平和な国の結論
魔統神陣営の先行部隊を潰した事で一先ず安寧を得た魔王国アヴァロンは、支援を送る考えを持つ世界同盟、各国と緊急会談を開いた。
場所は世界同盟本部。
ブロッケンの転移魔法で魔王シルヴァトス、魔王継承者ユーメリア、魔界執行官の俺、四天王のグロリアス、王妃エリザベートの五人と、ニーファやメリアの二人が参加した。
ブロッケンは、俺達を送った後に一度帰国し、同四天王のヘイディーズ・エンドとアンデュラーの三人で敵の監視、魔都の防衛、情報伝達の為に残っている。
世界同盟の会議に使われる円卓会議場には、錚々たる顔ぶれが並んでいた。
デカい円卓を囲む各国首脳。
その中でも目立つ八人の種族の代表者。
世界同盟より、同盟最高評議会長エウク。
ヒューマンド大陸最大国家にして人族の代表的立場のヘルアーク王国より、国王ハイリッヒ。
ビストニア大陸の樹海に存在する難攻不落の獣王国グランヒッツより、獣王レオナード。
サンチェアリ大陸の精霊界の門を守るエルフ自治領より、族長アクライネ。
同じくサンチェアリ大陸地下にあるドワーフ主体のエルダニオン地下帝国より、帝王ギルガム。
深海に存在する海精族主体の古き国、シーレーナ王国より、女王セイレーン。
国では無いが、魔工学による絶大な支援を誇る魔法学総合研究所より、所長アルトテリス。
そして、現在渦中にある魔王国アヴァロンより、魔王シルヴァトス。
エルダニオン地下帝国は、サンチェアリの地下に建国された帝国とは名ばかりの小国だが、ドワーフ由来の鍛冶技術による武器や工芸品によって技術的に栄えている炭鉱族ドワーフの国。
帝王であるギルガムは、ドワーフ特有の小柄な身体と、立派なカイゼル髭が特徴の王で、帝国特製の鉄鎧を着て会議に挑んでいる。
シーレーナ王国は、ビストニアとサンチェアリの大陸間に広がる海洋の深海部に存在する《大陸珊瑚》の上に存在し、建国から既に4000年は経過している人魚…もとい海精族の国。
女王セイレーンの名は、代々王が継承し、当代の人魚の女王は桃色の腰まで伸ばした髪と海精族特有の魚の下半身が特徴的。
「まず最初に……我々同盟や各国からの魔王国への戦争支援、食糧、軍事についての話じゃが……」
「魔王国としての総意では、諸君から援助を受けることは出来ない」
エウクの言葉を遮った上に、いきなり切ってかかる父さん。
この言葉の通り、魔王国アヴァロンは他国からの援助を受けるつもりはないらしい。
「……何故か聴いても宜しいか?」
ハイリッヒ王が魔王に疑問をぶつける。
「自国内での決議の結果であり……魔族の祖に対する礼儀だ」
「……魔族の祖?」
「魔統神ダグロスは……初代魔王ダルクロス=ルノワールだと判明した」
そうなのだ。
遥か昔の魔族を率いていたり、神徒共から陛下と呼ばれていたりと不可思議な部分があったのだが、夜天神アンテラに情報提供を願ったらあっさり教えてくれた。
ダルクロス=ルノワール。
当時は王なんて存在しなかった魔大陸を平定し、魔族至上主義の国、魔王国を建国した初代魔王。
しかし、建国してから数百年後、魔大陸に侵攻した《外界の神》との戦闘にて、付き従う優秀な部下と共に神を倒し、行方不明。
子孫を残して歴史から消え去った魔王。
そんな歴史に新たに追加されるのは、初代魔王が神格を得たことだ。
彼は《外界の神》を倒し、様々な偶然が重なった事で神格を得て、天父神の手で神となっていた。
初代魔王は名前を変え、魔統神ダグロスとして魔族の統率の神として君臨したのだ。
更に、死に散った部下を蘇らせ、特に忠誠心の高かった四人の魔族が神徒となった。
それが《魔皇四将》だとか。
「魔統神は、今の魔族が弱いだの卑下している。それを根本から打倒するには、我ら魔族だけで攻防し、今の魔族も生きるに価値ありと認めさせたい。そう甘い思考をした上での決断だ」
「……なるほどな」
各国の王は魔王の言葉に耳を傾け、重い沈黙を作り出す。
まぁ、自分が平定した強き種族が平和な微温湯に浸かって退化してるなんて思ったら、即行動で理解させるだろうな。
「…わかった。魔王の意見を飲もうではないか」
「感謝する」
エウクの肯定に父さんは感謝の言葉を掛けるが…
「表向きには支援は無理じゃが……個人的に支援したいと申す者がおっても、構わんじゃろ?」
ほっほっほっと笑いを込めながらエウクは言葉を述べる。
それを聞いて、魔族陣営は呆けてしまう。
「……いや、だとしても────」
「俺ら王が個人的に手を貸したいって言やぁ問題なくないか?なぁ?魔王」
粗暴な言い方だが、正論っぽく喋る獣王。
「そうだな……戦闘には加担できんが、帝国の武器や防具を密輸する事ぐらいなら許可しても構わんぞ?はっはっはっはっはっ」
軍備提供とドワーフ王が。
「……そうなると、妾が用意出来る物が無いのだが」
「エルフ自治領も食糧ぐらいしか出せませんよ?」
人魚の女王が、エルフ族長が。
「研究所の魔導具が勝手に其方に流出するかもしれませんが、私は知らないのでよろしく」
興味無さげにそっぽを向く所長が。
「ふむ……武者修行と称してミラノをこっそり軍に忍び込ませるか」
太陽の獅子王が。
「昔話では、勇者が悪の魔王を討伐すると聞いたからのう。勇者マサキを秘密裏に向かわせよう」
同盟最高評議会長が。
好きなように言い合って個人的という言葉を盾に支援をする様に言う。
「………」
それを見て、聞いていた父さんは、驚いた顔で硬直し………
「………ふっ。好きにしろ」
観念したかのように笑ったのだった。
こうして、世界同盟や各国は表向きには支援をしないが、とてつもない個人的な理由で密輸とか言い張って支援物資の会議を始めるのだった。
「……この世界の王って、なんか凄いね」
「いやまぁ、反対意見もいるじゃろうが……昔の王は取り敢えず我に攻撃しとったぞ?」
神竜の体験談は比較にならないので良いです。
ドゴン!!
「────……っ!」
会議中、力強く開かれた扉。
そこには、四天王《秤》のブロッケンが居た。
「…はぁ、はぁ、会議中失礼しやす」
務めて丁寧に挨拶をするブロッケンに、怪訝な視線が向かう。
「……魔王様、緊急です!魔都エーテルハイトに、《神軍》の神徒二人が侵入しやした!」
「「「「っ!!」」」」
「……それは誠か?」
「はいっ……現在、《力》と《棺》が応戦し、被害を食い止めている所です」
「……他に《神軍》は?」
「いいえ。おりやせん」
「……そうか」
沈黙する会議室の中で、魔王は立ち上がる。
「報告ご苦労、ブロッケン………すまないが、自国が襲われたので失礼する」
神妙に頷く各国首脳を横目に魔王は歩き進む。
それの後ろに、魔族陣営も続いていく。
ブロッケンのゲートで次々に魔都へ帰還する。
………にしても、俺やヘイドさんの結界の中をよく通り抜けたな……あれ?おかしいぞ?
もしかして……結界に触れずに入ったか?