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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第五章 魔に挑むお兄様
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仕え支える者



 アレクが裏切り者のブロッケンと対峙していた同時刻、王座の間の壁をぶち抜けた先の近くの部屋で二人の人物が相見えていた。


 桃色の起爆剤、メリア=ナイツミディン。

 魔皇四将にして銀水の神徒、メノウ。


 二人の従者が戦場を造り出していた。


「はぁっ!」

「ふっ!」


 燃え上がり音を立てる爆炎と、畝ねり宙を踊り牙を剥く銀水の攻防戦。


 轟砕の爆戦棍と銀水の錫杖が金属音を立てながらぶつかり合い、お互いに破壊されずに形を保ち、爆炎を撒き散らしながら二人は睨み合う。


「くたばれ、獣人がぁっ!!」

「こちらのセリフです!」


 飛び交う罵倒と正論……いや、正当化する為の文句を叫んで、互いの体力をジリジリと削り続ける。


「《銀の洗礼》っ!」


 輝く銀色の水礫が意志を持ってメリアを貫こうと一直線に宙を突き進む。


「《火粉弾(かふんだん)》っ!」


 負けじとメリアも、戦棍から舞う火の粉を操って固形化させ、同じように弾丸として撃ち出す。


 互いに激突して、鎮火、蒸発する魔法の弾丸。


 白煙が広がって視界を遮る。


「《魔水蛇》」


 蛇を象る水の鞭が白煙から飛び出てメリアの肩に喰らいつく。

 飛び散る鮮血が戦場に咲く。


「くっ……!」


 すかさず戦棍を振るって蛇の頭を叩き飛ばし、首を真っ二つにしてメノウから飛んで離れる。


「……《ヒール》」


 血が垂れ流れる肩を見つめ、軽めの回復魔法をかけるメリア。

 せいぜい、傷口が塞がる程度の癒しだったが、それで十分とメリアは一歩を踏み出そうとし───


「甘い」


 メノウの一言で身体が崩れる。


「……………え?」


 全身が重い。

 身体が脳の指示に従わない。

 だんだんと視界も薄れていく。


「残念だが……《魔水蛇》を払い除け、傷口を癒してしまったのが貴様の敗因だ……」

「な、……にお……」

「簡単な話だ。身体の中に侵入した銀水が血管を通って貴様の中で暴れまわってるだけだ……まぁ、傷口を癒しても、噛まれた時点で終わりだがな」

「…………」


 既に喋る気力は無い。

 メリアは戦棍に縋って身体を支えていたが、ふらついて倒れ、遂に地に伏してしまう。

 カランと音を立てて倒れる戦棍。

 前に倒れてうつ伏せになったメリア。


 それとは対照的に、メノウは優雅に歩きながら錫杖を構え、倒れ伏したメリアの首元に鈍い青色の宝珠が着いた杖の先端を近づける。


「全く、あの小僧の成長は目にも見張るが……貴様は大して変わってないな……まぁ、その程度か」


 比較され、馬鹿にされ、コケにされるメリア。


「さらば……すぐに仲間を送ってやる!!」


 一度遠ざけ、首元に振り下ろされる錫杖。

 それはメリアの首に殴りつけて────────






「……があっ!?」


 突如メノウの身体が横に吹き飛ぶ。爆炎と共に。


「………甘いのは、そちらの方では……ないでしょう、か?」


 ふらつきながら立ち上がるメリア。

 彼女の足元から闇が蠢いて、メノウが立っていた場所に浮き出る女性の影(・・・・)


 《影絵》。

 メリアの編み出した闇魔法にして影を操る術。


「っ………んっ!」


 メリアは注射器を取り出して、肩に突き刺す。

 注射器を押すのではなく、引いて、中に入った銀水だけを取り出す。

 ただの注射器ではなく、魔導具の注射器であり、世界都市の大きな病院に備えられている非売品。

 何故これを持っているかは……彼女の主が何かしらやらかしてると思ってもらいたい。


 メリアは銀水の入った注射器を抜いて、目の前にかざした後に放り投げて地面に捨てる。

 更に、メノウが操れないように戦棍で爆砕蒸発させて一滴も残らず消し尽くす。


「先程の白煙に紛れて使わせて頂きました」


 そう、メノウが蛇を放つよりも前に早く、メリアは魔法を発動して、自分の影をバレないように歪ませて、メノウからは遠回りに動かして不意打ちをつく準備をしていたのだ。


 メリアが持っている武器(・・)も影に写し出されその能力を発揮する。

 先程の爆発が起きたのはこれが理由。

 轟砕の爆戦棍もコピーして影絵に組み込んだのだ。

 理屈?そんなの知らん。魔法の力は偉大なのだ。


「くっ……侮りすぎたかっ……!」


 腹を抑えて、口から血を流し……吐き捨てて、汚れた口を拭う。

 爆発でボロボロになった司祭服をそのままに、メノウは錫杖を横薙ぎに振るう。


「《裁きの水》っ!」


 全方向に放射状に放たれた水の塊。

 一秒でメノウから数十メートル離れた位置まで動く銀色の水が、メリアを襲う。


 ギリギリ避けて、時には戦棍と影を駆使して回避するメリア。

 避けられた水弾は、壁に当たった瞬間、ゴリゴリと音を立てながら消えることなく削っている。

 丸い丸い穴を作りながら。


「……当たったら酷いことになりそうですね」


 背後で起きる現象に目を細め、素早く分析して未だ放たれ続ける水の弾丸を避け続ける。


「死ねぇーーー!!!」


 完全に激昂したメノウは無闇矢鱈に魔法を放って部屋の床を銀水で水浸しにしていく。


「っ! まずい!」


 メリアがフィールドが相手にとって有利であることに気づくが、時既に遅し。


「《破水龍》ぅっ!!」


 操られた銀水が立ち上って何匹もの龍を象り、天井へと真っ直ぐに、垂直に突き進んで穴を開ける。

 そして、穴が空いた所とは別の天井をくり抜いて地上に落ちてくる。

 何匹かはメリアの真上に落ちてきて、そのまま噛み砕こうと垂直落下して殺しにかかる。


「《ダークカーテン》っ!」


 自分以外の影……光に照らされて作られた壁や物の影も手足として操り、自分の周りを覆って壁を創り出すメリア。

 それは、外から見たら黒い球体に見えた。

 固形化した影に激突して崩れる水龍から身を守るメリアは、魔力を練って次の魔法に備える。


 だが。


「《渦蛇噛穀(うずへびごうこく)》!!」


 銀水の錫杖から溢れ出る魔水が龍を強化して、全フィールドから影玉を総攻撃。

 噛みつき、歯を突き立て、砕かんとする水蛇。

 鱗を象っていた水の部位も形を変えて、遠目から見れば綺麗な肌を持つ銀色の蛇にしか見えないが……集団でいるのが恐ろしいところ。


 ミシシッ……


 鈍い音を発し、崩壊の時の訪れを耳にしたメリアは、焦りと共に打開策を編み出す。


「………」


 脳裏に浮かぶは、主との何気なく交わした会話。


『なぁメリア。もしも密室空間に捕まって逃げ場を失うなんていう痴態を犯したらどうする?』


 いきなり振られた質問に戸惑ったあの時の会話を思い出す。


『………主様の体験談でしょうか?』

『ちゃうわ! ……多分』


 ちょうど、あの時は学園にある庭園で授業を抜け出してティータイムに洒落こんだ主に付き添った時のこと。

 ………どう考えても、従者として連れ戻すべき時間だったんだと思うけれども。


『そうですね……力づくで逃げ出す、ですかね?』

『……ん、んぅ……今のメリアならできるだろうけど……失敗する確率の方が高そうだよね』

『………確かに、脳筋すぎましたね』

『まぁ、だいたい同じような答えに辿り着くよ…』


 ココアを啜りながら頬杖をつき、花の周りを飛び回る蝶々を見てアレクは自答する。


『もし自分が魔法を使えない一般人だったら?』


『もし自分が怪力を持てなかったら?』


『もしも助けを呼べない可哀想な人だったら?』


『為す術なんてありゃしない』


 大袈裟に手を広げて……指の上に一匹の蝶を乗せて、それを眺めながら台詞を続ける。


『でも……そんなデバフが存在しない身だったら……特に何も考えなくて良いよな』

『………何故ですか?』


『それはな───────────……』


 純粋なメリアの疑問に、自信満々に答えた彼の言葉を脳裏に刻み込み……メリアは目を見開く。


 瞬間、影玉が破壊されて銀の水蛇が四方八方上下左右から襲いかかる。


 しかし、既にその場にメリアは存在していなかった。


「………なに?」


 銀水を通して手応えを感じない事に違和感を覚えるメノウが、一歩だけ前に踏み出した。

 その時。


『こんな回答だったら、最初の質問に意味なくねって思っちゃうけど………』


 メリアは、いつの間にかメノウの背後(・・)に立って、自慢の主が造った戦棍を縦に振るう。


「なにっ!?」


 そして、自信満々に歪ませた顔で微笑みかける。


「転移すれば良いだけです」

『転移すればゲームクリア』


 2人の主従の答えはこれ。

 転移魔法による種も仕掛けもない脱出手品だ。


 爆炎を巻き起こしてメノウの身体を破壊する、主自慢の破壊兵器。

 轟砕の爆戦棍はメノウの右半身を大きく吹き飛ばして、炎と粉塵を撒き散らしながら彼に重症……いや、致命傷に近い傷を負わせる。


「ぐっ……ぐうぅぅぅぅ!!!」


 右腕を完全に失い、胸にあたる部位にまで損傷をもたらした破壊のメイス。

 その傷口は到底お見せ出来るものでは無い。


 ……更に、足の骨も何本か逝ってるようで、変な方向に折れ曲がっていた。


「あなたの敗因は一つです」


 倒れ伏して息も絶え絶えなメノウに、勝利を飾ったメリアは告げる。


「主様の味方ではなかった事です」


 にこやかに微笑んで、幕を閉じる。


「くっ……そがぁ!!」


 メノウは今の現状に諦めきれず、重い体を這わせて床を進む。

 それを見るメリアは、彼の健気な逃亡を妨害するわけでもなく、ただ見つめていた。


「はぁ……はぁ……、何故、追わんのだ……小娘」


 床を這い、頑張って後ろを向きメリアを睨みつけるメノウ。

 それに彼女は答える。


「そうですね……最後の時ぐらい、自分の主に合わせてあげよう……って感じの優しさですかね?」


 互いに主に仕える身としての慈悲。

 死ぬ時ぐらいは主君の顔を見たいだろうと。


「……………やはり、甘いではないか……」


 目を細めて、再び這いずるメノウ。


 メリアはメイド鎧についた埃を払い落として回れ右。扉へと向かって部屋から出る。


 近くでは、未だに鳴り止まぬ戦闘音が。


「他の皆様はご無事でしょうか……?」



 銀水の神徒メノウ VS 桃色の起爆剤メリア=ナイツミディン。


 勝者、メリア。

 敗者たるメノウは這いずって王座の間に移動中。


 主に仕え、支える従者同士の戦いは幕を降ろしたのであった。


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