選ばれし者の懇親会:後半
◆アレク=ルノワール
懇親会。
突然アンテラに予定を聞かれて、俺の異空間の一つを貸してくれと言われた昨日。
趣味の空間創造で造った庭園があったので、そこを使ってもらうことになり、急遽仕事が出来るメリアとウェパルを使ってテーブルや料理の準備をした。
アンテラに俺の異空間を使う理由を聴いたら、
『安全性』と『機密性』をダシに言われてしまったが……機密性とか無くね?
まぁ、色々と裏でやってもらってるみたいだし、仕方のないことと割り切って協力した。
……その日の午後に俺自身に別件で厄介な事があったのだが、その話は置いておこう。
その夜に誰とは言わないがドラゴン娘に酒を飲まされて風呂に入る前に酔眠してしまった。
あまり酒は強くないんだ。
そんな訳で、朝起きた時には懇親会の事なんて頭の片隅に忘れていた。
ここから先は、懇親会を忘れた朝をどうぞ。
アンテラがお詫びと称して渡してきた服を着るが、どう見ても女の子の服で焦った。
まさかの取扱説明書付きで、服の着方と着こなし方まで書いてあった。
無駄に用意が凄かった。
「着てみたけど……似合うのが問題だな」
首から肩まで露出した白シャツと可愛い柄付きのパーカーは……着たくないから腰に巻いた。
ズボンはジーンズで身体にフィットして俺の細いラインが普通に見えた。
……男が着るもんじゃ無いよね。
「むぅ〜……アレク、どこ行くんじゃぁ?」
「風呂」
起きたニーファ……しかし起きてく直ぐにお酒を口に含み始める。
……お前も対して酒強くないんだから、そんなドプドプ呑むの止めろよ。
「にゅあ〜」
「……お前も風呂に行くぞ」
なんか濡れてると思ったら、酒が身体に零れてしまったようだ。
……ベットも濡れてたな。
くんくん……酒ェ。
後でメリアに洗濯を頼もうそうしよう。
「おいでニーファ」
「うむ〜」
まさに介護。
酒に酔って普段以上に素直なニーファを後ろに率いて寮の寝室から出て異空間の風呂に向かう。
門を開けて異空間に入り、雰囲気の為に暗くしてある通路を歩く。
「……痛っ」
何故か知らんが右手に痛みが走り、切り傷から血がドパッって出てくる。
……昨日のか。
右手だったから良かったが、場所が悪かったら胴体や首を切断されていた。
「む……大丈夫かのぅ?」
ニーファが、トロンとした顔で俺の血が出る右手を見て、何故か顔を近づけ─────
「って、何してる」
「……?舐めたら止まるんじゃないのか?」
「……ただの切り傷じゃないからヤメトコウカ」
「む……仕方ないのぅ」
傷口を舐められても痛いだけだから。
血液を舐められても美味しくなんてないから。
なに?神竜の舌には治癒作用でもあるの?
「えっと……風呂はこっちだな」
血を流したまま通路を歩く。
「あ、遅いじゃんアレク君って……どったのその傷?」
何故かアンテラが俺の異空間にいて、前方から歩いてくる。
……そういやメリアが入れときますって言ってたな…二度寝したからうろ覚えだけど。
「んにゃ、昨日のアレ」
「あ〜……止血は?」
「風呂でやる」
「あ、そう。じゃあ、みんな待ってるから早くした方が良いんじゃないかな?」
………何言ってんだこいつ。
みんなって……メリアやプニエルたちか?
「んじゃ、僕は帰るから、空間繋げて」
「あいあい」
アンテラは神と言えどもこの異空間では横暴に振るえない。
だから、俺を経由して空間移動しないといけないので……帰る時は俺かニーファ、メリアの転移、空間魔法を使わなければいけないのだ。
アンテラを無事送り返し、「終わったら呼んでね〜」と意味深な言葉を告げて消えてった。
また再び通路を歩いていき、俺は突き当たりの扉を魔法で遠隔操作により開ける。
左手で開ければ血はつかないけど、あれって内開きだから、開けたら一歩下がんなきゃだから使う。
そして。扉を開けた先には懇親会を行っている諸君がいて、俺は急いで風呂に入った後に、参加することとなるのだった。
「いやー…すっかり懇親会忘れたわ」
「開催場所お前の場所だろ」
「メリアに全てを託してた」
「「えー…」」
リョーマとマサキ、ミラノに総ツッコミを喰らいながら笑って誤魔化す。
風呂に上がって早速来たんだが、まだまだメリアとウェパルの手料理は残っていた。
美味い美味い。
参加予定であったニーファも、俺と同じく遅れて参加して、風呂で冷水を頭から掛けたおかげで酔いが覚めてユメとミカエラやマールと食を囲んでいる。
メリアとウェパルは相変わらず給仕の仕事をこなしていて、頭が下がる思いである。
プニエルやデミエル、エノムルは庭園の日が照っている場所でおままごとを始めている。
ついでに言うと、先程できた切り傷はお風呂で血を洗い流した後に『天女の命水』で癒した。
さて、俺以外の転生者……全員キャラ濃い彼等と話してくるか。
毎度の如くクロエラが自己的な行動を取ってマールにしばかれるという珍事件もあったらしいが、中が良さそうで何より。
まぁ、トドメの一撃であるタライを転送して投げつけたのは俺だけどな。
……マールがクロエラを殴る程の友好関係は上昇しているようで驚いたけど。
そして俺は四人の転生者と顔を合わせる。
「どうも〜こんにちわ。アレクって言います」
「こんちわ。星宮蓮夜だ。よろしく!」
「舞並茜です。宜しくお願いします」
「高橋冬真と申します。以後お見知りおきを」
「あげぽよ〜、長谷川夏鈴だよ〜。よろしくアレクっち」
うん、みんな個性的だね。
でもひとつ心の中で言いたい。
「あげぽよ」って挨拶言語じゃないよ?
普通に間違ってね?
あと、アレクっち……卵から生まれるキャラかな?ちょっと独特過ぎて絡みずらいわ。
「えーっと、懇親会ということなのでアナタ達が転生した際に貰った転生特典みたいな奴を教えて?」
「おう、わかった」
多分答えてくれないだろうなーと思ってたら、あっさり教えてくれるレンヤ。
「俺の能力は《魔銃戦線》っていう名前の俺が知ってる銃火器を召喚できる能力だ」
背負ってる三八式歩兵銃はそれの力か。
……なんでその銃をチョイスしてるかは知らないけれど、見た目がカッコイイな。
レンヤ一人で移動要塞が出来そうだな。
「えっ……じゃあ私も。私は《匣庭》という能力で、簡単に言えば白い装備を展開できます!……じ、実際に見せますと…
《匣庭・銀槍の守護天使》!」
アカネさんが恥ずかしげに詠唱すると全身を白いベールが覆って銀の槍と盾と鎧を着た二つ名通りの《戦乙女》と変身した。
可愛いというか美しいというか凄いというか。
「「おぉー」」
「あ、あんまり見られたくないんですけど……」
「まぁまぁ、可愛いから良いじゃん」
「気安く言わないでよ!恥ずかしいの!」
この二人は出来てるのか?
そう思って他の人達を見たら首を振る。
……今後に期待ってところなのか。
二人が軽く紹介したところで、悩んでいたトウマも仕方なくといった感じで話し始める。
「……仕方ありません。お互いを知る為ですしお教えします。と言っても、自分は戦闘向けの能力ではありませんが……《黒文字の囁き》」
トウマが詠唱すると手の平から黒い墨が湧き出てきて彼の周囲を周り巡る。
その墨汁は宙を回りながら、文字から文字へと変形を繰り返している。
興味本位で触ろうとしても、液体というわけでもないようで触れられなかった。
「対象者の記憶や思考を読み、精神に介入できる尋問用特殊能力です。これで外務大臣になりました」
「純粋にすげぇ」
外務大臣なのか。凄いな。
褒められたのが嬉しいのか、少し眼鏡をクイッと動かして照れているのを隠すトウマ。
「じゃじゃ、次はわたしだね!わたしの能力は《戯れの打神鞭》って言いまぁーす!」
そうやって取り出したのは、伝説の宝貝の名を持つ鞭……じゃなくて釣り竿?
……なんか可愛らしくデコってあるんですが。
「その能力は……?」
「色んなものが釣れる!ただそれだけ〜!」
「なるほど」
俺が知る打神鞭じゃない事はよくわかった。
打神鞭とは、『封神演義』と呼ばれる物語に出てくる太公望の使用する武器。
打ち据えることで敵の精神にダメージを与え、仙人の脳天も打ち砕く宝貝。
仙人である太公望が四不象と呼ばれる麒麟の頭、龍の体、獬豸の尾を持ち、そのいずれとも違う姿を持つ神獣と共に色々とやるのだが……
カリンさんが持ってるのは名前は宝貝なのに見た目が釣り竿っていう矛盾。
ほら、トウマも言ってやってよ。
それ打神鞭ちゃう、ただの釣り竿だって。
「……夏鈴さん、それ本当に打神鞭なのか?」
「うん?……違うの?」
「打神鞭って精神ダメージとか、仙人の脳天割る鞭なんだ」
「えっ……わたしのコレってパチモンってことぉ?」
「名付け親は誰だ?」
「アンテラっちだよ〜」
「「あぁ、納得だわ」」
夜天神アンテラは、多分だけど地球の伝奇物語の冒頭を中途半端に読んで、太公望が釣りをしてた所を王様に見出された所しか読んでないんじゃね?
そうじゃないと打神鞭=釣り竿にならねぇ。
いや、そうじゃなくてもならんけど。
見た目だけは釣り竿って思わなくはないけど。
「ん〜……ま、わたしは気に入ってるからだいじょーぶ!鞭も釣り竿も変わんないって!」
ポジティブ思考で何よりです。
「じゃあ最後に俺ね。《言霊魔法》っていう魔法を創造し、魔法に干渉する魔法だ」
これだけでは分からないといった顔をされたので、実際に目の前で使用してみたら納得された。
転生特典っていうか……みんな凄い個性の高い能力貰ってるんだなぁ。
転生者組と別れてこの世界の住人の選抜者達と今度は顔を合わせる。
ミラノはさっき話したし、クロエラはクロエラで異世界の技術を聞き出そうと転生者組と話してるから、他の奴と話そう。
「おいアレク!お前は転生者だったんだな!」
「そうですよ」
「では勝負だ!」
「は?」
五月蝿い獅子姫が勝負を仕掛けてきた!
アレクはどうする?
→昏倒させる
無視する
憂いを断つ
昏倒させる
無視する
→憂いを断つ
これを選びたい気持ちもあるが……憂いを断つ=お命頂戴だからなぁ。
取り敢えず。
アレクは『無視する』を選んだ!
「では、これで」
「えっ?……ちょ、待っ」
「姫様?馬鹿な事をするなと言ったはずでは?」
「ぬわぁっ!?トウマ、後ろに立つな!」
獣王国外務大臣の保護者様が来たので任す。
本当に変わらないよな、この獣人。
「む。来たのかアレク」
「お兄様」
「アレク様、お疲れ様です」
「……ご飯美味しい」
寄ったのはニーファとユメとミカエラとマールの四人が集まっている場所。
マールが周りに馴染めてて彼女の短期間での成長を垣間見えて少し驚ろ……彼女に対して驚いてしかいない気がする。
まぁ、初対面の印象がデカかったからな。
仕方ないか。
「突然ですけどアレク様、魔王国は今後どうなるのか、王子の見解を聞きたいのですが」
真面目な目で見てくるミカエラ。
……ヘイドゥン公爵家は魔都エーテルハイトにいたから、家族全員纏めて転移できて良かったな。
ご当主は父さんの友人らしいし。
ユメを支えてくれる良い人になるだろう。
ミカエラも含めてね。
「そうだな〜…ユメを主体とした王政にする為には不法占拠者共を討伐しなきゃだし…」
特にメノウとエインシアは許さん。
両者共にユメを利用、攻撃しやがったからな。
魔統神ダグロス?魔導と破砕の神徒?
裏切り者のブロッケン?
そいつらは知らん。
私的な恨みは無いからな……あったわ。
父さんを瀕死にした元凶とその道順を造った奴ら全員許さん。
結局全員許さん。
「取り敢えず敵対者を全員倒して魔都取り返してユメの政治が始まるとしても、同盟国からの支援が多少は必要だろうな」
魔都は戦場になるだろうし。
「お兄様……先程の傷は?」
「んー?治ったよ?」
「そうではなくて……」
ユメが聞きづらそうに血塗れだった俺の綺麗な右手を見て、意を決して質問してくる。
「そうだな…これ話すと長くなるんだよなぁ」
そう言うと……えっ、ちょ、え。
「「「「「…………」」」」」
懇親会参加者全員から早く話せとの視線が。
クロエラなんて気絶から立ち直ってるし。
メリアも……アンテラもいるし。
メリアを見ると、私が呼びましたとアイコンタクトが来る。
「……しゃあねぇなぁ」
周りからの無言の圧力を受けて、仕方なく俺は口を割るのだった。
懇親会って言うより俺の傷についての説明会になってないか?
まぁ、みんな仲良さそうにしてるから良いけど。
何故かアレクの右手から出血した理由は次の話で