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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第六章 大迷宮とお兄様

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魔王の御前



 魔統神ダグロス。

 かつての名はダルクロス=ルノワール。

 動乱の時代を平定した魔族の最初の王であり、建国後に外界の神に勝利し行方を眩ませた男。

 魔族至上主義であった男は、天の父によって神の座を与えられ魔族を統率する神となった。


 魔族のみが暮らす世界を築き上げるため、魔族を扇動して世界へと宣戦布告し、堕神と呼ばれた。

 当時の英雄の一人……自身の息子とその仲間達に倒され、封印されてから三千年。


 かつての部下は皆命を捨て、そこに残るは最後の玉座のみ。


 見据える。

 覚醒した自身の余生を。残りの時間を。


 その全てを─────


 目の前にいる未来を担う後継者たちに。













「──此処は王城にして戦場に在らず。

 我が王道を阻む不届き者へ制裁を与える場なり。

 傾聴せよ!顕現せよ!勝鬨を上げよ!


 神域顕現《魔王の御前》!!!」


 詠唱と共に、魔統神の《神域》が顕現する。

 膨大な神気がボス部屋を満たし、アレクの劣った神域を上書きする。

 銀の結晶は砕け散り、白亜の床は染められる。

 同時に、魔統神以外の攻略者達が全員、入り口の方に強制転移させられる。


 顕現したのは王座の間。

 黒い壁、黒い床、豪華絢爛な宝石の装飾、敷かれたレッドカーペットの奥に瞬間移動した魔統神。

 そして、レッドカーペットを挟むように召喚され、方膝立ちで平伏する魔族の精鋭たち。

 その顔は、どれも戦争で見覚えのある連中で。


 王座の間の入り口に戻された彼等から見れば、さながら魔王に挑む勇者達のような感覚に陥る。

 そして、想像を超えた空間の書き換えを目の辺りにして驚愕に息を呑み、一人は己以上に凄まじい神域を見せられて歯を軋ませる。


「さぁ始めよう。魔界戦争の終止符を打つ戦いを」


 火蓋は再び落とされ────


 魔統神との最後の戦いが幕を上げた。









「くあーっ!わかってたけど実際にやられると確実な劣等感を与えられてヤダな神域って!」

「呑気に言っとる場合じゃないと思うがのぉ…」


 はい、どーも!

 みんなの命を守る為に神域展開してたけど、魔統神の方が数段階上の神域を見せつけてくれちゃって上書きされちゃったアレクちゃんだよ!!


 絶賛、魔統神が呼び出した魔族達と睨み合い中。


 魔皇四将、親衛隊、軍大将の強者たち。


 ……自分に忠誠を誓って散ってた配下を喚び出すとかそんな感じの神域か?

 ちょっと時間をかけなきゃ今の俺には分からなんな。


 でも、疑問がひとつ。


「魔皇四将足らなくね?」


 メノウ、エインシア、バイオン、ガムサルムの四人で構成された四天王ポジの幹部、魔皇四将。

 だと言うのに、ここに居るのはメノウとガムサルムのみ。


 その問いに、魔統神は素直に答えた。


「我が元に魂が帰らぬ限り、この場にて具現化はされぬからな……」


 つまり、エインシアとバイオンの魂は魔統神の所に行かずにどっか行ったから、その、具現化とやらができないと。

 どうでもいいけど、どこ行ったんだろ。


「魔統神ダグロス。僕から一つ良いですか」


 正樹……?

 何故か正樹が、魔統神に言葉を投げる。その手にはエインシアの武器であった形状剣アインシュッドが握られていた。


「……そうか、そういうことか」

「はい」

「……最早何も言わぬ。精進せよ」


 目を瞑り、何かに浸る魔統神。


「……おい、どゆこと?」

「すごく言いたく無いことなんですけど……」


 正樹は、手に握る神剣を睨む。


「……この剣に、彼女の魂が……憑依って言うんですかね?まぁ、入っちゃってるんですよ」

「マジかよ」

「だから、偶に話しかけてくるんですよね……」


 つまり?

 エインシアを倒した正樹は、当の本人から神剣を讓渡されたけど、それにエインシアの魂があるってこと?なにそれ、アイツそんなことできたっけ?

 てか、それを聞いた正樹の女連中の目が鋭くなった。あれだ。新たらしく(恋敵)が増えた的な目で。

 ……既に死んでる子が恋敵になる事は無いだろ。


「すまんが、我が直接戦うのは、魔王ユーメリアと勇者マサキの二人だ。他の者は我が配下と戦い……いや、勝利できたのなら此方に来るが良い」


 挑発的に言った魔統神を合図に……蘇った配下達がいっせいに此方に走ってきた!


「……よーし、メノウは俺がやる。ニーファはガムサルムやれ。あいつ危険」

「わかった」

「他の皆はそれ以外、好きなだけ狩れ!」

「じゃあ僕は……行きましょうか、ユメさん」

「はい。お呼ばれしましたしね」


 正樹とユメが、連れ立ってレッドカーペットを歩く。


「マサキ様、ご武運を!」

「こっちは任せるにゃ!」

「ユメちゃんの足引っ張るんじゃないわよ!」

「がんばって」

「……あぁ!!」


 仲間からの声援を胸に、正樹は歩く。


「……今この場で危険なの、お前と正樹とニーファだから。頑張って勝てよ」

「はい!」


 ユメにも激励を送ると、ニーファが突っかかってきた。


「おい待て、何故か我も含まれてないか?」

「んー、勝てるだろうけど……能力的に危険じゃん?」

「ふん。任せよ」

「あいよー」


 自信ありげ。というか神竜が神徒ごときに負けるわけないわな。

 間違った心配だった。後で謝ろう。


「さーて、お久。メノウ」

「……あぁ。久しぶりだな」


 お怒りモードのメノウが銀水を撒き散らしながら歩き寄ってくる。


「ホントに死んでたんだな」

「然り。我が命、枯れ果てたと言えどここにあり。陛下が行く道こそ、我らが行く覇道なのだ!」

「ふーん。じゃあ、始めようか」


 俺は獄紋刀を片手に持ち、切っ先を向ける。


「もっぺん死ねや」

「今度こそ引導を渡す!!」


 銀水の神徒メノウ。

 具現化された彼の魂と、再びぶつかり合う……!!





 ◆ニーファ


 ふむ。確かに、アレクが心配するのもよく分かる。

 目の前に走ってきた男は、一度死んだにも関わらず我の前にやってきた。


「はっはー!どうやらお前と殺れる機会が出来たようだなぁ!神竜!!!」

「そうじゃのぉ……完膚無きまでに叩き潰してくれるわ」


 破砕の神徒ガムサルム。


 かつて仕えていた魂と言えども、これが自身の元に吸い寄せた魂の情報を具現化させる神域か。

 この神域が崩れれば、こやつらも消滅するが……


「この神域の中では、お主ら真に不死身じゃな?」

「ソイツはお楽しみってやつだァ!!」


 我は神竜。神域の一つや二つ、見てきたしそこで争いも行った経験など無数にある。

 この手の具現化神域は初めてじゃがの。


 さーて。

 ユメとマサキ、さっさと蹴りをつけんと終わらぬわけじゃから……


「潰し放題というわけか」


 ニヤリと笑い、互いに笑い、好戦的な我らは激突する。


「死ねぇ!神竜ニールファリス!!」

「何度でも殺してくれるわ!破砕!!!」


 久方ぶりに大立ち回りでもするかのぉ……








 その頃、勇者パーティ。


「デュフ、デュフフ。幼女でござる。拙者が猫耳幼女を愛でるでござるよ!」

「やめんかアホめ!俺が愛でるに決まっとるじゃろ!」


 ミュニクが、老兵二人に近づかれていた。


「おっと、名乗っておりませんでしたな」

「これは失敬、今すぐ名乗ろう」


 慇懃無礼にお辞儀をする二人は名乗る。


「拙者の名はエフェボフィリア!座右の銘は『YESロリータNOタッチ』!!」

「俺はペドフィリア。神軍の将軍の一角を担う者」


 性格には難があるが、神軍の将軍を務める二人の老兵が武器を手にする。

 が。


「おい、貴様はそこのババァでもやってろ。拙者はそこの猫耳幼女たんを愛でる」

「あぁん?殺すぞてめぇ」


 言い争いを始めた二人に、怒りの炎が二つ襲う。


「「っ!!」」


 器用に避けた二人に向けて炎を放ったのは、二人。


「あらあら、うちのミュニクにようかしら?変態」

「誰がババァなのか、ハッキリさせましょうか」


 勇者パーティの火力、クレハと、精霊を操り戦場を撹乱するシリシカ。


「三人とも、慈悲などかけずにやっちゃってください!!」


 聖女らしくない発言をしたソフィアは、変態を前に容赦しないようだ。

 その発言通り、先の下層探索で使用した強化魔法に少し色をつけて付与したのだ。


「ちっ……しくじんなよ」

「誰にものを言う」


 エフェボフィリアは槍を、ペドフィリアは双剣でもって。


「「いざ尋常に、勝負ぅーーー!!!!」」


 かつて、スライム三姉妹に敗北した歴戦の将軍が勇者パーティに突撃したのだった。









「うーん、てことは私達三人は親衛隊かな」

「だな!全員いい面構えだ!」

「…………そうですね」


 ミラノ、フェメロナ、メリアは素早く近づいてくる親衛隊に各々の武器を向ける。


「どうしたんだい?メリアさん」

「いえ……何も」


 殺し損ねた、否、殺すのを躊躇った男が再び主君に歯向かう姿を見て。


「ご武運を。主様」


 ただ1つ言葉を添えて。


 三人は親衛隊の中へと飛び込んで行った。










「まだ挨拶をしていませんでしたね。

 初めまして、勇者をやっている正樹と言います」

「うむ。今代の勇者とも交えれるとは我は幸せであるな」


 律儀に挨拶した正樹を見ながら、王座から立ち上がる魔統神。


「宣戦布告はとうに終えた。始めようか、魔王と勇者よ」

「行きますよ、マサキ様」

「はい!行きましょう!!」


 勇者と魔王が直接、手を取り合って。

 かつての栄華を誇る神を相手とる。


「……エインシアよ、戻れとは言わぬ。だが、お主の剣で我を打倒できると思うのならば……その男に全てを委ね、刃向かってくることを赦す」


 その発言に、神剣が震える。


「……えぇ。魔統神。貴方の配下から伝言です。

 『まず1つ、謝罪を。そして、陛下に仕えられた事へ感謝を。故に、全身全霊を持って、我が剣、貴方の期待に答えましょう』との事です。……喋れないのは厄介なものですね」

「……ふん。期待を裏切るなよ、勇者」


 未だ意識だけはある配下に激励を飛ばした魔統神は両手に魔法陣を浮かべて動き出す。


「魔王ユメ、汝の信念を我に見せよ。

 勇者マサキ、汝の武勇を我に轟かせよ!」


 二人の英雄が、堕ちた神へと。

 かつての意志は折れ、自身は試練の壁となることを選んだ神へと挑みかかる─────────














 神域顕現、《魔王の御前》。


 自身と共に道を歩み、忠誠を誓い続けた配下達。

 死んだ後に、自身の元に吸い寄せた魂の情報を具現化させて再び戦場に立たせる。

 しかし、制約として具現化される本人の意思が優先され、拒絶すれば神域内に顕現しない。

 故に、忠誠を誓い続けていても、魂が魔統神の元へ帰って来ていなければ不可能。


 バイオンは旧友ヘイディーズ・エンドの手に魂を握られており、帰還せず。

 エインシアは、相棒たる神剣に意図せず吸い込まれ、魂を勇者に預けてしまった。


 そして。

 この神域が破壊、崩壊されるまで。


 具現化された配下は神域が存在している限り、不死身となる。



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