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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第六章 大迷宮とお兄様

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奇跡の対面、何故か合流



 中層の攻略は、上層よりも順調に進まなかった。


 出てくる魔獣も外界にいるものが大半ではあるが、本来なら敵を見たら脱兎のごとく逃げ出す小型の魔物が凶暴になって襲ってくるのだ。

 本来なら近づいてこない兎や団子虫などが徒党を組んで襲ってくる。

 よって、相手にするものが増えるし、逃げたとしても群がる為難易度が上がる。


 まぁ、そんな雑魚がいきがって挑んできても、選ばれた精鋭達には無意味な愚行なのだが。





 現在、十三階層。

 どういう原理かは不明だが、森の上に広がる偽物の空に浮かんでいたこれまた偽物の太陽が地平線に落ちて夕焼けが広がり始めていた。


 ちょうどいい広場を見つけたパーティは、そこで野営をしようと準備を始める、が……


 焚き火の光に導かれ、人の匂いに導かれた魔獣の群衆が果敢に襲ってくる。


「くっ! キリがない!」

「邪魔っです!」

「もう場所変えた方がいいのでは!?」

「流石に私の体力も無限じゃないぞ!?」

「あっぶな!」


 かれこれ一時間。

 まとめて殲滅しても良いのだが、全方向から来る上に味方に当たれば即死は確定なのでなかなか決心がつかずに……無駄に長い防衛戦となっていた。


「くっ……被害を考えずにぶっぱなすしか…!」


 そう思い、ユメが魔法陣を展開しようとした、その時。


「「「っ!?」」」


 いきなり、魔獣が一掃されて逃げれる隙間が生まれる。


「っ! 皆さん、こっちに!!」


 正樹が訝しげな顔をしながらも、取る選択肢が無いために空いた空間に皆を走らせる。

 空間を埋めようと雪崩込まれる前に全力疾走して難を逃れ……木の上に登って気配を隠す。


 そのタイミングで、足元を走り抜ける魔獣たち。


 どうやら此方には気付いていないらしい。


「ふぅ……何とか助かりましたね」

「うん。でも……なんだったの?あれ」

「え、ユメさんが魔法使ったんじゃないの?」

「い、いいえ!使ってないです!」

「じゃあ誰が……」

「あたしが蹴散らしといたぞ」

「そうですか…………………んん??」


 いつの間にか会話に混じっていた、年老いた女性の声……それに気付いて、全員がその一点へ振り向く。

 ユメの背後。

 そこに、老婆が立っていた。


 茶色の素朴な着物に、団子状に蝶の簪で纏めた白髪。老いてなお腐らず鋭く細められた眼光は獲物を見ているようだった。

 少し身動ぎするだけで、首元の数珠が音を立ててぶつかり合う。


「っ!?」

「いつの間に!?」


 突然の事で驚いた一同、特に背後を取られたユメは驚いて、足が枝を踏み外して落ちる。


「きゃっ!」

「おいおいおい」


 それを、老婆がすかさずキャッチ……お姫様抱っこをして助ける。

 空中で謎の蹴りをして、跳ね返って元いた枝の上に立ち……自身の真横にユメを下ろし、頭をポンポンと優しく撫でる。


「大丈夫かい?」

「あ、…ありがとうございます」


 敵か味方か分からないが、助けてくれたことに礼を告げるユメに、老婆は頬を緩める。


「いや〜、若いってのは良いね。謝る姿が可愛くて……歳とると健気な部分がどうしても抜け落ちちゃってねぇ」

「最初からないじゃろ」

「あぁん!?」


 今度は、老婆の反対側……ユメを挟むように空から落ちてきたのは、老人。


 渋い緑の着流しを纏った左目を黒い眼帯で隠した老人。オールバックにして背中まで伸ばした白髪と長い顎髭が映える、危なそうな老人。


 老人を睨みつける老婆は、今にも牙を剥きそうな狩人のオーラが漂っていた。やだ怖い。


「うーむ、近くで見るとよくわかるのぉ……」


 顔から爪先まで、流れるように見た老人は、カッとにこやかな笑みを浮かべてユメを撫でる。

 突然の状況についていけないユメは、たじろぐ事しか出来ない。

 ……主の危険に姿を表さないハワードに、一同が疑問を持つが、それがそこまで危険ではないのでは?と思ってしまう。


「おいこらボケ老人。誰に健気さがないだって?」

「お前さんじゃろ。ん?もしかして……あると思っとたっんか?」

「おいこら言わせておけばっ……!!」


 人前で、関係なく言い争いを始める老人たちに、状況に着いて行けずにみな目を丸くする。


「あっ、そういや儂、挨拶しとらんかったな」

「あたしもしてないな」

「は?………え、お主……馬鹿か?」

「うっさいねぇ!」


 再び言い争いをした老人たちだが、満足したのか自己紹介を始めてくる。戸惑うパーティの空気を押しのけて、平然と。


「儂の名はジークフリード!しがない隠居人じゃ」

「あたしはルミニス。このボケ老人の妻だ」

「おお?やんのかババァ」

「おん?やるのかジジィ」


 謎に険悪な二人の自己紹介に、ユメだけが反応した。


「えっ……ジークフリード……?」

「ん? どうしたんじゃユメちゃん」


 なぜ、ユメの名を知ってるのか……そんな疑問は一気に吹き飛んだ。


「も、もしかして……先代魔王!?」

「「「「「「「えっ」」」」」」」


「そうじゃよ」

「「「「「「「えっ」」」」」」」


「つまり…………お爺様とお婆様っ!?」

「うむ」

「そうだよ」

「「「「「「「えーーー!!?」」」」」」」


 先代魔王ジークフリード……つまり現魔王シルヴァトスの親であり、ユメの祖父が、自分にとっては祖母であるルミニスと共に首を揃えて、迷宮で孫の前に現れたのだった。





「カッカッカッ! いい驚きっぷりじゃな!」

「ほ、ほんとに?ほんとのほんとに?」

「真実だよユメ。にしても見てない内におっきくなったねぇ……」

「おっきくなったもなにも、儂らが最後に見たの赤子の時じゃが?」

「いやまぁそうなんだけど」


 ユメの記憶には残っていない。赤子の時の記憶など無いのだから。


「十年ぶりじゃが……うむ。良き魔王として成長しとるではないか」

「そりゃそうだよ。うちらの息子の娘だよ?これぐらいはしてくれんと」

「そうじゃの」


 ジークフリードとルミニスは、朗らかに笑いながらユメの頭を撫で続け、思い出したかのように他の人達にも目を向ける。


「おおっ、すまんな置いてけぼりにして」

「いえ別に構いませんが……お二人は、ホントに…?」

「あー……まぁ、こんなとこで会ったら姿を真似る奴と思われても仕方ないが…………信じろとしか言えんな」

「……では、僕は信じます」

「助かるの」


 現に、ドッペルゲンガーと呼ばれる人の姿と記憶を真似る魔物が存在するのだ。疑うのも無理はないだろう。


 全員が警戒を解いて……一応、魔獣が襲いかかって来ても良いように完全な武装解除はしてないが。それぞれが二人に挨拶をする。


 し終わった所で、老夫婦が提案をする。


「お主ら……家来るか?外危ないし」

「えっ、いいの、ですか?」

「別に敬語はいらんよ。まぁ、二人暮しにしては無駄に広いから……増えても問題ないよ」


 その言葉に、ユメが全員に目を向ければ……少し逡巡した正樹が、他の皆に目配せをして、最後にユメの方を見て首肯した。


「じゃぁ、お願いします。お爺様、お婆様」

「あいよ。じゃあ移動するとするかね」

「ほれ。お主らもこっちへ寄ってこい」

「は、はい」

「わ、わかりました」


 一同が老夫婦に近づくと……ルミニスが指をパッチンと音を立てて魔法を唱える。


「《転移》」


 すると景色は一変。

 木の上からの景色だったのが、いきなり地面という安心感のある踏み場が出来る。

 地上に降りたと察した八人は、辺りを見まわ……そうとして、目の前にある物に驚く。


 大樹にめり込むように作られた一軒家。

 ……と言っても、高級住宅にしか見えない規模を持っている二階建。

 森の中で隠居してるとは言うが、どう見ても森では揃えられないレベルの家具がポンポンと置いてあるようだ。


「ここが儂らの死に巣じゃよ」

「物騒な言い方やめい!」


 ルミニスが先導して自宅の扉に手をかけ……室内に入って、顔だけ覗かせて言う。


「ほれ。早くお入り。もう日が暮れるからね」

「はいっ」


 そして、家に入った一同を待っていたのは……


「あ、おかえり、じいちゃんばあちゃん」

「ただいま」

「ただいまアレク」

「んあ〜……あ、じいちゃんやっぱ無理だよこれ」

「むぅ。やっぱ無理か〜……お気に入りじゃったんだがのぉ」

「根元からポッキリ行ってるからねコレ。直せたとしても別物と見ていいぐらい変わるよ」

「それはやじゃのぉ……すまんのぉ無理言って」

「いいよ別に……ってアレ?ユメじゃん」

「何で居るんですかお兄様……」


 ジークフリードの仕込み杖を修理していたらしいアレクが作業机に座って出迎えた。


 …………なんで平然と彼はいるんでしょうね。


「む? お、みんな来たんだね」

「…お先」

「あらマサキ。先に失礼してるわ」

「……なんで平然と居るんですか三人共…」

「シリシカ……うん。久しぶり」

「会いたかったわ」

「僕もだよ」


 コイツらもなんでいるんでしょうね。


「のうルミニス殿。こんな感じで良いか?」

「ん?……おぉ、よく出来てるじゃないか。どれどれ……うん、味も悪くない。上出来だよ」

「ふぅ……それは良かった」


 なんでニーファは料理を教えてもらってるんですかねぇ?


 色々と疑問の尽きない合流となった……


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