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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第六章 大迷宮とお兄様

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兄としての助言

誤って持ってる本を買ってしまったっ……!

古本屋orメルカリで売る……今の時期無理だと気付いて涙目になっている今日この頃。


同じ本を何冊も買ってコレクションする趣味は無いので、コロナが終息しかけたら売りに出しますか。


外出禁止?

……1ヶ月ぶりの外出なの。許して?


あ、買ったのはアニメ化するらしい復讐系の勇者のラノベです。わかる人にはわかる。


では本編どうぞ。



 ◆アレクside



 ばあちゃんじいちゃんの家で食べた夕飯は豪勢だった。


 祖母ルミニスの教え通りにニーファとシリシカ、マールの三人娘(年齢は問わない物とする)が頑張って作ったキノコシチューを集まった全員で食べた。

 尚、途中からメリアの手が加わった模様。


 よくあるヒロイン作のダークマター料理などは出現せず、ちゃんと食べれる……というか実に美味しい料理が皆の胃の中に入った。

 定番など起こる筈が無いのだ。うんうん。


 ……メリアが仲間入りした時に、食材を綺麗に粉微塵にして無駄にした経歴のあるニーファも、宮廷メイド長ムジカや従者のメリアの教えもあって順調に成長したようだ。良かった良かった。

 まぁ他の子の手も加わってるから、全部ニーファがやった訳では無いことを知っているが、それはそれで横に置いておく。


 ……そういえば、以前ムジカと初対面したシリシカが非常に驚いてたのは結構印象深かったけど……やっぱ精霊族のムジカが魔王城で働いてるのは驚くのかね?


「美味しいか?」

「……うん、美味しい」

「それは良かった…」


 ニーファが前のめりになって味を聞いてきたので、正直に感想を伝える。

 普通に美味しかったし。貶す理由もないだろう。


「んままぁ〜」

「むちゃむちゃ」

「……(モグモグ)」

「〜〜〜♪(肯定)」


 うちのスライム娘たちも喜んでキノコシチューを頬張っている。プニエルとデミエルはちょっと口元が……いや、ちょっとどころじゃないけど汚い。

 ウェパルは行儀良く食べてるので、メリアの教育がよく行われてるのだろう……あれ?俺とニーファの教育ってダメダメだった?


 あ、エノムルは腕から直接吸収してるぞ!


「むむっ……私も調理に参加すべきでしたねっ…!」

「あのピンクの甘い空間に割り込めると……?」


 俺とニーファを見て羨ましそうに唇を噛むユメと、同情しながらも疑問を問うメリア。

 なんだお前ら嫉妬か?てかユメはブラコン拗らせすぎじゃない?俺の気の所為?

 まぁ可愛いからいいか。

 メリアはメリアでなに達観してるの?あれ?もしかして毎日そんな空間出来てたりする?ごめんね?


「じいちゃん、それ取って」

「む?……茶か」

「ありがとう」


 渦巻く内心を他所に、祖父ジークフリードに頼んで麦茶の入ったボトルを取ってもらう。

 迷宮産の茶葉らしく市販の物よりも格段に美味。

 ……たまに海を越えた遠方の、昔の日本っぽい和風の国からの輸出品の茶葉とかも売ってる。一応、一箱分は買ってあるが……紅茶の方が美味しくて一回だけ蓋を開けてから使ってない。


 なんで紅茶の方が美味しく感じるかって?

 前世で、妹の前で見栄張って紅茶ばっか飲んでたからだよ文句あんか。ちょっとイケてる系のお兄ちゃんやりたかったんだよ。


「あ、正樹ぃーー……やっぱいいやなんでもない」


 正樹の座ってる近くに置かれたケチャップが欲しかったんだけど………


「はい。あーん」

「あ、あーん」

「次!次は私がやるわ!!」

「ミュニクの番なのですっ!!」

「……仲良くね」


 女仲間全員からあーんを強制されて苦笑いの正樹がこちらに救助の視線を送ってきたが色濃いに踏み込むつもりはないので無視。

 喜んでその愛を受け止めるんだな。

 つか羨ましいなァおい。


「あいよ。これかい?」

「ばあちゃんありがとう」


 ルミニスが正樹の代わりにケチャップを取ってくれた。優しい。


 そんな感じで、和やかで華やかな夕食は静かに終わったのだった。







 寝る部屋は、空いている二階の部屋を貸して貰うことになった。

 俺やニーファ、メリアと子供らは異空間の自室で寝ても良かったんだが、ジークフリードとルミニスが居ろって言うもんで……


 まぁ残念ながら、今回は男女を分けて二つの部屋に寝ることになった。

 つまり、俺は正樹とミラノ、クロエラと一緒に寝る都合上、部屋の大きさは普通だ。

 反面女子連中は人数が人数なのでおお部屋を借り、仲良く布団をひいて寝る。


 ……なんでダンジョンに男よりも女の方が多く出揃ってるのかね。

 まぁこの世界の女性って割と強いし。冒険者で見た目美人、フィジカルモンスターなんて普通にいるし……逆に性格は気弱だけど頑張ってる普通の女の子の冒険者だっている。

 不思議な世界だ。


 あ、男が弱いってわけじゃないぞ。普通に上級冒険者の割合は男の方が多いし。

 ただ今回のメンバーがメンバーなだけだ。


 借りた部屋は二階の、大樹にめり込んでいない方で……まぁ外の景色が見れると言えばいいか。

 大樹にめり込んでる方の室内は、木をくり抜いて板とかで装飾された感じの密閉空間になってた。


 俺達はお風呂も借り、部屋も借りて、布団を床にひいて……その後は特にトークすることなく、疲れで俺以外皆寝てしまった。

 正樹とミラノなんて布団に潜っておやすみ言った瞬間にすやぁだ。

 というか王族が庶民(クロエラと正樹)と一緒に寝ても何も文句言わないとか不思議だよな。


 ブーメラン?前世は庶民だから俺はセーフ。



 で、だ。

 絶賛俺は眠気が訪れずに、部屋の外に備えられたベランダで夜風……原理不明の迷宮の夜風に身を当てて身体を冷やしていた。


「……静かだな」


 じいちゃん曰く、この階層……16階層は二人によって制圧されており、一種の縄張となっている。

 だから、この階層の魔獣はだいたいばあちゃんの舎弟かじいちゃんの晩酌仲間らしい。

 わざわざ他の階層に転移して狩りをしてるのもそれが理由だとか。

 ……迷宮の魔獣と仲良くしてるってどういうことだってばよ。

 普通、迷宮の魔獣って外界のそれよりも強化されて凶暴化しておるのですが?

 本来なら敵対せずに逃げに徹する魔物すらも獰猛な狩人になって襲ってくるはずなんですが?

 謎すぎる、先代魔王夫婦謎すぎる……!


 老夫婦二人で住むには広すぎる家も、こういった仲の良い、もしくは従わせた魔獣が出入りする時があるからなのかもしれない。


 ……何気に、木々の隙間からアルラウネ……人型植物というか意思のある植物が興味深げにこちらを見つめていたので、軽く手を振って挨拶。

 キョトンとした顔で俺の行動を見た後、すぐに笑顔になって手を振り返してくれる。可愛い。


「……ん?」


 一階で何か音が鳴ったな。

 ………多分だけど、気配はあの子だ。


 俺は三人を起こさないように静かに部屋に戻り、廊下に出て一階に向かったのだった。








 ◆ユメside



「はぁ……」


 お爺様とお婆様が住む家に寝泊まりして、他の皆さんが寝静まった頃……私は一人リビングに降りて物思いに耽けていた。


 最近は驚きと勢いに満ちていて、一旦頭の中を整理しないとパンクしそうな気がする。ほんとに。


 魔統神、迷宮、ハワード、祖父母、お兄様etc…


「はぁ……」


 再び口から出る溜息は、湿度が増していた。


『臣は仲介役。君が破壊神の大いなる災厄の力に身を蝕まれないように制御する存在だ』


 戦争の後、ハワードはそう言っていた。

 私の魂に込められた破壊神の力は微量な物。覚醒するまではその力で生きてきた。

 微量なエネルギーでも、年齢に合わぬ威力を誇っていた……それは今も同じ。


 今も私の影の中で……プライベートも何もないが……彼は私が悩んでいるのも見ているのだろう。

 それを見て何も言わないのは……私一人で考えろと言うことか。


「はぁ…………」


 さっきよりも重い、三度目の溜息。


 そして……


「はぁ……」

「ふぅ……」


 四度目の溜息と、いつの間にか椅子に座ってココアを飲んでいる兄の蕩けた声が交差する。


「「……………」」


 ニコニコと、私の悩み事を逆撫でするような笑みでお兄様が座っていた。


「なんでいるんですか……」

「夜風に当たってたら気配がしたから?」

「なんで疑問形……」

「まぁまぁ」


 気にするなと言うようにお兄様は手を仰ぎ、ココアを再び一口啜る。

 そして、何かを思い出したのか口を開く。


「俺に気にせず悩んでて良いぞ?」

「無理だとわかってて言ってますよね!?」

「うん」


 即答。


「んー……何か助言した方が宜し?」

「……別に」


 お兄様は転生者だ。

 私達が住む世界とは別の場所でも、生きた年数と経験値が倍はある。


 ……こんな私の悩みも、兄の手に渡れば簡単に解決してしまうのではないだろうか。

 傍から見れば楽観的、傲慢、傍若無人の権化とも見て取れるけど……実際は違う。

 わざと相手を煽り、必要以上に近寄らせない。

 まるで自分自身を守るかのように。


 でも、親しき者には優しさと慈しみを向けてくれる……多分、本人でも分かっていない程に心の中が揺れ動いていると思う。


 ………少しぐらい、困ってる事を打ち明けても、お兄様なら笑って答えてくれるかな……?


「……お兄様、一つ、いいですか」

「ん?……ああ」


 意を決して、重く感じる我が身の湿度で濡れた唇を開く。


「自分でも分からないんです……これから先、激しく動く世界で………私自身が、どうしたいのか」


 陳腐な理由。在り来りな悩み。他愛もない話。


 その言葉に。

 兄は真摯に耳を傾けてくれて……くれて…………なんで首傾げて耳の穴に指突っ込むんですか。


「まぁ………悩んでるのは悪いことじゃない。何も考えずに時の流れに身を任せてる奴よりマシだ。

 お前の悩みは『選択の迷い』と言っていいかもな。人はこれからどうすればいいか、目の前に広がる無数の選択肢から、何を選べば最適解であり自分の存在に価値が生まれるルートになるかを悩む」


 一呼吸入れて、私と視線を絡めるお兄様。


「人が選んだ道に文句や正論を述べるつもりは無い。だって、自分が時間を削って考えた結論を他人の意見や思想でひっくりがえされたら嫌だろう?

 だから、俺はお前の決めた道に私情もお世辞も言うつもりは無い」


 少し目を細めて、睨みつけられる。


「ただ一つを除いてな」


 まるで先程の意見を塗り替えるように。


「自分の存在価値を蔑ろにするような道はやめろ。そんなんやったら全力で俺は停める」


 あまりにも本気な兄の眼があまりにも印象的で。


「悩んでいる内が人生の華だ。悩むのを諦めて空気のように彷徨う奴は呆気なく死んじゃうんだ」


 だから、と。口を紡ぎ、先程とは変わってお兄様は私に優しく微笑んだ。


「キツい時は迷わず助けを呼べ。魔王とかの矜恃とかプライドは捨ててくれ。悩みを抱えたお前を俺は必ず助けに行くから。な?」

「……わかりました」

「魔統神は全員で倒しに行く。ただし、奴と相対するのは……わかってるな?」

「はいっ!」


 お兄様に釣られて、私の顔にも笑みが浮かぶ。


「じゃあ……俺は寝る」


 その言葉を締めに、残りのココアを飲み干して、お兄様は椅子から降りてリビングから出ていった。

 その後、階段が軋む音がリビングに届く。


「………」


 後に残されたのは、冷めたコップと灯りのない暗いリビング、そして少し顔を火照らせた私一人。


「……いや、使ったコップぐらい、自分で洗ってくださいよ」


 やっぱり、根は人任せのお兄様に、少し呆れた私は顔に笑みを浮かべながら、兄のコップを洗いにキッチンへと足を運んだ。







 ◆再びアレクside



 軋む階段を登って二階に上がり、男らが寝てる寝室へと足を運ぶ。


 ………あ、コップ洗うの忘れてた。


 回れ右して戻ろうとしたら、呼び止められる。


「アレク=ルノワール」

「………なんの用?ハワードさん」

「貴殿に感謝を述べようと思い、彼女から離れて此処に来た次第だ」

「ふーん」


 混沌の従神。色々と謎だが、ユメの強化イベントに携わっためっちゃヤバい神だ。

 機械的に返された言葉を、そのままの意味で受け取る。


「臣の力では彼女の悩みを解決する術がない」

「ふーん、なんで?」

「そういう制約なのだ。人の子にはわからぬ」

「あっそ……まぁ、お前さんなりにユメの事を心配してくれてるっていう事はわかって安心した」

「……そうか」


 まぁ、敵ではない。

 味方であるコイツにわざわざ敵対心を剥き出しにするわけもないし、ある程度の友好関係を作っておいた方が得策。

 人間や普通の神とは別種のこいつに明確な意思的精神があるのかは不明だが……ありそうだな。


「お前がユメの守護霊である限り、ユメを死なせたら喧嘩売るからな」

「承知した…………して、守護霊とは?」

「は?…………あー、なるほど」


 神とは言え全知全能ではないか。てか守護霊という概念が存在しないのか?

 めちゃくちゃそーゆー魔物とか神仏がいそーな世界なんだけども。


「今のお前のポジションだよ」


 説明ダルいからこれでいいか。

 あながち間違ってないし。


「んじゃ、俺寝るから……よろしくな」

「あぁ」


 そのまま、直立して動かないハワードの横を通り過ぎて、俺は寝室の扉を開ける。


「あっ」


 結局、コップ片付けるの忘れてた………


 ま、いっか。なんとかなるだろ。



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