始まる決戦
あけましておめでとうございます。
今年も本作を宜しくお願いします。
魔都の奪還。
お互い戦の準備は出来た所で、俺達が龍泉霊峰の荒野で出発を待っていた時に、世界同盟の評議会長のエウクと魔族代表で叔父のアルダンテが挨拶をしにやってきた。
「うむ。 全員準備は出来ておるようじゃな」
「はぁ……いや、すまない。本当ならもっと早く会いに来たかったんだけど……」
「仕事を人一倍多く任されとるお主の手腕が見込まれとる証拠じゃよ」
「だと良いんですが」
まぁ、政治面で力を持つ文官として有名なアルダンテが仕事を任されるのは仕方ないよね。
「……毎度言うけど、大丈夫かい?兄さん」
「平気だと言っている。お前は相変わらずの心配性だな」
「……ならいいけどさ」
体調は九割ほど回復して歩けるレベルには復活した父さんは、叔父さんを軽く睨みながら変わらぬ弟に安心感の様なものを覚える。
「…アレク君、ユメちゃん、頼んだよ?」
「大丈夫だ。問題ない」
「勝つ未来しか見えませんから、大丈夫です!」
それフラグ。
……君に一級フラグ建築士の座を与えよう。
頑張って折って回避してくれ。
「準備が整いました。そろそろ向かいましょう」
グロリアスの声に振り返ると、魔都エーテルハイトへと乗り込む連合の諸君が綺麗に整列している。
全員の瞳には燃え上がる闘志と死地へ行く覚悟が宿っている。
「頼んだぞ、諸君」
魔王シルヴァトスの言葉に選抜メンバーが頷く。
そして、ユメが声を張り上げて号令をかける。
「そうね……行きましょう! 全てを取り返す為に!!」
「「「「おぉぉぉぉぉー!!!!」」」」
全ては勝利の為に。
それぞれの思惑を重ねて魔統神との最後の戦が始まるのであった。
「それじゃあ、一番手は俺だな!」
意気揚々と立ち上がり、未だに進軍しない味方の軍の前に行く。
彼らが進軍しないのは理由があるのだ。
魔法で焼け野原と化したラポーム平原の先。
魔都エーテルハイトの西の城壁……俺が壊して生まれたスラムの入り口に、神軍の真の魔族の兵士たちが陣形を組み、防壁を建てて侵入を防ごうと動いているのが目に見える。
まったく……無駄無駄。
ぜぇーんぶ無駄なんだよっ!
「コタロー! お前に決めた!」
「メェェ〜〜!!!」
俺は異空間の穴を開けて、最初に錬成した禁忌の魔獣である《黒山羊》の一号を飛び出させる。
南の島の魔獣を素材にしてクッキングして生まれた20メートル級の破壊の化身。
高い城壁を破壊せんと突撃する黒山羊一号が砂埃を立てながら荒野を走る。
「あれは……っ!」
「と、止めろ! 何としてでも止めるんだ!」
「絶対に入れさせるなぁぁぁ!!!」
阿鼻叫喚の叫び声を上げて魔法や弓で応戦する神軍だが、黒山羊は全てを無視して突進する。
触れた魔法は弾け散り、矢は全て跳ね返される。
何の障壁も受け付けずに押し通す。
ドガガガガガガガガガガッ!!!
ギャーっと悲鳴を上げる真の魔族と共に吹き飛ぶ城壁とスラム街。背から生える触手がついでとばかりに彼等を襲って薙ぎ払う。
黒山羊は額から螺旋状の一角を生やして魔皇城エグメニオンへと直進する。
《ネクロ・オーン》で生まれた黒山羊という存在は《食べた生物の特徴を具現化させる》能力を持っており、額に生えた角はソレの力だ。
食べた魔獣の名はイッカクランセン。
海中を泳ぐ螺旋の角を持つ海獣で、他の魔物が乱戦している時に戦闘に割り込み両者を喰らう海の卑怯者。大きさは15メートルほど。
獲物が疲弊してる所を狙う狡猾さを持つが、本体は対して強くなく、角の貫通力が凄いだけである。
黒山羊は一口で噛み砕いて捕食し、螺旋の角を任意で出せるようになっていた。
「メェェェェエエ工!!!!!」
ものの数分でスラム街を出て、貴族の屋敷が並ぶ区域に突撃する黒山羊。
誰の屋敷かは知らないが、ご愁傷さま。
黒山羊は、魔皇城エグメニオンに続く道を破壊しながら作り……遂に辿り着く。
旧魔王城の残骸を踏みながら魔皇城の壁へと螺旋角を突き立てる。
「よしっ! 全軍、突撃ぃっ!!」
魔皇城まで到達した黒山羊を見て、ノーストール卿の号令のもと龍泉霊峰から繋がれた空間の穴を通って焼け野原を走り魔都へと進む。
先頭に《蒼穹の戦線》の銃火器部隊が走って銃を乱射しながら道を開ける。
魔皇城乗り込み選抜メンバーである俺やニーファもレンヤとアカネの後ろを飛んで着いていく。
走るよりも飛ぶ方が楽。
こう考えると高度恐怖症じゃなくて良かったぜ。
黒山羊の襲撃から生き残り、追い掛けるのを諦めた真の魔族達が俺達の行く手を阻もうと攻撃してくるが、銃撃や兵士との激突によって押し込まれるように雪崩こまれてしまう。
結果的に魔都エーテルハイトへと帰還を果たした俺達は全てを取り返す為に黒山羊が作った荒れ道を通り抜ける。
レンヤやアカネが能力を使って都内警備の兵士たちと応戦し、勇者パーティのシリシカやクレハ、ミュニクが得意の武器を手に道を広げる。
連合軍の兵士もチート持ちの連中に続くように武器を片手に歴戦の猛者たちとの戦闘を始める。
ヅガガガガガガガッ!!!
「メェェェ〜〜!!!」
遂に黒山羊は城の壁に穴を開けて、裏道である侵入ルートを作り出す。
「ナイスコタロー! 帰っていいぞ!」
「メェェ〜!」
用無しとばかりに俺は送還魔法を使って黒山羊を環境保護空間へと送り返す。
わざわざ黒山羊を放ったのは、正門から入らずに城の脇腹つついて凸らねぇ?……って話になった末の結論。
俺とニーファ、メリア、勇者マサキ、聖女ソフィア、四天王の三人とユメはとうとう魔皇城へと足を踏み入れる。
「……魔王城に似てるんだな」
「そうじゃの」
屋内は至って普通の魔王城。
……多分、この魔皇城とやらがオリジナルで、俺達が住んでた魔王城は再建と改築と増築の末に少し見た目が変わっていたが、造りや模様が何処か似ているようだ。
俺達は城の感想を述べると、皆一様に視線を合わせて、再び前進する。
「見つけたぞ!」
「ここを通すなぁ!!」
魔統神直属の親衛隊が廊下の突き当たりから現れて武器を手に走ってくる。
全員という訳では無いだろうが、その数は多い。
「皆様、ここは私が!」
グロリアスがレイピアを手に持って先頭を行く。
「……えぇ、任せたわ!」
ユメは言葉少なく別れを告げて足を進める。
「進めさせるとでもっ?」
「邪魔させはしない!」
親衛隊の剣がユメに迫ったが、グロリアスは華麗に受け流して危険を逸らす。
「グロリアス……っ。父に代わって貴方の力の解放を許可します! 全力で戦いなさい!」
「っ……かしこまりました!」
ユメは鍵となる言葉を発して前を進む。
たった一人で親衛隊を受け止める《豪》の四天王を横目に、我々はただひたすらに走り、城の階段を見つけて登っていく。
そして。
広い空間へと出た所で。
「《エレクトル・レイ》っ!」
「《無一天・刹那》っ!」
極太の雷の矢が降り注ぎ、一瞬にして俺達の前に現れ斬りかかってくる二人の神徒。
「《闇の壁》」
「《聖刻の天盾》っ!」
ヘイドとマサキが防御壁と盾を作り出し放たれた攻撃の全てを防ぐ。
「ヒッヒッヒッ……最終決戦と言ったところかの?シューイチぃ……」
「残念だが通すわけにはいきませんね」
《魔導の神徒》バイオンと《柔剛の神徒》エインシアが前に出て行く手を阻む。
それに答えるように出たのは、名指しで呼ばれたヘイドさんと、盾で防いだ勇者マサキ。
「さて……あの真面目は儂にお任せを」
「僕はあの剣士を……だから、先に行ってください! ソフィアは僕の援護を!」
「はいっ!」
彼の相棒である聖女ソフィアが勇者の隣に並び、勇者マサキは聖剣を錬成して戦いの構えをする。
ヘイドは旧友を前に容赦無く杖を向ける。
「良かろう……三千年の時を経て出会った老害同士、共に楽しもうではないかのぅ?」
「勇者か……相手にとって不足なしよ」
無言で先へ進むことを促すヘイドとマサキの目を見て、覚悟を感じたユメは別の廊下へと走る。
《棺》と《魔導》の因縁の戦いと、《勇者》と《柔剛》の初見戦闘。
何処か見たい気持ちを押さえ込んで俺達はユメに続いて走り去る。
廊下を走り、いくつもの広間を抜ける。
やがて一行は、何処か危険な空気を醸し出す気配が近づくのを感じ取る。
「……ニーファ」
「うむ。わかっておる!」
彼女に呼びかけると、ニーファは気配のある部屋へと入った途端に気配の主へと魔力弾を撃つ。
「はっはぁ! 俺の相手はお前か! 神竜ニールファリスぅ!!!」
《破砕の神徒》ガムサルム。
《魔皇四将》最強の男が立ちはだかり、ニーファへと全破の拳を向けるが……
ニーファは目を細めて、否定するように答える。
「ふむ。……残念じゃが……我では無いぞ?」
「なに?」
疑問符を浮かべるガムサルムの背後に、凄いスピードで後ろに回っていたアンデュラーが肉切り包丁を振り下ろす。
「貴様の相手はこの俺だァ!! 良かろう!?」
「! ……良いだろう! 先日の続きを使用ではないか! かかってこい! 相手になるぞぉ!!」
《力》と《破砕》。
両陣営最強クラスの筋肉男同士が包丁と拳を持ってぶつかり合う。
ニーファが最初に攻撃した理由は、一番部屋の入口に近くて既に魔力弾を手に走っていたから。
ただそれだけである。
強者の死合を横目に、俺とニーファとメリアがユメを守るように囲んで城の上部へと目指す。
仲間が敵と戦う姿を脳裏に焼き付けながら。
……やはり、何処か誘われてる気がするが、こういうテンプレかと気にせずに走る。
「……もうすぐだ」
「えぇ……お兄様、魔統神の相手は私がするので良いですね?」
「いいぞ。俺とニーファとメリアはお前を引き立てる為にちまちま攻撃するか……一緒に出てきた敵を潰す事に専念する」
「お願いします!」
やがて立ちはだかる豪奢な扉を前に、メリアが爆戦棍を振り下ろして起爆する。
地響きと共に両開きに破壊された扉を抜けて、煙と共に前に出れば、そこには王座の間が広がっていた。
そして、《銀水の神徒》メノウと《秤》のブロッケンが王座の横に陣取り、王座には魔統神が座って待ち構えていた。
「よくぞ、ここまで辿り着いた。……我々が思っている以上に、貴様らは逞しいな」
「……お誉めになるのでしたら、今すぐ帰ってください」
「それは無理だ……これは運命なのだ。魔王の娘」
魔統神ダグロスは《神魔の剣》を手にして王座から立ち上がる。
「我の真なる野望……世界を魔族の手で統一する為に、貴様らを滅ぼしてくれる!」
ただ横薙ぎに振るっただけで、空気が振動する。
「……よぉーっし。俺は裏切り者やるわ」
「では我はユメのサポートじゃな」
「私はメノウを倒します」
睨みつけるように俺はブロッケンを見て、魔神杖カドケウスを向ける。
「覚悟は出来てるよな?」
「……当たり前でさぁ、アレク様」
ブロッケンは身体中の魔力を循環させて身体の周りに空間の裂け目を作り、彼が歩くと裂け目は彼に追尾して俺の方に向かってくる。
「…以前の借りを返しに来ました」
「いいでしょう……本心では彼を殴り倒したいのですが……従者たる貴女を潰すのもまた一興」
メノウは銀の錫杖から鈍い青色の聖水を垂れ流しながら前進し、メリアも強砕の爆戦棍を右手で回転させながら爆炎を撒き散らして前に出る。
「……貴方を倒して、国を返してもらいます」
「望むところだ……次代の魔王となるのなら、その力を我に見せよ! ユーメリア=ルノワール!!」
ユメが吠え、魔統神は答える。
「……さて、背中は我に任せて構わんぞ」
「はいっ!」
ニーファは天罪紫刀を手にユメの斜め後ろに回って援護の準備を終える。
「さぁ……始めましょう!」
ユメが魔統神へと暗黒魔法を発動しようとした瞬間、全てを決める戦いの火蓋が切って落とされた。
それぞれの戦いは、始まったばかりであった。