そして世界は激動する
これにて五章完結。
次にて登場人物紹介を挟み、新章突入です。
魔統神ダグロスが神徒二人を連れて行方を晦ましてすぐ、魔都エーテルハイトでの戦いも終幕へと向かっていた。
星宮蓮夜の《魔銃戦線》による横殴りの鉛玉が多くの真の魔族に風穴を開けて。
舞並茜の《匣庭《ヴィネットガーデン》》による天使装甲が都市内戦場を蹂躙し。
魔王軍と各国から派遣された頼もしい義勇軍が敵を撃破し、魔都を走り回る。
負傷した者は野戦病院へ飛ばされて、癒されてはまた戦場へと走っていく。
無限とも言える尽きぬ兵力。
逆に減っていく神の配下。
そして遂に。
「とったどぉぉぉーーー!!!」
「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」
蓮夜の咆哮と共に上がる喜びの叫び。
魔都は奪還され、《魔界戦線》は終わりを迎えたのだった……
その影に未だ痼を残したままに。
◆アレク=ルノワール
「ふわぁ~」
ソファの上で横になり、欠伸をしながら画面を見つめる俺。
そこに写っているのは、魔都エーテルハイトで行われていた戦場の記録映像。
クロエラ特性の蝿型カメラが蹂躙無尽に飛び回って何機かぶち壊れたものの戦闘の撮影は出来た。
今は記録の集計中であり、クロエラがデータを見て何かを書き、それをマールが邪魔にならない様に横から覗き込んでいるのが今の現状。
あ、ここは龍泉霊峰の戦場観覧室。
少し視線を離せば、戦争に勝ったのは良いものの密かに元家臣を処した夫を怒る母さんと、脂汗をかきながら正座している魔王の父さん。
魔統神逃亡後に気絶したユメは、謎の人物…人型生命体ハワードがお姫様抱っこして今は蟻の巣通路の一角にある偉い人用の病室で寝ている。
ハワードについては一通り自分語りをさせて理解したが……ユメってすげーんだって事しかわからなかった。まぁ、味方ならよし。
詮索する理由も特にありゃせんし。
あ、重症患者のグロリアスとかアンデュラーとか勇者マサキとかは医務室に突っ込んだ。
ヘイドさんは大した怪我も無く自分の異空間に帰っていった。何するかわからんけど。
そんなこんなで魔都エーテルハイト奪還が成功し、敵兵を一人残らす消した魔王軍と義勇軍は戦後処理に走っている。
平和ボケしてたとか言われてたけど、やってる事は今も昔も変わらんだろうね。
やる時はやる奴らなんだよ多分。
「主様、紅茶です」
「あんがと~」
メリアが紅茶を渡してきたので、起き上がって貰い受ける。
暖かいカップを大事に抱えて、少しフーフーして熱を冷まして一口。
うん。美味しい。
「メリア、我には?」
「ここにあります」
同じくソファに座って目の前の映像編集作業を眺めていたニーファがメリアに所望する。
こいつ、ユメのサポートをするどころか知り合いを見つけたとか言ってほっつき歩いてたらしい。
しかもお相手はナチュレ。
南島で出会った植物人間と知り合いとは……
まぁ、ユメの暗黒魔法発動時にどっかに消えたらしいけど……多分また会うだろ。
またセクハラされないか心配だけども。
てか、ニーファの知り合いというか友達に会ったのってアイツが初めてじゃね?
もしかして友達少ない……?
「なんじゃその目はやめろ向けるでない」
「いや……頑張れよ」
「だから何が!?」
生暖かい視線を外して次のことを考える。
魔統神ダグロスの居場所。
配下のメノウとガムサルムを連れて何処に消えたのか判明してないが……あいつを討伐しない限り、完全な魔都奪還とは行かないだろう。
「全く……トドメ刺しとこうぜ?メリア」
「申し訳ございません」
なんかこう主従の念とかそーゆーのに揺られて後回しにしたのがメリアの失態だな。
まぁ、従者同士わかるものでもあったのだろうかね…?
「謝罪ついでに申したい事が1つあるんですが」
「なになに?」
「メノウに探知魔法かけてるんで、居場所わかってるんですが……」
「そういうこと早く言おうっ!?」
「すいません」
有能。
失態をカバーする、流石我がメイド。
「ふむ、どこにいるのだ?」
会話が聞こえたのか、父さんと母さんが腕を組んで歩いてきた。
仲直りできたようである。うんうん仲良いのが一番だね!
「アレクちゃんも後でお話ね~?」
「えぇ……」
ニコニコ笑顔でドスをきかせてくる母さん。
隣で我関せずと遠くを見る父さん。
バレたのか。バレちゃったのか、はぁー…
「では場所を言いますね……えっと…」
そう言うとメリアは右瞼を閉じて手を当てる。
恐らく、瞼の裏に地図が表示されてるとかそーゆー魔法あるあるで確かめてる。
「…まだ魔都エーテルハイトに居ますね」
「なに?」
「……でも、凄い地下にいます」
「はぁ?」
メノウはまだ魔都エーテルハイトにいて?
しかもその地下にいると?
「……地下迷宮」
父さんがボソッた吐いた言葉は、確証を突いていたのは言うまでも無かった。
なんだよ次はダンジョン攻略か。
アヴァロン大迷宮。
立ち入りが制限されてる程の機密性を持つ、俺もあまり知らない古の遺跡洞窟。
これは楽しみだな。
そう呑気に考えた俺はまだ暖かい紅茶を胃の中に注ぎ入れたのだった。
こうして彼らは突き進む。
激動する世界は神の手によって揺れ続け、一人の子供の手によって目まぐるしく回転する。
如何なる予知も予言も受け付けない突飛な現実へと突き進んでいく。
ダンジョンという壁は彼らの前に意味を成すのか為さないのか。
全て確定することの無い未来のお話。
「取り敢えずユメを起こすか」
「手荒くやるでないぞ」
「……王子様のキスで目覚めるお姫様ってシチュエーションはいかが?」
「無いじゃろ」
「俺って一応王子だよ?わかってる?」
「…あー、そう言えばそうじゃったの」
「酷い」
「その前にアレクちゃんお話しよっか~?」
「えっ……あ、はい」
「主様、南無です」
「達者での」
「許せ息子よ」
「味方がいないとか悲しみなんですけど」
「アレクちゃん?」
「はいっ!」
その後、小一時間。
父さんを勝手に連れて戦わせた事への説教を
食らったのは言うまでもない。