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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第五章 魔に挑むお兄様
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意気込み取材


「どうも、テレビ局の者です。取材にご協力願いませんか?」

「えっ……何やってるんですか、お兄様」

「どうも、テレビ局の者です。取材にご協力願いませんか?」

「いや、あの……」

「どうも、テレビ局のm──────」

「わかりました! 受けます!受けますから、繰り返さないでお兄様!」


 戦争当日。

 後に《魔界戦争》と呼ばれる重要な戦の前に、俺はテレビ局を装って知り合いに意気込みを取材していた。

 俺が記者として質問をして、器用なウェパルをカメラマンに抜擢。暇そうなクロエラを音声係にして彼作製のガンマイクを持っている。更に暇そうだったマールも引き連れてテレビ局ごっこ中だ。

 あ、マールは日本語で書かれた彼女にとっては読み慣れない看板を両手で持たせてる。

 『異世界で現代日本っぽい取材してみた!』と可愛い文字で書いてある、もとい俺が書いた。


 まず最初の回答者(犠牲者)はユメ。

 魔王軍と各国からの派遣軍の総指揮官を務めることとなって忙しい妹に暇な兄が突撃した。


「では、これから始まる戦争への意気込みをカメラに向けてどうぞ」

「えっと……って、この子誰ですか?」

「ウェパルです、ユメ様」

「………え?………種族進化したんですか!?」

「うん。ついでに言うとうちの幼女組は戦争を引っ掻き回す遊撃隊扱いだから、宜しく」

「……凄く異議申し立てたいんですけど」

「却下だ。てかほら。早く意気込み言ってユメ」

「はい……」


 俺の言葉への文句を諦めたのか、観念したようにしていたユメは、動画を撮られていると思い出して今頃顔を引き締めて真面目な顔をする。


「私、ユーメリア=ルノワールは、必ず我が軍が勝利に導く事をここに宣言します!」

「では、宣言通りに何をどうしますか?」

「えっと……敵は見境なく倒して前進します。自軍への被害を最小限にする為にも……火力最強クラスのお兄様陣営に暴れてもらいましょうか」

「……え、いいの?」

「うちの軍も戦えるように残してくださいね?」

「わかった。ちびっ子達に言っとく」

「えっ……お兄様はどうするのですか?」

「ちびっ子達の保護者として後方支援」

「あ。はい」


 それじゃあ、次行ってみよー!

 忙しいユメに再度時間を取らせた事を謝って別の人に取材しに行く。

 魔王代行として、次代の魔王として、相応しい女になっているのではないでしょうか。

 兄として、これ程嬉しいことは無い。


 ということで。

 次の人はこちら!


「《聖剣の勇者》として有名な、天童正樹さん、戦争への意気込みをどうぞ」

「……テレビ局のパクリですか?」

「リスペクトですね」

「そうですか……仕方ないなぁ」


 世界同盟から派遣された若き英雄で既に数多の業績を残す勇者であるマサキを取材する。


「僕は勇者としてこの世界に呼ばれましたが……魔王討伐っていうテンプレは果たしてないんですよ。だから、今回はそれを果たしたいと思います」

「飽くまで、設定に忠実に、ですか?」

「設定とか言わないでくださいよ……まぁ、自分が思う勇者って、対魔王用の兵器って印象ですから」

「じゃあ、お前は兵器なのか……」

「例えですよ!?」


 まぁ、この世界の過去の事例から鑑みるに、全ての勇者は異世界から召喚してるんだよね。

 誘拐という捉え方もあるけど、マサキも含めて死んでからこの世界に足を運んでるんだ。

 勇者に限らず、他の奴等もね。

 そう考えてみると、今を生きる者を狙って力を持った世界が攻めてくるのを防ぐ為には、今まで生きていた者を狙って、死んだら呼び出すって方が安心で安全なんだろうな。

 例外はあるが、現在の人生を折り曲げるのではなく、二度目の人生を力を与えた上で歩ませてくれるって言うんだからな。


「ありがとう。それじゃあ、世界を救う為の準備を頑張ってくれたまえ」

「はい。……ところで、さっきから気になってたんだけど……その看板とその子は?」

「ウェパルです」

「うちの子だ。看板はネタだ」

「……プニエルちゃんみたいな感じですか?」

「そうだぞ」

「……なんか、君の周りって常識が通じないよね」

「褒め言葉として受け取っとこう」


 スライム三姉妹の種族進化については、まだ触れてなかったというか、他の人達には伝えてなかったな、そういえば。

 まぁ、別にいいか。


「アレク君、彼らなんてどうだい?」


 音声係のクロエラが塞がってる両手の代わりに顎で示したのは、冒険者の一団。

 ふむ……次の回答者(犠牲者)は彼らだな!


「Aランク冒険者パーティー『蒼穹の戦線』の皆様に、今回の戦争への意気込みを取材しに来ました」

「おう、取材慣れはしてるぞ!」

「……何故?」

「都会住まいでよく鉢合わせしてさ」

「はへー、なるほど」

「……実際は、テレビに映りたくて自ら取材されに行ってたよね?」

「…ノーコメント!!」


 次に質問したのは、同じく異世界人のお二人。

 《魔弾の射手》星宮蓮夜と《戦乙女》舞並茜の他者公認カップル。

 後ろには他のパーティーメンバーもいるが、興味の欠片も無いので無視。

 …なんか不憫だから後で自己紹介がてら菓子折り持ってくか?


「ではお二人共、初めての戦争への意気込みを」

「そうだな……俺は、っていうか皆、戦争っていう戦いは初めてだよな?」

「平和だったからな」

「俺の能力……《魔銃戦線》はどう考えても市街地戦とか戦争向きの能力だろ? この能力はたくさん使わないと、可哀想だしな。たくさん戦うぜ!」

「私は……戦いっていうのはあんまり好きじゃないかな……その、命が関わる職に就いてる身分で言っても良いかわかんないけど、人の命を奪うのは嫌だなぁ……って思っちゃう」


 ふむ……少し奥まで踏み込むか。


「つかぬ事をお聞きしますが人を殺した経験は?」

「「ある」」

「……人を殺してどう思った?」

「…暫くは銃を持てなかったな。でも、生きる為には必要な事って割り切った」

「……初めての経験、というか…自分が生殺与奪の権利を持ってるって言うのが怖くなったわ…」

「その気持ちを忘れずに挑めば大抵はなんとかなるから……頑張れ!」

「ふふっ……そうだね、私達が暗い気持ちだったら何も進まないもんね」

「だな……よぉーし、お前ら戦前に酒を────」

「馬鹿言わないで!!」

「ぐふっ!?」


 意気揚々と酒を呑もうとしたレンヤを、手に持っていた純白の盾で頭を叩いて止めるアカネ。

 ……これは日常的に行われてるの?って視線を他のパーティーメンバーに向けたら、無言の肯定が返ってきた。

 …この世界の住人って、基本的に異世界人に振り回されてない?


「じゃあ、次の人の取材に行くわ」

「おう。じゃーな!」

「はい。お疲れ様です」


 二人から離れて次のターゲットを探す。

 今頃だが、取材してる場所は『偽りの魔都』の城壁の外側に広げた(・・・)大平原で取材している。

 ここには、世界同盟所属の同盟国から派遣された軍隊と、魔王軍の正規兵と国民自ら志願した志願兵で編成された連合軍が準備している。

 俺の転移魔法で全ての物資をこの空間に引っ張ってきて、兵も物も全て移動させてある。

 で、全て揃ったのが確認できて、暇になったから取材活動と称した思い出作りをしている。

 ……楽を言うなら、ずっと空間の裂け目を作ってそこの出入りを自由にしておいても良かったんだけど、敵の侵入を防ぐ為にはこの方法を取るしかなかったのだ。まったく、こんな所まで弊害が…


「さて……ある程度撮ったし、帰るか。いい暇つぶしになったか?」

「そうだね……まぁ、息抜きにはちょうどいい感じだったかな」

「……色々聞けた」

「お手伝いできて良かったです」


 三者三様の返答に俺は頷く。

 こんな平和な感じから、俺達の戦争は始まりの時を迎えるのであった。

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