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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第六章 大迷宮とお兄様

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いざダンジョンへ


 魔都エーテルハイトの地下に広がる大迷宮。

 その中心……破壊され潰された旧魔王城の近場に位置する尖塔の地下に入口がある。


 アヴァロン大迷宮。

 魔統神が支配する古の地底世界に足を踏み込む。


 外気の入らぬ室内へと足を踏み入れ、古風な螺旋階段を長い長い時間をかけて下り、冷たい空気が漂う尖塔の最下層へと辿り着けば、重厚で暗黒な巨大門扉が佇んでいる。

 悪魔や美人の石像や鮮やかな宝石類が、禍々しさと神々しさを持つ重圧感を放っている。


 そんな迷宮の扉の前に集団が。


 ダンジョンに挑む勇者パーティ、三人の王族、そして奴隷従者と混沌の従神の9人を中心に。

 大天敵(アークエネミー)と神竜、魔工学師、氷心の魔女、先見の精霊士のプロジェクトチーム。

 そして、彼等を見送る魔王国関係者たちその他。


「行ってきます。お父様、お母様」

「えぇ〜。怪我には気をつけるのよ〜?」

「気をつけてな……エリザ、いい加減ユメからその手を離せ」

「いやよ〜。離したらお別れになっちゃ…」

「不吉な事を言うんじゃない!!」

「あはは……ほら、お母様離して、大丈夫だから」

「……そう? じゃあ、ハワードさんユメちゃんのこと宜しくね〜?」

「承りました御母堂」


 次期魔王としてダンジョン最奥に待ち構えているであろう宿敵を討つ為に迷宮へ潜るユメ。

 それを見送る魔王夫婦と、影から付き添うハワードの会話。


「マサキ……頑張って?」

「うん。シリシカもアレクさん達と仲良くね……あまり振り回されないようにしなよ?」

「えぇ。無理かも」

「即答じゃない……」

「あれー?プニはー?」

「ほら、ミュニクちゃん、行きますよ」


 勇者パーティは四人と一人に別れて行動し。


「よしっ!気合い入れて行くぞ!」

「姫様………せいぜい弄ばれて来てください」

「トウマ? 私の事を心配するどころか、本気で不幸を願うのか?」

「はい」

「断言されたっ!?」


 獣王国の王女と大臣の平常運転会話が流れ。


「じゃあ、行ってくるね」

「はい。お帰りをお待ちしております」


 ミラノとステラは夫婦の絆か簡潔に言葉を紡ぐ。

 ……ステラはミラノが攻略組に合流したタイミングで入国していたらしい。


「僕達も行く準備を進めようじゃないか!!」

「……ん。」

「ん?どうした?……楽しそうだね?」

「……そんなことない」

「そうかい?」


 クロエラとマールの一見正反対な会話の温度差。


「はぁ………あ、俺ちょっと尿意が……」

「む、ここに空の水筒ならあるぞ」

「鬼畜すぎね?」

「あ、私も持ってますが……」

「準備いいなお前ら、なんだ?そーゆー趣味か?」


 アレクとニーファ、メリアの少し下品でダンジョンに挑む前とは思えない会話。


 それぞれが個性的なメンバーで、各々が死ぬかもしれない攻略を前に物怖じせずに日常的会話に勤しんでいた。


 会話も早々に締めが入り、ハワードがどういう原理か不明だがユメの影に潜り消える。

 それを機に8人が集い、門の前に立つ。


 迷宮の出入口を監視する部署の職員が、数人がかりで扉の解錠装置に魔力を送り、五分ほど掛けて思い扉を自動的に開かせる。


 ……アレクやニーファ、ユメの魔力があれば一瞬で開いたのだが、そこは言わないお約束。

 というか力の温存的な問題で仕方ない事。


「それじゃあ……行ってきます!」


 迷宮での戦闘に慣れている経験者、マサキが先頭に立って自身よりも大きな門を歩き通る。

 続々とそれに続くダンジョン攻略特攻メンバー。


 迷宮内部の空間は歪んでおり、別種の異界と化している為、いくら破壊しようが外界に影響は出ないので彼等が好き勝手暴れても問題は無い。


 そんな個性的な面々が胸に勇気と戦意を抱いて、次なる戦場へと出発したのだった。






 ダンジョン攻略特攻メンバーの全員が扉に入り、異界と化した地下世界へと降り立ったその時。


 アレク含めた別働隊は行動を開始する。


「さてと……」ガチャガチャガチャ


 クロエラは電線やパイプが接続された機械の入ったリュックサックを背負い。


「……ん、荷物が……入らない…………入った」


 大量の補助アイテムをウエストバッグに収納して杖を大事に抱えるマール。


「やる事はやらないと……マサキも頑張って」


 シリシカは勇者達の勝利を祈っているのか両手を合わせて目を瞑っている。


「一応持っておくかの」


 ニーファは一応の保険なのか夫が造った天罪紫刀を背負って紐で括りつける。


 アレクは……本当に尿意が近かったらしく、トイレに駆け込んで走り去った。

 そして……


「悪い悪い。予定通りとは言え、な」

「まぁ、遅れても問題はなかろう」


 そしてアレクがゆっくり歩いて戻ってきてから数十分後……プロジェクトチームは予定通り迷宮を調べる為に足を踏み入れたのだった。





「さて、これがアヴァロン大迷宮ですか……」


 壁、床、天井に至る全てが石の煉瓦(れんが)で構成されており、全体的に古めかしい模様が彫られており歴史を感じられる。

 狭い通路、等間隔に設置された灯篭のような照明器具が壁に埋め込まれている。


 そんな迷宮内部……上層部を警戒しながら8人は二つのパーティにチーム編成して、前衛と後衛といった感じ、または範囲的余裕があれば左右に分隊して活動する予定。


 この上層で活動している魔物は、主に無機物系が蔓延っている。

 多種多様なゴーレムやガーゴイルが中心だ。

 ほとんど動植物は存在しておらず、偶に雑食で魔力さえ食えてれば生きれるスライムが徘徊する。


「今のところ順調ですね……これと言った問題は無いですし」

「普通のゴーレムが沢山いるだけですね」


 素手で挑んでくるゴーレム、大剣や槍を持つゴーレム、徒党を組んで進撃するゴーレムの軍勢。


 バリエーションは豊かだが、勿論このメンツの前では手も足も出ず……


「……《淑女の妨げ》!」

「ふっ!」

「にゃっ!」

「《クリム・サイクロン》っ!」


 ソフィアの魔法でゴーレムの移動速度が低下し、マサキの閃光の如き速さの斬撃で両断され、ミュニクが火薬玉を投擲してドッカーン、そしてクレハの紅い刃風が容赦なく切り裂く。

 その結果、ゴーレムは為す術もなく破壊される。


 ……心臓たる核が破壊されたゴーレムの残骸は、数秒後に地面に溶け込む様に消える。

 ダンジョン特有の死体回収機能は備わってるようだ。


「今のところ、前からしか来ませんね」

「順調……でしょうかね?」

「考えてもわからんな」

「まぁ、進めば問題は無いと思うよ」


 後衛の王族と従者組も警戒しながら、かつ撃ち漏らしがいたら取り敢えず仕留めていた。


 そのまま一層目は順調に、なんの危険もなく攻略し終え……次に続く階段を発見し、一行は階層を下ったのだった。



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