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魔王の兄は転生者  作者: 民折功利
第五章 魔に挑むお兄様
170/307

逃げると大変だけど役に立つ

タイトルはパロディとかじゃないです。

(逃げって打ったら変換に出てきたから何度も弄り回したとか言えない)



 魔王シルヴァトスの脇腹に黒い呪剣が突き刺さり貫通する。

 服に滲み出る血が、止まることなく広がっていき、力無く倒れてしまう父さん。


 間一髪、王を拾い上げて救ったグロリアスは、呪剣を抜こうとするが手に小さな雷が迸って離してしまう。

 ……アレを抜くのは後だな。

 ユメとグロリアスが敵を警戒しながら父さんを囲んで守る。


 そして俺は、事の発端である裏切り者を見る。


「……辻褄が合うな」


 ブロッケン=ネザゲルート。

 四天王にして《秤》の名を冠する公爵。

 空間魔法のスペシャリストであり、《運び屋》の呼び名も存在する小デブの田舎弁アフロ魔族。

 ……裏切る様な奴には見えんかったがな。


 空間魔法で魔王の背後に呪剣を転送して刺した張本人であるブロッケンは、苦しそうな顔を浮かべて目を瞑っている。

 まるで、現実から逃げたそうに。


「……魔都エーテルハイトに侵入する方法は二つ。

 一つは、都市城壁全域に張り巡らせた俺の結界を無理矢理突破しての侵入。だが、この方法は実行してもバレる。誰にも言ってなかったが、結界の接触、攻撃をされたら俺に信号が来る」


 まぁ、結界の術式を解析されたら俺の結界の仕組みなんて分かるだろうが、改竄(かいざん)は出来ない。

 逆に術式を改竄されたら俺は素直に褒める。

 純粋に凄いじゃん?


「二つ。最初から味方の中に空間を越えられる術が使える裏切り者がいた場合。……まぁ、魔王から信頼の厚い四天王が裏切るなんて展開は無いとタカを括って居たんだが……そうなったな?」


 揺さぶりを掛ければ、少し身動ぎをする。

 嘘が苦手な男だ。

 …見た感じ、本心で裏切ったわけではないな。


 チラッと魔統神を横目に見れば、少し驚いていたが俺の視線を感じて平静に戻る。

 ……初代が関与したわけでもないと。


「……ブロッケン、何か言うことは?」

「……………」

「無言ですかそうですか」


 死刑確定。

 俺が許しても他の奴が死刑を求むから取り敢えず死刑で良いだろ。

 良くて終身刑、能力を使ったタダ働きだな。


「………」


 父さんが倒れた事で戦闘は一時的に止まったが、相手の手数は雑魚魔族が死にまくってるだけで主要人物たちの対した損傷はゼロ。

 こちらは……ユメの顔に傷!?


 ……あの剣士神徒、前とは雰囲気諸共変わってると思ってたし、なんか強くなってね?とか思ってたけど、ユメの顔に傷を作るとか……はぁ。


「お父様!気をしっかり!」

「ぐっ……うぅ」

「陛下……」


 剣が背中から貫通しており、更に抜けないという厄介な事態のため、父を寝かせれば剣がもっと深く貫通する為、動かないように座らせる。

 ユメとグロリアスは、父を支えるように肩を抱く。


「ブロッケン、貴様……陛下への恩を忘れたのか!!」


 ほら、ロリだけじゃなくて陛下への忠誠心も高いエルフが眼圧で殺さんと言わんばかりに睨んでる。

 ………でも、その瞳には疑念と拒絶が浮かぶ。

 仲間からの信頼も高かっただろうな。


「……さて、どうする?貴様らの王は負けたぞ?」

「別にアンタが勝ったわけじゃなくね?」

「ふん。……確かに我が望む勝利では無いが、勝ちは勝ちだ。それ以上でもそれ以外でもない」


 魔統神は《神魔の剣》を再び構え直す。

 配下の神徒や魔族達も武器を構え、俺達を睨む。


「……そうだな」


 俺は連中の視線と行動を完全に無視して、王座の間の中央を目指して歩く。

 中央には巨大な円を中心として美しい模様が描かれた床となっており、俺はその円に立つ。


「いやー……俺達全員を仕留めたい気持ちもわかるんだけどね?」


 魔力を高める。

 全身の魔力を循環させて、魔力濃度を高め、俺の足元に銀色の魔法陣を展開する。

 数秒後、王座の間の窓から見える景色に変化が起こり始める。


「これはっ?」


 一同騒然となって外の世界を見る。

 そこに広がっていたのは……


「きゃっー!」

「なんだこの光は!?」

「い、家がっ!?」

「中に入れば安心なんじゃ……」


 魔都の住民、避難していた魔族達が慌てていた。

 何故ならば……


「アレク=ルノワール!貴様、一体何をしている!!」

「改造ですが何か?」


 魔都の地面から銀色の光が噴出し、立ち上がっているのだ。

 更に、建物の一部が動き出して中の住民を強制的に外に転移させ、動き出す。


 ……元々、魔都エーテルハイトは巨大な魔法陣の形を成していた。

 分かりやすく言うなら、円形の城壁が外枠で、その中にある建物が魔法文字の様に並べられており、一つの魔法陣ができるように建設されていた。

 そして、俺は元からあった建物を移動して別の魔法陣(・・・・・)へと改造、改竄している。


「この魔都はアンタが封印される前にいた魔都は三千年前には此処に無かったよな?」


 無言は肯定とみなす。

 俺が乗る銀の魔法陣を操作して魔都を操る。

 一部の建物を宙に浮かせて移設させ、新たな魔法陣を作り続ける。


「俺が弄る前の魔法陣は、国が攻め落とされた時に敵ごと味方を焼き尽くす設定だった!!」


 戦争の無い今の時代では、宝の持ち腐れ……いや、ただの備品でしか無かったが。


「その名も《メギドの火》!!原始崩壊を引き起こす事で全てを消滅させる禁術!!」


 俺も使ったことがあるし、度々話題に上げた黒魔術の一つ。

 ……これの正体は随分前から知ってたし、起動されても困るので破壊してあるのは内緒。


 そして、俺はこの術式を変更する。

 全ての建物の移設が終わり、銀の光がより一層明るく魔都を照らす。


「っ……させるか!!」


 魔統神ダグロスは静観する中、メノウやエインシア達は俺を止めようと動くが……


「させんよ」


 いつの間にか俺の隣に出現したニーファの《天罪紫刀》によって近寄れなくなる。


「……来たの?」

「事前予告も無く何かやり始めてるからの…」


 ニーファは周囲を見渡し、状態を把握してから、俺を守るように前に出る。


「準備は?」

「あと五秒!」

「我来なくて良かったのでは?」


 そうでもないんだけど。

 時間というのはあっという間で、直ぐに五秒が経過して魔法発動の準備が整う。


「さぁさぁ!今宵限りのエンターテインメント!!

 危ない禁術なんて使わないで、さっさと逃げちゃいましょうねぇ!!」


 魔法陣に持ちゆる魔力の六割を吸われた所で、魔法を発動する。


「《ノアの導き》!!

 さらばだ敵共!みんな逃げるぜ!!」


 禁術級空間魔法《ノアの導き》。

 都市型魔法陣が発動し、世界が銀に染め上がる。

 対象:魔都の住民と避難者。

 非対象:魔統神及びその配下と裏切り者。


 敵方の驚きと慌てる表情を見ながら、世界は反転し、魔都から銀の輝きが消滅する。


 そして………


 魔都エーテルハイトと魔王城にいた魔族は根こそぎ消えていて。

 残ったのは、魔統神達とブロッケン、そして何故か……


「よし、消えたな」

「……これが俗に言う神隠しかの?」


 軽く消耗したアレクとニーファが立っていた。


「……何をした?アレク=ルノワール」


 咎めるように問ふ魔統神に、俺は返す。


「《ノアの導き》は広域異世界転移の禁術だ」

「……異世界、だと?」

「今回は異世界ではなく異空間へ転移させたんだけどさ?……もし助け漏れがあったら困るじゃん?」


 探知魔法をかけた所、転移し損ねた者はいないようだ。安心安心、俺ってばスゲー。


「いやー……ネザゲルート公爵家をどうするか迷ったんだけど、魔都には居なかったみたいだし、余計な仕事が増えずに済んで良かったよ……」


 本当はブロッケンの家族も転移させて色々と話を聞こうと思ったんだけどな。


 ブロッケンは、無言で俺から逃げるように下がり、王座の間の壁に自らを追い込む。

 ………まぁ、放置でいいや。


 そう行ってる間に、魔法効果が切れて移動していた建物が再び宙に浮いて元の定位置に戻る。

 俺何もしてないけど、これが魔都ってことで目を背けることとする。


「じゃ、そういう事で、俺も帰るわ」

「我が残った理由を聞かされてないんじゃが」

「旦那の事を最後まで守ってよね」

「……可愛くない奴じゃな」

「えー……」


 魔力総量?

 普通の魔族の魔術師よりも多く残ってますけど?

 でも心許ないやん?

 手伝ってよねニーファちゃんって理論なのに。


「…容易く貴様らを逃がすとでも?」

「容易く神竜と常識逸脱者(チーター)を捕えられるとでも?」


 チーターですけど何か?

 自己肯定していると、敵陣営は俺達を攻撃する為に武器を再び構え直し、睨む。

 ブロッケンも短剣を取り出して攻撃の構えをとり始め、明確な敵対行動をとる。


 それを見て俺は。


「……とりま逃げるぞ!」

「えっ……あ、うむ」


 現実から目を背けて王座の間からダッシュで逃げ出す。

 遅れてニーファも走ってくる。

 追撃しようとエインシアが走るが、遮られる。


「はっ!!俺が真面目に転移魔法を発動するわけがないだろう!?

 嫌がらせの足止め要員も補充してあんだよ!!」


 《真の魔族》の事切れた死体が動き出す。

 ゾンビとなった敵の兵士は魔統神達の行く手を阻み、俺達の逃走経路を安全に導く。

 味方の死体……うちの兵士や魔族たちの遺体も共に転移させてあるから、弔いは必ずしよう。

 でも、敵には容赦しない。

 最大限利用してやるさ。


「じゃあな!今度は俺達が攻め入ってやる!」


 捨て台詞を吐いて、俺達は魔王城から脱出したのだった。


「……転移すれば良かったのではないのか?」

「魔法を使った後に魔力残滓が残って特定されてでもしろよ。全員おじゃんだぜ?」

「よく考えとるの」

「あたりまえだっつの!」


 一対二翼の黒翼を展開して大空を飛び、魔都からも脱出する。

 途中で元に戻りつつある浮遊中の建物が迫ってきたが、上手く避けて飛び続ける。

 やがて山を越え、森を越え、港街ポートイールを越えてイビラディル大陸から出る。

 世界都市が視界に入ってきて、敵が追いつけない上に追いつけても時間的に魔力残滓が消えるであろうところで転移魔法を発動して、異空間へ入る。


「はぁー……めんどくさい事になったな」

「この異空間は確か……」


 こうして。

 俺達は無事に、転移した魔族や避難していた地方の住人、観光中に避難する事になった他種族が楽々入って生活出来る異空間───────


 『偽りの魔都』へ帰還したのだった。


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