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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第五章 魔に挑むお兄様
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未来への一歩



 魔王国アヴァロンの敗北は世界を震撼させた。


 そんな混乱の中で。

 魔王シルヴァトスが神に敗北し、既に前線に出れなくなってしまったことを自ら国民に宣言した。

 車椅子に乗り、少し弱った姿で発表をした。


 まだ体調も優れてない為、ユメを魔王代行としてニンニ就かせ、《四堕神》の全ての事柄が終わったその時、戴冠式を執り行うことだけを発表して、ムジカの手で自室に戻った。


 そこから続けてユメが魔王代行として、全ての説明をする。


「今日をもって、私ユーメリア=ルノワールが魔王代行として働かせてもらいます」


 魔王代行としての意気込み。

 魔統神に敗北したこと。

 城を守り散った者たちのこと。

 この『偽りの魔都』について。


 およそ国民が皆思っている事を全て包み隠さず話し終える。

 ……実は全てではなく、裏切り者のブロッケンについては一言も触れていないのだが。

 これに触れないのは、父の意向であり、その真意はわからない。


「私は準備が整い次第、魔王国を取り返しに軍を率います。……もし、自分の手で故郷を取り戻したという願望を持ち、力を貸してくれる人は城の門を叩いてください。全員で、国を取り返しましょう!」


 この言葉に感化された魔族の男手が魔王軍に緊急配属され、国を取り戻す為に全員が一丸となるのはまた別のお話。


 そして現在。

 世界同盟の円卓会議場にて。


 魔王代行ユメが代表として会議に出席する。

 ここで、聞かれるであろう事は大抵話し、質問を受け付けた。


 こちら側の現状を全て話した上で、各国は話に乗ってくれた。

 救護、食糧、布団……様々な支援をしてくれることを約束し、今後についての会議が始まる。


「まず儂から一つ言うことがあってじゃの」


 世界同盟最高評議会長のエウクがしゃがれた声で第一声を放つ。


「夜天神アンテラ様が近々ここにご降臨なさらるらしい…」


 ザワザワ。

 ……あのアンテラがやってくる?

 何を考えてるんだ?


「それと関係するのじゃが、我々が把握している異世界からの転生者達に来て頂く様に呼んだ」


 ……それはつまり?

 転生者であると知られており、各地にいる異世界人が世界都市に集まると?


「日時は明日。なんでも夜天神様による転生者の交流会議とやらをするらしい。他にも、夜天神様に呼ばれた者も参加するらしいがのぅ………儂らには関係ないことかの」


 ……今のうちに『偽りの魔都』に逃げておくか。

 呼ばれたくないし。


『いや、参加してね?』

「!?」


 こいつ、脳内に直接語りかけてきやがった…

 どんだけ暇なんだ?おい。


『全然、暇じゃないよ?

 ……本題に入るけど、転生者を集めるのは彼等が切り札になるから。お互いの事を知っておかないと後々の連携に支障が出るでしょう?』


 ………仲良くしなきゃいけない前提?

 あと、親に前世のこと説明してたとか聞いてないんだけど?

 殺すよ?


『やめて?……だって言わないと、あなた方の子供は前世の記憶を持つヤベー奴って言っとかないと後で混乱して悲しい未来になってたかもよ?』


 人の事をヤベー奴呼ばわりとは……まぁ、説明する手筈もはぶけたし、結果オーライか。

 少しは感謝しといてやる。ありがとう。


『どういたしまして。じゃあそういうことだから……神竜ちゃんにも会議参加してもらうから、逃げられないよ?』


 ちっ。

 ニーファも参加とか、完全に戦闘に特化した連中を呼び集めるだけじゃんか。

 アンテラからの念話をこちらから強制遮断(シャットアウト)して、いつの間にか話が進んで終わりかけていた会議に耳を傾け……ニーファがコテンと首を傾けて寝ている姿を見つめるのだった。




 偽りの魔都にて。

 神徒と対峙したアンデュラーとヘイドさんの二人も無事に転移できてたので、二人から話を聞くついでに魔王国の今後について話し合った。


 《魔皇四将》の神徒は全員が手練であり、結界や物質を悉く破壊する神徒ガムサルムの事を知った。

 また、《魔導の神徒》バイオンがヘイドさんの生前の悪友であることも教えられた。

 敵の一人が友人とか……世界は狭いな。

 ……この時、ヘイドさんの前世の話を聞いたのだが、転生者だったとは思わなかった。

 ただ、俺が居た地球の日本ではなく、大和帝国(やまとていこく)と呼ばれる、第二次世界大戦で日本が勝利した世界線で生物学に精通していたらしい。

 世界線が違えど、文化とか発展は話では俺のいた日本とほぼ変わってなかった。

 ……ということは、明日集まるっていう転生者達は全員が同じ世界線から来たわけじゃないのか。


 明日の転生者と女神からの選抜者が集う会議。

 誰が呼ばれるかはだいたい想像できるし、知り合いが殆どの予感だけど……まぁ、楽しくなるのかな?

 なんかしらのイベントが起きそうだけど。


「むぅ〜…それにしても、ブロッケンが裏切り者、ですか……にわかには信じられませんな」

「同感だ。本当に本当に、ブロッケンなのか?」


 未だ信じられないようでヘイドさんとアンデュラーは訝しむように俺とユメ、グロリアスを見る。


「……事実です」

「………そう、か」


 全員から裏切りを疑われるほど、信頼は厚かったようだ。

 ……まぁ、王族の足としても活躍してたから、信頼が厚くて当然か。


「一応、ネザルゲート公爵領に潜入して、彼の家族がどうなっているかを見てくるつもりだけど」


 多分、親公会議の後だろうけどな。

 アイツが何故、魔王を裏切ったのかを知る為には、彼の領地に行くべきだろう。

 恐らくそこに、原因があるはずだから。


「……ところでアレク殿、貴方は禁書を沢山読んでるようですが……読んでも平気なのですか?」


 ヘイドさんが興味深けに聞いてくる。

 この人の死因って確か禁書の閲覧だったよな。


「この杖です」

「……これは?」

「《魔神器》です」

「!!……なるほど」


 どうやら《魔神器》について知っていたらしい。

 魔神杖カドケウスを見せると、瞳の深淵でこの杖の本質を理解し、把握したようだ。

 凄い死霊術師というのも、それは生物学に精通して、生と死の概念の研究の末らしく、死霊術以外の魔術や魔法も普通の域を越している。

 これが三千年前からノーライフキングとして生きて……死んでるけど、存在してるとは驚きだ。


「あー……私もその手の類の凄いやつを持っていれば……いや、でも今の生活も悪くは無いし…」


 なんか葛藤し始めるヘイドさん。

 でも、骸骨の体だと排泄や食事の必要も無いから楽で良いとか、めっちゃ悩んでは開き直ってる。

 好々爺っぽかったけど、今は普段よりも増し増しで近寄り難い骸骨オーラが凄い。


 ……てか、魔神杖持ってなかったら、俺も死んでだかもしれないのか…魔神様々だな。

 そう思っていると、魔神杖から喜びの感情が伝わってくる。

 ……魔神の残留意思が褒められて喜ぶのを横目に、今後について話を進めたのだった。




 話を終えた後、俺は皆と別れて異空間を跳んで『環境保護空間』に入り彼女と話す。


「女王蜂〜!!」


 金塊蜂ゴールド・ビーの巣があるガラスケースに入り、女王蜂を呼び出す。

 彼女は俺の魔力を喰らった事で従魔となっている為、呼べば来る。

 小学生の平均身長サイズのお供蜂を連れて俺の前に飛んでくる大人サイズの女王蜂。

 当然、俺よりもデカい。

 その巨体故に羽音がデカいのだが、隠密性を求めるなら消すことができるらしく、俺がいる時や必要な時は羽音を消してもらっている。

 だって怖いし。


「いつも蜂蜜ありがとな」


 頭を撫でると、虫特有の触り心地がする。

 女王蜂は俺に頭を撫でられると、嬉しそうに目を細める。

 ……ただ複眼の上に目を細めるてる事を表す線が出てくるとか、漫画の話だと思うんだが……


 金塊蜂の蜂蜜は、貿易が発達して国際化が進む今の世の中でも嗜好品として値が高く、市場に出回るにはダンジョンを攻略していかなければいけないという採取難易度を誇る。

 そんな嗜好品を、俺達はパンケーキとかに使っているのだ。

 誰かに御中元的な考えで贈ろうとも思ってるけど、そんな文化が無いので困っている。


 さて、本題だ。


「お前たちに『偽りの魔都』の警備を頼みたいんだ。国民には既に説明してあるから、事後承諾になるんだけど。良いかな?」


 統率力を鑑みてコイツらを避難地の警備員として置き、対処してもらうことにしたのだ。

 これは、ユメと父さん、警備関係者にも話を通して承諾されたものだ。


 女王蜂は少し逡巡してから頭を縦に降り、俺の命令に肯定する。

 兵士蜂も命令を受けて敬礼し、他の蜂に伝令を飛ばし始める。


 さて……あとは魔都にコイツらを運んで、会議の準備をすれば、今日のやることないかな?

 いやー……平和が恋しいなぁ!!


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