不穏な気配
無人島に、上陸したピクニック組一行。
西側に回り込み、砂浜に着陸した。
「んじゃ、オラはここに《門》を設置させて頂きやすね」
「うむ。頼んだぞブロッケン」
「ははっ」
やり取りを交わした後に、ブロッケンは術式を組み立て始める。そして、
「《空間を繋ぐ無の道の門よ》」
詠唱を紡ぐブロッケンの言葉と共に魔力が膨らみ、彼の指先に集う。そして、彼は右手を空に掲げる。
「《この地を結び門を埋めたまえ》」
そして、その右手を前に下げ、砂浜を指す。瞬間。
「《時空獄門:設置》」
魔法の完成と共に、虚空に裂け目ができた。
「これで、できたべ」
「うむ。ご苦労ブロッケン」
「いえいえ。これがオラの仕事なんで。では、オラはここで帰城しますや。何かあったら通信機にご連絡を」
「うむ。城でゆっくり休むがよい」
「はっ。…………んじゃぁなー!坊主に嬢ちゃんたち!」
「ハイ。あざしたー」
「バイバーイ!」
『バイバーイ?』
こうしてブロッケンは魔王城に帰った。
俺たちは無人島の中央にある丘に登り、時間的にも丁度良いので、昼飯とするのだった。
「あ、わたしこの玉子焼き好き!」
「あー。ユメ様美しい………」
『マシタ!この肉おいちい!』
「うん。ウインナーな。美味しいな」
「あらあら〜。一緒に作った甲斐があったわね〜?ムジカちゃ〜ん?」
「そうですね」
「うむ。流石だな二人とも」
母とムジカが作ったお弁当を食べる俺たち。
うん。結構美味しいな。
お弁当を食べ終えた俺たちピクニック組は、丘の上でのんびりしていた。
しかし。
……ドックン。……ゾワッ
「っ!?」
何かの鼓動の音と、背筋をつたる悪寒。
な、何だこれは……
「ん?どうしたの?お兄さん」
えっ……あの察知能力が高いユメさんが気づいてない、だと?
どういうことだ?
……ドックン。……ドックン。……ドックン。
次第に鼓動音は大きくなり、やがて他の人達も聞こえ始めたのか、怪訝な表情で警戒を始める。
「な、何だ….?」
父も少し動揺しているようだ。
……ドックン。……ドックン。……ドックンッ!
やがて今までで一番大きな音と共に、気味の悪い静寂が訪れる。
「こ、怖いよ、お兄ちゃん……」
兄さんからお兄ちゃんに戻ったユメちゃん。
いやまぁ、わかる。この不穏な力を感じてしまったんだろう。
恐らく、この鼓動音の発していた場所は、地下。
そう判断した俺が行動しようとした瞬間に……
……………グオォォォォォォォォッ!!!!
強大な咆哮と共に、島が動き出す。
大地の至る所から、岩のような塊が突き出してくる。
…ッ!?下から来るーーー!!
「《立方防御壁》っ!」
立方体の防御壁を俺たちを守るように障壁を張る。
瞬間、防御壁にぶち当たる岩。
ん?岩ーーーいや、これは、甲殻、か?
グオォォォォォォォォッ!!!
再びの咆哮と共に、無人島だと誤認していた何かの南側の崖から、巨大な頭が現れた。
そして大地が地震のように動き出す。
「《上空避難》っ!」
瞬時に防御壁ごと、上陸に移動させる。
そして、その動く何かの全容を捉えることに成功した。
……こいつはーーーーーーーーーー
「……神獣グラン・タラスクス」
魔物大図鑑の神話生物覧に記載されていた亀の姿の天災の象徴。
何故かそいつが目を覚まして、俺たちの前に顕現し、楽しいピクニックが、ヤバイ状況になった瞬間だった。




