神獣と対話
神獣グラン・タラスクス。
セイレーン海にあった無人島が突如動き出し、奴は現れた。
陸地だった森や砂浜の下には甲羅が。そして至る所から棘のように甲殻が突き出している。
その、長い首の先に付いた頭の二つの金の眼。
その金眼が俺たちを静かに見つめている。
いや、正確には、俺、なのか?
錯覚なのかもしれないが、そう感じてしまう。
神獣が動き出したことで、セイレーン海は荒れ始めた。海の魔物達が一斉に逃げ出している。
「父さん。どうします?」
「……お前は冷静だな。アレク……」
「まぁ…的中したくない予想でしたが…」
そう。無人島ということで、取り留めのない想像をしていたのだ。その中には、こんな亀が正体でした、というのも想像していた。
……本当に最悪だ。
「迎撃しますか?」
グロリアスが冷汗を掻きながらも質問してくる。
「いきなり攻撃して、ことを悪化させたらマズイでしょうに…」
「む。それは確かに……。申し訳ございません。頭が混乱したままのようです」
「わかります。その気持ち」
「うむ…。とにかく、何とかせんとな……」
男三人で話し合っていたら、
「私も何か手伝うことはありますか?」
「あの〜。私も何かやるよ〜?」
「わ、私もやる!」
『プニエルも、やる〜!』
ふむ。女子四人(スライム一匹)をどうするか……
そう俺たちが話し合っていたところに、何者かの念話が、俺たちの頭に届く。
『……ふむ。背中の上に懐かしい魔力があると感じて目を覚まして見れば……』
それは、明らかに目の前のグラン・タラスクスから聴こえている。これは……
「これは、お前が?」
『如何にも。神に近き少年よ。知っておるかもしれんが、儂の名はグラン・タラスクスじゃ』
「………アレク。アレク=ルノワールだ」
『アレク。アレク、か。よし覚えたぞ。……他の者たちの名前も教えてくれんか?』
互いに自己紹介をする神獣と俺たち。
ヤバイ。どうしよう。俺、神獣と会話してるぜ。
っていうか、神に近き少年ってなんだよ。
「まさか、こんな風に神獣と会話するとは…」
『む……。儂の目覚めで海が荒れてしもうたか…暫し待つが良い』
「あ、はい」
完全に空気なピクニック組を置いといて、神獣さんは何かを唱えた。すると。
「おぉ……」
「う、海が静かになった……」
「わ〜。すごっ」
「……………ハァ」
「アハハ……夢でも見てるんですかね…僕たち」
そう。あんなに荒れていた海が、嘘のように静寂が包み込んでいる。
『うむ。これでよかろう』
「うわー。神技だー」
『スゴイスゴーい!亀のお爺ちゃんスゴーい!』
『う、うむ。そうか、そうじゃろう』
あ、なんかプニエルが煽てまくってる。上手だな……。
「や、やはり今のは神獣殿が……?」
父シルヴァトスが俺に質問してくる。
「そう見たいっすね」
「あっさりしてんのな…」
少し呆れられた気がするが、気のせいだろう。
『うむ。アレクの連れの皆共よ、少し許可を得たいんじゃが……』
「許可……ですか?」
『うむ。アレクと……そこのエンジェルスライムと儂の三人だけで話したいことがあるんじゃよ』
「アレクと、ですか…」
そして、シルヴァトスは他の面々を見回し、
「良いか?」
その返答は、皆、渋々頷くだけだった。
「えー。めんどー」
「いや、ご指名だぞ。はよ行け」
そして、父に背を押されて俺は神獣グラン・タラスクスと向き合い、
「んじゃ、よろしくお願いします」
『よろしくぅ!』
『うむ。では、行こうか』
その瞬間、俺の視界は光に包まれたーーーーー




