表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第六章 大迷宮とお兄様

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

203/307

連携プレー



 アレクと二ーファがイチャつき始めていた時間帯よりも少し前。

 彼らの従者、メリアは主が創造した龍泉霊峰の蟻の巣通路の中にある訓練所にいた。


 ダンジョン攻略特攻隊メンバー。

 アレクが適当に名付けた呼称だが、攻略する当人達はこの名前が既に馴染んでいるらしい。

 まぁ、特攻という点だけは否定しているが。


 メンバーは以下の通り。


 《聖剣の勇者》マサキ=テンドウ。

 《聖女》ソフィア=アークシア。

 《赤の令嬢》クレハ=ウィエル=バンフォーレ。

 《猫手の閃光》ミュニク。

 《黒薔薇の魔王姫》ユーメリア=ルノワール。

 《獣王国王女》フェメロナ=ライオンハート。

 《聖王子》ミラノ=ヘルアーク。

 《桃色の起爆剤》メリア=ナイツミディン。


 この八人メンバーとして選出された。

 全員が懇親会メンバーではないが、ソフィアとクレハとミュニクの三人は勇者パーティから適役として選ばれて来た。

 ……他のメンバーであるシリシカはとある目的でアレクが協力を申し出ており、参加は見送る事となっている。


 実を言うと、《混沌の従神》ハワードも一緒に来るのだが、


「暗い迷宮内で(しん)の見分けはつかないだろう……故に、我が主の元で待機させてもらう」


 と言うやいなやユメの右手に触れて消えた。

 驚いたユメの右手には黒いハートと交差するトライデントの紋章が刻まれていた。


 なお、いざダンジョンへ潜る時にこの数で進むと狭い道や戦闘で邪魔になったり余計な被害が出る可能性があったりする為、二つのパーティに分かれて連携を組む。


 一つは、マサキ筆頭のお馴染み勇者パーティを第一パーティ。

 そしてユメ、フェメロナ、ミラノ、メリアの王族三人と規格外奴隷の第二パーティ。


 前衛と後衛を考えての振り分けらしい。

 人数差がまちまちだが、勇者パーティは手馴れているし下手に変えると問題が生じる可能性も考えて特別に四人陣営。

 前衛のミラノ、フェメロナと中衛のメリア、今回は後衛として動くユメの陣営。


 王族も総出という、錚々たる面々である。 


「それじゃあ連携の訓練を始めよう」


 勇者マサキが主体となって話を進める。


「連携はパーティ単体と、チーム全体での2種類なんだけど……まずはパーティでの連携を。僕らのパーティは普段と同じで慣れてるけれど、ユメさん率いる四人は初めての編成だから、ここでちゃんと枠組を作りましょう」

「はい」

「おう、わかった!」

「了承したよ」

「かしこまりました」


 四者四様の返事をする第二パーティ。

 そして、予定通り広いグラウンド(屋内)に広がって訓練を始めるメンバー達。


 ここの訓練所は、特性ゴーレムを相手に訓練をする為に存在している。

 故に機能を熟知している(脳内に知識を叩き込んでいる)メリアは訓練所の壁に埋め込まれた宝石に魔力を流して魔導具を作動させる。


 地面に魔法陣が展開されて、アレクが作った試作品ゴーレムが召喚される。

 材質は、アレク曰く嫁から劣化して剥がれた鱗を高熱で溶かして錬金術で試行錯誤したら都合の良い新材質が出来たので試作としてサンドバックにされる未来を持つゴーレムに装備させたらしい。

 ……劣化しているとはいえ神竜の鱗を溶かす程の高熱をどうやって用意したのかは本人しか知らぬ謎である。


 本人の解説曰く、龍泉霊峰を循環する龍泉酒と魔力の濃度によって他の場所では見れない特殊な土と石を主体としたゴーレムに、神竜の鱗で出来た鎧を着用した戦闘用ゴーレムだとか。


 魔力を注ぐこと合計二回。

 二体のゴーレムが魔法陣の上に召喚され、ハルバードを片手に武器を構える。

 それと同時に八人も武器を構え……訓練が開始される。




 まずは勇者率いる第一パーティを見ていこう。


 マサキが聖剣……ではなく《形状剣アインシュッド》を手に前進する。ミュニクは短剣を両手に持って遠回りに移動しながらゴーレムに近づく。

 クレハは錫杖を手に魔法術式を組み立て始める。ソフィアは身体強化の魔法をマサキとミュニクに付与する。


「はぁああ!!」


 ゴーレムはハルバードを両手で持ち直して形状剣にぶつける。ほんの数秒だけ拮抗状態に入るがマサキは神剣の性質を利用する。

 ハルバードに触れた部分から裂けるように刀身が動いてゴーレムの胸部装甲に突き刺さる。

 だが、流石は神竜の鱗。突き傷すら残さない。

 感情のある魔物の場合、エインシアの神剣は有効と言える。いきなり形が変わる剣を前に動揺しない敵はこの世にいない。


 マサキの刺突が防がれてすぐ、ミュニクがゴーレムの背後に立って短剣を何度も高速で刺す。


「っ!」


 ミュニクはガンガンガンと甲高い金属音が連続で響くが……やがて短剣の刀身は木端微塵に砕け散り、黙って攻撃を受けていたゴーレムが上半身を回転させてミュニクの首を掴もうと腕を伸ばす。


 ……このゴーレム、上半身が生物なら有り得ない360度回転を可能としている。


 伸びた腕はミュニクの喉元に触れかけるが、勇者の瞬発力で高速移動したマサキがミュニクの服の襟首の一部を引っ張って避難。

 寸でのところで救われたミュニクはマサキが抱えるように後ろに飛んだことで抱き着かれた状態。故に少し顔が紅くなるが、戦闘中という事もあって甘えることは自重した。


 二人が避難したのは実は理由がもう一つある。

 それは、クレハが魔法を発動させたから。


「《クリム・ターミガン》!」


 紅い雷が魔法陣から放出されて地表と空中に迸りながら紅雷はゴーレムの身体を蝕む。

 全身を電撃が流れ、ゴーレムの心臓…核を刺激して内側から暴発させる。

 ゴーレムの土の部分が爆発し、銀鎧の中から煙が立ち上る。


「やったかしら!?」


 クレハが言っちゃいけない言葉を言ってしまう。


 ……あまりにも鎧の強度が高い為、鎧の内側の爆発エネルギーは外界に逃げる事叶わず内側で爆発するしかなかったのだ。

 僅かに土の部分が露出した箇所からほんの少しだけ膨張していたり、煙が出ているゴーレム。


 だがやはり、ゴーレムは完全に壊れてはいなかった。

 核が壊れれば普通のゴーレムは機能停止するが、アレクのゴーレムは最後の悪足掻きとも例えられる程、数分間はしぶとく活動できる。


「マサキ様!」

「うん!」


 ソフィアの呼び掛けに答えたマサキはミュニクを地面に下ろして、走り出す。

 聖女の身体強化によって更に勇者の脚力と腕力、思考速度が上昇。

 ほんの1秒の間に、マサキはゴーレムの何処に攻撃を当てるか考察し予測し決定する。強化されて更に強くなった脚力により、一瞬でゴーレムに肉薄。

 形状剣アインシュッドを細く鋭くして、鎧の隙間、土が露出した部分に突き刺し……一瞬にして刀身が枝のように広がって内側を串刺しにする。

 同時に半壊していた核にも数本の刃が突き刺さり、完全に木端微塵となる。


「……ふぅ」


 息を吐くと共に元の形状に戻した神剣を空振るいし、土を落として鞘に収める。

 ゴーレムは膝をつき、宙を仰いで機能停止した。


「マサキ様、ごめんなさい…」

「大丈夫だよまだ時間はあるからね」


 あまりダメージを与えられなかったミュニクがしょんぼりしてマサキの隣に来るが、彼は慰めるように頭を撫でる。

 嬉しそうに目を細めるミュニクに、マサキは微笑ましいものを覚えて、他の仲間の方も見る。


「やっぱり普通のゴーレムじゃなかったわね」

「まぁ、彼が自慢気に語るような物品だしね…」

「ふふっ。お役に立てたようで嬉しいです」


 勇者パーティは笑顔で雑談を済ますと、先程の戦闘の反省会を軽くするのだった。




 次に、第二パーティ。

 フェメロナが嵌めた手甲を胸の前でぶつけ、金属音を奏でて直ぐに突進する。ミラノは《紅陽剣シェメッシュ》に炎を纏わせてフェメロナの後を追う。

 ユメは暗黒魔法の術式を組み立てる。

 そしてメリアは《轟砕の爆戦棍》の先端部を前に出して魔力弾を生成する。


「せいっ!」


 フェメロナは《限定転身》により脚を金色の獅子に変身させて瞬時にゴーレムに肉薄する。拳を鳩尾に入れ、獣人パワーで後退させバランスを崩す。

 その鎧には凹みはしなかったが、殴られた痕がほんの少し黒ずんで見ることが出来た。


「《斜陽》」


 その隙にミラノは燃える神剣をゴーレムの脇腹に切り込む。炎が剣の軌道を追うように流れるさまは戦闘時でなければ息を飲む程の美しさ。

 周囲の温度を上昇させながら、ミラノの神剣は鎧に斬撃を喰らわす。視界に入れても目が焼ける程の熱量では無かったが、その威力は神竜の素材の鎧に炎熱で溶けた切傷の痕を残すほど。

 太陽神の加護をこれでもかと受けているミラノは神竜にもダメージを与えるらしい。……まぁ、薄皮一枚切った程度だが。


「《王の哀悼》」


 ユメの暗黒魔法が発動。

 これは俗に言うデバフをかける支援系の魔法なのだが、掛ける効果が凄まじい。

 攻撃力減少、防御力減少、移動速度低下、吐き気、盲目、空腹、弱体化、猛毒、麻痺、衰弱、不運、思考速度低下などのあらゆる状態異常が同時に降りかかるという嫌な技。

 ……まぁ、その殆どは無生物であるゴーレムには効果が無いので、使う魔法を間違えたのではと思ってしまうが、ゴーレムの移動速度は目に見えて分かるほどに遅くなり、防御力も下がってフェメロナの追撃によって鎧に凹みが入る。


「離れてください!」


 メリアの声に、前衛担当のフェメロナとミラノが素早く移動して下がる。

 メリアの声と共に、戦棍の先端に形成された魔力弾が放出される。大きさは頭一個分程だが、内包された魔力は外界に溢れて目に見える静電気のような現象を引き起こしながら一直線にゴーレムの胸部へとぶつかる。


 そして引き起こる大爆発。


 《轟砕の爆戦棍》の持つ爆発特性を生かした、爆弾のような魔力弾。

 立ち上る煙は訓練所の天井を覆うほど大きく広がっている。地面に散らばる鎧の破片(・・・・)の残骸がその威力を物語っている。


 ガシャン。

 音を立てて煙から這い上がるゴーレム。

 最も爆心地に近かった鎧の胸部装甲は砕けており、そこから破片が落ちたらしい。

 土の肌が露出したゴーレムは怪我を物怖じせずにハルバードを背負って前進する。


「流石はお兄様……作るゴーレムも異常ですね」

「主様をディスるのは程々に。その異常性に助けられてるんですから」

「そうね……いや、別にお兄様を貶してるとかそういうのじゃないわよ?」

「知ってますよ」


 ユメとメリアは慣れた口調で雑談交え、しかし警戒は解かずに隙のひとつも与えない。


「やっぱ強いな……ボコボコにしがいがある!!」

「うーん、この剣でも簡単に切れないもんだね」

「そう嘆くなミラノ。お前の腕の真価はもっと高みにあると思うぞ?」

「ふふっ。そう言って貰えて嬉しいです」


 ミラノとフェメロナも会話を重ねながら前進するゴーレムにジリジリと近づいていく。


 ゴーレムは右手の関節をグルグル動かして脅威の360度回転でハルバードを振り回す。

 生じた風が砂埃を巻き上げ視界を隠す。

 だが、そんなのを気にせぬ事無くミラノが神剣を軽く振ってハルバードと激突させ、その進行を止めることに成功する。

 更に空いた顎にフェメロナが拳をアッパー。

 空に浮いたゴーレムに、連続ボコ殴りを開始するフェメロナ。


 そしてトドメに。


「《神突の牙》!」


 紅く爛々と光る槍を形成してゴーレムを容易く串刺しにする。

 綺麗に核を貫通し、ゴーレムを崩壊させる。

 完全に機能停止に追いやったのだ。


「ふぅ……ダンジョンもこんなのが出てくるのかな?」

「お父様から頂いたダンジョンに出てくる魔獣の目録を一通り見ましたが……外に出れば被害が大きくなる物がほとんどですね」

「よっし、私の腕を試すにはちょうど良いかもな!」

「………」


 他のメンバーが話していた中、メリアだけは倒れたゴーレムを見つめていた。

 それに気づいたユメがメリアに話しかける。


「メリアさん?」

「あっ……すいません、ぼーっとしてました」

「……このゴーレムに何か思い入れでもあるのかい?」


 ミラノの言葉に首を横に振って否定し、再びゴーレムを睨みつける。


「このゴーレム……完全に使い道間違ってるんじゃと………ついつい思ってしまうんですよね」

「「「わかる」」」


 自分の主の物使いの荒さに頭を抱えながら、それでも微笑むメリアを見て、他のメンバーも頬を緩めるのだった。




「そう言えば、メリアさんはお兄様が何をするつもりなのか知ってるの?」

「え?」

「あ、僕もそれは聞きたいな。シリシカが必要だとか言ってたけど……本人も選ばれた理由はわかってなかったみたいだし」

「……」


 メリアは思考する。

 自分にすら知らせていない事を勝手に推測しても良いのかと。


「何かを調べるおつもりなのでしょうが……すいません、詳細までは私にも」


 ただ一つわかるとすれば。



─────主が突拍子のない事をしでかすことか。



 順調にダンジョン攻略の準備は整い、休日一日目に大抵の連携内容が決まったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ