表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第六章 大迷宮とお兄様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

211/307

VSキメラゴーレム

世界が大混乱に陥っても、アレクの物語はいつも通り平穏に進んでいくのでご安心を。


 アヴァロン大迷宮の第十階層。


 ボス部屋と言われる空間は、円形のホールの様になっており、所々が崩れて月の光が入り込んでいる神秘的な場所……と言うほど明るくなく、はっきり言って薄気味悪い、不気味な空間だった。


 正樹達が部屋に入り込んですぐ、彼等が通った扉は勝手に閉まって退路が塞がる。

 そして、円形ホールの中央に巨大な魔法陣が展開され……高純度の邪悪な魔力が渦巻く。


 魔法陣から召喚されたのは……金属と肉の巨人。


 サイズは大型トラック程だろうか。

 丸みを帯びた形で、全身を材質不明の金属板が覆っており……隙間から脈動すなる赤い肉が見える。

 金属の足が六脚、金属と肉が混ざった腕が八本。

 蛇腹状の金属と肉で構成された鋭利な尾。

 顔に当たる部位は竜の頭で、不気味に光る紅い瞳と、不揃いの血塗れた牙の存在感で見た者に悪寒を走らせる。


 その瞳が……八人の挑戦者の姿を捉えた。




 ─────キメラゴーレム が あらわれた!




 最初に動いたのは……キメラゴーレムだった。


「■■■■■■■■■■■■────っ!!!」


 大気を震動させる咆哮。

 全身に重く伸し掛る負荷……全身が鉛のように動きづらくなる。

 過重の状態異常だ。


 全員が身体の重さに驚き、先手を取られた故の対処が遅れてしまった隙を敵は見誤らない。


 その多脚を利用して、その身に合わぬスピードで素早く前進し……先頭に立っていた正樹を襲う。


「ふっ───」


 しかし予想してたのか、流石勇者と言うべきか、表情一つ変えずに正樹は聖剣を……否、形状剣アインシュッドを振るう。


 キメラゴーレムの巨体を迎え撃てるようにと、形状剣も幅が広く分厚い大剣と変化して、異形の突進を防ぐ。


「■■■っ!?」


 防がれるのが想定外だったのか、キメラゴーレムは驚きの奇声を上げながら、大剣を潰さんと力を加えて伸し掛る。


「知能は中、速度、攻撃共に高……申し分ないですが、その程度で勇者を止められると思うな」


 いつもよりも冷めた声で語る正樹の眼にはキメラゴーレムの喉元(・・)が映っていた。


「……絶技(・・)無一天・刹那(・・・・・・)》」


 一瞬、時が止まったように全てが動かなくなる。

 否、正樹のスピードに全てが追いつけなくなる。


 かつての使い手が使っていた技を正樹は発動し……拮抗していた状況から一瞬で飛び跳ねてキメラゴーレムの背中に飛び乗る。


 その時間、わずか一秒。

 転移魔法すら使わない高速移動……自身のスピードを通常の何倍にも引き上げて他所を寄り付かせないスピードを手に入れる絶技。


 風すらも置いていくスピードのまま……正樹は神剣をキメラゴーレムの喉元に刺し込む。

 硬い鎧に少し引っかかるが、0.1秒で無理矢理貫通させて分厚い肉を断ち切り……そこで刀身を伸ばして首を落とす。


 そのタイミングで……絶技の効果が切れる。


「■■■■■■■■■■■■■────っ!!!」


 断末魔を上げながら落ちる竜の首。

 ダラダラと際限なく零れ落ちる青紫の血が地面を美しく濡らす。


「……その技は、確か」

「えぇ。彼女から教えてもらいました」


 首を落とされ、重心が崩れて倒れたキメラゴーレムから離れて元の位置に戻った正樹にユメが問う。


「習得に時間が掛かりましたが……実践で使うのは今のが初めてです」

「……これをお兄様は見切っていた、ということですよね…」

「…………あ〜、僕のスピードの方が彼女よりも速いらしいです」

「?? 何故わかるんです?」

「えっ、えーっと……け、剣が教えてくれるんですよ!ほら、神剣ですし」

「なるほど…?」


 正樹の様子に少し訝しみながらも、ユメは取り敢えず納得して……激しく痙攣するキメラゴーレムを睨みつける。


「念には念を入れて……っ!? 来る!」


 ユメが追い討ちをかけようと魔力を溜めた瞬間、キメラゴーレムに異変が起きる。


 まず、切断された首の断面が塞がる。

 肉が盛り上がる様に、気持ち悪い音を立てながら再生する。

 しかし、新たに頭が再生されるわけでなく、少し盛り上がった皮が張られる。


「………■■■■■■!!!」


 再生された箇所が二つに裂けて口が出来る。

 更に口の上に、瞼が出来て……単眼が開く。


「再生能力も高いみたいですね」

「感心されるのも良いですけど……余裕ありすぎじゃないですかマサキ様!?」

「だって……ほら」


 ソフィアに言われながらも、正樹が指さした先には………


「《限定転身》…………《双牙重撃》っ!」

「《炎天頭太刀(えんてんかぶりたち)》」


 隙を突いてキメラゴーレムの足を掻い潜り、がら空きの胴体……鳩尾だろうか、そこに似た部位に向かって、転身させた獅子の腕の爪を立て、両手を合わせ……衝撃波を喰らわせる。

 そこに透かさず、ミラノはキメラゴーレムの背中に乗って炎を纏った神剣を斜めに突き刺し……細胞を焼き殺しながら単眼に貫通させる。


「■■■■■■■■───!?!?」


 二方向からの挟むような攻撃にキメラゴーレムは苦悶の声を上げながらのたうち回る。

 そこに追撃を喰らわすのか……メリアが前に出て闇魔法を行使する。


「《闇の鏡》」


 前に出された手の平に生じた黒く塗り潰された綺麗な鏡が、とある少女にその効果を発揮する。


「ミュニクさん、どうぞ」

「はいなのです!」


 鏡の前に飛んで出たミュニクが、その輪郭を崩しながら分身(・・)する。

 正確には、鏡で造られた黒いミュニクと、本物のミュニク……簡単に見分けが着く偽物達と共にミュニクがキメラゴーレムに立ち向かう。


「《招き手》!」


 ミュニク達が投げた短剣は弧を描きながらキメラゴーレムに刺突……否、掠る様に鎧の隙間の肉を切り裂いて、再びミュニクの手元に戻る。

 それを何度も繰り返して行く内に、キメラゴーレムの肉が露出した部分からは目を覆いたくなる程の切り傷と流血が。


 そんな状態でも必死に抵抗して、長く伸び縮みする蛇腹の尻尾を振り回して広範囲を攻撃するが、ことごとく交わされる上に尻尾が届かない範囲から攻撃されて余計痛みが増すキメラゴーレム。


 ミュニクが使った技は、ブーメランの要領で短剣を投げつけて、手元に戻すだけの仕組み。

 ただ、普通にやっても不可能なので、そこは事前に短剣に魔力を込めて、魔力操作で操るという手順ではある。


 満身創痍、そんな表現が合う哀れなボスに、二人が魔法を行使する。


「《クリムゾンカーテン》っ!」

「《酸毒紫雨》!」


 クレハの魔法で、キメラゴーレムを囲むように赤い炎の壁ができ、ユメの暗黒魔法で生まれた紫の毒々しい雲が壁の中に入って……酸の雨を降らす。

 あっという間に身体を構成する金属部は溶け落ちて、肉の部分が露見する……どころか、肉すらも溶け始めて原型が留められなくなる。


「■■■■■■■■■■■■──────!?!?!?」


 あまりの激痛に声を上げて苦しむキメラゴーレム。やがて炎の壁が消えて、その姿が世間に晒される。


「「「「うわぁ……」」」」


 自分達がやった犯行だけど、その姿を見てメンバー全員が顔を青くした。


 まず皮膚と肉と金属板がほとんど無い。

 辛うじて残っているとしても……溶けて骨に垂れかかっている金属板や肉。露出した内蔵に直接ダメージを与える熱せられた金属。

 潰れた単眼も、切れ目が入った状態で、顔面に引っかかっているし、再生で無理矢理生やした牙なんて骨とくっついて無かったのか、ポロポロと揺れる度に落ちていく。


 しかし、そこはキメラのゴーレムと言ったところか、凄まじい生命力で再生し始める。

 肉がポコっと膨れ上がるその姿に、メンバーが身構えるが……その手を止める。


 なぜなら。


「■■■■■■■■──────…………」


 再生した箇所から、変な膨らみをして破裂、そして再生……破裂、再生、破裂……を繰り返しているのだ。


 自壊。


 ついに全ての脚と腕は倒れ落ち、身体そのものも自重に耐え切れず地面に落ちる。

 青紫の血の液体が地面に広がり……蒸発するように煙となって立ち昇る。

 その血の煙も、有毒である。

 それに気づいたメンバーは少し離れ……微風を魔法で起こして近付かせない。


 その毒が最後の抵抗とも言うべきか。


 キメラゴーレムは自壊の末、完全に溶けきって死亡した。

 死骸も凄惨な状態で、見る者には吐き気を催させる……否、メンバー全員が少し吐き気を覚えて必死に耐えている状態だった。


「………《浄化》」


 ソフィアが遺骸に向けて死の浄化を施す。

 彼女の手から放たれた光の玉が遺骸に触れると蝕む様に光が遺骸を包み込み……消滅させる。


 痕に残ったのは遺骸があった血や肉の痕だけだった。


「……なんでボスも出てくる魔物もキモイのばっかなんですか」

「忘れましょ……中層は大丈夫ですから。多分」

「早く行きましょう……また新しくボスが出られても困りますし」


 そのまま、居た堪れない心境の中、メンバーは中層へと続く階段を下ったのだった。
















「おいおいおい、ボスからのドロップを手にしてないぞアイツら」

「逆にアレク君はあれが欲しいのかい?」

「ぜぇったいにいらねぇ」

「じゃあ言わないでちょうだい……」


 本来のダンジョン攻略なら、忌避される行為。

 前に進むパーティがボスを倒し、ボスが復活する隙をついて次の階に進む違法行為。


 今回は状況が状況で仕方ないが、アレク達は平然とそれを行っていた。

 否、しようとしていた。


「………んー? ボスが復活しないな」


 正確にはボスの補填だ。

 ダンジョンは魔力を消費して守護者を召喚し迷宮の防衛を命令する。

 これは一般常識であるが、今回のダンジョンは一味も二味も違うらしい。


「敵さんの意図が読めん」

「確かに……こんなに長く居るのに何もしてこんな。我だったら動くぞ」


 ニーファの言う通り、ボス部屋に既に三十分はいるのだ。

 アレクは足並みを揃える為と言った為に待機しているのだが……五分もすれば再び現れるボスが一向に現れない。


「ていうか……ボスが弱すぎる。迷宮の面汚しにも程があるぞ……」


 やる気を感じないのだ。

 だって、ここはアヴァロン大迷宮。

 いくら血みどろの怪物がいようとも、それを彷彿とさせる怪物の人形が居たとしても、有り得ぬ程に弱すぎる。


 メリアの視界から見た戦闘風景から考察するに、キメラゴーレムは弱く設定されていたと思う。

 あの特攻パーティだとしても、無傷でボス部屋をクリアできることなど本来なら不可能。

 なのに、攻撃の手数も少なく、威力はあるが避けやすいとゆう謎に弱いキメラゴーレム。


 そして、新たに出現しないボス。

 まぁ、これはダンジョンマスターが意図的に魔力の消費を抑える為にダンジョンコアに干渉しているのだろうが。


 地面に残ったボスの死痕、その上に転がるキメラゴーレムの心臓たる核のドロップアイテムを見る。

 その心臓は、脈打つ肉が張り付いた球体水晶。

 淀みながらも透き通る水晶に目が奪われた。


 そこでふと、アレクは思い至る。


 ……………誘い込んでる?


 魔統神の思惑を裏から読み取る。

 ダンジョンマスターだと言うなら、スタンピード並の大群を此方に出向かせてもいいはず。

 なんならボスラッシュとか、一つのボス部屋に多種多様のボスを配置してもいい。

 勝つ為だったら何だって出来るのだから。


 なのにやらない。


 生き残っているはずの《銀水》と《破砕》が邪魔をしてくる気配もない。

 予定通りに事は進んでいる。進んでいるが、上手く行きすぎている。


「………んまぁ、深く考えてもわからんよなぁ」


 情報が少なすぎる。


「…どう思う?」

「僕がダンジョンマスターとやらだったら、迷宮そのものを改造しちゃうけどね〜」


 マールとクロエラの会話も参考に考えてみる。


「前情報があれば、こちらが不利だからな……そう考えても、この迷宮の情報は少ない、はず」


 なにせ、国が出入りを規制してるのだ。

 そこいらのダンジョンと違って出てくる魔物の種類や階層による違い、罠の種類なども不明な点が多い。


 まぁ、上層までならいい。ある程度の薄っぺらい情報なら残ってたから。

 問題は中層から下層。

 文献にも何も記されておらず、一切の情報が開示されていない。


「………そろそろ追わないと、離れちゃうんじゃない?」


 恐る恐る、アレクの顔を見て聞いてくるシリシカに、意識を現実に戻されたアレクは、無言で首肯して………再びメリアの視界を盗み見る。


 そこに映っていたのは。


「あぁぁ〜〜……………なりゅほどね?」


 面倒くさそうに声を上げ、可愛らしく首を傾げるアレクの瞳には…………




 広大な森が広がっていたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ