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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第五章 魔に挑むお兄様
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今を生きる者の意思

義勇兵を志願兵に変更しました


 俺がメタンネドの潜入調査を終えた日の直ぐ。

 『偽りの魔都』の魔王城会議室にて。

 俺は、今の交易都市の状況と入手した情報を上層部に話している。


「────以上が、今回の調査で判明した交易都市メタンネドの現状です」


 立ち上がって淡々と報告書を読み終えた俺は、静かに腰を下ろす。

 俺の報告に魔王代行ユメは頭を悩ます。

 ……父さんは車椅子に乗って会議に参加しているが、次代の育成ということで自ら進んで発言することなく静かに目を瞑って……スヤァしている。


「……お兄様、ネザゲルート夫人のご遺体は?」

「異空間に死体安置所を造ってそこに」

「えっ……いつ作ったんですか?」

「さっき」

「…あ、はい。わかりました」


 ふむ。何やら俺の扱いが雑というか手慣れ始めたのは気のせいだろうか?

 俺製の死体安置所は、冷蔵庫が壁にズラーッ!と並んでいるわけではなく、空間全体を凍結させて空間そのものを冷やし、ご遺体はベッドの上に寝かせて安置するという仕組みになっている。

 そのベッドの一つに夫人がお眠りになっている。


 夫人の死因は短剣による自殺。

 心臓を貫通しており、安らかな顔で亡くなってはいるが、その痛みは相当だったはずだ。


「ヒルデは?」

「え……あぁ、まだ寝てるよ」


 一瞬誰のことを言ってるのかわからなかった。

 ヒルデガルド=ネザゲルート。

 地下室で悪質外道な呪縛に囚われていた緑髪の魔族令嬢……ブロッケンの愛娘だ。

 父に似ず母である夫人に似て綺麗で可愛らしい顔立ちをしている。

 てか、ユメは少女を愛称で呼んでるのは…?


「お兄様がいない時に一緒に遊んでましたから」

「あー…友達か」

「はい。昔はミカエラも来てましたよ。今も偶に来てくれてますが」

「へぇー」


 親同士が仲良かったら子も仲が良いものなのか。

 俺達の私的な話はここで中断し、魔王代行は決断を下す。


「……今から三日後に魔王軍を率いて魔都エーテルハイトの奪還に向かう事をここに宣言する!

 全員、準備を開始しなさい!私達の敗北はあってはならぬものであり、許されないのだから!」

「「「はっ!」」」


 魔王国アヴァロンの新たな時代はこの瞬間から始まったのであった。




 上層部が戦争の支度を大忙しで初め、下級兵士達にも内容が伝達された今日の午後。

 俺は『偽りの魔都』の南に位置する商業区に足を運んでいた。


 歩くスピードに一拍置いてかれる軍服の端をたなびかせながら、静かな街道をゆく。

 時折、命令通り空を飛んで巡回している金塊蜂(ゴールド・ビー)の兵士の様子を地上から眺める。

 平時なら騒がしい商業区も、見掛けだけの街の中であり、更に故郷を追い出された事もあって圧のある静寂が辺り一帯を押し潰している。

 本来なら並んでいる屋台も、この商業区には並んでいなかった。

 ……ただ単に俺が屋台を用意しなかっただけなんだけどね。


「……(さび)れてんなぁ」


 人によっては家屋に入らず外で生活しているホームレスと化している。

 外に居ても風邪や病気にはならないように設計してはいるが、問題は多いんだろう。

 ……西のスラム街はどうなってんだろうな。

 魔王の政策でスラム街の人達にも多くの職が与えられ、規模は縮小しているが、国が形成されるに必要な犠牲として未だ存在し続けている。

 それに、スラムはスラムで上下関係のある社会が形成されてるし、裏社会を牛耳ってるよ魔族もいるらしいからな。


「……」


 スラム街に限らず、戦時であり避難時である今は城からの援助によって民の生活は成り立っている。

 ユメなんて自分から給仕に出て民と言葉を交わしてる。民と身近に接する良い王となるだろう。


 商店街を歩いていると、魔王国の避難者の視線が嫌でも突き刺さる。

 それは責めるようではなく、何処か不安気な雰囲気を漂わせ、何かを言いたそうに見てくる。

 

「……何か言いたいのならどうぞ?」


 俺を見つめる民衆に俺を手を出し促す。

 困ったように顔を見合わせる彼等に、俺は溜息を吐いて再び歩き出そうとする。

 すると……


「少し良いっすか……軍人さん…いや、アレク様」

「ん……」


 意気込んで出てきたのは頭にタオルを巻いた魔族のおっさん。

 てか、自国民ですらあまり知らない事で有名な俺の事を一目でわかるとは……言ってて悲しくなってきやがった。

 男は少し考えて、意を決して聞いてくる。


「一つ聞いても良いですか?」

「あぁ。一つだけな」

「…お、俺達はどうすりゃいいんですか?」

「……いや、それを俺に聞いてどうする」

「……失礼な事を聞きますが、アレク様が俺達を此処に連れてきたんすよね?……なんで…なんで俺達を魔都に置いてかなかったんすか?」

「………」


 男の声を皮切りに、他の民衆も顔を覗かせて俺たちの動向を見守る。

 中には、男が声を出すのを止めようとする人もいるが、他の連中に逆に止められている。


 ふむ。

 俺の真意を聞きたいのか……俺の言葉を聞いて何かを決めたいのかは知らんが。


「魔都の全住民を転移させたのは、敵にお前達を奪われない為だ」

「…奪われない、ため、ですか」

「現に……交易都市メタンネドは知ってるな?」

「……はい」

「理由は不明だが、メタンネドの住人の六割が魂を吸われて死んだ」

「「!?」」


 まだ一般には出回ってない情報だがな。

 六割ってのも目測で真実じゃないけど。

 俺の言葉を耳にした彼等は戸惑って声を荒らげる。


「た、魂って……」

「…嘘、ですよね…?」

「残念だが事実だ。俺がこの目で確認した」

「……っ」


 全員が息を飲み、言葉を失う。

 俺は下を向く男を横目に、少し飛んで店の看板に腰をかける。別に上から目線をしたい訳じゃない。

 看板は木製だが、軽い俺を支えるには充分で軋むことなく俺を座らせる。


「さて……どうすればいい、だったな」


 俺は眼を細め、足を組み、膝に手を乗せる。


「誰かに聞かないとわからない君達に良い事を教えてあげよう。三日後に魔都を取り返す為、魔王代行ユーメリア主導の元、魔王軍が進軍する」


 空気がざわつく。

 男たちは目を見開いて俺の言葉に耳を傾ける。


「お前達の、俺達の故郷を取り戻すためだ。

 俺が造った偽りの国でではなく、俺達が育まれた祖国を奪い返すためだ。

 さて。魔王軍に所属する兵士は全員が軍に編成されて出撃するのだが……お留守番の君達は何をして待ってたい?」


 矢継ぎ早に言葉を吐く。


「軍が勝つのを祈るか? 故郷を思いながら寝るか? 魔王を信じて願うか?……どうすんだよ」


 適当に休日の暇潰し感覚で言葉を並べながら彼等に……特におっさんに問う。


「俺は……」

「しかも、魔王軍には《聖剣の勇者》を含めた同盟国も参加してくれるらしいが……いやぁ、頼もしいな」


 三日後の進軍に、《聖剣の勇者》や各国の軍隊が派遣されて一緒に戦争を起こす。

 全ては魔都エーテルハイトを中心とした魔族の国を取り返す為に。


「……魔族である俺達が取り返すべき物を、他国の他種族の連中も混ざって取り返すんだってさ。

 君達は……魔族以外の奴らに居場所を取り返してもらったとして、どう思う?」


 戦争的に派遣は嬉しいが、種族的に考えると他種族の介入は敵である《魔統神》に今の魔族は他種族と手を合わせないと戦えないと判断される。

 そんな判断を下されて良いのか?

 心情的には嫌だ。

 あんな古臭い連中に簡単に判断されるのは御免だ。旧時代の生き残り……死ねなかった残党を相手に戦う俺達の気持ちにもなってみろ。

 ただの迷惑でしかない。

 てか三千年前の時点で《四堕神》討伐しとけよ。

 なんで封印で終わらせてんの?

 封印したなら天界に送って地獄に堕としてやりゃあ良かったのに。


「……俺……俺もその戦争に行ってもいいっすか!?」

「……はぁ?」


 展開的にありそうだと思っていたが、実際に聞いてみると思う。

 馬鹿か?

 普通に考えてみろよ。ただの一般市民が軍に参加してどうする?

 ただ邪魔なだけだろ。

 例え準備した所で……囮にからならない。

 俺がそう思っている中、おっさんは声を荒らげて叫ぶ。


「俺は商人だ!……商人として色んな街や人を見てきた!……生まれ故郷の村を離れて、魔都に根を張った…張ったんだよ! それを奪われて、黙って待ってるだなんて、後で後悔しちまう!」


 男の言葉に何かを感じ取ったのか、周りの連中も感化されるように立ち上がり、俺に訴えかけるように視線を向ける。


「……だから、死を承知で頼みます!

 俺は、商人として、魔族としてじゃなくて……民の一人として取り返したい!!」

「…熱い男だこと」


 民の一人として、ねぇ……


「……戦って遅れを取らない自信でも?」

「………ない、ないけど……負けねぇ自信はある!!」


 答えになってねぇよ。


「お、俺も!」

「行ってもいいのなら、私も!」

「抜け駆けは許さん!ワイも行く!」


 周辺に居た野次馬まで感化されて声を荒らげ、おっさんの意見に賛同するかのように、故郷を取り返す為の理由付けをして自分を売り出す。

 ……騒ぎがでかくなってきたな。


 俺は溜息を吐きながら、仕方なくといった風貌を装って魔王代行のユメが決めた事を言う。


「……明日の昼に魔王城前で志願兵の希望者を募るそうだ。

 俺は何もする予定はないが……行きたいなら勝手に行って……自分の手で国を取り返せるように頑張ってくれ」


 励ましとも蔑みとも言えない……自分でも応援してるのか馬鹿にしてるのか分からなくなってきた後半だが、前半は事実、会議で可決した事を言う。

 俺の言葉に、おっさん達は声を失い、勢いよく頭を下げてくる。

 …俺の言葉で民衆を動かすのは無理だと思ってたが………悲しみに溢れた国民が自ら動けていい事だと思う。


 ………真実を言うと、俺が此処に足を運んだのはこの可決を民衆に広めるためだったんだけどね。


「じゃあ……そういうことで」


 一言告げて俺は看板を下り、商業区を抜ける。

 俺は慌ただしく走り回る民の背中を眺めながら、三日後の戦争に思いを馳せるのであった。


「……ドラゴン形態のニーファを暴れさせたら一発で敵軍は殲滅できそうだけどな」


 どう考えても最終手段、最終兵器なんだけども。

 ニーファを全力で暴れさせて、周辺被害とか味方の被害を無視すれば楽に済むんだけどな。

 そうは問屋が卸さないと。

 ……なんかニーファ自身も俺の案を拒んで、魔族が主体とならずにどうすると正論を噛ましてポテトチップス食べてたし。


 ……あ、俺も魔族……現在進行形で神化中だけど魔族だから、広域完全殲滅すれば良いんじゃね?

 作ろう。試そう。そうしよう。


 これが後に魔王軍を勝利に導くとは……誰も思ってないし導かないかもしれない。


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