となったのではないだろうか。





 ◆VS変態紳士将軍×2


 神軍の将軍。

 左翼、急進派のトップ。エフェボフィリア。

 右翼、保守派のトップ。ペドフィリア。


 この二人によって神軍は編成され、同時に他の将軍も難のある性格の二人を支えて成り立つ。

 左翼右翼と言ってるが、ここでは関係ないので割愛する。


 そう、この二人は基本的に意見が食い違う。

 ただ一つを除いて。


 それは────────────


「猫耳幼女たん、はぁはぁ……じゅるり」

「おい、気持ちは分かるがメインディッシュの前に周りのババァを殺るぞ」

「デュフデュフフ。よーし、拙者張り切るでござるよーー!!死ねババァ!!」


 生粋のロリコンなのである。

 そして、それ以外には辛辣なのである。


 エフェボフィリアの槍も、ペドフィリアの双剣も途轍もない業物という訳では無い。

 使い古され精錬された武具は彼等の手に滲んでおり、勇者パーティと言えども苦戦する。


 ばずだった。


「《七色元素の自然摂理セブン・エレメント・ニンフ》」


 シリシカが火、水、風、土、光、闇の6大精霊の魔力を借り、その力を自身の精霊魔法の魔力で統合させた七属性の精霊魔法の境地。

一つとなった精霊のエネルギーが二人を容赦なく襲い、武具を砕きながら壁まで押し飛ばし、その衝撃で神域が振動しヒビが入る。

 そして、エネルギーが通った跡は植物が生い茂り、緑の一本道が生まれていた。


「ぬわっ!?」

「なんと!?」


 自慢の武器が見る影もないほどに壊され、目先にいるエルフに戦々恐々する将軍。


「……もし、大精霊の力を借りたら……想像したくもないわね」


 先程の精霊魔法は中級精霊六体の力を借りた。

 自然の摂理に沿った力であり、緑を生やし、枯れ地を癒し、自然に仇なす悪を滅殺する。


「ぐっ、くそ……アレが精霊魔法とやらか!」


 心は折れていないペドフィリアが立ち上がろうとするが、追撃の魔法で打ち倒される。


「《クリム・デススター》」


 記憶に新しい攻撃魔法とは言い難いクレハの攻撃魔法。

 唐辛子より数万倍辛いデススターアイズの粉塵がペドフィリアを……巻き添いでエフェボフィリアを手早く地獄に落とす。


「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??!??」」


 意図も容易く行わられるえげつない行為。


 目にも鼻にも舌にも喉奥にも。

 肺にも侵入した殺人香辛料が二人を襲う。


「ぐ、ぐるじぃ……たすげて幼女たん………」

「げほっ、げっ……がはっ!?ごほっ!?」


 神域内で復活した魔統神の配下は死ねない。

 それを知らぬクレハ達であったが、この不死の影響が今の2人にとっての地獄であった。


 苦しげにのたうち回る二人。息をすると苦しさが増す二人を見て、犯人たるクレハは満面の笑みで微笑む。


「誰がババアですって????」


 自業自得であった。


 そして、苦しむエフェボフィリアの首元にナイフを突きつけたミュニク。


「ミュニクさん!その2人、殺さず縛ってください!」

「はーい、なのです!」


 エフェボフィリアを縄できつく縛る。

 その次にペドフィリアも縛って……二人仲良く柱に括り付ける。


「お疲れ様ですお二人共……」


 援護に徹したソフィアも集まって、その場は華やかな女子の雰囲気となる。

 先程の指示は、遠目で復活した親衛隊を見た故の判断であり、殺しても無駄だと理解したから。

 瞬時に把握し理解したソフィアの頭の回転力にも目を見張るものがあった。


「にしても、凄かったわね、あの精霊魔法」

「凄かったのです!」

「えぇ……でも、その分疲労が凄いのよ、これ」

「あ、この二人、どうします?」


 戦意を削がれた二人を見て、四人は黙って頷く。


「「「視界にも入れたくない」」」

「なのです」


 ロリコンは罪であるか。

 否。

 うら若い年頃の女の子を自分の趣味嗜好に合わないからってババァ呼ばわりしたのが悪い。


 普段温厚なソフィアも、これにはにっこり。

 舐め回されそうになったミュニクは、鳥肌が立ったが実害はなかった為にあんまり気にしてない。


 勇者の頼れる少女達は、変態紳士将軍共が気を取り戻して拘束から逃れるのを防ぐ為に、見張りをすることを決めたのであった。

 同時に、自分たちが信頼する男の勝利を願って。





 ◆VS破砕の神徒ガムサルム



 そのころ。

 神竜ニールファリスと神徒ガムサルム。

 両陣営の最強格が派手に暴れていた。


「お主の攻撃も当たらなければ怖くなどない」

「ぐぬぬ……否定出来ねぇから何も言えねぇ!!」


 己の能力を引き出す《不動神拳》を拳に嵌めたガムサルムと、無手のニーファ。

 殴りつけた箇所から崩壊が伝播する戦場で長く続く持久戦。

 神域化している地面にヒビが入り、神域そのものにダメージを与える。

 それは自身の身をも危うくさせる神徒と神竜の攻防戦。


「《空現鬼券(からげんきけん)》!!」


 何も無い空間、それこそ空気しかない空間を溜めてから殴り……自身の権能を上乗せした空気の塊を押し出す。

 破壊の権能を宿した圧縮弾が一発……否、立て続けに六発放たれる。


「おらぁ!!」

「ふむ」


 自身よりも大きな空気圧縮弾を、ニーファは一度飛び避けてから……その弾幕の中に飛び込む。

 ガムサルムの方へと直進して、迫り来る空気圧縮弾をものともせずに突き進む。


「なんたと!?」


 これにはガムサルムも驚いて。


「なに気にするな。神竜の力、知る必要など無い」


 空気圧縮弾の全てを無効化したニーファの拳が一発、ガムサルムの顔面にヒットし……粉砕する。

 飛び散る血肉、割れる頭骨、こぼれ落ちる臓器。


 呆気なく死んだガムサルムだったが、わかっている通り再生して復活する。


「やはり殴り放題ではないか」

「ちっ………お前とこの神域、相性悪すぎるな」

「じゃろう?神域と言っても万能ではないからの。イレギュラー、問題点、欠点など探せば見つかる」


 ニーファが空気圧縮弾を無効化したのは、魔力感知で迫る空気弾を選別して空間魔法で弾幕を転移させ自身の目の前から消すだけの方法。

 転移した空気弾は、神域の端の壁に激突するように仕向けて、ガムサルムの権能を利用して破壊を促す。


 説明されずとも、少しばかり脆くなった神域を見てガムサルムは舌を巻く。


「やり手だな……こりゃ勝てねぇわ」

「なんじゃ。奥の手とかは無いのか?」

「おう。残念ながら無いぞ」

「……なんじゃと?」


 あっけらかんと笑うガムサルムに疑念の目を向けるニーファ。

 そして、躊躇うことなく口を開く。


「この神域で具現化した俺は、この迷宮で死ぬ直前の四肢五体万全の俺だ。別に一番性能がいい年代、つまり全盛期の身体を具現化したわけじゃねぇ」

「つまり?」

「俺、三千年前に腕2本切られて再生出来ないように強く焼かれてな!全力出せなくなってしまった!ハッハッハッハッハッ!!!」

「………………ん?まて、まて、待て。お主、四本腕だったのか?」

「そうだぞ」

「…………なるほど。言われてるにしては弱いと思ったわ。弱体化しとったのか……」


 衝撃の真実。

 現に、上着を脱ぎ捨てて上半身を見せつけるガムサルムの両腕の脇の下に、切断面が存在していた。

 焼かれている切断面は、痛々しく、歴戦の証拠でもあった。

 そこに確かに、腕があったのである。


「あの小娘は実に素晴らしかった。人族でありながら自軍を撤退させる為だけに我に挑み、我の腕を2本奪って生き延びたのだからな!!いやはや、今思い出してもいい女だった!」

「勇猛な雌がいたもんじゃな」

「昔っから《五英雄》だなんて呼ばれてたが……今じゃ神聖視されてるじゃねぇか。敵だが嬉しいと思ったのは事実だぞ?」

「代わりもんじゃなぁ……」


 ガムサルムの腕事情と三千年前に四堕神と死闘を演じた中心的英雄達の話を聴きながら、仕切り直す。


「まったく!世の女はみな強い!実にいい!」

「根っからの戦闘狂はこれだから困る……安心せい。好きなだけ死なせてやる」


 この二人が暴れるだけで、神域にかかる負担は凄まじい。

 ニーファがどれだけガムサルムの攻撃を神域に与えさせるて崩壊に導く事によって、これからの戦況は大きく変わる。


 だが、そんなことをニーファはおもってもいなかった。


(勇者と魔王が手を組む……さながらあーるぴーじーの有り得ない世界線じゃの)


 アレクが借りてきた始まりの伝説ゲームをplayさせられて異世界では不必要な知識が増えているニーファは、そんな思考を抱くのであった。





 そして、この不毛な戦いは。

 二人の相反するトップ格の英雄たちの出来次第で変わるのであった─────……




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