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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第五章 魔に挑むお兄様
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残り物には○がある


 キィーーーーーーン……


 甲高い金属音が戦場に鳴り響く。


 魔物の増援軍が来て少しだけ戸惑った部分もあったが、スライム三姉妹の蹂躙劇で粗方進軍が楽になったところで、音を聞いた連合軍の将校たちは撤退を指示して軍を下げる。

 神軍はその動きに戸惑いながらも、追撃しようと動くが、次は何かが来ると感じ取って防御態勢に入る部隊も現れる。

 デミエル達も自軍の動きを見て、ウェパルの所に集まったかと思うと、彼女の空間魔法で隠れるように……俺がいる観戦部屋に転移してくる。


「あるじ〜!」

「ご主人様、頑張りました!」

「〜〜〜♪(要求)」


 プニエルは野戦病院で治療があるので来れないが、先に三姉妹の頭を優しく撫でる。

 デミエルの頭を片手で撫で、彼女が持てるサイズまで小さくなった猫と兎の人形の糸がほつれてないか確認したり、ウェパルの頭も撫でて武器の損傷具合を確認して刃毀れなしと確認したり。

 エノムルの頭も撫でて身体のスライム感を堪能したりしてラポーム平原産の林檎、アポーを渡して食べさせる。

 美味しそうな音を立てながら両手で持って咀嚼する三人を横目に、俺は席を立つ。


「む? 行くのか?」

「まぁなぁ……残り物には福があるって事で」

「……巻き起こるのは悲劇なんじゃよなぁ……」


 残り物には福がある。

 戦々恐々とした戦場の兵士諸君に福を与えに行こうじゃないか。

 そんなわけで転移転移。


 俺は観戦部屋からラポーム平原に転移する。

 後方の空間の裂け目には、急いで撤退する連合軍の兵士諸君。

 これは事前に予告したもので、金属音…俺が鳴らして響く音を合図に撤退しろという命令。

 理由は簡単。

 見ればわかるとだけ言っておいた。


「《特異転送》《万有引力》」


 神軍の上空に中心となる巨大な磁鉄石を転送して、そこを起点に引力が発生して真の魔族も魔物の軍隊も一瞬にして引き寄せられる。

 ラポーム平原の空に集まっていく心が折れかけた哀れな兵士達は何が起きるか分からない不安に煽られて、硬直した上に引き寄せられて動かせない身体を何とか踏ん張ろうとするも、無駄に終わって他の奴に潰されて何も出来なくなる。

 一番辛いのは、磁鉄鉱の塊に直接触れている者だろう。更に身体にのしかかる者の体重で圧死している可能性もあるな。


「《封世結界》」


 ラポーム平原……特に戦場となった西側の荒れてしまった部分を囲うように紅く光る結界を構築して生きた群衆の球体と、俺を結界の中にしまう。

 占拠された魔都エーテルハイトはわざと城壁の一部を取り込んで覆ってしまう。


「さぁて……これって俺も巻き込まれるな」


 発動しといて何だが、俺が出れなくなったぞ!

 ……え、死ぬやん。って思った?

 大丈夫。異空間に逃げれば済むから。

 多分。


 俺は音がよく響き伝わるメガホンを片手に哀れな神軍の生き残りと魔都を守る残りの兵に告げる。


「『えー、どうも、アレクと申します。喧嘩を売ってきた三千年前の生き残り残党兵の皆さん、いかがお過ごしでしょうか?』」


 作文用紙にわざわざ書いた文を棒読みしながら音を拡散させる。


「『単刀直入に言います。死ね』」


 たった一枚に書き収められた作文を淡々と読む。


「『無能なお前らはさっさと死ね……と、あなた達の主である時代遅れの神様が言ってました』」


 責任の擦り付け。

 事実、三千年前に好きなだけ暴れて封印されたクソな連中が今になって蘇って暴れるだ?

 邪魔だ迷惑だ。

 しかし感情で動くわけには行かない。


「『最後に。僕から冥土への見上げを贈ります』」


 俺は作文とスピーカーを手から離して放り投げ、両手を天に向けて魔法陣を展開する。

 紅く紅く煌々と燃え上がる死の魔法陣。

 それは空をも覆う大結界が揺らぎ震える程の圧力と魔力波を出して大地を震動させる。

 魔法陣には眼のような模様があり、その眼は魔法陣の中を行ったり来たり閉じたり開いたりしてその形を変えていく。

 合計六つの眼の模様が揃った時、魔法陣に込められた魔力が完全に集まる。


 途中、俺の魔法行使を妨害しようと、なんとか腕を伸ばして弓矢を撃ったり、魔法を放ってきた奴がいたが、引力は絶賛発動中なので自分に返ってきて被害を増やしただけとなった。哀れ。


「《滅却核熱式(アトミック・フレア)》」


 魔法陣の表面に巨大な異空間の穴が生まれ、魔法陣展開中に行われていた原子崩壊の渦が勢いに乗って放出され、自動的に二重に重ねるように強固な結界が張られて頑丈にする。

 質量欠損による莫大な破壊エネルギーが放出された事で視界が紅く染まり、上空にエネルギーが溜まるように留まっていく。


「さらば、良い終末を……」


 俺は異空間に転移しようとして魔法を使おうと……アレ?

 ちょっとー? あれー?

 転移魔法が使えないんですけどー?


 ……詰んだわ。


『おい、アレク! どうした!?』

「なんか……転移魔法が使えないでござる」

『なにぃ!?』


 ニーファからの通信が来たので繋いで現状説明をしてどうするか考える。

 うーむ……


 考えてる間にも滅びは始まる。

 凝縮した滅びの塊が一気に爆発して、結界内部を全てを焼き尽くし蒸発させる死の炎が覆い尽くす。

 神軍の哀れな生き地獄も焼かれて、瞬きのする間もなく焼却滅却されて蒸発する。

 結界にヒビが入り……あっという間に決壊する。


 結界の外周に移動して逃げてた俺も当然巻き込まれるわけでして……


「あ〜れ〜(遺言)」

『アレク〜!?』


 俺が作ってるのを見てたので威力と危険度を知ってるニーファが、向こう側で慌てている事を察しながら、俺の姿はあっという間に熱波の死に包まれて姿を消したのであった。




「……とでも思っていたのか!?」


 俺は熱波の渦の中で生存していた。

 腕を組み仁王立ちで焼け焦げる地面で狂い笑う。


『……いや、ビックリさせるなよお主…』


 ニーファからの安堵の声が『盟約の宝珠』越しに聞こえる通信に俺は申し訳なさそうに笑う。


「いや〜《封世結界》が転移魔法の使用を妨害するのを普通に忘れたわ」

『えっ……情けな』

「でも防護結界は張れたんだよね」

『……心配させるでないぞ』

「悪い悪い」


 ニーファとの通信を切って結界内から焼け果てた平原をぼーっと眺める。

 空に浮いていた磁鉄鉱の塊も神軍と共に蒸発してしまったのか、姿形も地上にもない。

 代わりに、空からは放射性物質が固まって出来た死の雪が降り注いでいる。

 魔都エーテルハイトの一部の城壁は、張られた結界の中にあったので崩壊している。


 ……予定通り、あの穴から進軍するか。

 魔都の西に広がり開発され始めたスラム街とは言っても、城壁外周部は未だに廃れている。

 そんな魔都の必要犠牲の具現が少し焼けて見えている。


「さぁて……あと三時間、魔法効果が完全に消えるのを待つとするか」


 《滅却核熱式(アトミック・フレア)》発動時に展開される結界なんて呆気なく破壊されたから雪が外部に漏れないように《封世結界》を解除するわけにはいかないし……


「……暇だ!」


 結局、俺は三時間ほどをこじんまりとした結界の中で暇を潰しながら時間を待ったのでした。


 そこから二時間後。

 魔都エーテルハイトへの進撃が始まるのであった。


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