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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第六章 大迷宮とお兄様

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奪う生命、守る領域


 下層の序盤では多くの強いアンデッドと遭遇し、死闘を演じ、時には一方的に虐殺した攻略者達。


 23、24、25……と階層を下っていく速さは、誰もがおかしいと感じ、当の本人達も疑問を隠せていなかった。


 敵の数が少ない。


 遭遇しても、何かから逃げるように息を荒らげ、此方には見向きもせずに走り去っていく。

 偶に、そこをどぉけぇ!といった勢いで攻撃を仕掛けてくる輩もいたが、あっさり一掃された。


「……アンデッドが恐れる何かが、奥にいる?」


 ユメの疑念は最もで。


「魔物共を奥で煮詰めて蠱毒ステージでも作ってるのか……それとも、それ以上の何かヤバイのがいるのか。イヤだなぁ……」


 弱音を吐く正樹の脇を、クレハがどついて気を抜かせないようにする。


「……アレク、何かわかったかの?」


 今も尚、アレクの強化魔法は切らずに持続させている。ソフィアの強化は本人の魔力量的にも解除してあるが。


 この維持の為にアレクは戦闘に参加できないが、探索、探知の魔法は行使できる。

 集中力と空間把握能力などが求められる技法であるため、同時並行など常人には難しい。

 だが、アレクは神化と自己強化によってそれを克服している……色々と問題はあるのだが。


「…………ヤバいな」


 ニーファの質問に答えたアレクは、冷や汗を流しながら前を見据える。


「なるほどね……そりゃ逃げるわ」


 そう言いながら、アレクは全ての魔法を解除する。


「っ?どうしたんじゃアレク」

「まぁ見てろ……お前ら動くなよ!死ぬぞ!」


 やけに危機迫ったアレクの声に、皆息を飲み頷き、足に力を入れる。


「………っ!詠唱省略!《神域顕現》!!!」


 何かの気配に気づいたアレクが己が持つ力を展開する。


 暗い石の迷宮の景色が、アレクを中心に一変する。


 壁や床、天井は白色に染まって、銀色の結晶が至る所から伸び始める。

 パーティの全員を包む少し冷たさを感じる光が、驚異から守ってくれていると察しがつく。


 そして。


「っ!」


 全員の身を襲う、また別の寒気。


 それは一瞬で通り過ぎ……よく見れば、通路一面に紫の光の帯が一気に通り過ぎたのが視界に入る。


「……今のは?」

「生命エネルギーとかそーゆー生命活動に大事な力を奪って自分のモノに還元させるヤバイ光」

『それボクが調べたんだよ!』

『…ん、すごいすごい』


 アンデッドが逃げていた理由。

 それは、先程の紫の光だった。


『アレク君の探索魔法のデータを数値化した結果をそのまま伝えるね』

「は?……お前いつのまにそんなことしてたの?」

『え?ダンジョン入ってからずっとだけど』

「あ、そう………うん、続けていいよ」


 アレクは最早諦めた。


『んとね。まずあの光は魔法の類じゃない』

「「「は?」」」

『いやー、これが分かったのはアレク君のおかげだよ〜』

「え、俺何かした?」

『廊下に君の髪の毛落ちてたから解析してみた☆』

「研究室から出るなって言ったんだけど……?」

『ちょ、そんな怒気を膨らませないで!?ごめんって!でもおかげでわかったんだよ!』


 クロエラは謝り倒しながら、進言する。


『あの光、どうも神気の成分が高くてね……神様とかそっちの類の攻撃かなって』

「んあー……魔統神も直々に攻撃してきたのか?」

『いや、それは無いと思う。だって、ユメくんがその神様と戦った場所の魔力痕とか調べてたんだけど……』

「今そこ、立ち入り禁止なんですけど……?お兄様、この人ホントに大丈夫なんですか?」

「何かやらかしたら俺がなんとかする」

『え、立ち入り禁止……?……………まぁ、検証には法を破る事も時には必要だよ』

「「常に破ってね?」」


 アレクと正樹の声がハモった。


 どうやらアレクの髪の毛を勝手に解析して神気という存在について理解し、アレクの探索魔法に介入してその気配を辿ったらしい。

 やることなすことおかしい。


『と、取り敢えず。全く別の神様が関わってるのか……神気を宿す敵がボスとして居るか、の2択だとボクは思うんだけど……どう?』


 その回答に。


「まぁ、妥当だな……一番、嫌なのは敵側である四堕神が仲良く共闘して迷宮奥で待ってるってのだ」


 アンデッドが恐れる紫の光。

 死者である奴等が地上で活動する為の魔石に宿ったエネルギーを奪っていく光である。

 屍肉と骨と怨念を纏う魔石の内臓量がゼロになれば、アンデッドは強制的に死ぬ。

 それを本能的に察したこの下層のアンデッド達は下層の中でも上の方に集まっていたのだろう。


 そして、これはアンデッドだけに当て嵌るものでは無い。


『もしアレク君が……その神域?ってやつを張らなかったら、皆も少しずつ生命エネルギーを奪われてたかもね』

「あぁ。寒気を感じる程度まで抑えられたから良いけど……下に降りれば降りる程、奪われる量が多くなるっていうのは定番だからな。どう思う?正樹」


 あるあるネタであり、序盤で弱くても進めば自ずと強くなってる敵の力をアニメとかで知っている正樹に質問する。


 隠れオタクである正樹は、少し思考した。


「うん……てか、それが無かったら拍子抜けというか………いや、言うのやめときます」

「賢明な判断だ」


 フラグは立てない。絶対に。


「そう言えばアレク」

「どうしたフェメロナ」

「……今もそうだけど、神域ってなんだ?」


 (ニーファを除く)全員が思ってる疑問。


 その疑問を抱いている間にも、再び紫の光が身を襲い、身の毛がよだつ。


「んー……取り敢えず歩きながら、な」





 《神域顕現》


 これは、アレクの固有スキル《言霊魔法》による独自で造った魔法ではない。


 神族、その中でも上位に位置する神々が使用する言わば自分のルールが轢かれた異空間である。

 神徒クラスは神域を行使できないらしいが、名のある有名な神々は大小強弱問わず神域を持っている。


 ……アレクの場合、彼を転生させた女神アンテラによって未申請の改造が加えられている。

 魔族ベースの肉体に対しての神化の影響速度。

 隣にいる神竜が宿す神気のエネルギーの余波。

 常日頃使用している異常な規模を誇る異空間。


 その全てが指向性を持ち、アレクが神域を展開できるように仕組まれていた。


「んまぁ……俺の神域ってまだ未完成だから、定まった形を持ってない。だから、今広げてるコレは単に自分と味方の命を守る事を最優先にした神域だから。現状だと、あの光を無効化する感じだな。

 ……これから試行錯誤して変わるぞ、絶対に」


 神域を展開できる神同士の争いだと、大抵はまず己に有利なフィールドたる神域展開勝負になる。

 様々な条件において優位に立つ神の神域が押し勝ち、自分のルールが轢かれた異空間に相手を引き込めるのだ。


 無論、相手の神域内で自分の神域を発動しての上書きも可能である。


「名前とかあるんですか?」

「アンテラとかソレイユとかに聞いたけど、あったぞ?あ、俺は無いよ?未完成だし」


 そういうアレクは先頭を歩き、常時神域を展開しているが為に己のフィールド……白色に染まる通路が移動していく。

 広がっていくのではなく、移動である。

 アレク達が立ち去った後の通路は、元の暗い質感に戻っており、神域の影響下からは外れている。


 そうしなければ、神域の展開面積やら高さの影響で神気が異常に奪われる。

 必要最低限までにしか広げていない。


「あれ……それじゃあ」


 ユメが疑問を投げかける。


「なんで、初代魔王様……魔統神は神域を使わなかったんですか?」


 ユメとの戦闘の際に、使えば有利になっていたはずなのに。


「あー、それはな?昔は神域って使える神同士でしか使わなかったんだってさ。だからじゃない?

 あと、初代魔王としてユメと戦う為に態と使わなかったとか。又は目覚めたばっかで神域で好き勝手出来るほどに神気がなかったか、かな」

「なるほど……」

「まぁ、神によったら序盤で神域をドーンと展開してくる神もいるんじゃないの?」

「それ確実にお兄様ですよね」

「まだやったことないんだけど!?」


 説明や談笑を交えながら、本来なら死を近づけさせる紫の光を定期的に浴び続け、無効化し。


 そこからはアンデッドと一度も遭遇せずに、階層を下っていくことに成功したのであった。




「そういえば、ニーファは使えるの?神域」

「我は神獣じゃぞ?神ではあるが獣。真似は出来ても本物とは程遠いものしかできん」

「ん?やったことあるんだ?」

「……うむ。昔、我に寄ってくる神が居たのでな。ソイツ対策での……もう消したが」

「へー」


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