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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第五章 魔に挑むお兄様
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魂隷の呪縛


 ひとつ振り返ろう。

 俺が交易都市メタンネドに下見に向かった時、潜入調査の準備万端で行ったのにも関わらず、神徒エインシアに発見されたのは何故だろうか?

 魔力漏れを秘匿し、気配を消し、音を消し、自分の存在を認識させず、気配に紛れ、探知すら妨害したのにも関わらず背後を取られ攻撃された。

 以前、先行部隊として来たエインシアは《棺》のヘイディーズ・エンドのゾンビ鴉と俺の斥候型魔導人形を意図も容易く発見し撃破していた。

 これらを総じて考えると、彼女は動物的な勘というべきか、野性的直感に優れているのだろう。

 いくら気配や姿が隠されていようとも、彼女はちょっとした違和感を本能的に攻撃し、その勘が結果的に当たって標的を見破れてる。

 現に、斥候の魔導人形を仕留めた時に、人形の魔石の瞳が最後に写したのは彼女の「やった!」って感じの表情だったからな。

 まぁ再戦時には感情を消してた様子で検討つかなかったけど。


 さて、先日の反省点を振り返った所で、愛しの魔王代行様からの命令を承りますか。


「魔界執行官アレク」

「御身の前に」


 『偽りの魔都』の魔王城、王座の間にて。

 魔王代行のユメの呼び掛けに、割と真面目にかしこまって前に出る。

 ユメは困ったように微笑みながら、俺に執行官としての命令を下す。


「交易都市メタンネドへの潜入調査を命じます」

「御意」


 こうして、メタンネド交易都市の下見ではなく、本格的な潜入調査が始まったのだった。

 ……俺一人しか行かないんだけどね!!


 …部下を増やすのは時間がかかりそうだ。




「……ということで」


 やって来ました交易都市メタンネド。

 またまた転移で丘に登って全貌を見渡す。


「《遠隔透視》」


 文字通り遠方を多角的に見れる視野強化魔法で壁や物で遮られている場所すらこの目に映る。

 ……これでイケナイ事をしちゃダメだぞ!


「ちっ……エインシアいるなぁ」


 アイツは巡回するように都市を回っている。

 教会の鐘の代わりに設置されていた紅い結晶は魂を吸収し終わったのか、そこに存在していない。

 大通りから遠い場所に居て、魂を抜かれなかった生き残りの魔族達は他者の眼から隠れるように怯えている。

 ………エインシアは都市全域に足を運んでいるのだが、生き残り魔族には手を出さずに無視してる。

 大通りにいた魔族が魂を抜かれた理由も調べなきゃなのに、アイツがいるのが面倒臭い。


 エインシアが残ってるのは、俺が此処に出没したからだろう。

 何かしらの警戒をされているに違いない。

 ……こっそり屋敷だけ調べて帰るか。


「取り敢えず……」


 以前も使った潜入調査に都合の良い魔法を重ねがけし続ける。

 更に、執行官の軍服の上に《常闇の黒衣》を纏って闇に隠れ易くする。

 準備を整えた所で動き出す。

 《遠隔透視》でエインシアがいる位置を確認しながら、死角になる場所から城壁を駆け上がって音を立てずに飛び降りる。

 着地音なく地上に飛び降り、己の姿形が見えずとも慢心せずに影に隠れて疾走する。

 俺を避けて動く風の動きも支配して違和感がないように偽装し続ける。

 やがて、ネザゲルート公爵家の屋敷が目に入る。

 観察し続けているエインシアは都市の外周部の屋敷から遠い位置にいるのを確認して門をくぐり抜ける。警備の兵などは見当たらず、されど不可視の敵を想像して気を緩めずに敷地に入る。

 魔術的、物理的な罠を目視で探し、時に魔法で探索する。

 屋敷の中は至って普通で罠などは無かった。


 一階、二階と調べたていく段階で、無人の館だと言うことを実感し始める。

 誰も居ないというの不思議だな。


 とうとう、俺は二階の公爵夫人の部屋に扉へと手をかける。

 ここにネザゲルート公爵夫人の生活跡ぐらい残ってても─────────っ!!


「……そっ、か」


 俺はベットの上に仰向けに倒れている女性を目にして、息を呑む。

 ……ベットの一部は血で染まっていて、倒れている中年女性の胸元には貴族社会で家族に贈られる短剣が刺さっていた。

 貴族社会の贈り物には、望まぬ純血を散らされる時は、この短剣を持って自害せよという意味を込めて家族から贈られる短剣がある。

 そして、その短剣は自ら命を断つ時にしか使ってはいけないと。


「……」


 俺は手を合わせて死者を敬い、中年女性……夫人の顔を見る。

 口から血を吐いているが、その顔は安らかで眠るように死んでいる。

 俺は死体が本物であることを確認し、魔術的な罠、監視が無いことを改めて確認してからベットごと異空間に夫人を転送する。

 遺書があるかどうかも探したが、見つけることはできなかった。


 中を確認し終えて、俺は扉をそっと閉めて部屋から出る。

 ………彼女は社交会でも見たことがあるブロッケンの奥さんで、確か一人娘がいたはず。

 その娘さんは若い身で空間魔法を使いこなし、将来は父を超えると期待されていたようだが……

 探すか。

 地下室の入り口は見つけたが中を確認してはいないため、俺は再び闇に紛れて廊下を走るのだった。


 地下室の扉は、書庫の本棚の裏に隠れていたのを魔法によって発見した。

 スライド式の本棚なのだが、音が鳴ると迷惑なので起動させずに破壊する。


「《虚数崩壊》」


 全てを無に還す破壊の魔法を唱えて隠し本棚を原子レベルまで分解させ更に消滅させる。

 ……あ、この魔法どっかで使ったと思ったら、ヘルアークの大会で証拠隠滅に使ったような……

 うん。関係ないことは忘れよう。


 俺は地下室の扉に罠が無いかを確認して、無いことを確認してから静かにドアを開ける。

 そこには、地下へと続く階段が続いている。

 ……所々に、蜘蛛の使い魔がおり、通路を監視しているようだ。

 俺は再度強めに姿を隠す魔法をかけて、蝋燭の灯火から避けるように闇を降りた。

 更に監視カメラの役割を担う蜘蛛に催眠をかけて俺が居ない地下通路(・・・・・・・・・)の映像を永遠に写すように細工した。


 やがて地下通路の最奥へと辿り着き、目の前にそびえ立つ扉を睨む。

 ……地下通路は全体的に罠が多く張られていた。

 同じくこの扉にも罠があるかと疑ったが、ただ結界が張られているだけで他に異常はない。

 まぁ、結界がある時点で此処に何かありますよと言ってるようなものだ。


「《結界解析》」


 結界の仕組みである術式を解析魔法で漏れなく調べ尽くす。

 この魔法は、結界の性質と共に何処の誰が仕掛けた結界なのかもわかってしまう。

 故に、数分で終了した解析結果は────


「……強固な防護を誇るだけの結界で侵入者感知は無し、更に術者は……バイオン」


 《魔導の神徒》が関わってるとなると……あの魂の件も爺さんがやった可能性が高いな。


「《結空門扉》」


 俺は結界に手を触れて機能とかそういうの全部無視してドアを作って普通に通り抜ける。

 結界そのものを通り抜け、地下室の扉も普通に開けて中に侵入する。

 ……実はこういう違法手段もあるので、侵入者が来る事を想定しての結界対策は大変なのだ。

 違法っていうより、常套手段と言っても良いな。


 扉の先に広がる地下室は、白に埋め尽くされた部屋だった。

 壁も床も天井も全てが白く、真ん中に置かれた棺が嫌でも目に入る。

 俺は無言で棺に駆け寄り……息を呑む。


 棺の中には緑髪の魔族の少女が眠っており、手には紅い結晶を握っていた。

 ……この結晶は、魂を吸ってた例のブツと関係性が高そうだな。

 街にあったのは人よりも大きかったが、少女が握っているのは拳より大きい程度のサイズ。


 それに……どこかで見た事あると思ったら、ブロッケンの娘さんじゃないか。

 保護すべきか、放置すべきか……

 恐らく、ここはバイオンの領域だ。

 下手に物に触れば……というか、結界内に長時間居るだけで危険なのだ。ヤバめなのだ。


「……この子が理由か?」


 思い至ったら即行動。

 俺は少女の身体に触れるギリギリで手を向けて、さまざまな感知魔法や鑑定解析を行っていく。


 ……『魂隷の呪縛』って呪いがかかってる。

 要約すれば魂を縛る呪い。

 魂を糧として生き永らえる方法以外、呪縛を解かぬ限りは無くなるという外道な呪い。

 手に握る結晶も、魂の負のエネルギーが暴風雨の様に渦巻いており、これを徐々に身体に取り込まなければ生きていけないという謎仕様だが……


「更に細工がしてあると」


 取り込んだ魂を術式に組み込んで、強大な力を生み出す()となるよう身体に仕込まれてる。

 ……子煩悩だったブロッケンと夫人が一人娘をこんな事に使うわけが無いと考えて、犯人はやはりバイオンか……

 これ以上時間が経てば、人ならざるもの…いや、魔族ならざるものになっちゃうな。


 更に、棺は魔導具で納棺された生物を強制的に眠らせる物だと発覚した。

 一度中に入ると、数週間は目を覚まさない可能性が高いと思われる。


 棺の事も鑑みて少女を見て、悩み続ける。


 って……よくよく考えたら、この呪縛解けるぞ?

 魔神杖で呪詛と魂を吸収すれば問題なくね?

 …危ない方法だけど。


「えい」


 取り敢えず行動。

 魔神杖カドケウスを取り出して少女の心臓の横(・・・・)に突き刺して呪詛を吸収し、身体を渦巻く負の魂も浄化させながら消滅させていく。

 突き刺す際に、紅い結晶ごと串刺しにして破壊するのがポイント。

 少女の身体が痙攣したり血を吐いたりするけど頑張って無視する。

 ……この治療法は生死確率が五分五分なので真似しないでください。


 やがて、全ての異常を取り除き終わる。

 肉体に直接刺したので、手元に『天女の命水』から汲み取った命水(めいすい)を貫通口に流し込む。

 たちまち傷口は塞がっていき、命水は溶けるように身体に染み込んでいく。


 再び彼女の身体を調べて、術式の破壊が成功したのを確認する。

 少女の口元の血を拭き取り、静かに呼吸を繰り返すだけの眠り姫の顔色も何の問題もない。


「ふぅーー」


 俺は頭の汗を拭いて安堵の息を吐く。

 ……いつからこんな状況なのかは知らんが、取り敢えずお持ち帰りするか。


 俺は棺から少女を異空間に転移させる。

 ついでに棺の中に敵への嫌がらせとして案山子の顔のマネキンを入れておく。

 そして帰る。


 任務終了。

 転移魔法で帰る時に若干阻まれたが、無理矢理押し通した。

 その衝撃で結界が壊れた上に屋敷が揺れるという事態になったが俺は知らん。

 エインシアは驚いてるだろうが知らん。


 こうして、魔界執行官の第二の任務は終わりを告げたのであった。


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