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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第五章 魔に挑むお兄様
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混沌の従神


 夜が湖に溶け込んだ様に美しい世界で。

 目を覚まして突然の出来事にユメは驚いていた。


 理由は、目の前の長身の人型の存在。

 身体は純粋な黒一色、目や鼻や口が存在しないのっぺらぽうの様な形だけの顔。

 背中には紫色の結晶体が生えており、背凭れが抉れた王座に座ってユメの方を向いている異形。


「初めまして王の器。君がここに来るのをずっと昔から待っていた」


 話しかけてきた存在を前に、ユメは声を失う。

 身体から放たれる冷たい圧力が悪寒を走らせ、言葉の一つ一つが身体に重圧を与える。


「……あぁ、すまない。神気を解こう」


 そう言うと、彼は冷たい圧力……神気の垂れ流しを止めてユメの硬直を解く。


「っ……。はぁ……はぁ……」


 どうやら息をするのも忘れる程に緊張していたようで、ユメはやっと思い出したかのように荒く息を始める。


「……はぁ……ふぅ。………あなたは、誰ですか? それと、ここは一体どこなんです? あと、私を待っていたという発言の意味は……?」

「まぁまぁ。そう焦るな。全て教える」


 矢継ぎ早に質問して、全ての疑問を払拭したくて焦るユメと、平静を保ち静かに答える黒い人。

 対比できる二人の姿には、緊張した雰囲気が流れる。


(しん)の名はハワード。破壊神アザトースに仕える…混沌の従神だ」

「……混沌の従神……つまり、神?」


 ユメは相手が神だと言うので少し額に汗を浮かべて慎重になり始める。


「普段通りで構わんよ。臣は君の味方だ」


 ハワードと名乗った彼は手を組んで少し前のめりになって、ユメの質問に丁寧に答える。


「ここは何処であるか……答えは君の精神世界だ」

「え?」

「魔統神の暗黒魔法で死ぬ直前だったが……君は覚醒する条件を満たしたのでな。ここに来ることが出来たんだ」

「………」


 要するに、この水平線の先まで湖の夜の世界はユーメリア=ルノワールの心の中だということ。

 その答えにユメは少しだけ動じて額に手を当てる。突然連れてこられたと思ったら、ここは自分の心の中。

 つまり……


「っ! じゃあ、現実世界の私は……」

「安心したまえ。君の精神世界では時間の流れが存在しない。故に現実世界での君がこれ以上蝕まれることは無いだろう……確約はしないが」

「……そうですか」


 きっと彼の言ってる事は真実なのだろう。

 そう思ってユメは一先ず安堵の息を吐いて再びハワードの話に耳を傾ける。


「最後の質問だが……臣が君を待っていた理由は」


 一度区切りを付けて彼は事もなく真相を告げる。


「真の魔王になる器の見極め」

「……は?」

「理解できないのも容易にわかる。分かりやすく説明しよう……なに、時間は充分にあるどころか、過ぎぬのだからな」


 そして、語られる。


「君が今世に産まれた時から未来は決まっていた」

「産まれた時から破壊神の加護を手にし、真の魔王となる道を君は辿ってきた」

「死に瀕し、臣と今ここに居るのがその証拠だ」


 事実を淡々と述べて語り聞かせるハワード。


「代々の魔王から覚醒の兆しを持ち資格に値する王を見つけ、その者に仕えるのが役目であり……臣が与えられた生きる道」

「破壊神アザトースから与えられた使命」

「臣は今この時のために……そして、これから君の力になる為に生きてきた」


 なんか壮大な話になってきたので、ユメは目を擦りながら欠伸をする。

 …彼女は真面目そうに見えるが長い話は流すタイプだということは大体みんな知ってる。


「で、話の結論は?」

「これから君と契約する。始めるよ」

「はい。………はい?」


 何を言ってるんだコイツと言った目でユメがジト目をすると、ハワードは王座から立ち上がって、手のひらに魔法陣を浮かべて自身ごと二人を包み込ませる。


「契約の魔法陣だ。手を出しなさい」

「待って、待って!? 急すぎません!?」

「こっちは十年以上待ったんだ。少しぐらい急かしても…強制でも構わんだろう」

「うっ……てか、私は色々と求めてないんですけど…?」

「神の都合だ」

「何も言えない(泣)」


 歪な魔法陣が大きく広がり、地面から黒と白の閃光が伸びて二人の身体に触れ……繋げる。


「それに……敵を倒すのだろう? 真の魔王になればそれも成せる。いい事づくめだろう?」

「……あぁ!もう! どうせ拒否できないんでしょう!? やりますよ、契約すればいいんでしょ!」


 少し自暴自棄になったがユメは目に力を強く込めてハワードを見つめる。


「ふっ……それでこそ真の魔王だ」


 ユメの決意を半ば強引に話を進めたハワードが汲み取って素早く契約魔法を行使する。


「さぁ行くぞ……《ケーオス・テスタメント》」


 魔法陣と二人を結ぶ閃光が神々しく点滅して光だしユメの精神世界を眩く染め上げる。

 目が焼ける程の光量でユメは瞼を手で抑えて光から眼を逃がす。


「くっ……!」

「大丈夫。もう少しの辛抱だ」


 言葉通り、目を閉じててもわかるほどの光は落ち着き始め……ユメは身体に少し違和感を感じる。


「っ……終っ、た?」

「あぁ。契約は完了した。これで臣は……君の従僕となった。好きに使いたまえ真の魔王よ」


 跪いて平伏するハワード。


 ユメは自身の姿を写す湖の水面を見て驚く。


 黒い麗しの髪の一部が銀色に染色され、紅い瞳には魔法陣が浮かんでいる。

 身に宿る魔力も相当な物で、目の前のハワードとの魂の繋がりが明確に感じられる。


「……これが、覚醒?」

「厳密には、これは前段階。ただの契約で新たな力に覚醒したと言っても、それを使いこなさなければ意味が無い」

「それはわかってます」


 ユメは決心した顔で握り拳を作り、ハワードを力強く睨みつける。


「他にも説明してもらいたい事が山ほどありますけど……今はとにかく、魔統神を! お手伝いお願いしますね! ハワードさん!」

「御意。臣の力は王と共にあり……存分に力を振るいたまえ、君」


 瞬間、精神世界の湖が大きく歪んで視界が曲がり始める。

 それは現実世界へと戻る合図。


「ふぅー…! いきますっ!」


 色々と疑問がある中、ユメは最優先の問題を片付けるために戦場へと舞い戻る。






 ◆神竜ニールファリス


「……やばいの」


 いやー……割と真面目にやばいの。


 懐かしい気配を感じて、ユメを置いてそっちに行ってたのが仇になった。

 紅い海と球体が浮かぶ王座の間。

 高いところに位置する窓枠の外から室内を睨む我は油断なく球体を睨む魔統神を観察し続ける。


「っ……ユメは平気なのかっ……?」

「多分ぅ、だいじょーぶじゃないかなー?」

「っ!」


 魔皇城の壁、窓枠の隣から木が軋む音を立てながらニョキニョキと巨大な蕾が出てきて、開花する。

 中から包帯を目元に巻いて、右目に花が咲いている緑髪の美少年。


「アレク君の妹ちゃんならー、大抵の事はだいじょーぶなんじゃないかなぁー?」


 そう言って現れたのは、ナチュレ。

 ……アレクは自ら言ってはいないが、契約魂陣の力でこやつがアレクと南の島で接触していたのを我は知っている。


「……随分とアレクを買っているのだな」

「うん。彼のことは好きだよー?」

「……お前の主よりもか?」

「そこはー……まぁ、親離れしなきゃねー」


 まったく。

 こやつは昔からよくわからんやつだ。


 ナチュレ。

 森と共に生きる、古くから生きる友人ではあるのだが……その正体は……………。


「まぁ良い。お主が今は敵対してないのは明確じゃからな。気にせんでおこう」

「ありがとー」

「じゃが、アレクにセクハラしたことは忘れとらんからな」

「……ん? 何その話。知らないよー?」


 ……こやつ、しらばっくれておるのか?


「口の中に蔦を入れたり肌に添わせたりすること」

「えー? ラムールが笑顔で教えてくれたんだよー? ちゃんとしたコミュニケーションだって」

「嘘じゃよ、それ」

「…えー」


 なんじゃ、無知なのか。

 騙されやすい奴じゃな。

 のほほんとしてて掴みづらい性格、取り敢えず天然で人を疑わない。

 挨拶の仕方すら分からんとは……どうなってるじゃ、親としての教育は。


「…お主のことは置いといて、まずはユメじゃな」

「んー……あれれ?」

「む?」


 驚いて王座の間に視線を戻す。

 そんな我らの視線に映ったのは………






 ◆魔統神ダグロス


「……終わったか」


 紅い渦球の中に閉じ込められたユーメリアの生体反応が消えた。

 《緋岸の終路》は発動したら最後、絶対に逃げることは不可能な世界を造り上げる暗黒魔法。

 文字通り、逃れる術はなく彼岸へと送られる。


「ん? ……なにっ!?」


 突然、球体から黒と白の光が突出して漏れ出す。

 生体反応を感じれなかったのに、今は先程とは大きく違う力の波動が感じられる。


「これは………」


 瞬間、球体が破裂する。

 周囲に存在して王座の間を埋めていた紅い海が渦を巻いて球体があった場所の中心へと吸い込まれ……無と還る。


「……なんだ、その力はっ……!」


 手のひらに小さなブラックホールを浮かべたユメが傍にハワードを引き連れて顕現していた。

 兄に似た一筋の銀色の髪が目立つようになり。

 手には破神剣をもち、黒薔薇の意匠が施された姫鎧をはためかせて堂々と宣言する。


「もう、貴方に負ける気がありません!」


 瞳の魔法陣をキランっと光らせユメは魔王らしく不敵で美しい笑みを浮かべたのだった。



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