メタンネドの悲劇
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宣伝終わり。本編どうぞ。
時は遡る。
円卓会議場で魔王国の今後と戦争状況の話し合いが行われ、アンテラに突然懇親会の会場提供を求められた午後の一幕。
アレクの右腕に時間差攻撃が来た原因へと迫るちょっとした小話。
◆語り手アレク=ルノワール
俺がアンテラに色々と物事を頼まれた日の午後。
懇親会の会場を提供してと言われたので庭園を明け渡し、メリアとウェパルを動員して全て託した。
つまり、俺は自由な時間を強制的に手に入れた。
……午後にやりたい事があったから部下に頼んだだけであって、サボる為では無い。
断じて否だ。
「じゃあ、行ってくるから……留守番と会場準備を宜しくね」
「わかりました」
メリアに用事で出ることを告げて転移する。
転移した先は、ある都市が見える丘の上。
交易都市メタンネド。
魔王国の東に位置する都市で、この領地を統治するのはネザゲルート公爵家だ。
……代々空間魔法に長けた遊牧民族であるネザゲルート家は、三代目魔王に見出されて地位と領地を与えられた。
その類いまれなる空間魔法による貿易や交易によって領地を発展させ、後に公爵の位に陞爵する。
発展の中心地であり公爵家の屋敷がある交易都市メタンネドは古き良き建物が立ち並ぶ歴史的価値のある街。
現在も魔都に並ぶ経済力と観光名所を持つ。
ついでに言うと、以前海を渡る時に寄った港街ポートイールも公爵家の管轄だ。
「……《魔力秘匿》《認識阻害》《音源遮断》《探知妨害》《隠密行動》《気配遮断》」
俺は言霊魔法で六つの潜入用の魔法を唱える。
《魔力秘匿》は己から漏れる魔力や魔法行使の際に出る魔力を隠す魔法。
《認識阻害》は周囲の存在から自分の存在を認識させない魔法。
《音源遮断》は己が出す足音や服のズレ音や物に触れた際になる音を消す魔法。
《探知妨害》は様々な探知系の魔法から己を発見させないようにするジャミングの魔法。
《隠密行動》は無音で且つ気配を隠して行動することが可能となる魔法。
《気配遮断》は己の気配を全て遮断する魔法。
こんな感じで同じ効果を持つ魔法も重ねがけして万全の準備を取る。
察しのいい人はもうわかるだろう。
俺がこの都市に来た理由は、裏切り者である四天王《秤》のブロッケン=ネザゲルート現当主が何故裏切ったのかを調査する為の下見。
下見なので、本格的に屋敷内に潜入したりはせず、交易都市そのものを見て回る予定なんだが…
「……静かすぎるな」
戦時中ではあるが、それでも交易都市。
魔都ではなくこの都市に避難や居残った住人もいる筈で、魔都が落ちる数日前までは僅かならが活気があったと情報が入ってきていたが。
ネザゲルート家全員が裏切りであり、魔統神側に与するのなら魔都陥落の勝利を耳にして少しは騒がしい可能性があったのだが……
魔族どころか、周辺の魔獣の活動も見られない。
都市の兵士団に全て駆除されていたとしても、小動物サイズならいるはずだ。
だがいない。
そもそも生物の姿があまり目に見えない。
……嫌な予感をしてしまう。
「……行くしかないか」
この交易都市にも俺の結界が張られていたが、時すでに遅し。
俺の張った結界は全壊している。
この結界は攻撃されたら通知される仕組みで、この破壊通知が俺に届いたから急遽ここに訪れたというのが、今回の大きな理由。
何度も攻撃して破壊ではなく、一撃で破壊されていることから、アンデュラーと激突した《破砕の神徒》ガムサルムの仕業だと推測される。
魔統神配下の《魔皇四将》の中で最も危険度が高いのが脳筋全破壊神徒のガムサルムだと俺は思う。
直接対峙した事は無いが、如何に強度な武器でも防具でも術式でもワンパンで破壊する彼とはなるべく対峙したくない。
なんか殴って攻撃魔法が消えたりなんてした日には為す術もないよね。
さて、話を戻して俺は城壁を軽く乗り越えて交易都市に侵入する。
大通りから路地裏まで商業施設が並んでいるこの都市で、まず目に入ったのが────
「……死体、か」
最も人が交流する大通りには、多くの魔族が寝転んで……死んでいた。
石畳の上を魔族の死体がゴロゴロと倒れている。
しかし、その死体には外傷が無く。
全員が恐怖のあまりか眼を見開いて、大きく口を開けて死んでいる。
「嫌な予感は的中か……」
死体の損傷具合から見るに全員がついさっき死んだことが読み取れた。
……俺が準備してる間に、魂を抜かれてしまったのか。
そう、彼等は全員同じ死因。
魂を抜かれてるいるのだ。
口を開けているのは、そこから魂が抜けたから。
「……ヤバいな」
都市の教会の鐘があるはずの部分に負のエネルギーが溜まって渦巻いている。
そこには鐘では無く、紅い結晶が代わりにあり、それが徐々に徐々に魂を吸収している。
……何を考えているんだ?
ブロッケンがやったのか、魔術関係から見てバイオンがやったのか……それとも魔都から消えた住民の代わりの何かの生贄として魔統神がやったのか……
推測は憶測に過ぎず、確証は得られない。
「……《生物探知》」
…………生きてる者もいるのか。
都市内に生存者がいるか探知すれば、中央の大通りから離れた場所に多くの生存者が広がっている。
数百単位で生きているようだ。
……全員怯えているようだから話を聴くのは無理そ───────っ!!
「くっそ!」
俺は《生物探知》で背後にいる存在に気付いて大きく飛び跳ねそこから逃げる。
大通りを埋め尽くす死体を踏まないように気をつけながら、襲撃者を瞳に捉える。
「《柔剛の神徒》エインシア……!」
「久しいわね、《大天敵》」
《魔皇四将》の一人である神徒、エインシアが神剣《形状剣アインシュッド》を片手に立っていた。
「……帰るんで許してくれる?」
「却下だ」
以前とは違い無感情無感動で神剣を振るい俺に攻撃をしかけてかるエインシア。
俺は《獄紋刀》を取り出して応戦する。
ぶつかり合う度に形状を曲げて剣を刺してくる攻撃と、炎を纏った刀の攻撃を延々と繰り返す。
時に単調に、時にフェイントを混ぜて。
「……埒が明かない」
「じゃあ帰れよ」
「無理だと言ったでしょう?」
エインシアは神剣を天高く掲げて時を待つ。
「《天津風・時継》」
瞬間、俺の目の前に移動して神剣を突き刺そうと腕を前に出すエインシア。
俺は奴が踏み出した瞬間に下がった為、剣に直接触れることは無かった。
だが、何故か彼女は俺がいた場所に神剣を空振りさせる。
「……右腕だけですか」
そう言われて自分の右腕を見ても、変化は無い。
切られた様子もないし、血も出ていない。
「………どんな凄い技なのか教えてくれる?」
ある程度、褒めるような感じで問えば食いついてくるかなと淡い希望を持って質問したら……
「時間差攻撃だ」
あっさり教えてくれた。
………平常時と戦闘時の切替をコントロールしたってのは良いんだけど、その軽い口もどうにかした方が宜しいのでは?
そちらの訓練はされてないのですか?
「つまり……貴様の右腕が数分後、数時間後に切れるというわけだ」
「なんでそんな曖昧な答えなの?」
「私もいつ切れるか知らん」
「えー……」
……今のうちに逃げるか?
いや、その前に……
「この死体の山は?」
「陛下の為の犠牲になったのだ。悪くは無いだろう…陛下の為になれたのだから」
忠誠心が高くて凄いですねぇ……
魔統神が何のためにやったのかは知らんが、数万人は逝ったかもしれないぞ。
魂を抜いて何をするかは知らんが……
「取り敢えず」
俺は教会にある紅い結晶に斬撃を飛ばす。
エインシアは何もせずに攻撃を見送る。
すると、
キィィン!!
飛ぶ斬撃が当たった結晶はビクともせずに存在し続ける。
傷一つついていなかった。
「……厄介だな」
右腕への時間差攻撃……未来への攻撃と、交易都市の住民の被害。
さっさと報告すべきだな。
「逃がさないぞ」
「逃げるよ……《転移》!」
エインシアがすかさず俺に剣を向けるが、即座に転移魔法を使って世界都市に消える。
………さて、報告するか。
その後、魔王シルヴァトスと魔王代行のユメに急遽下見の内容を報告し、俺はニーファに捕まって酒を飲まされて酔眠してしまった。
下見と言っていたのに、結構な大冒険になってしまったが都市の惨劇について、よく分かったので良しとしよう。
……彼等の魂が何に使われるのかだけは調べておかないとな。
これが事の顛末。
俺が右腕に切り傷を負った理由だ。
……今思い返してみれば、エインシアの斬撃がもう少し俺の元いた位置の奥に来ていれば完全に切断されていた可能性もあるということだ。
懇親会の参加者に説明し終わった所で、アンテラが終了を宣言する。
俺の転移魔法で各自の教えてもらった自宅の前にお繰り返し、全てを終わらせる。
「はぁ……よく聞けば危ない橋を渡っとったんじゃな……」
「未来へ送る攻撃なんて読めねぇよ」
悪態を吐きながら寮の自室に帰ったら、仕事に疲れてお酒を呑んでいるメリアに捕まって、ニーファ共々酒の餌食になったのは別のお話。
メリアって酒呑むんだなぁって思った。
ぐぅ……
そして、この交易都市メタンネドの惨状は、「メタンネドの悲劇」と呼ばれるほど有名となり、語り継がれる事となるのも別のお話。
次回、ネザゲルート公爵の屋敷へ潜入!