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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第六章 大迷宮とお兄様

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合流の裏側



 時は少し遡る。


 森に入ったアレク達は、ユメ達とは別のルートを辿って……途中で挫折した。

 それはちょうど、ユメ達が12階層に降りた時。


「めんどくさい!歩きたくない!うわーん!!」

「駄々をこねるないい歳して!」

「まだ子供ですぅー!」


 文句を漏らしながら歩くアレクと、叱責するニーファの二人が先頭を歩く。

 歩きながら近くにいる魔獣をニーファが無差別に遠距離から死滅させて、邪魔な木があったらアレクは暴風を巻き起こして吹き飛ばして蹴散らす。


 後ろを歩くシリシカ、クロエラ、マールは基本的に戦いをせずに、真面目に探索をしていた。

 精霊魔法で土と風の精霊を呼び、言われた通りに土壌や風の流れを調べるシリシカ。

 謎の機械を地面に埋め込んで……迷宮の魔力をさり気なく奪っているクロエラ。

 その様子を見ながら溜息を吐き…真面目に渡された機械を使って迷宮内部を調べるマール。


 迷宮探索の結果、他の迷宮よりもアヴァロン大迷宮は魔力濃度が高い事がわかった。

 空気や土壌、魔物の体内配列などに含まれる魔素が異常な値を叩き出しているのだ。

 こんな場所で生活してたら体に異常が起きても不思議じゃない空間であり……そんな迷宮に隠居している老夫婦がいるが、当時五人はそんなこと知らないのは言うまでもない。


「……ダメだ飽きた飽きた」

「飽きっぽいのね…?」

「好きなことはやる。興味無い事は知らん」

「じゃあ迷宮は……?」

「目的は世界樹。あとは知らん」

「無責任だね〜」

「…彼らしい」


 そう言いながら、アレクは立ち止まって何かを始めながら話し出す。


「俺が壊した木が一定時間が経つと再生して道塞いでるみたいなんだよね」

「えっ……あ、ホントだ。土の精霊が同意してる」


 迷宮の壁などが傷ついたら再生するのと同じ原理で木も再生しているようだ。

 背後を見て、精霊の力を借りて遠方を確認したシリシカも驚きの声を上げる。


「はぁ……一番楽な方法、試すか」

「……どういうのじゃ?」

「手伝えニーファ」

「わかった」


 即答したニーファがアレクの隣に立ち……


「んでな……ごにょごにょ……わかった?」

「………うむ、良いのか?」

「大丈夫だ、問題ない」

「なら良いが」


 何かをコソコソと耳元で言われたニーファは、アレクと共に地面に拳を当てる。


「何を……?」

「まさかだけど……嘘よね……?」

「……」


 唖然とする三人を後目に、二人はやらかす。


「「壊したら降りれる説」」


 そう言って新婚さんは魔法を放つ。


「《動地啼哭(どうちていこく)》」

「《龍晃冥牙(りゅうこうめいが)》」


 二人揃って地面に向かってこんばんは。


 アレクの魔法で大地が泣き喚くように揺れて、攻撃した箇所から円状にヒビが広がって崩壊する。崩壊した地面の下には何も無い空洞……正確には中身が消された空洞が生まれる。

 ニーファの技はドラゴン形態の腕を思いっきり地面に殴り付け、眩い閃光と衝撃波を生み出して大地を文字通り消滅させ……アレクの破壊跡と合わさって巨大な陥没地帯……否、虚空の穴が生まれた。


「うわっ、わぁぁぁー!?!?」

「…!?!?!?」

「きゃあああぁぁぁぁぁぁーーーーー!?!?」


 声に驚き振り向けば、虚空に落下する三人が。


「あっ、やべ」

「そうじゃった。奴ら自力で飛べんのじゃった」


 アレクは透かさず、空を飛べるようにする為の魔法を構築して発動し三人を救出する。


「《飛行付与》っ!」


 咄嗟にかけた魔法の効果によって、落下していった三人を何とか浮かせる。


「ふぅー。間に合った!」


 満面の笑みで達成感を抱くアレクに……あとウンウンと肯定するニーファに向かって、落ちた三人が普通にブチ切れる。


「ねぇ!? 先に言ってくれないかしら!? 風の精霊使う前に死にそうだったのだけど!?」

「…謝罪要求」

「まぁー……貸しひとつね」


「なんかごめん、謝罪謝罪。はいはい人体実験はやーよ」


「「「謝る気が微塵もない」」」


 当たり前であった。








 ゆっくりと降下する。

 アレクとニーファの夫婦共同破壊工作によって生まれた穴が迷宮の機能で埋まる前に降りる。


 一度、アレクの言霊魔法で浮かせた三人は、各々が空を飛べる技を持っているらしく、それぞれ空中で準備をして浮き始めた。


「ふぅ〜。やっぱ飛べるって良いね」

「…ふわ〜」

「また奇っ怪な道具を使って……」


 クロエラは機械のついた背負い鞄から二つのプロペラを稼働させてバランスを崩すことなく空を飛び始め……魔工学の技術を惜しみなく使う。

 マールは深張りの青い日傘を手にふわりと降りている。どういった原理かは不明だが、露先から冷気が出ており、それが浮力になっている…らしい。

 シリシカは風の精霊の力を借りて身体の周りに微風を巻き起して、優雅に空を飛んで下に降りる事を可能にした。


 アレクとニーファは勿論、生まれつき持つ羽を使って普通に飛んでいる。


「随分と個性的な飛行手段だな……」

「じゃの……一番謎なのはマールなんじゃが……」

「…クロエラが作ってくれた」

「「なるほど納得」」

「納得しちゃうのね……」


 そのまま、ゆっくりと穴に下降する。

 見た感じ永遠と底の無い穴に見えるが、迷宮の空間歪曲の力にも限度がある。


 更に先程の攻撃で迷宮自体に甚大なダメージが与えられた為に色々と誤作動を起こしている。


「うわっ……なんかバグってんぞ」


 現に空けられた穴の側面が液晶テレビがバグって虹色の線が出るという現象そのものが起きている。

 たまに雷……否、可視化した魔力が穴の側面を迸って醸し出される異常性に拍車がかかる。


 そんな謎現象が起きている最中……何故か穴の奥から光が漏れて、五人が飲み込まれる。


「うわっ」

「えっ」

「む?」

「…!?」

「おわ凄っ」


 間抜けな声を上げて光に飲まれた五人は……空から急降下していた!


「おーっ!? 空に出たー!!!」

「どーゆー仕組みじゃ……」

「ちょ、精霊の制御がっ…!」

「あれれ。プロペラが動かない」

「…ふわ〜」


 こういう時でも余裕のニーファと驚きと興奮で声を上げるアレク。風の精霊が突然消えて浮けなくなったシリシカと機械が故障して間抜けな顔で落下するクロエラ。何故か無事でふわ〜と浮かぶマール。


 そのまま全員が地面に向かって真っ逆さま……おせんべい状態になる寸前の所に助けが入る。


「おっとと」


 突然飛んできた茶色の網が、大きく広がって宙に浮かぶ五人を漁業の如く簡単に捕まえて地面にぶつかること無く回収される。


「うわっ」

「おう」

「きゃっ」

「ぐへ」

「むきゅ」


 苦悶の声を上げて、視線を持ち上げれば……二人の老人が呆けた顔で網を持っていた。


「……なんじゃお主ら、空から突然」

「びっくりしたわ全く」

「……あ、助けてくれてありがとです」


 網の上で器用に胡座をかいたアレクが感謝の言葉を告げて、他の面々も感謝を口にする。

 ……アレクとニーファとマールに至っては、普通に降りれたのは言うまでもない。


「主らは……何者じゃ?」


 眼帯の老人に睨みつけられたアレクは……至って真面目な顔で質問してきた老人の顔を見つめた。

 穴が空くほどに老婆も見つめて……確信を抱く。


「………………………あ、思い出した」


 納得した顔で、いきなり短距離転移して老夫婦……ジークフリードとルミニスの前に出る。


「じいちゃんばあちゃんお久しぶり」

「「…………アレク?」」

「そだよ〜」

「「…………………ちっさ!?」」

「おい」


 とてつもなく不愉快な顔をするアレクと、遠目で孫娘は見たけどまさか孫息子にまで出会い……しかも思ったより身長低いアレクに出会って驚く老夫婦であった。

 神化による身長停止、恐るべし。


 気を取り直して。


「ふむ……ほんとにアレクなのか?」

「アレクだよ」

「実は新しく生まれた子じゃないのかね?」

「長男だよ」


 信じ難いものを見るような目で質問責めにあうアレクは、だんだんと信頼を勝ち取って……


「10年ぶりじゃの〜!!こんなに強くなって儂らの前に現れるとはっ……! ちっさいけど」

「見た感じ、色々と混ざっとるが……そんなことよりめっこいのぉ…可愛い。ちっさいけど」

「二人揃ってちっさいうるさい」

「「悪い悪い」」


 一言多い老夫婦と10年ぶりの再会を果たしたアレクは、ニーファに後ろから話しかけられる。


「のぉ……我らに説明はよ」

「ん? 俺のじいちゃんとばあちゃん」

「それは聞いててわかっとるわ……お主、よく覚えとったの」

「記憶力だけは良いんだよこの素体」


 なお、肉体に前世の記憶(改竄済(かいざんずみ))が目覚める前に出会い、そこから会ってないのだが……まぁ、最初から女神が横槍入れて改造した身体なので、記憶力が凄いのは当たり前である。

 取り敢えずアンテラのせい。


 親しげに見知らぬ女と喋るアレクの会話に老夫婦が割り込もうとした時、ふと思い出したかのようにアレクが嫁を紹介する。


「あ、こいつ俺の嫁ね」

「嫁じゃ」

「「……………いやいやいやいや」」


 全力で首をフリフリする二人。


「神竜を嫁とかどういう精神しとるんじゃ」

「驚きを通り越して頭どうかしてんじゃないの?」

「酷い言いよう。てかよくわかったね」

「そりゃ長生きしとるからの」

「無駄にな」

「あぁん?」

「なんじゃ文句あんのか?ん?」

「はいはい仲良くね」


 一発で神竜だと見破り、即座に夫婦喧嘩をおっぱじめようとする老害二人を笑顔で抑える。


「じゃあ改めて……神竜ニールファリスじゃ。気軽にニーファと呼んで貰って構わぬ」

「……うむ。孫の嫁にグチグチ言う筋合いは儂らに無かったの。すまんな神りゅ……ニーファちゃん?」

「そうじゃの。改めて、ルミニスじゃ。よろしく」

「ちゃん付けwwwwwwwwwwww」

「息切れするまで笑う事か?おい」


 腹を抑えて笑うアレクに、尖った視線を向けるニーファを見て……少し安堵の表情を見せる老夫婦。


「あ、後ろにいるのは連れね」

「「「雑」」」

「…ごめんって」


 結局、クロエラ達の事も紹介して、ルミニスの転移魔法で16(・・)階層の自宅に誘われたのだった。








「凄い家だね」

「儂が建てたんじゃぞ」

「魔法でな」


 大樹にめり込んだでかい一軒家に迎えられ、アレク達は各々席に座っていた。

 アレクとニーファは、ジークフリードとルミニスと対面するように机を挟んで椅子に座り、クロエラは何か無断で機械を取り出し始め、マールはそれを止めようか悩んで……結局諦めて見て見ぬふりを、シリシカはマールの隣でジト目をしていた。


「なるほど……アレク、魔族辞めたのか…」

「半分ね」


 半神半魔になっている状態とか、ニーファとの慣れ始めとか……最近の話題、魔王国の占領と奪還、そしてダンジョンに来た理由を話題に言葉を交える。


「うーむ。儂らが隠居してる間にそんな大惨事がのぉ……久々に顔を出すべきか」

「生存報告がてら、後は馬鹿正直な息子の顔でも拝みにいくとするか……事が済んだらね」

「んー、父さんは二人がダンジョンで隠居してるの知ってるの?」

「「言ってないから知らないと思う」」

「あっそうですか…」


 そんな感じで和やかな会話は進み、アレクよりも前に遠目に発見していたユメにも会いに行くと二人が言い出したので、アレク達が留守を預かることになったのだが……その前に。


「クロエラといったか、それはなんじゃ?」

「魔力測定記憶装置です。ダンジョンの魔力配列とかを調べてます」

「……何をするのも自由にして構わんが、家を壊したりするでないぞ?」

「ハッハッハっ。大丈夫です。アレクくんじゃないので」

「さり気なくディスられた気がする〜」

「気の所為じゃないよ」

「お前いい度胸だなあぁん?」


 クロエラはアレクを敵に回した!


 ジークフリードが気になって話しかけたクロエラは、満面の笑みでアレクを軽くディスった。


 その頃。ニーファ含める女性陣は……


「そうそう。んで、ここにこれを入れたら……」

「おぉ……成程、参考になるの」

「そうかい。そりゃあ良かった」

「…美味しそう」

「身体にも良さそう……」


 ニーファとマールとシリシカは、ルミニスから料理を教わっていた。主にニーファが教わり、シリシカとマールは見学だが。


 ダンジョンに広がる森は自然の宝庫らしく食材となる植物や魔物がほぼ無限に湧く。

 故に多種多様な料理を作ることが可能だ。

 話では地域で手に入らない香辛料なども仕入れる事ができるらしい。


 今日の夕飯はキノコシチューらしい。


「そんじゃ私らはユメらの顔を拝みに行ってくる」

「ということで、留守番頼んじゃぞ」

「あーい」

「あ、アレクはその杖宜しく頼むぞ!」

「多分無理だけど頑張る」


 根元からポッキリ折れた仕込杖を手元に、アレクは家を出て8人を迎えに行く二人を見送るのだった。


「そんな客人来ても、入れる部屋有るのか……?」


 それから五時間後、ユメ達が連れられて祖父母宅にお邪魔し、アレク達と合流するのだった。





 ……ジークフリードの仕込杖が折れた原因は、獅子の魔獣を狩る際に、杖を刺す場所を誤算してポッキリ逝かれてしまったらしい。

 老後の生活は自由だが、もう少し安全で平和な隠居生活を送って欲しい。切に。


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