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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第五章 魔に挑むお兄様
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うちの子の力を思い知りなさい




 神軍に動きが現れる。

 なんと、神軍の後方に空間の裂け目が生まれて、そこから続々と増援の軍が出てくる。

 しかし、その軍は魔族ではなく、ゴブリンやオーク、オーガなどの人型魔物で構成されていた。

 全ての個体が鉄の鎧や武器を持っており、軍隊として真面目に動ける様に調教された魔物達だと見て分かる。

 それを見た連合軍は恐れや驚きの声を上げながらも、果敢に敵陣に挑んでいく。


 そんな光景の中、俺達は画面越しにある一点を覗いていた。

 敵軍の中央…ちょうど魔族と魔物の境目の辺りにうちのスライム三姉妹が仲良く突っ立っている。


 少し困惑していた神軍は、何もしてこない少女二人と人型スライムに怪訝な表情を浮かべながらも、敵だと判別して攻撃を仕掛ける。

 ……それが合図とも知らずに。


 三体に放たれた、神軍の魔法攻撃や剣の一閃、槍の刺突は全て弾かれ防がれる。

 ウェパルの持つ七種の武器によって。


 彼女の異空間から取り出され、スライム触手が握る剣、槍、扇、槌、杖、鎌、斧の武器の舞い。

 これが彼女たちの戦いの火蓋を切る最初の動きとなるのだった。




「《メイドの玩具箱》」


 ウェパルはスカートから触手を七本出して同時に空けた異空間から武器を取り出しす。


 紅く燃え滾る刀身を持つ剣・紅蓮。

 流水が絡み付く透き通る槍・流転。

 暴風を操り魔法を打返す扇・天狗。

 破壊と創造の特性を持つ槌・地動。

 光翼を持つ神の化身たる杖・光翔。

 月を象り魂を奪う死神の鎌・孤月。

 龍の魔力を篭めた覇王の斧・覇龍。


 それぞれが、炎と水と風と土の四大元素と光と闇の陰陽、そして龍の力を宿している俺の自信作。

 色々と考えて、ウェパルが最初に出した七本の触手に数を合わして大罪系や美徳系の能力や名前も考えたのだが、単純に属性に分けた武器を求むというウェパル本人の意思を汲み取って出来上がった。


「死になさい」


 ウェパルは容赦無く、巧みに触手を操って武器を使いこなす。

 煮え滾る炎がオークを焼いて肉の焼ける美味しい匂いを出したり、半透明の槍に纏った水がオーガたちの脳天を迷いなく貫いて。大振りで生じた暴風が砂塵巻き込みゴブリンを吹き飛ばす。

 隆起する大地が真の魔族の足場を不安定にして叩き落とし、光弾が片膝を着いた魔族の身体をすり抜け侵入して体内で身体を爆発四散させる。

 首を抉り魂を刈り取る大鎌が命乞いの一切を無視して平等に死を与える。竜言語魔法の簡略化した強化呪文で世界に振動を与える覇道の一端。


「うわぁぁぁ!?」

「ぐふっ……幼女、最、高! ぐはぁっ(爆散)」

「エフェボフィリア将軍ーー!!!」

「変態の将軍が死んだ!?」

「将軍って普通に強かったよなぁ!?」

「や、やめろ、来るなぁァァ!!」


 悲鳴が上がり、この破壊劇を幼い少女が、しかもメイドが行っている事に恐怖を抱き始める。

 いきなり空から落ちてきて、自軍の中央に現れたメイドに蹂躙される戦友たちを見て、恐怖のあまり敵前逃亡をし始める者もいた。

 だが、逃げる最中の者にも、めげずに戦う意思を持った者も、皆平等に蹂躙される。

 ただ触手を横薙ぎにしたり、魔法発動の為に縦に振ったり、いい加減に振ってるだけで巻き起こる大惨事。

 しかし、その惨劇の中も止まることなく魔物の増援軍は投入されて戦場に足を踏み入れる。

 否、自ら彼女の間合いに迷い込み、何も知らない彼等も蹂躙されるを延々と繰り返す事となる。

 それは正しく、作業としか呼べなくて。

 メイドの基本項目に、作業的に人を殺せるか否かという採用項目が増えるかもしれない。

 作業風景でBgmを流しても視聴率は下がるな。


「どれぐらい倒せばご主人様に褒めてくれる…?」


 だが一つだけ言わせてもらおう。

 こんな惨劇が起きているのは、ここだけでは無いということを。




「う〜〜!」


 ウェパルの行動開始を合図として右に移動したデミエルは、小さな悪魔の羽を頑張って羽ばたかせて空に浮いて、両手に持つ人形に魔力を込める。

 不穏な魔力の胎動に嫌な予感を得た魔族と魔物の兵士達は、空に向かって槍を伸ばしたり、魔法を撃って地上に落とそうとするが、幼女の周りを囲む紫色の丸いバリアに防がれて傷一つ付けられない。


 やがて、人形に魔力が完全に染み込んだのか、その姿を大きく膨らませて形を作る二体の人形。

 ホラーを感じさせるボタンの目やツギハギ模様、身体の一部分を覆う包帯が印象的な二足歩行の作りの甘いピンクの兎のお人形。

 兎と同じような姿に眼帯を付け鉄の棘が生えた腕輪をした黒色の猫のお人形。

 二体は空中で自立して、デミエルの指示を待つように眼下を睥睨する。


「《仮初の命》!」


 瞬間、兎と猫の人形が地上に急降下して互いの武器を手に行動を開始する。

 兎は両手に大鋏(おおばさみ)を嵌めて、腕から伸びるように付けた肉と骨を断つ鋏を手首を動かして可動させて物騒な音を立てながら魔物と魔族の首を切り裂く。

 猫は銅色と黒のツギハギ模様の鉄球に剣や槍や鉱石の尖った部分が埋め込まれた鎖付きのモーニングスターを振り回して周囲のものを破壊していく。


 《首狩り兎》と《闇討ち猫》

 闇の魔力で2メートル程の大きさとなったお人形さん達が、首切り鋏と歪な鉄球が神軍を無慈悲に蹂躙していく。

 中には、やはり戦士と言うべきか勇敢に人形に戦いを挑む蛮勇も居たが、二三秒動きを止めた程度で首を斬られたり頭を吹き飛ばされたりする。


「ギャアアアアアア!!!」

「よ、幼女の人形で……我が本望なりっ(首刎ね)」

「ぺドフィリア将軍ーー!!!」

「うちの二大変態将軍がっ!」

「許せねぇ……あ、やめ、許し、ギィヤッ!?」

「閣下の仇!……あ、別に世話なってなかったわ」

「逃げろ、奴を相手にするなぁーー!!」


 泣き叫び狂う魔族や魔物の軍勢の首が血を吹き出しながら赤い雨を降らせていく。

 個性的な遺言を残して去っていく歴戦を生き残った残党達は瞬く間にその数を減らしていく。


 空中の闇バリアの中で体育座りをして眼下の様子を見つめていたデミエルは、自立して動いているお人形さんの動きに合わせて、ノリで手を動かして遊んでいる。

 偶に球体結界に矢が飛んできたり、魔法が飛んできたりするが、全てバリアに吸収されて倍の威力で吹き飛んでいく。


「むぅ〜……全然たのちくなーい………あっ! プニと早く遊ぶぅの〜!!」


 楽しそうに終わった後の姉との遊ぶ時間を夢見ながら、デミエルは結界の中で可愛く笑うのだった。




 別の地点では。

 左に歩いて……不定形の下半身を引きずって戦場を移動したエノムルは、大勢の敵に囲まれていた。

 様々な攻撃、それこそ既に死んでいてもおかしく無いレベルの矢や魔法を撃たれ、剣や槍で刺されているのに、形は崩れることなく、逆に攻撃した武器が彼女の身体に吸い込まれるように溶けて消える。

 身体は魔導具で小さくなっていた姿ではなく、本来の5メートルの巨女となっていた。


「〜〜〜?(普通)」


 吸収した物質に味でもあるのか、咀嚼音は無いが味を確かめるようにゆっかり吸収する。

 エノムルは体内環境を自由に変化させられる。

 毒性の粘液に変えたり、酸性の粘液に変えたり、安全でお肌がツルツルになる粘体にも変えられる。

 そんな彼女の今の体内は、全てを溶かして身体の一部にする《溶解液》で満たされている。


 溶かした鉄や魔力を身体の一部にした人型スライムは、右手左手に穴が空いて薄緑色の溶解液が噴出されて敵諸共大地を溶かす。

 更に、噴射をやめて両腕を横に伸ばせば、先から鉄分を表面に浮かせて固めて鉄の槍型の腕に姿を変えて一体一体丁寧に潰していく。


「な、なんなんだこいつぅ!?」

「プギャー!!」

「痛い痛い痛い痛いーー!!!!」


 身体に風穴を空けられても、即死することは無く、緩やかにその身を終わりへと導いていく。

 エノムルはただ金属質の腕で突き刺して抜くだけで、確実に殺すことなく刺して抜いてを繰り返す。

 やはり、彼女も作業となっていた。

 

「〜〜〜♪(褒美)」


 俺が上げたピアスを左耳に付けて揺らしながら戦場を擦り歩くエノムル。

 耳飾りは、翡翠色の魔石が嵌め込まれた神竜の鱗で囲まれた少し大きなもの。

 これといって魔法的な意味は無いが、スライム三姉妹の三女である証として贈った。


 こうして、新たに投入された魔物の援軍も、あっという間に数を少なくしていくのであった。




 ところ変わって龍泉霊峰の野戦病院。

 荒野に引かれた布の上で手当を待つ兵士達に、天使が舞い降りる。

 プニエルだ。


「あったかいひかり〜!」


 そう呪文なのか詠唱なのか、判別のつかない言葉を囁くと、プニエルの天翼が羽ばたいて頭上に大きな天使の光の輪が生まれる。

 その光の輪は、徐々に荒野の空を覆うほどに大きくなって暖かい光の雪を降らす。

 暖かいのに雪という表現もどうかと思うが、そうとしか言い様のない光が静かに降り落ち……兵士達の身体に触れると、瞬く間に治癒されて傷付いた身体が癒されていく。

 その様子に、救護班の者達や癒される兵士は驚いて、プニエルの光の奇跡に頭を下げて礼を言って、再び武器を手に戦場へと走っていく。


「ばいば〜い!」


 元気に健気に手を振って見送るプニエルに、戦場ながらも暖かい目を向ける救護班の医師達を横目に、プニエルの監視及び護衛であるメリアは溜息を吐く。


「……揃いも揃って強くなりすぎですね」


 俺から貰った白と金の天使のペンダントを揺らしながら、プニエルは可愛らしく微笑むのだった。


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