魔界戦争
連合軍と神軍が激突した今。
前衛となる魔王軍の正規兵が真の魔族を相手に勇敢に立ち向かう。
一人の敵に対して三人~五人で陣形を組み、数の暴力と装備の質で挑み闘う。
神軍の装備は三千年前の魔族が着ていた民族衣装の軍用装備で様々な魔術が付与されている。
連合の装備は転移紙札の着いた特殊合金の軽い鎧に身体能力向上の魔術が付与されたもの。
お互いの武器は剣や槍。
どちらが優れているかは別として、個々の力が強い真の魔族を倒す為の装備を連合軍は着ている。
対メノウ用の複雑怪奇な聖水の軽い対策。
対エインシア用の神剣の斬撃対策。
対バイオン用の魔法防御対策。
対ガムサルム用の時間稼ぎ簡易結界の破壊対策。
取り敢えず神徒の攻撃をある程度喰らっても生き延びられて、逃げれる時間稼ぎになる魔術が付与されている。
更に、味方の転倒に押し潰されて圧死なんて起こっても潰れた方も潰した方も両方転移する。
落馬とかが一番怖いよね。
普通に転移魔法が働く事はわかってるけど。
あの転移紙札は、この戦争が終わったら全て改修して次の戦争にも使用される予定だ。
例え盗まれても、クロエラの探索魔導具は深海とか結界内にいても感知しやがるから実質不可能。
さて戦場の様子に集中集中。
俺はコントローラーを操作して一匹の蝿型カメラを操り戦場の一部をモニターに映す。
このカメラとモニターは俺専用というか、定点カメラではなく移動できるカメラだと思ってくれ。
まず最初に目が言ったのは、一方的に銃撃戦が行われている地点。
Aランク冒険者パーティーである『蒼穹の戦線』が主力を務める戦場。
五人一組である彼らは、レンヤを主体とした一方的銃火器殲滅を行っていた。
戦乙女の異名を持つアカネも、能力は装備だけに展開して、銃を持って連射している。
「……アレが、お前がいた世界の武器なのか?」
父さんが画面を興味深げに見ながら、彼らが使っているアサルトライフルについて質問する。
「……多分だけど、第二次世界大戦っていう戦争中に設計されて、今でも世界で広く使われている軍用小銃……AK-47だと思う」
記憶があってればの話だが、ソビエト連邦のカラシニコフが設計したもの。
実戦での苛酷な使用環境や、戦時下の劣悪な生産施設での生産可能性を考慮して、部品の公差が大きく取られた上に、卓越した信頼性と耐久性、および高い生産性を実現した優れ物。
これを手元に喚び出せる蓮夜の能力は凄まじいものだろう。
更にそれを扱う事が出来ているこの世界出身のパーティー冒険者も凄い。
……多分だけど、蓮夜って軍事オタクだよな。
戦争が始まる直前まで戦車を出そうって騒いでて、仲間に却下されてたのを見るに、銃が付いてる物は何でも出せそうだな……
新旧関わらず、剣と槍と魔法で戦う異世界戦争に突如として襲来した銃火器は戸惑う敵を一掃する。
彼らの管轄は大丈夫そうだな……次見よう。
俺はコントローラーを操作して別の戦場を映す。
怒声や魔法のぶつかる音、悲鳴に銃声、剣や槍がぶつかる金属音。
その全てを聴きながら戦場を空から一望する。
蝿型カメラが。
やがて、ある一点を見つけた俺は操作を辞めてそれを空から観戦する。
「……ここが一番、被害がデカイな」
最前線。
魔王軍の正規兵が神軍と一番激突している場所であり、最も転移紙札の発動が多い激戦区。
そして、勇者マサキが敵将と対峙している。
氷の魔剣を持った敵将の攻撃を難なく躱しながら、マサキは聖剣を錬成して応戦する。
剣が舞い、盾が防ぎ、槌が叩き、砲が飛ぶ。
聖剣とは名ばかりの、聖なる武器を錬成する多彩な能力によって追い込んでいく。
目立った傷はないが、段々と追い込まれていく敵将に焦りが生まれ、氷を纏う魔剣の力を最大限に引き出して辺りを氷点下の世界へと導く。
身体の動きが鈍る、勇者と両軍の兵士達。
しかし、勇者は瞬発力を活かして凍える体をものともしない動きを見せて聖剣を振るう。
彼が上手く動けているのも、仲間の援護があったから。
同じく氷点下に晒された勇者パーティーのソフィアが身体向上の魔法を掛ける。
クレハが炎の魔法で空気を熱し、凍える世界に対抗していく。
シリシカは精霊魔法で熱化の補助と味方の兵士達の補助をしている。
ミュニクは小柄な体格を活かして敵と的の間を縫うように走って身体に呪符を付ける。
呪符は忽ち敵魔族の民族武装を通して魔力を吸って邪魔をする。
長年で培った連携と戦いで、激戦区の状況も良くなると思いがちだが、何せ範囲が広い。
勇者パーティーの手の回らない箇所では重傷者が続出して野戦病院に転移していく。
勇者と敵将の戦いも終幕を見せ始める。
マサキの聖なる槍が氷の魔剣を貫き、敵将の腹部に捩じ込まれる。
血を吐き悶える敵将。
瞬時に聖槍を消して聖剣を錬成し、マサキは敵将の首を切り落とす。
敵将の敗北によって彼の部隊は瓦解して瞬く間に鎮圧される。
敵将の頭を取った勇者は、頭の汗を裾で拭って再び前進する。
他の者も、彼の後に続くように敵陣に雪崩込んで被害を増やしていく。
……勇者がいる限りここも大丈夫か。
味方の傷が増えるのは、場所的に仕方の無いことだし、防ごうにも防ぎきれないだろう。
再び俺はコントローラーを片手に、蝿を戦場の空を飛び回らせる。
縦横無尽に飛び回る蝿の映す光景は激化するラポーム平原の惨状。
「……復興にどれくらいかかるかしら」
既に戦争ではなく、勝った後の問題を頭に浮べる母さんに、父さんは悩むように頭を捻る。
「そうだな……数ヶ月はかかるだろうが…」
「その時は俺の魔法で直すから、だいぶ時間短縮になるとは思うよ」
「……そうか、助かる」
親子の会話を挟みながら俺は画面を食い入るように睨み、戦場を観察する。
ユメが陣取るのは軍の中間に居て、アンデュラーとグロリアスが護衛についているから安心だ。
それでも一応確認してみれば、なんと前線の魔王軍を飛び越えてユメを倒そうと、凄い跳躍力を見せる魔族の群れがあったが、アンデュラーの鮮断刀クークマッドによって綺麗に両断。またはグロリアスのレイピアが心臓を貫いて動きを停めさせる。更にユメの側に立つミカエラの炎の魔法によって焼死体へと変わり果て地面に落ちる。
ユメは配下たる三人を信じているのか、一切動じずに王座に座って戦況を見守る。
すると、ユメがふと俺達に────蝿型カメラに視線を向けて、笑顔で手を振る。
……察知能力も高くなったんだな。
ユメなら大丈夫だろうと思って、視点を変える。
敵陣の方にも視点を映してみたら……
「あらら?」
「うむ?」
画面に映る、三人の人影。
スライム三姉妹が敵陣の中央に不動の構えで立っていた。
「おっと、ちょうど始まるか」
……なんでそんな所にいるか分からないけど、頑張って!